第27話 ジョッキー・シャーク ―流行りに乗るサメ―


 『ボオオオオ!!!』

 『ゴオオオオ!!!』


 光る竜巻の周辺に現れた奴らの内、鎧のような身体と車輪のような脚を持つサイと、超デカいイノシシが突進してきた。

 どちらもシャークウェポンよりデカいので、当たればひとたまりもない……などということはない。


 『ブモッ!?』

 『ゴオッ!?』

 「残念だが……シャークウェポンの馬力は凄いんだ」


 巨体の魔怪獣を、それぞれ片手で受け止める。

 2匹は、一生懸命にもがくが、シャークウェポンはびくともしない。

 むしろ、こちらの方が押し込んでいるといってもいい。何故なら、パワーそのものが違うからだ。力比べでスーパーロボットに勝てる奴なんざそういねぇんだよ!


 「空の旅を味わいなさいな!!!」

 「キズナァ!!!」

 『おう!!!』


 そのまま、片手で2匹を上空へ投げる。

 近くにいたキズナに合図すると、すぐさまカッとんできた。槍だけ。


 『ボオオオオッ!?』


 豪速球で飛来した毒蛇の槍『フェルドランス』は、巨大イノシシを貫通し、爆散させた。


 「死ねええええ!!!」

 『ゴオオオオ!?』


 アルルカンが、イノシシが爆発四散した瞬間、どこかに飛んでいきそうなフェルドランスを掴む。そのまま、空中で鎧サイの目にざっくりと差し込んだ。

 地面に落ちた鎧サイはしばらく抵抗するが、仰向けで起き上がれず、やがて力尽きたようだ。


 「返すわよ」

 『サンキュー!!!』


 フェルドランスを投げ返す。

 見事にそれをキャッチしたキズナは、ヒュージ・ジャンクの元へ向かうようだ。


 「さぁて、お次は……っと!?」

 『ギシャアアアア!!!』


 シャークウェポンが衝撃で揺れた。

 その原因は、シャークウェポンよりもデカいカマキリの仕業だった。


 「ああっ!? ロケットブースターが!?」

 「嘘でしょ!?」


 体格に見合わず機敏きびんなカマキリは、俺達の死角に回り込む。

 そして、その二振りの大鎌で、背中のロケットブースターを削ぎ落としてしまった。

 急ごしらえで接合と耐久が甘かったので、スパっと一刀両断されたのだ。


 「クッソ! ふざけんな!」

 『ギャシィィィィ!?』


 俺は怒りのままカマキリの顔面に拳を叩きこみ、そのままロケットパンチで打ち抜いた。

 頭部を失った巨体はやがて崩れ落ち、動かなくなった。


 「もう1つおまけじゃい!!!」

 『ギャアアアア!?』

 『ギシュウウウウ!!!』

 『バボボボボ……』


 俺は、落ちたロケットブースターを、魔怪獣の大群の方へ蹴り飛ばす。

 すると、ブースターが大爆発を起こし、魔怪獣を巻き込んで大炎上した。


 実はこのロケット、接合がもろいことは分かりきっていたので、万が一のため遠隔操縦システムが組み込まれているのだ。取れてしまった時は、ロケットを直接掴み、これで操縦して空を飛ぶ。

 しかし、遠隔操縦システムのちょっとした応用で、こんなこともできるのだ。


 「クッソ~。便利な移動手段を失った」

 「もう安全圏から一方的に攻撃できないじゃない。どうすんのよ」

 「どうするも何も……ん?」

 「どうしたのよ?」


 その時、俺は気づいた。

 爆発を免れた魔怪獣の中に、馬型の奴が紛れ込んでいることに。

 一瞬、アレに乗って戦おうと思ったが、あまりにも馬鹿らしいのでやめた。


 「いや……やっぱ何でもない」

 「ふーん……あ! 馬がいるじゃない! アレに乗って戦うわよ!!!」

 「は?」


 アルルカンが提案したのは、俺が考えたことそのものだった。こいつって実は馬鹿なんじゃ……

 俺が止める暇もなく、アルルカンは馬に飛び乗ってしまった。


 『ヒヒーン!?』

 「ほらぁ! 大人しくしなさい!!!」

 『ヒヒヒヒーン!?』


 文字通り馬乗りになり、馬をしばきまくるアルルカン。シャークウェポンは鮫肌なので、触れられるとまあ痛いらしいんだが。

 ……この馬、何か馬具と鎧を装着しているから大丈夫だろうけど。


 「おいおい、もうその辺で……」

 「よし! 手懐てなずけた!」

 『ブルルル』

 「嘘だろ、早すぎる……」


 何でしばきまわすだけで馬を手懐けられるんだよ。それでいいんだったら調教師はいらねぇんだよ。

 ……力関係を明確にする、という点では有効かもしれないが、それにしたっ酷すぎる。


 「武器は? 流石に素手じゃリーチが足りないだろ」

 「これを使うわ」


 アルルカンは、頭部を失ったカマキリの死体から、鎌をもぎ取った。

 どうやら、これを武器として使うつもりらしい。アルルカンの器用さは知ってるつもりだが、果たして使えるのだろうか。


 「ふんふん……中々いい鎌じゃない」

 「鎌の良さなんて分かるのか?」

 「重量、リーチ、形状から判断したまでよ。さっきので切れ味は見たし。さ、行くわよ。ハイヨー!!!」

 『ヒヒーン!!!』

 「後で名前決めないとな」


 アルルカンの合図で、馬は走り出した。

 ロボットに乗った状態で馬に乗るなんて……と思ったが、想像以上に安定感があり、酔うこともなかった。

 その力強い脚は、瞬く間に魔怪獣との距離を詰めた。


 『ギャアアアア!?』

 『アョッ』

 『パアアアアァァァァ!!!』

 「うっわこれ楽しいわね。癖になりそう」

 「魔怪獣が真っ二つになってる」


 鎌を振るうアルルカンによって、魔怪獣はスパスパと両断されていく。

 そんな中、俺はミサイルや怪光線で魔怪獣を牽制けんせいする役を担っていた。


 『ガウッ! ガウッ!』

 「はーっ、犬よ死ね!!!」

 『ギャイン!?』


 ちょっと小さめの黒いオオカミの魔怪獣らしき群れが現れたが、先頭がミサイルで消し飛んだ。

 後続に関しては、怯んだところを圧倒的に体格差でまさる馬に蹴散らされたり、鎌で両断されるのがオチだった。


 『ギャオオオオ!!!』

 「タフでデカいトカゲが多い!」

 「あいつら、真っ二つにしても首切っても生きてるってどんだけよ!」

 『ヒヒーン!!!』

 『ギギギギ!!!』

 「ガリガリさんまで!?」

 「あっぶね!? 馬がやられるとこだった」


 確かに、俺達は強かった。

 しかし、多勢に無勢……と思われるが、正直この程度の物量差であれば、シャークウェポンならいくらでもくつがえせる。

 問題は、この馬を失うことにある。いや、馬具どころか鎧なでつけてるコイツなら、多少の無茶は大丈夫なのだろうが。


 万が一、ということがある。

 もしこの馬が死んだら、安全圏から一方的に攻撃したいアルルカンがどうなるか。恐らく、キレ散らかして大暴れすると考えられる。


 『ギェエェエエアアァァ!?』

 『ギッッッ』

 「何だっ!?」

 「爆撃!?」


 そんなことを考え、戦々恐々としていると、目の前の魔怪獣軍団がいきなり爆発で消し飛んだ。

 上空を見ると、そこには2機の戦闘機らしき影があった。

 しかし、普通の戦闘機ではない。やたらとゴツゴツしており、デカいのだ。


 「あれは……」

 『無事か』

 「ラリマーさん! と、いうことは……」

 『んだぁ? 文句言いたそうな面しやがって』


 オブリビオンもいた。

 ということは、あの戦闘機は彼らの機体なのだろう。

 でも、ロボットじゃなくて戦闘機じゃん。そう思っていると……


 「あ、変形した。そういうタイプかぁ」

 「随分とスタイリッシュね?」


 2機の戦闘機がそれぞれ、丸みを帯びた青いロボットと、トゲトゲしい黒いロボットに変形した。

 その2機は、翼ぶあたる部分についたブレードや、マシンガンなどによって、瞬く間に魔怪獣の群れを屠り去った。


 「つっよ」

 「単純な性能差じゃないみたいね。パイロットの技量だわ」

 「俺達も見習わないと」

 「そうね……アンタ! 右に怪光線!!!」

 「OK!!!」

 『グワッ!?』


 アルルカンの指示に、俺は何とか反応した。

 実は、こういった場合に備えて、訓練はしてあるのだ……アルルカンの気分が乗った時だけ。


 怪光線を撃った先には、1機のメイガス・ナイトがいた。

 何か、カラフルに塗装され、飾りもついていることから、指揮官かもしれない。


 『ムムム……! 我らがマジック・モンス軍がこうも押されるとは……!!! 化け物共め!!!』

 「はーん、それはアンタらが雑魚過ぎるだけでしょうが。大体、押されてるとかじゃないの。現在進行形で負けてんのよ。アンタ、現実も直視できないとか、自分に軍人を名乗る資格あると思ってんの?」

 『き、貴様ーっ! 栄えあるマジック・モンス帝国を愚弄するかーっ!?』

 「はぁ? 事実を述べてるだけじゃない。それを愚弄って言うんなら、アンタらにとって図星ってことね。100倍以下の人数差の相手にやられる程度の、見た目だけのカスみたいな動物連れて、やることが一般市民の虐殺だなんて……帝国のおまぬけな脳みそじゃ、こんな作戦しか思いつかなかったのね、かわいそ……」

 『な……な……』


 マジック・モンスの指揮官らしき奴は、何も言い返せないようだった。

 でも、アルルカンのえげつない罵倒に驚いてるのは俺の方なんだよね。


 『き、貴様は絶対に殺す!!! おお、エレメンタルゥ……!!!』


 指揮官は、魔法の詠唱らしきものを始めた。

 すると、光る竜巻が奴の元にやってきて……


 『な、なんだぁっ!? うわぁぁぁぁ……マジック・トルネードが暴走を!? まさか、いや、一体何の魔力と反応して……うああああああああ!!!』


 指揮官はバラバラになり、竜巻へと吸い込まれてしまった。

 そして、その竜巻は散乱した死骸のみならず、生きた魔怪獣すら吸収し、どんどん巨大化していった。


 「アレをどうにかするのか……」

 「シャークトルネードでもぶつけてみましょうか?」

 「何でも、試してみるか!」


 俺は、シャークトルネードのボタンを叩き込んだ。



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