第37話 正義達の苦労(ヒーロー視点)
ここは人知れず人々の平和を守るヒーローの基地……などではなく、この町、『
そこにある、怪人や妖怪に対抗するという名目で立ち上げられた(実際はほとんど与太話だと思われている)、『特異事件対策課』と書かれた一室で、何人かの人物が集まっていた。
「
胡散臭い男性、
「見逃した、ねぇ……正直、こっちが見逃してもらった気分だよ」
「何を言ってるんです!? 貴方は警察官でしょう! 犯罪者を逃してどうするんですか!」
「耳が痛いねぇ……」
少年の名は
「錦、落ち着いて。宇佐美さんにも考えがあってのことだろうし」
「バーニィ、でも……」
錦を落ち着かせるのは、バーニィ・ファイヤムス・
「あー、コホン。まあ、勿論、考えなしにって訳じゃない」
「どんな理由があったんですか?」
「甘粕君、あの子と戦う前に変な身分証明書みたいなものを見せられたとか言ってたでしょ」
「はい。虎鮫とか、明らかな偽名とか色々……」
「俺も
「は?」
「えっ?」
虎鮫の持っていたものが、殺人許可証などという法治国家にあるまじき
それが、現役の警察官から出た言葉となれば、より大きなものとなる。
「殺人許可証!? おかしいでしょう!?」
「そうですよ! 何故、そんなものが一個人の手に……」
「訳あって、政府が発行したのさ。ちなみに、もう1人持ってる奴がいるらしいよ」
「訳って。殺人なんて許されるものでは――」
「あの虎鮫って子が、鮫型巨大ロボットのパイロットでも?」
『!?』
2人は驚愕した。
突如として現れた巨大怪獣を屠り去った、鮫型巨大ロボット――シャークウェポン。
先程戦った者が、自分達の探していた人物だったのだ。
「現状、あの怪獣に対抗できるのは巨大ロボットだけだからねぇ。お
「どうして……誰しもが正義のために動いてるわけじゃありません。でも、平和を守る人がそんなことをするなんて……!!」
「そうです! 確かにあのロボットは人々を守っていますが、無差別な殺人が認められるなんてことはあってはなりませんよ!!」
彼ら自身、人々のために怪人や妖怪などと戦うヒーローである。故に、平和に関しては敏感であった。
「その気持ちは分かるよ、俺だって警察だもん。でもねぇ、お上には逆らえないや。それに、各勢力は奇跡的なバランスを保ってる。それを壊すことになりかねないし」
「でも……」
「納得できない?」
「……はい」
「うん、うん。そんな風に悩めるのは今の内だけだ。大事にしなよ? 俺はもう納得しちゃったし……」
「宇佐美さん」
宇佐美がどこか遠くを見つめ、何かを思い出していた時だった。
「お邪魔する」
「邪魔するぜぇ」
「相変わらず辛気臭い場所だね」
「ん? お、
ノックの後にドアが開き、特異事件対策課の室内に3人の人物が入って来た。
「錦が手酷くやられたと聞いたのでな」
「今、手の空いてる俺らが来たってわけ」
黒いセーラー服を着た、美しい長身の少女。その少女とほぼ同じ顔と身長の、学ランを着た少年。
2人は、腰に刀を差していた。
彼らは、姉の
共に由緒正しき退魔師の家系、龍神院家に生まれた、期待のエリートである。
「ボクはたまたま近くにいただけなのを、2人に連れてこられたのさ」
「そりゃあ災難だったな。お菓子食べるかい?」
「……ありがとう」
寒気のするほど美人な2人の間にいたのは、まだ小学校低学年ほどの少年だった。
生意気そうなだが、とても中性的で可愛らしい容姿であり、見る者の庇護欲をそそることだろう。
彼は、リヒター・オーウェン。
小学生ながら飛び級で博士号まで取得している、天才である。
色々あった末に、今は
彼らも錦やバーニィ同様、人々の平和を裏から守るチームの1つ、『ガードナーズ』のメンバーである。
「で、何の話をしてたんだ……お? この写真は」
「差し詰め、そいつにやられたということか?」
「何か……包帯もそうだけど、虚ろな目をしてるせいで、病院から抜け出てきたみたいだ」
新たにやってきた3人は、机の上に無造作に置かれていた虎鮫の写真を見た。
この写真の虎鮫は、真正面のカメラを向いているものの、同時にどこを見ているのか分からない不気味さがあった。
「で、こっちは……あー……
「いつ見ても腹の立つ笑みだ」
もう1つの写真。それには、アルルカン・オーギュストが写っていた。
カメラ目線で、こちらを
「今来たばっかで分かんねぇけど、こいつらは何か関係あんの?」
「そういえば、私もさっきから気になっていました」
集まった面子を見回した宇佐美は、頭をボリボリとかいた。
そして、一息入れると口を開いた。
「んー……驚かないで聞いてほしいんだけど……この2人、手、組んだらしくってね。一緒にロボットに乗ってるっぽい」
「えっ!? あの道化師人形が!?」
「あのサディストと組むなんて……余程のマゾヒストなのか……?」
「それにロボットだって? 一体どういう……」
話を聞いた彼らは、それぞれ驚きをあらわにした。
また、それだけに飽き足らず、彼女に関わったがために壊滅の
人間離れした動きで破壊と
ガードナーズのメンバーも交戦した経験があるが、捕縛や殺害には至っていない。
最近、バーニィの父親である
そんな超危険人物と手を組んだ者がいれば、驚くのも無理はない。
「つまり、あのサメロボットには、2人の危険人物が乗ってるってわけか?」
「そゆこと。ま、お上もなりふり構ってられないんでしょ。それに、今のとこ一般人の被害は出てないし……臭い物に蓋をってね」
「なーんか釈然としねぇな……」
「社会の闇を感じるね……」
納得のいかないという表情の面々だが、その中で錦が声を上げた。
「待ってください、一般人の被害は無いと言いましたが、今日の事件は一体?」
「ああ、あの人らね……調査に特化した能力者に調べてもらったんだけど、戸籍はおろか、
「え!?」
100人の屈強な人間達。明らかに外国人も交ざっていたので、入国管理局などから足がつくと思われたが、そのなことはなかった。
調べた能力者によると、ある日突然、その場に
「いや、すんごいキナ臭くなってきたね。この件からは手を引かないか」
「でも調査やもしもの時の対策くらいは必要じゃないですか」
「それは、そう。でも、うーん……」
超能力などは持たない宇佐美が、嫌な予感を感じ取ったのか、悩む様子を見せた。
ちょうど、その時だった。
「!!! これは!?」
「間違いねぇ! あの怪獣の気配だ!!!」
全員が窓の外を見る。
そこでは、遠くで光の粒子が収束し、巨大な怪獣が現れ……その瞬間、
「結界班も大変だな。今のところ一般人に被害が出てねぇのは奇跡だ」
「あー、そういや、超能力とか魔術は秘匿しなきゃならないんだっけ」
「ああ……だが、ロボットの陣営は我々の存在を知り、利用している。奴らは神秘が
「ここまで裏に関心を払わないとは……
「超常の力を知る人間がそんな馬鹿なことするかね? リスクが高すぎるよ」
このように、半ば勘で当てられるほど、本間博士は大の超能力・魔術嫌いとして有名だった。
実際、そんな彼が能力者や魔術師に配慮するなどということはなく、ロボットや怪獣の存在を隠すことすらしていなかった。勿論、考えなしそんなことをしている訳ではないが。
つまり、結界班などは、それらを全力で揉み消すために頑張っているのである。
そんな縁の下の力持ち達の努力の結晶である戦いを、皆は
――――――――――
【
・警部補で、『特異事件対策課』の課長代理。(課長は別にいる)
表沙汰にできない怪事件に対策するために作られたのだが、肝心の対抗手段が少なかったので、昔得たコネを使って様々な場所と連携している。錦達は外部講師という名目である。
事を荒立てないようにするのがモットーで、虎鮫の前に現れたのもそのため。錦龍の高性能な小型マイクとカメラから状況を把握し、殺されないことに賭けて場に出てきた。
また、死体が目測で2メートル前後の大柄で屈強なものしかなかったことに気づいた。そんな団体が100人単位で移動するとなると、彼の情報網ならキャッチできるが、そんな報告は一切なかった。そのため、彼は賭けに出ることにした。
彼はこの大事件を機に、色々と嗅ぎまわることにしたようだが……?
【
・三羽侘仁学園の高等部1年生。
心優しく、正義感のある少年。
幼少期から、怪人などに対抗するために厳しい訓練を積んできた。
『ガードナーズ』のリーダー的存在。
実は、矢倍高校にいる
【バーニィ・ファイアムス・
・三羽侘仁学園の高等部1年生。
燃えるような赤髪が特徴的な美少女。
炎の超能力を使う。彼女は、鉄の棒に炎を
捨て子だったところを
しかし、それには秘密があるようで……?
【
・三羽侘仁学園の高等部1年生。
古くから妖怪などと戦ってきた退魔師の家系、『龍神院家』の生まれ。
生まれつき高い霊力と剣術や陰陽術の才能を持っており、姉弟で強力な式神を使役することができる。さらに、生身で人外と渡り合える程に強い。
とある強い妖怪を倒す任務で、錦達と知り合った。
容姿は、寒気を感じるまでに美しい。
【
・三羽侘仁学園の高等部1年生。
古くから妖怪などと戦ってきた退魔師の家系、『龍神院家』の生まれ。
生まれつき高い霊力と剣術や陰陽術の才能を持っており、姉弟で強力な式神を使役することができる。さらに、生身で人外と渡り合える程に強い。
とある強い妖怪を倒す任務で、錦達と知り合った。
容姿は、女性と見間違う程に美しい。
【リヒター・オーウェン】
・三羽侘仁学園の小等部3年生兼大学講師。
元はとある悪の組織で製作された
最初はその空気に馴染めないようだったが、徐々に皆に心を開いた。
『ガードナーズ』含むいくつかのヒーロー組織の装備は、彼の技術によって強力になったといってもいい。
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