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なんだろう? 少し胸が痛くなる。こういう光景を見ていたくない(と言っても、見続けるんだけど)。わたしとしては局外中立の傍観者でいたはずなのに、どこかで巻き込まれてしまっていたみたいだ。わたしは一方的に佐伯くんに好意を感じているし、同様に奈留Aさんも嫌いじゃない。彼に肩入れしているわたしとしては、その恋がうまく運ぶなら悦んでいいはず。反対したくなるような相手じゃない。この慌ただしい展開はわたしの好みではないけど、ハリウッド映画では王道の流れだし。
ああ、ついに佐伯くんが決意して、彼女の顔に自分の顔を寄せていった。おそらく彼にとっては初めてのキスになるんだろう。ゆっくりと慎重に彼は唇を近づけていく。おそらくこの瞬間に百万回ぐらいの演算が彼の頭の中で繰り返されているに違いない。侵攻、状況把握、即時撤退の準備、そしてさらに侵攻。あんまりにもゆっくりなんで、わたしは不謹慎にもブレットタイムでこの場面を撮影したら、どんなふうに映るんだろうなんて考えてしまった。静止した2人の回りをカメラがぐるっと回って、最後はあと3センチに迫った唇と唇の間隙をカメラが抜けていくの。
あ、いま唇が触れ合ったみたい。ここからはよく見えないけど。彼の表情が変わった。またもや胸のあたりに、重苦しい痛みが漂う。これが嫉妬なんだって認めてしまったほうが楽になるかも。実際、そうなんだと思う。半月のあいだ彼を見ていて、10分の1ぐらい恋してしまったらしい。フルに恋したときに比べて、その10パーセントぐらいの気持ちって意味だけど。
2人は、なにか口にしながら、相手の背中をさすり合っている。そのあいだに3度ぐらいキスして、それから奇妙な間があって、2人はうなずき合うと、半分だけ立ち上がってベッドのほうに移動を始めた。
ちょっとせっかちすぎない? とも思ったんだけど、2人は完全にヒートアップしちゃってて、止まらない感じ。まあ、2人にはわたしの知らない長い歴史があったんだろうし、アルコールっていうのは、手っ取り早い
2人はベッドの上に横たわると、互いの身体を強く抱きしめ合った。また4回ぐらいキスして、それから彼女が佐伯くんに何かを言った。彼は立ち上がり、こっちの部屋に来て照明を消した。キッチンの灯りは点いたままだから、真っ暗になるわけじゃない。柔らかな間接光が2人を照らしている。
彼女はココア色のプルオーバーを脱いで彼に背を向けた。どうもブラジャーのホックを外してもらっているみたい。自然なのか演出なのかわからないけど、これって男の子にとっては嬉しいことなんじゃないだろうか?
胸が露わになった。彼にはまだ背を向けているから、胸はこちら側になる。綺麗な乳房だと思う。大きすぎず、小さすぎず。なんでだか、また唾が口の中に溢れてくる。もっとよく見ようと目を細めている自分に気付き、ちょっと呆れてしまう。同性の裸を見て、何をしようというの?
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