セイムというもの

 セイムとは、共和国の行く末を決める大事な機関であり、そこでは数日に一度不定期で様々な議論が行われている。

 共和国の脳と言っても過言ではなく、また顔でもあるため、セイムが開かれる議事堂は共和国で1~2を争うサイズと豪華な装飾がなされており、一種の観光スポットとしての役割も担っていた。

 これを見た人が共和国の力に圧倒され、結果的にそれが共和国に対しての弱腰な姿勢を引き出す。

「なーんて、立派な建前たててるけど、要するにこんなすごい場所で働く俺たちカッケーってしたいだけでしょ。貴族ってのは見せたがりだから。」

 そんな小声で悪態付きながら、議場のある建造物を眺める人物が三人。

 第六王女ナターリアとその教育係レーン。

 そして、ナターリア騎士団団長で護衛役のユセフである。

「姫、あんまり変な事言わないでください。変に弱み握られると潰すのがめんどうですから」

「潰す、ですか。意外と腕っぷしも高いのですねレーン殿も」

「いや、そういう意味ではなくてね?」

 何故か感心する様子を見せるユセフと、反応に困るレーンの二人に呆れながらも、既に遅刻気味故のんびりもできないナターリアはそそくさとセイムへと向かう。

「ほら、置いていくわよ」

「姫、あまり一人で動かないでください!」

「じゃあさっさと動いてよ」

「それ、今朝の私が聞いたらキレてましたよ多分」


 ナターリア達が議場に入るとそこには数多の議員が今日も今日とて熱く弁舌を語っており、至る所で殴り合いも起きてたりと見るだけで忙しい状態になっていた。

 そんな議場であるが、外国の目を気にする必要が無いからか、或いは金が尽きたのか、今見えるような殴り合いで壊れるのを嫌ったか..外よりも大分質素で、煌びやかな装飾等はは少なく、また警備兵が多く巡回しており、優雅さよりも実用性を重んじているようにも見える。

 建前で豪華にした勢いで内側も...としない辺り、やはり根は腐ってないと安心もできるのだが...


 とにかく事前に用意された席に適当に三人とも座りながら、セイム動物園の光景を眺める。

「しかしまぁ、相変わらず騒がしいですねここは」

「レーン殿も、かつてはここで殴りあってたのでは?」

「あんなのと一緒にしないでくれ...」

 相変わらずユセフのペースに押され気味のレーンだが、その普段ふてぶてしいレーンが押されるのは見てて愉快だからか、ナターリアは助け舟を出したりしない。

「しかし...これ何の議論してるのかしら。なんかいつもより流血沙汰が酷いような...うわ、爆発までしてる......まぁどうせくだらない内容なんでしょうけど」

 セイムの議題はいつも多種多様である。真面目な国家の話もあるが、それは精々年末年始くらいでそれ以降なんてまともな議題もないなんてザラである。

 こないだは確か議会後で行われる会食で出る献立とかでしたっけ?とか考えていたが、

「いや、今日はそうでもないみたいですよ?」

 ほら。とレーンは事前に渡されていたらしい、本日のセイムの議題について書かれた紙をナターリアに渡す。

「なになに...?ヴィエフスキ王国における、不穏な動きとそれに対しての我が国の方針。そして西部方面軍交戦の是非について...?」

「えぇ、どうもヴィエフスキ関連で少々不穏なことがあったようで」

「ヴィエフスキ...ねぇ」

 ヴィエフスキ王国と言えば腐敗の代名詞、何もせずとも自沈する泥船その物。

 魔法の力は共和国に遠く及ばないくせに、そのくせ非魔術師への差別や迫害が酷いという救いがたい国。挙句、借金の滞納で他国に滅ぼされるか、何らかの理由で自滅するかが関の山と言われる有様。

 共和国にとっては敵と評する事すら過大評価なのだが、その割には真面目に話してるなと思わなくもない。

 それこそ、普段なら西部方面軍の現場判断に任すで終わりそうなものだが...

「忙しいセイムの方々なら、この程度の議題軽く流しそうなものだけれども」

「私もセイムから離れて久しいですから、仔細はわかりません。後で聞いておきましょうか?」

「...いいわ別に。後々嫌でもわかりそうだし」

 そうですか...とレーンはそのままセイムのドタバタ眺めに意識を戻す。

 いつにもまして派手に暴れる様に、やはり違和感を感じずにはいられないが、さりとてそれにどうこうする理由も権限もないナターリアは、めんどくさそうな顔でそれを眺めるのだった。

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