第3話

(何と調べたらいいんだ?ホテルの名前は?)

 だが、待てよ。

もう廃業しているホテルなら…調べても、載っていない可能性もある…

(しまった!橋本に、ちゃんと教えておけば、よかった!)

そのことに気付き、彼はあわててメッセージを送る。

『すまん!きちんとした住所がわからない』

そう送ると、すぐに返信が来た。

『大丈夫!ゴーストホテルという名前で、ネットで話題になっている』


 ゴーストホテル?

恭介は、携帯から顔を上げた。

確かに…ミステリースポットを探せ、とは言われたけれど、そんなことは聞いては

いない。

(やられた~)

彼は、すぐにそう思う。

(こんなの、誰にでも出来る仕事じゃあないか)

廃虚に行って、写真を撮って、レポートするだけ…

要は、彼をお払い箱にしようという、ボスの魂胆が見え見えだ。

 だが…彼は怒る気にもなれない。

それならば、徹底的に調べて、うんと怖いのを書いてやろうじゃないか…!


 駅に着くと、すぐにコンビニに立ち寄って、とりあえず目ぼしいものを、カゴに

放り込む。

ビール

(おっと、二日酔いだと、寝坊をするかもしれないな!)

あわてて棚に戻す。

(あとは、何か腹に入れるものを…)

納豆、豆腐、コーヒー

たばこ、スナック菓子、缶詰、パン…

ポンポンポンと、目に付いたものをカゴにおさめると、

思いのほか、買い込んでしまっていた。

(あっ、しまった!現金を下ろしていない)

あわててATMにカードを入れると、残金が残りわずかだと表示される。

(くそっ!何が何でも、元を取らなくては!)

そうしないと…幽霊ホテルどころか、自分が干上がってしまう…

(いざという時には、アイツに金でも借りるかぁ)

だが、久し振りに、彼は気分が高揚するのを感じた。


 すっかり重くなった荷物をかかえて、彼は自分の部屋へと向かう。

(しまった!買いすぎたかぁ)

両手に袋をぶら下げると、それでもスタスタと歩いて行く。

まだ…空が明るい。

何だか久しぶりだ。

まるで遠足に行く子供のように、心が弾んでいる。

そんなことは、ここ最近なかったことだ。

(あれ?おかしいな。

 嫌な仕事のはずなのにな)

それはきっと、同期の橋本のお陰だ。

 恭介はあらためて、彼のことをありがたいと思う。

こんなボロボロの自分のために、ここまで気を使ってくれるなんて…

「そうだな。せめて今度、アイツを誘って、飲みに行こう」

そう決心した。


 足取り軽く歩いていると、じきに古びたアパートが目に入る。

(しかし、こんなトコで…よくアイツと一緒に暮らしてたなぁ)

今まで何にも感じていなかったのだが、よく付き合ってくれたものだ、と思う。

今ならば…突然出て行った彼女のことを、許せそうな気がした。

 ポストをのぞき、DMと新聞を取って、トントントン…と、階段を上がる。

今の自分には、このボロアパートがお似合いだ…

自嘲気味に、彼はそう思う。

(あれ?)

 だが彼は、異変に気が付いた。

窓が…開いてる?

(開けっ放しで出たっけ?

 不用心だなぁ~)

そう思いつつも、すぐに思い直す。

(まぁ、うちは、取られるものなんて何もないし。

 ドロボーも同情して、置いて行くんじゃあないか?)

そうだといいけどなぁ~

思わずニヤニヤとした。

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