第一幕「クオーリア共和国第六王女ナターリア」

王女もどきの朝

 日が空へと昇り切り、大抵の人が目覚め、為すべきことに勤しんでいる頃。

 そんな時間になりながらも、未だに惰眠を貪る者が居た。

 豪華な寝室で眠りを満喫しているその女は、幸せそうな顔で眠っていたが、流石にこの時間までくれば陽の光はそれを許してはくれない。

 カーテンすらも越えて光が部屋に差し込んだことで、遂に彼女は目覚めざるを得なくなった。

 それでもまだ寝ていたかったのか、嫌そうな顔を浮かべながらも一度起き上がり、そのまま枕元にあったぬいぐるみでカーテンを塞いだ。

 完全にではないが、光が遮られたことで満足したのか、彼女はまたベットに戻ろうとするのだが...

「姫様、いつまで寝てるんですか」

 っと、外から彼女にとっては聞きなれた声がしたことで自らの安眠の終わりを悟る。

「もう、公務の予定時間は過ぎてるんですよ。早くおきてくださいな」

 急かす様に動くことを強いてくるその声にうんざりしながらも、声の主がこんな時間まで眠れるよう便宜を図ってくれてた事も知っている彼女は、嫌々ながらも目覚める為の準備を始めた。

「レーン、わかったわかったから、準備するからまた後で来て頂戴。」


 しばらく後、従者に身だしなみを整えさせた彼女は、改めてさっきの声の主...レーンを部屋に呼ぶよう伝え、そしてそう時を置かずして彼は現れた。

「いやはや姫様、相変わらず麗しい服で...着ている人もそうであれば、私としては助かるのですがね」

「一言余計ですよ」

「おっと失敬」

 開口一番で煽ってくるレーンだったが、実際整った身だしなみと姿勢で貴族服を着こなすレーンに対し、彼女は服こそレーンより良い物であるが姿勢や寝起きといこともあって、とても「姫様」などと呼ばれる身分には見えない。

 その自覚が無いほど彼女も馬鹿ではない、だが、それはそれとして面と向かって言うものではないだろ、と思わなくもないが別にそれを咎めたりもしない。

「まぁそんな話はどうでもよいのです。姫様、公務のお時間ですぞ」

「めんどくさい嫌だ動きたくない。姉や妹達にでも押し付けておいて、私寝るから」

「既に押し付けた後です姫様」

 そう言って、レーンは懐から一枚の紙を取り出し、そこに書かれた内容を読み始める。

「今日の公務は、これからすぐセイムの視察、途中で退席した後今度は街の視察。んでいったん休憩の後直属の騎士団を視察してそのまま晩餐会となっております。本当は、もっと多かったんですけどね、これでも減らしたんですよ」

「視察しかしないわね」

「王ですら象徴とセイム議員以上の権力を持たないんです。その娘...ましてや下から二番目ではこの程度ですね。あ、将来的に姫様が議員になられるなら別ですよ?」

「ならないわよめんどくさい」

 王と言っても所詮は金があるだけの1議員。しかもそのくせ面倒ごとは全部押し付けられる。

 働かざるとも自由にできる金があるのだから、わざわざ面倒な議員になる必要なんてないのですよ、えぇ。


「私はね、ぐーたらしてるだけの人生が良いの、あんなクソの塊で働くなんてまっぴらごめんよ」

「セイムがクソの塊なのは同感ですがね、いつかぶっこわしてやりたいですよ」

 そう言うレーンの顔は、とてもそれが冗談では無さそうにも見えるが、さりとてそれをわざわざ気に留めるような彼女でもなく

「あら、珍しく意見が合うじゃない。そうね、いつかぶっこわしてやりましょう」

 ただの冗談として処理する。めんどくさいから。

 そのまま彼女はよっこらせと立ち上がり、ちょっとだけ凛々しい顔をしながら動き出す。

「それでは、面倒なお仕事の時間としましょうか、ナターリア姫」




「...なんで今更名前付きで?」

「いえ、出してなかったなと」


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