21
結局、こういうことに慣れていないわたしは、必要以上のモノを買い込みすぎて、彼の小さな1ドアの冷蔵庫を一杯にしてしまった。それでも入りきらない分は、自分の部屋に持ち帰ることにした。「ああ、これぼくがいつも飲んでいるメーカーのだ。よくわかったね」って、彼が例の炭酸飲料を手にして言ったから、わたしはへらへら笑いで、それを受け流した。買ってきた氷は袋のままタオルで包んで、佐伯くんに手渡した。全部で4つ買ってきたんだけど、彼はそれを自分の脇の下や両腿のあいだに押し込んだ。最後のひとつをおでこの上に乗せると、彼はずいぶんとくつろいだ表情になった。
「ありがとう、すごく楽になった」
わたしは、声は出さずに手にしたヨーグルトのカップを彼に示した。
「それは、またあとで食べます。冷蔵庫に入れておいて」
でも、冷蔵庫はもう一杯だった。お腹が動くようになったら食べるようにと、イチゴとかシュークリームとか生うどんとか、そんなものまで買い込んでしまったので、もう隙間がない。これも自分の部屋に持ち帰ることにした。
「――明日の朝」とわたしは言った。
「また、来ます」
わたしは立ち上がり、玄関に向かった。少し歩いてから振り返って、佐伯くんを見た。彼もわたしを見ていた。わたしは驚いて首をすくめ、それから急いで彼に言った。
「もし、急に具合悪くなったら――」
「はい」
「声を掛けて下さい。大きな声で呼んでもらえれば聞こえますから」
ありがとう。彼はそう言って、枕に頭を沈め目を閉じた。わたしはちらりと正面の壁に目をやった。わたしの部屋との境。あちらからは見えなかったけど、壁際に大量の雑誌が積まれている。きっとどれもが映画関係の雑誌なのだろう。フランクの穴を探したけれど、さすがにそれは見えなかった。
わたしは、「おやすみさい」と心の中で佐伯くんに声を掛け、そっと彼の部屋をあとにした。
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