第5話 マイ・ピュア・レディ-5
くたびれ果てて部屋に入ると、百合子は勉強していた。
「おかえり、遅かったわね」
「あぁ…疲れた」
制服のままベッドに横たわると、
「行儀が悪いわよ」とたしなめられた。
「だって、一人でコートの整備したのよ」
「どうして?」
「ん……」
理由は言えなかった。土曜日、クラブを抜け出して野球部の応援に行った罰に、一週間のコート整備を言いつけられた。思い返すと浅はかな行動だった。自分の性格が嫌になってくる。
「お姉ちゃん…」
「なに?」
「勉強してるのね」
「受験生だもん」
「名前、載ってたね」
「あぁ、見たの?うん、まぁね」
「…いつも載ってるの?」
「ん、まぁ、だいたい」
「……すごいな」
「カヨは?」
「一四〇番」
「真ん中くらいね」
「ちょうどね」
「カヨは、テニスやってるから」
「お姉ちゃん、クラブは何だったっけ?」
「あたし、手芸部。ほとんど何もしないクラブよ」
「でも…、クラブやってる人で成績のいい人たくさんいるよ。ほら、野上先輩とか、五十嵐さんとか」
「あぁそうね。野上さん、テニス部だったわね」
「うん」
「彼女、テニスも上手だし、勉強もできるし、すごいけど、そんな人ばっかりでもないわよ。あたし、運動は苦手だから、あんまりクラブやってなくて、いまはちょっと成績がいいけど、秋になったらクラブ引退した人たちがどんどん成績が良くなって、きっと追い抜かれるわ」
「でも…、いいよ、いまだけでも名前が載ってたら」
「そう?」
「うん。今度、ヤマ教えて」
「だめよ」
「え?」
「ヤマはかけちゃ、だめ。ちゃんと勉強するの。たまたまヤマが当たっていい点取っても、実力じゃないでしょ」
「……じゃあ、お姉ちゃんの成績は実力なんだ」
「あ……。う、ぅん……」
「いいな。なんで姉妹なのにこんなに違うんだろ」
「でも、カヨも緑ヶ丘受かったんだし、そんなに違わないわ。勉強は見てあげるから、クラブも楽しみなさい」
「うん。ありがと」
大きく頷いてにかっと笑うと百合子も応えるように微笑んだ。
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