第7pedia サンタクロース

前回から引き続き、二人は庭に突如現れたモミの木の飾りつけをしている。


「クリスマスについて、まだ気になることあるんでしたよね。サンタさんのことですか?」

「あ、もういいんだね。そのとおり!なんだけど、どうしてわかったの?」

「サンタさんを話題に出したときに突っ込まれるかなと、少しだけ考えてましたので。」

「さっすがよみちゃん!」

「ということで、先ほど調べてきたので、始めますね。」


知依ちよは少し不満げな顔をしながら、オーナメントを選んでいる。

よみが気にも留めずに「それでは―」とはじめようとしたところ、知依ちよは「ちょっと待って!」と制止した。


「お、教えて!ヨミpedia…!」


それを聞いたよみは、少し気まずそうに知依ちよから目をそらしながら言った。


「…私はヨミpediaではないです。あと教えてだとなんか…ね?」

「あっはい…サンタさんのこと教えてください…。」


「では、始めます」と言わんばかりに、よみは手をパンッと合わせた。

が、分厚い手袋のおかげで、ぼふっと鈍い音が鳴る。締まりがない。


「ええと、サンタさんですね。知依ちよさんは、サンタさんといえばどんな人を思い浮かべますか?」

「優しくて、おっきくて、プレゼントくれるおじさん!」

「間違ってはないですが…見た目はどうですか?」

「赤い服を着て、立派なお髭で、トナカイとソリと大きな袋を持ったおじさん!」


知依ちよは、ツリーの飾りの綿を髭に見立てて「ふぉっふぉっふぉ」と言っている。

それを見たよみは、ふふっと笑いながら続けた。


「かなり力持ちなおじさんに聞こえますが、大体の人がそう答えますよね。では、トナカイとソリと大きな袋は置いておいて、おじさんのイメージはどこから来たと思います?」

「おとうさん!」

「いきなり夢を壊すような発言を…。正解は、かの有名なコカ・コーラ社のクリスマスキャンペーン用の広告に、そのような姿のサンタさんが描かれていたことが元になってます。」

「ほえー。さすが世界のコカ・コーラだね!」

よみは飾りつけの手を止めずに「うんうん」とうなずきながら続ける。


「あと、トナカイとソリでしたっけ。これは、クリスマスの起源のお話にも出てきた、北欧の人々の生活がベースになっています。実際に当時北欧にいた『サーミ人』たちが、トナカイにソリを引かせて荷物を運んでいたことが元だそうです。」

「ほえー。サンタさんのソリって空飛んでるイメージあるけど、サーミ人は空飛べたの?」

「そうですね。」

「えっ。えっ…?」


本気にしている知依ちよを見ながらよみは楽しそうに笑う。


「正確にはそう考えられていた、というお話があります。当時のアメリカ人は、サーミ人が魔法を使えると考えていたことが元だそうです。」

「な、なるほど。実際そうだったわけではないんだねー。」


飾りつけも後半に差し掛かり、あとは手の届かないところを残すのみになった。

よみは「脚立持ってきますね」と言い、庭の倉庫から脚立を持ってきた。

よみが支えている脚立に、知依ちよが上り、ツリー上部の飾り付けが進められる。


「そういえば、サンタさんってどうして『サンタクロース』っていうの?」

「それは元になった方とちょっとしたお話がありまして――まず、もとになった方がキリスト教の司祭である『ニコラウス』さんです。サンタの由来になったお話として、彼が真夜中に、ある貧しい家の窓に金貨を投げ入れ、その金貨が偶然、靴下の中に入っていた。というお話があります。このお話が言い伝えとなって、『夜中に家に入って、靴下の中にプレゼントを入れてくれる』と伝承されてきたのが、サンタクロースのお話です。」

「んん?どうして『ニコラウス』さんが『サンタクロース』に…?」


よみは「ええと…」と言いながら、落ちている枝を使い、積もっている雪に文字を書き始めた。


「彼はキリスト教の司祭――正確に言うと『聖ニコラウス』さんです。『聖』は『セント』と読むので『セントニコラウス』。だんだん近づいてきましたね。あとはいくつか説があるようですが、オランダ語に直すと『シンタクラース』だとか、そのまま訛って『サンタクロース』になっただとか。」

「ほあー。語源って意外とあいまいなものが多いんだね。」

「ご満足いただけましたか?」


よみはツリーの頂点に乗せる星を、知依ちよに手渡しながら問いかける。

それを受け取りながら、「あと一つだけ――」と知依ちよは質問を返した。


「わたしでもサンタさんになれるかな?」

「公認サンタクロース試験というものが、本場のグリーンランドにあるそうですので、合格すればなれるのでは?」


星をツリーに突き刺し、脚立から降りてきた知依ちよは「ほんと!?」と目をキラキラさせる。

「そんなになりたいですか…」と言いながら、本を開き、何かを調べ始めるよみ。「あっ」と小さな声を上げた。


「そもそもの条件として、『結婚している、子供がいる、離婚歴がない、サンタクロースとしての活動経験あり』と記載がありますので、知依ちよさんには無理ですね。」

「そんなあああ」


知依ちよは絵に描いたように膝から崩れ落ちた。


「その他に、実技試験、面接などなどあって、面白いので、気になった方はぜひ調べてみてくださいね。」


よみはどこかにウインクしながらそう言った。

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