第3話 マイ・ピュア・レディ-3

 晴。風向、南西。


 重い気分のまま辿り着いた校内は、いつもと違う空気に包まれていた。何だろうと思って見ていると、中央掲示板に人が集まっている。つられるように加代子は足をそこに向けた。

 人だかりの視線に合わせて加代子が目を向けると、掲示板には大きな紙が貼り出されていた。

 ―――成績上位者?

そこには、先日の定期試験の成績上位者の名前が連ねられていた。加代子は唖然としたままそれを見つめた。

『一年生上位二十名。

 一位、清水由貴子、A組。

 二位、林寿彦、B組。

 三位、小林純、B組。

 四位、柳沢則治、F組。

 五位、立花純子、B組。

 ・・・・・・・・・』

加代子は驚きながら目でその文字を辿った。こういう形で成績が貼り出されることと、同じクラスから上位五位までに三人も入っていることに、ただ目を奪われた。

 ―――すっごぉい……。

ぼんやり見ていると次々に人が集まってきて、背中を押され、押し退けられてその場に立っていられなくなった。憮然としながら、いま押し退けて割り込んできた生徒を睨むと、教室に戻ろうとした。ふと、気になって三年の成績を覗いてみた。

『十位、五十嵐風人、A組』

その名前を見つけると、加代子ははっとした。

 ―――すごい……。

クラブ活動をしながら上位成績者に名前を連ねている五十嵐に一層憧れが増してきた。と、別の名前も目についた。

『五位、三島百合子、A組』

 ―――お姉ちゃん?

加代子は姉がそんなにも優秀だとは思っていなかった。思わず驚いてそのまま立ち尽くしていると、また押し退けられてつまずきそうになった。体勢を持ち直して姿勢を戻すと、自分の成績はどのくらいだろうと思いながら教室に向かった。


 教室に入ると、クラスはもう成績表のことで持ちきりだった。

「ね、コニちゃん、見た?」

「うん、見た見た」

「すごいね、うちのクラスから上位に三人もいたよ」

「そう。ほとんど上位独占状態じゃない」

「あ、純子ちゃん、おはよう。おめでとう。すごいね」

登校してきたばかりの立花は何のことかわからず、問い返してきた。

「何?何かあったの?」

「何って、見てないの?」

「何を?」

「成績表。純子ちゃん、五位だったわよ」

「え、そんなの出てるの?」

「上位二十位だけだけどね」

「…なんだか、恥ずかしいな」

「何言ってるのよ、あんないい成績取ってて」

「そうよ、あたしなんて、今日成績返ってきたら、どんなに悲惨か」

「コニちゃんより、あたしの方が心配よ。…あんまりできなかったからな……」

 わいわい騒いでいると、先生が入ってきた。

「さぁ、ホームルーム始めるぞ。席に着け」

今まで騒いでいた皆が一瞬で静かになって、先生に注目した。先生は紙の束を持っている。それが、成績結果だということは、誰にも予想できた。

「さて、先週の試験の結果を返します。これは、点数の一覧と、成績順位が書いてある。君達はまだ一年だけども、自分の成績を意識して、これからの勉強の目標にするように。それじゃあ、名簿順に取りに来なさい」

 待ちかねるように受け取った成績表には、一四〇位の成績が記されていた。がっくりと落胆しながら席に戻ると、美智代が覗いてきた。

「ネ、ネ、どうだった?」

加代子は手元の成績表を隠して、

「コニちゃんは?」

「あたし?あたしはダメよ。三桁。カヨちゃんは?」

「あ、あたしも、三桁。全然ダメ」

互いに牽制しながら、成績を見せないようにしていると、一時間目の五月先生が入ってきた。先生は騒がしい教室にのっそりと入ると、怒鳴ることもなく静かに授業を始めた。教室のそこここでは、まだ、あちこちで成績表の見せ合いが続いている。加代子は、自分の成績表をしっかりと二つ折りにするとノートの間に挟んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る