第3pedia 夢

「ピンポーン」


インターホンが鳴り響く。


「あら、また何か頼んだのですか?」

「や、わたしは何も頼んでないけどー。ちょっと見てくるね!」

「あ、それなら私が出ますね。」


よみはそう言うと、玄関までとことこ歩いて行き、ドアを開ける。


「やほー。新しい暮らしはどうですかあー。」


目の前には藤色のお団子が二つ。目線を少しおろすと、眠たげな深い青色の目をした少女が立っていた。

正面に、片手でバクなのか、ユメクイなのか、ぬいぐるみを抱えている。

そのぬいぐるみの目は閉じており、眠っているような、穏やかな表情に見える。


瑠仔るこさんじゃないですか、いらっしゃいませ。どうしてこんなところに?」

「立ち話もなんだから、上がらせてもらうねえー。」

「あ、はい。どうぞどうぞ。」


瑠仔るこさんと呼ばれた少女は、部屋に上がり、こたつに入り込んだ。


知依ちよちゃん、やほー。お、加湿器さっそく使ってるんだねえー。」

瑠仔るこちゃん、やほー!そうなの!昨日、管理人さんが送ってくれたんだー!」

「うんうん。よかったねえー。それにしても、冬のこたつは最高だねえ―。眠くなっちゃうよお。」


そういったそばから、彼女はこたつに突っ伏し、動かなくなった。


瑠仔るこさん、うちに来てすぐ寝ないでください…。何か用事があったのでは?」

「用事…忘れちゃったねえー。とりあえず、ここに来たら自己紹介しないといけないよねえ。するねえ。」

「相変わらずマイペースですね…。自己紹介は一応お願いします。」


こたつに突っ伏している少女は、体勢を変えず、頭だけ横に向け、自己紹介を始めた。


「名前は夢視 瑠仔ゆめみ るこだよお。ええとー。紹介するようなことはなかったわあ。最近は夢と現実の区別がつかなく――」


自己紹介をしながら、彼女は眠ってしまった。

かと思うと、むくりと体を起こし、抱えていたぬいぐるみを紹介し始めた。


「この子はバク。名前がバクなのおー。よく間違えられるけど、ユメクイじゃなくて、バクだよおー。マレーバクと同じ模様してるでしょー。」

「自己紹介の途中で眠ったかと思えば、バクの紹介ですか。というか、バクの方が紹介量が多い気がするのですが…。」

「細かいことは気にしないのおー。」


バクの紹介を聞いた知依ちよは、「いきてる?」と言いながら、バクをつつく。

「生きてないけど、たまに動くよおー」と言いながら、瑠仔るこは、バクをくねくねと動かした。


「バクとユメクイってどう違うの?マレーバクってこんな模様なの?」

「どう違うって…どうなんでしょうね?」

「あ、よみちゃん。今日はお休みしててえー。」


瑠仔るこが、いつものようにもやもやし始めたよみを制止した。

よみが「えっ」と言っている間に、瑠仔るこが説明を始めた。


「バクは現実にいる生き物だけど、ユメクイは中国発祥の、架空の生き物『ばく』が悪夢を食べるとされていることから、ユメクイって呼ばれるんだねえー。見た目も似てるから混同されがちだねえー。」


「ほえー」と、納得する知依ちよの横で、よみは本を広げ、「マレーバクはこんな感じですね」と、本からホログラムを出している。


「体が3分割されてて、黒・白・黒になってるんだね!」

「体が3分割って…表現的にはわかりやすいですが、なかなかグロい表現ですね…。」

「うちの子は、黒部分が茶色っぽいんだよおー…ぐー…。」


そういいながら、瑠仔るこは再び眠ってしまった。

よみは眠った瑠仔るこにブランケットをかける。


瑠仔るこさんは、本当によく眠りますね。起きているのか、夢と連動して動いているのか、たまにわからなくなります。」

「わたしも夢見ながら、歩き回ってたりするのかな!?」

「それは見たことはないですが、寝言なら頻繁にありますね。」

「ひいい恥ずかしい…。」


知依ちよがこたつに突っ伏すと、瑠仔るこが先ほどと同じように、顔だけ知依ちよの方を向け、突然、話し出した。


「そろそろ知依ちよちゃんが、『夢ってどうして見るの?』って聞きそうだから、説明しようと思うんだけどおー。気にならないー?」


知依ちよ瑠仔ること同じように、こたつに突っ伏したまま顔だけ瑠仔るこの方を向き、「気になります!」と返した。

それを見ながらよみは「私の出番が…」と、本をぎゅっと抱えたまま、さみしそうな顔をしている。

そんなことは気にも留めずに、瑠仔るこは語り始めた。


「説明って言ったけど、夢って明確にどうして見るのか、何の意味があるのかって、わかってないんだよねえ―。いろんな考え方はあるみたいで、例を挙げると、記憶の整理をしているときに、その内容の断片的なつなぎ合わせが、ドキュメンタリー映画みたいに見えるものだとか、未来予知とか、願望とかがあるよおー。」

「ほえー。いろいろ研究はされてるもののわかってないって、夢ってすごいんだね!」

「そうだねえー。明確なことがわかってないうちは気の持ちようだと思うから、都合よくとらえるのが一番だと思うよおー。」

「なるほど!瑠仔るこちゃんは意外と大人だね~!」


褒められた瑠仔るこは、眠たそうな表情のまま、どや顔をした。

それから少し話を続けた。


「あまりにも短い説明だから、もう少し話すと、人は1日にいっぱい夢を見てるらしいよおー。寝ている間は記憶を固定するための機能があんまり働いてないから、起きる直前の1つの夢だけ覚えていることがほとんどなんだってえー。あと、夢の内容は寝る前の体調とか心理状態に関係しているとも言われてるから、寝る前は楽しいこと考えようねえ―。」

「ほえー。体調って、風邪ひいてると悪夢見るってこと?」

「うーん、それもあるかもしれないけど、病気の夢とか見たら気を付けた方がいいのかもねえー。実際、病気の夢を見たから助かったみたいな話はあるみたいだよおー。」

「病気…気を付けます!」


すべて話し切った様子の瑠仔るこは、顔をくるっとよみの方に向け、「以上で大丈夫かなあー?」と問いかける。

仕事を取られたよみは、しぶしぶ「大丈夫です…」と返事をした。


よみちゃんが頑張った後か、ネタの出し方に困ったときに、また来るねえー。いっぱい話したから…おやすみなさい…ぐー…。」


「急に来たと思えば、そういうことだったんですね。ま、おかげ様で休めましたが――今メタいこと言ったような…」


知依ちよは「ネタ?」と言いながらきょとんとしている。

よみは「お気になさらず~」と言いながら、本を開いた。

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