第10pedia 年越しそば

前回、瑠仔るこに鍋の素の買い出しを任されたついでに、年末年始の買い出しをすることになった2人。


「年末年始は必要なものが多くて大変ですね。おせちにお雑煮、あとは――」

「お蕎麦だね!年越しそば!」

「あぁ、忘れるところでした。お餅はこの前買いましたし、それくらいですかね。」


よみはスマホで買い物リストを作りながら、そうつぶやいた。

知依ちよは不思議そうに、よみのスマホをじーっと見つめている。


「まだ何かありましたっけ?」

「そうじゃなくて、よみちゃんがスマホ使うの珍しいなーって。いつも本…みたいなタブレット使ってるから。」

「2台持ちです。今時珍しくはないでしょう?」

「いわれてみれば。使いこなすのは難しそうだなって――」


知依ちよは途中で話すのを止め、よみのスマホを見つめたまま、まだ何か考えているかのような難しい表情をしている。

よみはそれを見て、不思議に思ったが、すぐに合点がいった様子で「はっ」と言った。


「今回は何が気になりましたか。おせち?お雑煮?年越しそば?」

「全部!!」

「ぜ、全部は1回では無理なので1つずつお願いします…」

「じゃあお任せ!」


よみは「うーん」と少し考え、いいことを思いついたかのように、人差し指をぴんと立てながら、「それでは」と続けた。


「順番的には年越しそばが一番初めですかね。長さ的にも恐らくちょうどいいでしょうし。」

「そうだね!おせちとお雑煮はお正月だもんね!」


知依ちよはそう言いつつも「長さ?」と少し引っかかったような表情を浮かべる。

よみはそんなことも気にもせずに「さあ、調べますよー」と言う。


「今回はタブレットで調べないの?」

「買出しにタブレットは必要ないでしょう?ということでスマホで調べます。」

「そっかー。じゃあ、今日はヨミpediaじゃないねー。」

「えっ、そんなに残念そうにします…?なんかすみません…。」


少ししょんぼりしながらよみはスマホで検索を始めた。

彼女は少ししてから、「わかりましたよー」とスマホを振りながら、知依ちよに声をかけた。


「ヨミpediaじゃないですが、聞きます?」

「スマホで調べても結果は同じだと思うから、お願いします!」

「まあ、そうですよね。さっきの残念そうな表情は何だったのか。」

「気分と雰囲気は大事!」

「なるほど…?以後、気を付けます?」


よみは納得のいったようないっていないような気分になった。

が、「まあいいか」といい、説明を始めた。


「ええと、まず起源について諸説あるようですが、1つは江戸時代の中期ごろ、商人の家では1か月の最後の日にそばを食べる『三十日みそかそば』という習慣がありました。その習慣が庶民にも広まり、お正月の準備が終わった大晦日に、年越しそばを食べるようになったそうです。」

「ほえー。商人さんはどうして三十日そばを食べてたの?」

「月末には棚卸の作業があり、忙しかったので、ぱぱっと食べられて栄養価の高いそばを食べていたみたいですね。」

「なるほど!それで商人じゃなくても忙しい、大掃除の後に食べるようになったんだね!」

「おそらくそんな感じかと。」


よみは『諸説』がいろいろあったようで、流すようにささっとスマホの画面をスクロールしながら、「あとは―」と続ける。



「諸説…というかゲン担ぎというか、そのようなものがいろいろあるので、簡単に紹介しますね。家族の縁が長く続くようにとそばを食べる説。…と矛盾するのですが、そばが切れやすいことから、1年間の苦労を切り捨てて新年を迎える説。」

「めっちゃ矛盾…!縁が切れたり苦労が長く続いたりってとらえられそう…」

「あくまで『諸説』なので、どれを信じて食べるかは個人の自由です。あとは、金銀細工師が散らばった金銀の粉を集めるのにそば団子を利用していたことから、金を集める縁起物としていた説。そばが五臓…大まかに言うと体の中の毒をとると信じられていた説。などなどほかにもいくつかありますが、こんなものです。」

「ほえー。いろいろあるんだね!というか何でもありだね!」


知依ちよは「なんでもありなら――」と何かひらめいた様子で胸に手を当てた。


「わたしは、大切な人のそばにいられるようにって想って食べようかな!」

「駄洒落ですか?…でも、それもいいかもしれませんね。」


よみは優しく微笑み、「次はおせちでしたね。」と引き続き検索を始めた。

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