第6pedia クリスマス

よみちゃん!」

「おはようございます。知依ちよさん。今日は一段と元気ですね。」


起床したよみはぐーっと伸びをしてから、コーヒーを淹れている。

知依ちよよみに挨拶をしたものの、その視線は窓の外に向いていた。


「みてみて!お庭の方!」

「何でしょうか…ってうわっ。いつの間にこんなものが。」


庭を見ると、いかにもな木が聳え立っていた。2mほどだろうか。2人と比べるとそこそこ高い。


「クリスマスツリーだね!今年もこの日が来たよ!」

「クリスマスツリー…のもとになる木ですね。飾りつけもされていないので、まだただのモミの木です。」

「はっ」


よみは淡々とそう言うと「寒い寒い」と言いながらコーヒーを持ってこたつに入ってしまった。


「じゃあ今日は、2人でこの木をクリスマスツリーにしよう!」


知依ちよがそう言い、窓を勢い良く開けた。

その瞬間、冷気が勢いよく部屋に入り込む。

よみは「ヒッ」と、か細い声をあげながら、こたつに潜り込んでしまった。


「あ、よみちゃんが、こたつむりになっちゃった。わたし、先やってるから、温まったら一緒にやろう!」

「とりあえず、淹れたコーヒーだけ飲ませてください。あと着替えてきます…。」

「いってらっしゃい!」


知依ちよはそう言いながら、庭に飛び出していった。

それを見たよみは、「いってらっしゃいとは…」と言いながら着替えに行った。



ガラッと窓を開ける音に知依ちよが振り向くと、しっかりと防寒をしたよみがコーヒーを持って立っていた。

手袋、マフラー、ニット帽、コートに分厚いタイツ。さらにムートンブーツを履いている。


よみちゃん、もう大丈夫なの?」

「着替えたので大丈夫です。が、コーヒーなくなるまでここで眺めてます。知依ちよさんこそ、そんな薄着で大丈夫なんですか。」

「わたしはクリスマス好きだから大丈夫!」

「なんですかその理論…。でもなぜか知依ちよさんなら大丈夫だろうと思ってしまいますね。」


そういいながら、よみは小さめのアウトドアチェアを広げ、座り込み、コーヒーを飲み始めた。

知依ちよは楽しそうに飾りつけを始めたが、少しすると、その手を止めてしまった。


「どうかしましたか?もしかして、いまさら寒さに気づきましたか?」

「そういえば、どうしてクリスマスってモミの木に飾りつけするんだろ?そもそもクリスマスって、イエス・キリストの生誕祭だよね?モミの木好きだったのかな?」

「キリスト関連ですが、生誕祭ではないはずです。モミの木に飾りつけするのは…どうしてでしょうね…気になりますね…。」

よみちゃん暇そうだし――調べて!ヨミpedia!」


それを聞いたよみは、懐からいつもの本を取り出し、検索を始めた。

知依ちよはそれを待っている間に、楽しそうに飾り付けをしている。


「毎年楽しみにしていますが、知らないことは多いですね。」


よみは興味深いことが分かったようにつぶやく。


「あ、調べ終わった?じゃあわたしにも教えて!クリスマス!」

「飾りつけしながらでいいですよ。後から私が楽できそうですし。」

「了解!」


知依ちよは飾りつけを再開した。

よみは、ふっと一息つき、コーヒーを飲み、説明を始める。


「ええと、まずはクリスマスが『イエス・キリストの生誕祭』というお話でしたが、正しくは『降誕祭』だそうです。キリスト教のお祭りという点では相違ないですが、そもそも誕生日が不明ということもあり、降誕祭になっているそうです。」

「降誕?誕生日とは違うの?」

「降誕を説明すると、宗教的な概念になるので、説明が難しいですね。要点だけ話すと、まず『降誕』という言葉自体、イエス・キリストのみに使用されている言葉です。それはイエス・キリストの降誕が、『原初から天上にあったロゴスたる存在が受肉してこの世に降り誕まれた』とされているからだそうです。」

「げんしょ…ろごす…じゅにく…?」


飾りつけをしていた知依ちよの手が止まった。

難しい表情をして、目を回している。

難しい表情をしていたのは彼女だけではなく、説明をしたはずのよみも首をひねりながら、同じような表情を浮かべていた。


「うーんと…実際どうなのかは置いておいて、福音書にそう書かれているから――だそうです。とりあえず、誕生日とは別と考えていただければ。」

「わかった!でも誕生日わからないのに、どうして12月25日って決まってるの?」

「12月25日に決まる前に議論されたときには、候補日が山ほどあったそうです。それも『12月のいつか』というわけではなく、例えば1月6日、4月2日、5月20日、11月8日…などですね。その中で、当時のローマ暦において、冬至の日とされていた12月25日が、クリスマスとして定着したそうです。」

「ほえー。もしかしたら冬じゃなかったかもしれないんだねー。」

「そうなりますね。そもそも南半球では冬ではないので、サンタさんがビーチでサーフィンしてるそうですし。」

「oh...サンタサン…」


知依ちよは複雑な表情をしながら、ツリーの飾りつけを再開した。

よみは、「コーヒーのおかわりを―」と言いながら部屋に戻り、すぐに戻ってきた。


「あとは、なんでしたっけ。『なぜクリスマスにモミの木に飾り付けをするのか』でしたっけ。

「うんうん!」

「起源は、クリスマスが12月25日に決まる前から、北欧で行われていた『ユール』という冬至のお祭りになります。元はそのお祭りでは『樫の木』が、生命の象徴だとして崇められていました。当時のキリスト教徒は北欧の人々を、キリスト教に改宗させようと試みたものの、樹木信仰が強く、うまくいかなかったため、崇められていた『樫の木を』キリスト教で崇拝されている『モミの木』に変えることで、北欧の人々をキリスト教化したというお話がもとだそうです。…伝わりましたか?」


よみは少し自信なさげに疑問を投げかけた。

出典が曖昧というか、調べると同じような話が出てくるものの、あまり細かく記載しているところがなかった、といったところか。


「大丈夫!大体わかった!」

「そういってくださると助かります。あ、飾りつけの起源ははっきりとわからないのですが、ドイツでパン職人の方が、ツリーを飾ったのがはじめとされています。なぜ飾ったのか―という点は不明です。」

「ほえー。パン職人だから、きっとデコレーションすると盛り上がると思ったのかな?」

「わかりませんが、そういう考えもあるのかもしれませんね。」


コーヒーを飲み終えたよみが「そろそろ手伝いますね」と立ち上がる。


「クリスマス、知らないこといっぱいだね!まだまだ気になることがあるんだけど――」

「少し長くなりそうなので、次回にしましょう。知依ちよさんにとってはすぐになると思いますが。」


知依ちよは頭に『?』を浮かべたが、すぐに「わかった!」と元気良く返事をした。

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