第4話 マイ・ピュア・レディ-4

 机を寄せてお弁当を食べていても、話題は成績表のことから離れなかった。加代子はもう話題にしたくはなかったので、ただ黙って聞く側に回った。

「でもさ、このクラスって本当に頭のいい子が集まってるのよね」

「あたし、さっきも見てきたんだけど、二十位内に五人も入ってたわよ」

「七クラスだから、三人平均くらいよね。すごいな」

「小林君も林君も野球部でしょ。運動部でそんなにいい成績なんて、うらやましいな」

加代子は、岡林尚美のその言葉に頷いた。自分も運動部で、運動部だから少しくらい成績が悪くても許されるように思っていた。でも、同じクラスの野球部の二人が上位に入っていることに、劣等感を抱かずにいられなかった。

「あ、そういえば、三年って上位はAクラスばっかりだったわね」

加代子が思い出したようにそう言うと、美智代は呆れたように答えた。

「何言ってるのよ、カヨちゃん。三年生は、成績順でクラスが決まってるじゃない」

「そうよ、知らなかったの?」

尚美も応えるように言った。

「え?」

「成績順でクラスが決まってるの。悪かったら、落とされるの」

「落とされるって?」

「AからB、BからCっていう具合に」

「ホント?」

「本当よ」

「そう言えば、カヨちゃんのお姉さん、名前載ってたんじゃないの?」

「……ん」

「すごいね。カヨちゃんは?」

「…あたし、全然ダメ」

「ナオちゃん、ダメよ。カヨちゃん、ケチなの。全然教えてくれないの」

「いいじゃない、ネ、あたしたちの仲でしょ」

「だって……、悪かったんだもん」

「あたしも。ね、こっそり、見せ合いしようよ」

「……ヤダ」

「ケチね」

「だって、お姉ちゃん、あんなにいい成績なんだもん」

「ま、わからないでもないけどね」

「それに…、五十嵐先輩もすごいね」

「あ、チェックきびしい」

「たまたまよ。たまたま、見たら、名前載ってたの。すごいな」

「ホント。文武両道、憧れちゃうな」

「野球部って、あんなに練習してるのに、どうしてあんなに勉強できる人が多いんだろ」

「小林君も林君も。他にもいるのかな」

「でも、あたしたちの女子テニスでもいるでしょ。ほら、キャプテンの野上さん、二番だったじゃない」

「葵先輩も、二年で二位」

「みんな、すごいな」

「そうだ、カヨちゃん。あんた、土曜日、練習抜け出したでしょ」

「…うん」

「野上先輩、すっごい怒ってたわよ」

「そうなの?」

「だって、はじめいたのに、いつの間にかいなくなってるんだもん」

「だって……、野球部試合があったから、見たかったの」

「あっきれたぁ、そんなことだったの?知らないわよ、何て言い訳するの?」

「…ほんの出来心で……」

「そんなこと言ったら、逆鱗に触れるわよ。ホントにバカみたい」

「でも…」

「うまい言い訳考えておいたほうがいいわよ」

「ぅん」

 ―――なんて日なんだろう。

 加代子は、お茶をすすり終わると、息を継ぐふりをしながらため息を吐いた。

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