第12pedia 除夜の鐘

前回、前々回のあらすじ。

年末年始の買い出しに向かった、よみ知依ちよ

道中、知依ちよは年越しそば、おせち、雑煮について気になることが――とよみに話し、年越しそばとおせちについて、いろいろ教わったところ。

現在は、買い出しが終わり、帰路についている。


「たくさん買ったね!帰ったら仕込みして、あとはだらだら過ごす!」

「そうですね。でもその前に一つだけしないといけないことが。」

「お雑煮の話だね!」

「いいえ。違います。」


よみの予想外の返答に、知依ちよはフリーズし、「オゾウニ…オゾウニ…」と呟いている。


「お雑煮のお話は年明け頃にしますので。今日は大晦日について話しておかないといけません。投稿日的に…。」

「トウコウビ…?」

「こちらの話です。それより、大晦日、気になりません?」

「気になるけどー…年越しそばの時の『三十日みそかそば』みたいに、月末が三十日って呼ばれてて、1年の最後だから大晦日なんじゃないの?」


知依ちよのいつになく鋭い推理に、よみは焦りを見せた。

このままでは今回の話が終わってしまう…。


「その通りですが…。で、では大晦日といえば?」

「年越しそば、のことはもう聞いたし、除夜の鐘?」

「そう、除夜の鐘です!由来とかもろもろ気になりません?」

「大晦日に鳴らすのはあれでしょ。煩悩の数――108回鳴らすってやつでしょ?」

「うっ…そうですが、なぜ煩悩が108なのかとか、あとはほかにも諸説あるので、よければ聞いていきませんか!」

「そんなに言われるとだんだん気になってきた…!」


何とか知依ちよを説得したよみは、ほっとした様子で、スマホを取り出した。

彼女はすぐに調べ始めずに、知依ちよの方にちらちらと目線を送っている。

今年最後になるので、いつものをやっておきたいらしい。


「あ、やっぱりスマホなんだね。ええと、調べて!ヨミpedia?」

「疑問形!いつもの本じゃないですけど…!」


よみは少し納得いかない様子で除夜の鐘について調べ始めた。

少ししてから、知依ちよがちょっとした疑問を口にする。


「そういえば、除夜の鐘の鐘って普段は叩かないのかな?あ、調べてるときにごめんね。」

「大丈夫ですよ。普段は時報だったり、法要の開始の合図として鳴らしています。」

「あ、やっぱり普段も使ってるんだね。」

「さすがに大晦日のためだけのものではないですね。ちなみに使われている鐘の正式名称は『梵鐘ぼんしょう』と言って、仏教の仏具だそうです。梵鐘ぼんしょうの音色には、苦しみや悩みを断ち切る力があるとされているそうです。」

「ほえー。それは煩悩も断ち切れそうだね!」


よみはスマホから目を離し、知依ちよの顔を見ながら「突然ですが――」と言った。


知依ちよさんは、計算は得意ですか?」

「簡単なものなら!」

「では、煩悩の数が108である由来について話しますので、計算してみてください。」

「任せて!」


知依ちよは、さっとスマホを取り出す。


「電卓は…最終手段でお願いします。」

「あっ、はい!頑張ります…!」


そういうと知依ちよはスマホを構えたまま、画面をロックした。

よみはそれを確認した上で「では――」と続けた。


「まず、人間の五感や心を表す『六根ろっこん』と呼ばれるものがあります。その六根ろっこんそれぞれに対し、『こう』と呼ばれる快感、『あく』と呼ばれる不快感、どちらでもない『へい』の3種類があり、さらに『じょう』と呼ばれるきれいなもの、『せん』と呼ばれる汚いものの2種類があるとされています。さて、今いくつでしょう?」

六根ろっこんは6でいいんだよね?それとどう感じるかが3つ、きれい汚いで2つだから…6×3×2で36だ!」

「正解です。これが『三世さんぜ』と呼ばれる、現在・過去・未来の3種類分あるので?」

「108だ!スゴイ!」


知依ちよは軽く拍手をしたが、少し納得いっていないような表情をしている。

それを見たよみは、説明を続けた。


「宗教の概念になるので、少し分かり辛かったですかね。もう少し説明すると、『煩悩』そのものは悪いものではないんです。辞書によると『心身に付きまとい、心をかき乱す、一切の妄念・欲望』とされています。ですが、仏教の用語としての『煩悩』は『身心を悩まし煩わせる心の働き』とされていますので、それをすべて取り除いてしまおう、というのが除夜の鐘ですね。」

「なるほど納得!」


知依ちよのすっきりとした表情を見ながら、よみは微笑みながら続けた。


「あと108回たたく由来が諸説あるといいましたが、1つは『四苦八苦』です。『人間のあらゆる苦しみ』の総称ですね。知依ちよさん、4×9×8×9は?」

「えっとえっと…108!」

「ほんとに計算しましたか?」

「してないです!」

「正直で良いですね。」


そう言われ、知依ちよは「えへへ」と照れた仕草を見せる。

「褒めてませんよ?」とよみは指摘し、話を続ける。


「あともう1つ、気候や季節の変わり目を表す暦に由来しているという説です。これは12か月と、『二十四節気にじゅうしせっき』と呼ばれる、四季を6つに分けたもの、さらに二十四節気を約5日ずつに分けた『七十二候しちじゅうにこう』すべて足して108というものです。」

「ほえー。なんだかよくわかんないけど、いろいろあるんだねー。」

「最後のについては、私もよくわかってないですが、諸説あるんだなと思っていただければと。」


そうこう言っているうちに家に到着した2人。

知依ちよは一足先に部屋に入り、「瑠仔るこちゃんまだ寝てるやー」と2話前に放って出た瑠仔るこのことを確認している。

よみは「でしょうね。」と言いつつ、知依ちよに続く。

彼女は、扉を完全に閉じる前にピタッと止まり、振り向き、玄関に向かって語り掛けた。


「年内にここまで読んでくださった方がもしいらっしゃいましたら、ありがとうございます。年内でなくとも、読んでくださった方にも感謝を。引き続き、よろしくお願いしますね。それでは、よいお年を。」


よみはにっこりと微笑み、ゆっくりと扉を閉じた。

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