第4pedia チョコレート

お話は前回から少しだけ続く。

要点だけまとめると、夢視 瑠仔ゆめみ るこという少女が、2人の住まいに押しかけてきたものの、本来の目的を忘れた挙句、話し疲れて寝てしまったといったところだ。


「ぐっすり眠っちゃってるけど、何かをしにここに来たって言ってたよね?結局、何だったんだろ?」

「さあ、何でしょうね。見当もつきませんね。ひとまず、起こすのもかわいそうなので、起きるまでそっとしておきましょうか。」

「そだねー。」


「ピンポーン」


インターホンが鳴る。

瑠仔るこがびくっとしたが、起きたわけではない様子で、むにゃむにゃと何か言いながら眠っている。


「この家、毎回インターホン鳴るんですかね…?ちなみに、今回は知依ちよさんの荷物ですか?」

「や、私も何も頼んでないから、違うと思うよー。」


そう答えながら、知依ちよが玄関へと向かう。

彼女は小さめの箱を持って戻ってきた。


「差出人は――『夢視 瑠仔ゆめみ るこ』…瑠仔るこちゃんだ!」

「えっ。差出人ここで寝てますけど…」


2人はぐっすり眠っている瑠仔るこを見つめる。

瑠仔るこはもう二度と起きないのではないかと思わせるほど、ぐっすり眠っていた。


「宛先はうちで間違いないようなので、ひとまず開けてみましょう。中身を見ると、意図が分かるかもしれませんし。」

「そだね!開けてみます!」


知依ちよが荷物を開封すると、可愛らしい箱と、メッセージカードが入っていた。


「メッセージカードだ!ええと――『今回のお題だよおー。持っていくのも、渡すのも忘れそうだから、郵送しとくねえー。』…だそうです!」

「なるほど、用事ってこれだったんですね。しっかりしているのか、抜けているのか…二重人格なのか。」


そういっている間に、知依ちよは入っていた箱を開封していた。

中身はチョコレートのアソート。そこそこ高そう。


「チョコレートだ!でも今回のお題って?」

「うーんと…チョコレートについて調べろってことですかね。といっても、チョコのどこが気になるのかと言われると、そんなに気になる点ってないですよね。」

「うーん…チョコのことは、なんでも知ってるかといわれると『はい』って言えないけど、何を知りたいかといわれると困っちゃうねー。」


「うーん…」と2人して腕を組みながら考え込む。

はっと、何か思いついた様子で、よみが顔を上げる。


「せっかくいただいたお題ですし、クイズ形式で、もう少しだけ、チョコレートについて詳しくなりましょうか。」

「いいね!じゃあ、問題お願いします!」


よみはいつものように、本を開いたが、何かを思い出したのか、検索しようとする手をピタッと止めてしまった。


「あの、一応、できるだけ正確な情報をお伝えしたいので調べようと思うのですが…いつものやっときます?」

「前回やってないし、やっとこう!」


よみは、いったん本を閉じ、合図を待った。

知依ちよは立ち上がり、よみに手をかざしながら叫んだ。


「調べて!ヨミpedia!」


よみはにっこり微笑み、本を開く。


「…冷静に聞くと少し恥ずかしいですね。でも、ありがとうございます。ちょっと締まった感じがしました。」

「えへへ。それじゃあ第1問!あ、これじゃあ私が出すみたいだね。お願いします!」

「それでは行きますね。第1問。チョコレートの発祥の地はどこでしょうか。」


1問目を出題したよみは、「紅茶でも入れましょうか」と席を立つ。

それを見た知依ちよは、「くっくっく」と不敵な笑みを浮かべた。


「紅茶が出来上がる前に答えてみせよう!原材料はカカオ!つまり、ベルギーだ!!」


よみは、茶葉とお湯をティーポットに入れ、ティーカップ2つと一緒に、お盆に乗せてこたつに戻ってきた。

アールグレイの良い香りが漂いだした。


「『ベルギーチョコレート』なんてものもありますからね。でも残念。正解はメキシコです。当時のチョコレートといえば液体で、苦みを打ち消すために、コーンミールやトウガラシを入れて飲んでいたそうです。現在のように甘く加工されるようになったのは、スペインに伝わってからとされていますね。」

「べるぎいいいい」


謎の雄たけびを上げながら、知依ちよは机に突っ伏す。

悔しさがひしひしと伝わってくるような雄たけび。


「ちなみに、カカオの生産量第一位はコートジボワールだそうです。」

「こ、こーとじ…どこ…」


よみはティーカップに紅茶を注ぎながら「西アフリカの一国ですね」と付け足す。

そして、チョコレートを一粒口に入れ、幸せそうな表情を浮かべてから、「それでは第2問」と続けた。


「チョコレートといえば、よく目にするのは固形のものですよね。ですが、先ほど少しお話したように、最初は固形ではなく、いわゆる『ホットチョコレート』と呼ばれる飲み物だったそうです。知依ちよさんは、ホットチョコレートは飲んだことはありますか?」

「あるある!チョコをそのまま溶かしたみたいな、甘くて温まるやつ!冬になったら出先で飲みたくなるよね~!」

「それならよくお分かりかと思いますが、ホットチョコレートとよく似た飲み物がありますよね?『ココア』と呼ばれていますが、この2つの違いは何でしょうか?」


知依ちよは、頬を左右に引っ張られているかのように、口をむっとさせたまま、目をぱちくりさせている。

それから、小さな声で答えた。


「…ココアの方がちょっと白い。」


それを聞いたよみは吹き出す。

「わかんないよー!」と言いながら、知依ちよはチョコを一粒、口に放り込んだ。


「すみません。あまりにも自信がなさそうなところが面白くてつい。でも、言われてみれば、そんなイメージはあるかもしれませんね。」

「でしょでしょ?で、正解は?」

「正解は…区別されているようでされていないので、ほぼ同じものです。日本で飲む温かいココアとホットチョコレートは、同じものと考えてよさそうですね。区別するならば、ココアの方がココアバターが少なく、粘性が低く飲みやすい。逆に、ホットチョコレートは、ココアバターを多く含む、製菓用チョコレートで作られる。といった違いはあるようです。」

「ほえー。違いがないっていう答えはちょっとずるいと思うな!」

「少し意地悪でしたね。でも、正解がないわけではないので許してください。」


よみはそう言いながら、知依ちよに紅茶のおかわりを淹れる。

知依ちよは「許します!おかわりありがとう!」と言いながら、さらに一粒、チョコレートを口に放り込んだ。


「では、最後にしましょうか。第3問。チョコレートといえばバレンタインデーと連想されるほど、有名な行事がありますが、バレンタインデーの発祥の地はどこでしょうか。」


知依ちよは「うーん…」と考え込む。

1問目で、あまり深く考えず、即答したことを悔やんでいる様子だ。


「問題にするということは、発祥の地とかカカオの産地とは違うはず…ここは、あえての…日本…?」

「日本…ではないですね。起源は意外とかなり前のようで、西暦1207年。ローマ帝国でのある出来事がもとになったとされていますね。」

「ある出来事?」

「少し長くなるのですが、簡潔にまとめますと…まず、当時の皇帝が、『兵士に家族ができると士気が落ちる』と考え、結婚を禁止してしまいます。にも拘らず、キリスト教の司祭であったヴァレンチノさんは、秘密裏に結婚式を行ったり、皇帝に愛の尊さを説き、抵抗したため、2月14日に処刑されてしまいました。後々、ヴァレンチノさんの行動を称え、「聖バレンタイン」と、恋人の守護神として祀られるようになり、処刑された2月14日がバレンタインデーと呼ばれるようになったそうです。」


話を聞き終えた知依ちよは、チョコを一粒、紅茶を一口、ゆっくりと口に運び、黙り込んだ。


「ええと、すみません。どの問題も難しくて。次クイズを出す機会があれば、もう少しうまくできるようにしておきますね。」

「違うの。よみちゃんのクイズはとても興味深かったです。でも…バレンタインの起源が…重い…」

「そうですね。あ、でも、バレンタインデーにチョコを贈るようになったのは、日本のチョコレートメーカー『モロゾフ』が、英字新聞に『バレンタインデーにチョコを贈ろう』という内容の記事を掲載したことが始まりだそうです。実際、当時のアメリカでは『贈り物を贈る』という日だったので、そこはチョコレートメーカーの策略ですかね。」

「あ、そうなんだ。危うく、チョコ食べるたびにヴァレンチノさんが頭を過るところだったよ~。」

「そんな、憑りつかれたみたいに――」


そんな話をしている間に、やっと瑠仔るこが起き上がった。

ぐーっと伸びをしてから、「おぉ、チョコがあるじゃんー。いっただっきまーす。」と言い、チョコレートを口に放り込んだ。

知依ちよは「おはよー!」と話しかける。


「紅茶でいいですか?カップもう一つ用意してきますね。」と、よみは立ち上がった。

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