第11pedia おせち

前回のあらすじ。

買い出しに向かう途中で、おせちとお雑煮と年越しそばの由来に疑問を持った知依ちよ

ひとまず、年越しそばのことをよみに教えてもらい、今回はおせちについて。


「では、おせちの由来について。少し長くなりそうですが、頑張って聞いてくださいね。」

「はい!お願いします!」


よみは一息ついてから、説明を始めた。


「起源は、平安時代の宮中きゅうちゅう行事、『節会せちえ』と呼ばれる、季節の変わり目に行われる儀式や宴会の際にふるまわれるお料理です。この『節会せちえ』の中でも『五節会ごせちえ』と呼ばれる重要な日にふるまわれていたお料理が『御節供おせちく』と呼ばれており、これが語源となってます。」

「ほえー。偉い人しか食べられなかったんだね!めっちゃ特別なお料理って感じ!」

「そうですね。あれだけ豪華なら、宮中料理というのも納得です。」


そのまま説明を続けようとするよみを制止するようにしながら、知依ちよが質問を投げかける。


「ごめん!1つだけ質問いい?」

「どうぞどうぞ」

「ごせちえ?って5日間あるの?」

「5日ありますが、連続してあるわけではないですね。それぞれ呼び方もあるので、一応紹介しておきますか。」


と言いつつ、よみは少しだけ考え込む。


「どうしたの?」

「や、これ説明すると長くなるかなと…ま、いっか。いきますね。」

「お願いします!」

「まず、1月1日『元日』、それから1月7日『白馬あおうま』、1月16日『踏歌とうか』、5月5日『端午たんご』、11月の下の卯の月にあたる日に『豊明とよのあかり』。以上の5日ですね。」

「端午の節句って聞いたことあるね!でも、11月の下の卯の月っていつ?」

「端午はこどもの日ですね。豊明とよのあかりは今は11月23日の勤労感謝の日に固定されているようです。」

「ふむふむ。5日間バラバラにあるってことはわかった!」


よみは「どこまで話しましたっけ?」と知依ちよに確認する。

知依ちよは、「おせちく!」と元気よく答えた。

よみは思い出した様子で、説明を続けた。


「で、その『五節会ごせちえ』の中で、最も重要視されていた元日の『御節供おせちく』が特別豪華になり、現在の『おせち』に繋がっている。といったところです。」

「よくわかりました!ありがとー!」


おせちの起源について話しているうちに、最寄りのスーパーに到着した。

すっかりお正月ムードになっているスーパーの一角にある、おせちコーナーへと向かう。


「一応確認しますが、おせちは出来合いのものにします?」

「作ります!」

「さすが知依ちよさん、お料理好きですね。私もできるだけ手伝いますね。」

「助かります!!」


おせちの具材を眺めているものの、一向に買い物かごに入れる気配がない知依ちよを見て、よみは尋ねる。


「どうかしましたか?重箱なら多分、管理人さんに言えば――」

「おせちの食材ってさ、一つ一つに意味があるよね?」

「…まさか全部説明しろとでも?」

「いや、全部はさすがに悪いので、今からかごに入れるものだけでも…!」

「それでもかなりの量になりそうですが…できるだけ簡潔に説明するよう努力しますね。」


2人で目を合わせて、意を決したように頷き、よみはスマホを取り出した。

知依ちよは公衆の場であることを踏まえて、小さめの声で言った。


「調べて!ヨミpedia!」

「…と言われましても、今回は知依ちよさん起点ですので、どうぞ、かごに入れてください。」

「あ、はい!」


そういわれた知依ちよは食材を選ぶ。


「まずは――黒豆!マメに暮らすようにだっけ?」

「そうですね。無病息災と長寿の意味が込められています。」


「次!昆布巻き!これはよろこんぶ!」

「…はい。あと巻きは『結び』を意味しており、縁起がいいとされています。」


「伊達巻き!甘い!おいしい!」

「勢いだけでしゃべってません?伊達巻きは巻物のような形をしておりますので、『知恵が増えること』を願うといった意味があります。」


「栗きんとん!甘い!おいしい!」

「語彙力が問われてきましたね。栗は『勝負運』を上げる縁起のいい食べ物とされています。また、小判をイメージした見た目から『お金がたまるように』と豊かな暮らしを祈願するものとされています。」


「かまぼこ!…はどうして紅白なんだろ?」

「色に意味がありますね。紅は『魔除け』白は『清浄』の意味があります。また、半月型をしているのは、初日の出を模しているとか。」


「かずのこ!ぷちぷち!」

「ぷちぷちですね。ニシンの卵です。たくさんの卵ですから『子孫繁栄』の願いが込められています。」


「あとはー海老!これも紅白?」

「紅白…ではなさそうですね。腰が曲がるまで長生きするようにと願われる『長寿』祈願と、脱皮をすることから『出世』祈願が込められているそうです。」


勢いに任せて、いくつか食材をかごに入れた知依ちよは、一息つき、「あとはー」と少し考え続けた。


「ぱっと聞けるのはこれくらいかな?あとはごまめとか紅白なますとかお家で仕込むものだから、野菜とか見に行こう!」

「わかりました。ちなみに、ごまめは『豊作』、紅白なますは『平安と平和』だそうです。」

「ほえー。ありがとう!今年のお正月はいつもより楽しめそう!」


一通り説明を終えたよみは、何かを思い出したように、ぽんっと手を打った。


「そういえば、瑠仔るこさんに頼まれていた、お鍋の素、忘れないようにしないといけませんね。」

「はっ、忘れてた!」

「じゃあ、おせちは知依ちよさんに任せていいですか?私がお鍋の素と、ついでにお蕎麦も見てきますので。」

「あ、キムチ鍋でお願いします!」

「もう決まってたんですね。わかりました。取ってきますね。」


よみはそう言うと、お鍋コーナーへと向かった。

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