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彼は奈留Aさんのデニムパンツを脱がすのにすごく苦労した。初めから手を出さなきゃいいのに、ブラジャーのホックを外したことで勢いづいちゃったのね。だいたいデニムパンツなんて、自分で脱ぐのが一番効率的なのに、彼女も彼の熱意に水を差したくなかったのか、忍耐強く待っている。腰浮かせたり、足の甲を伸ばしたりして協力している。ようやく足首からデニムパンツが抜けると、佐伯くんは大急ぎで今度は自分の服を脱いだ。彼女はすでに彼の隣に仰向けになって待っている。そこに佐伯くんがダイブした。二人ともまだパンツは穿いたままだ。よく分からないけど、これでいいのだろうか? ひどく中途半端な感じがする。恥ずかしがり屋のセックスってこういうものなの?
わたしがつねづね嘘くさいなあ、と思っていたことを彼はした。彼女の首にキス。映画のベッドシーンはいつだってこうやって始まるけど、あれって、女の人はくすぐったくないのだろうか? わたしはきっと駄目だ。いきなり相手を突き飛ばしてしまうかもしれない。自分の髪が風にそよいで触れただけでも鳥肌が立つというのに。彼はきっといままで観てきた恋愛映画をお手本にしたのね。気持ちはわかるけど、あれが正解というわけじゃない。少なくともわたしにとっては。でも、彼女はOKみたいだ。佐伯くんの頭を抱えて、首を反らしている。なんて
わたしは息を吐いて胸の鼓動を鎮めようとした。例の骨盤の中のもやもやがさらに大きくなっている。勝手に2人のプラべートな営みを覗き見て申し訳ないという罪の意識もあるし、10分の1の嫉妬心もある。そんななんやかやが胸の中で渦巻き干渉し合って、なんだかたいへんなことになっている。
2人の動きを見ていると、どことなく彼女のほうが積極的に見える。経験者と未経験者の違いなのかとも思ったけど、どうにも佐伯くんの仕草がぎこちない。気もそぞろ、上の空。目が彼女ではなく、壁や正面の窓に向いちゃったりしてる。と思ったら、ついに彼女の上から降りてしまった。奈留Aさんが不審そうな顔で佐伯くんを見ている。彼は奈留Aさんに背を向けるようにして、何やらトランクスをいじっている。彼女が声を掛けた。彼が首を振る。
わかった――
これもよく映画で見るシーン。本当にこういうことってあるんだ。彼は、つまり――漏らしちゃったのね。あまりにもヒートアップしすぎて暴発しちゃったんだ。すごくしょげてる。可哀相に。気の毒で痛々しい。今度は奈留Aさんが慰める番だ。しきりに何か彼に声を掛けてる。
大丈夫……よくある……すぐにまた……、なんて声が切れ切れに聞こえてくる。彼はすごく落ち込んだ顔して、ウンウンて頷いている。こういうときって、男の子はものすごく情けない気持ちになるんでしょうね。男のプライドがシュレッダーに掛けられて、ミリ単位のチップにされちゃったような気分に。
五分ぐらいそうやっていただろうか。そのうち彼も少し立ち直ってきた。彼女に背中を向けたままトランクスを脱いでティッシュペーパーで後始末をしている。二人の雰囲気だとどうやらリベンジマッチに挑むみたい。彼女は佐伯くんが背を向けているあいだに、自分の下着を脱いでしまった。彼に恥ずかしい思いをさせないための気遣いかもしれない。それからまた二人は身体を合わせてキスを始めた――
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