第5pedia 大掃除

「今年もあと10日くらいしかない!大掃除しないと!」


知依ちよは、エプロン、マスク、三角巾、手袋、ハタキ、といかにも掃除をしそうな装いで、仁王立ちしている。

よみはその姿を見ながら、こたつでお茶を飲んでいる。

手伝う気はさらさらなさそうだ。


「大丈夫!よみちゃんの装備も用意してるから!!」

「装備って、そんなRPGみたいに…。そもそもここに来たのが数週間前ですし、普段から掃除はきちんとしているので、今年は必要ないかと。どこか気になる部分はありますか?」


そういわれた知依ちよは、あたりを見渡す。

それからゆっくりとエプロンの紐を解き、マスクを外した。


「…わたしたちのおうち、綺麗だね!もう思い残すことはないです!」

「よかったですね。でも思いとどまってください。そんな、先が短いみたいな物言い――」

「あっ」


よみがツッコんでいる最中に、知依ちよが大きな声を上げた。


「思い残してることあった!」

「まだ生きられそうでよかったです。で、どこのお掃除ですか?」

「ううん。掃除じゃないの。掃除のことだけどー…。」


よみは頭の中に『?』を浮かべる。

掃除だけど掃除じゃない…なぞなぞを出されているかのような気分になって考えていると、知依ちよが続けた。


「どうして、年末に大掃除するんだろう。気になったときにすればいいんじゃないの?年末はまとまったお休みがあるから?」

「いわれてみると、どうして年末なんでしょうね…気になりますね…。」


よみのその言葉を聞いた知依ちよは、こたつに片足をかけ、ハタキを掲げ、唱えた。


「調べて!ヨミpedia!」


その言葉を聞いたよみは、手元の本を開き、素早く検索を始めた。

その間に、知依ちよは、「こたつに足乗せちゃった」と言いながら、拭き掃除を始める。

よみは、すぐに調べ終わった様子で本をぱたんと閉じた。

それを見た知依ちよは、掃除を中断し、こたつに入り込んだ。


「では、説明しますね。」

「お願いします!」

「起源は平安時代に行われていた『すす払い』という宮中行事になります。当時は『大掃除』というよりは、お正月に向けての準備の最初に行うものとして、厄払いも兼ねて宮中に溜まったすすを払い落していたそうです。」


知依ちよが姿勢を正して、ピシッと挙手した。


「はい!質問です!きゅーちゅーって何ですか!」

「神社や宮殿の内部、境内などを指す言葉ですね。ついでに先ほどのお話をもう少し補足しておくと、当時は電気のない時代だったので、暖をとったり、明かりを確保するのに、蝋燭や炭、薪などを使っていたため、天井がすすで黒く染まっていたので、『すす払い』と呼ばれていたそうです。」

「あ、まっくろくろすけだね!」

「そうですね。そちらの方がイメージしやすいですね。」


説明が一通り終わった様子のよみをみて、知依ちよは掃除を再開しようと立ち上がる。

よみは慌てた様子で、それを制止した。


「ちょ、ちょっと待ってください。今回短くないです…?」

「簡潔にまとまってるならいいんじゃない?気になるところもないし…」

「そ、そうですかね…。文字数三桁はちょっと短いのでは…。」


よみの慌てっぷりと『文字数三桁』という言葉に、知依ちよは首をかしげる。


「もじすう…?わかんないけど、たまにはいいのでは!思い残したことはありません!!」

知依ちよさんがそう言うなら…でも死なないでくださいね…?」


知依ちよが再び、掃除を始めた。

よみは一息つき「ま、たまにはいいですかね」と、自分の中で改めて納得してから掃除を手伝い始めた。

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