『望むままに 性格カプセル』
N(えぬ)
一話完結
ごく平均的な夫婦生活を送る和美と洋平が、ここに来て相手への不満を募らせ始めた。洋平は何かにつけ和美の顔色を見て、「何か不満か?」と言いたげな顔で、けれど口には何も出さない。和美はそういう洋平の態度を察していて、最近は頻繁にチラチラと目を配って様子を見ていた。
和美は今日の今、思い切って洋平を呼び止めて言った。
「そろそろ潮時かしらね。長く暮らしていると、愛着も湧くから、ギリギリまで我慢したけど、もうお終いにするわね」
棒立ちに突っ立って、洋平は和美の話を聞いていた。そして、特に何も言ったりはしなかった。
――おぉ、無口な人ョ
和美はためらいを振り切るようにさっさと歩いて洗濯場の棚にならんだ四角いパッケージの中から一つを手に取って、箱の中にあった説明書きを読み始めた。
「これでいいワ」
箱のふたを開けて長さ10センチほどで棒状の透明なカプセルを取り出すと、洋平の背後に回って首の後ろの丸いボタンを押した。ボタンは赤色で点滅し始めた。そしてその横の穴からプシュっといって赤く細い棒状のカプセルが頭を出し、和美はそれを指でつまんで引き抜き、代わりに箱から取り出した透明な新しいカプセルを穴に差し込んだ。
彼女はゴミ箱に空き箱を潰して捨て、中身が赤いカプセルは、「燃えないゴミ、っと」、専用ケースにポイと放り込んだ。
和美が捨てた空き箱にはこう書いてあった。
『詰め替え用 アンドロイド性格カプセル・お徳用 別個性タイプ2本セット 爽やか清潔&ストイックなニヒル 目が赤くなって交換時期をお知らせ……適合アンドロイド 2125年製型番Q-45・・・・』
和美はカプセルの説明書を読みながら洋平の様子を見ていた。
「ストイックとかニヒルって、始めはちょっとそそられたけど、効果が薄らいでくると『不満をため込んだ無口で煮え切らない男』って感じで、使用後感が良くないわ……。最後まで同じ効果を持続させて欲しいわね。カプセルメーカーのフィードバック窓口に書き込んでおこうっと」
「ハッ!」そのとき、洋平が再起動した。
「和美。今日は僕に夕食を作らせてくれないか。そんな気分が僕の中で最高に盛り上がってるんだ!」
「いいわ、たのんだわ。洋平!」
「おぉ~。うれしいよ、和美!さぁ、腕を振るうぞぉ~!」
『望むままに 性格カプセル』 N(えぬ) @enu2020
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます