第22話 一目で分かるヤバいお偉いさん方


 「チッ! 何だ、ゲームの話だったのかよ。なら先に言えや」

 「は? アンタが話聞かなかったからなんですが……」


 新しく入ってきた人、クールそうなイケメンのラリマーさんが仲裁してくれた。


 「なるほど、そんなことが」

 「オブリビオンさん。言い出したのはあなたですわ。反省すべきよ」

 「……チィッ! 悪かったよ! 謝ればいいんだろっ、クソ!!!」


 優雅に紅茶を飲みながら、ベアトリックスさんが言った。

 オブリビオン、めっちゃ悪態つくじゃん。子どもかよ。人の事言えないぞ。


 「落ち着け。何をそんなにイライラしている?」


 無表情なイケメンであるラリマーさんは、クールな性格のようだ。

 そしてこのラリマーさん、髪も目もラリマー(青いペクトライトのこと)みたいな色をしてる。明らかに偽名か何かだろう。

 あと、バンプ〇ストオリジナルのキャラにいそう。


 「あぁ!? イライラしてるだと!? そいつはお前がな……ッ!?」

 「……? 俺が、どうかしたのか?」

 「クソッ! 何でもねぇ……ハァ……今日は厄日だ……」


 オブリビオンはため息を吐き、椅子に座りこんだ。

 顔は仮面で見えないが、うんざりしてそうなのが透けて見えるようだ。


 「彼はしばらくそっとしておきましょう……それにしても、遅いですね。そろそろ会議は始まってもい頃だと思うのですが」

 「え、もうそんな時間?」


 俺は、時計を見た。

 確かに、博士が言ってた時間帯を過ぎている。


 「世界中の大企業や団体が集まる大規模な会議だ。遅れることくらいあるだろう」

 「流石にそろそろじゃないですかね?」


 コンコン……


 「あ、来た」

 「遅れてしまい、申し訳ございません。準備の方が整いましたので、皆様にはご移動していただきたいのですが、ご準備はよろしいでしょうか?」


 ノックの後、ドアから案内者と思わしき女性が入って来た。


 「……俺はできてる。皆はどうだ?」

 「大丈夫だ! オレら3人にいたっては、手荷物すらねぇしな!!!」

 「紅茶もここの備品ですし、私とマックさんはヘルメットだけね。ジャンプさんは……大丈夫のようね」


 まあ、俺らは手ぶらで来たので、準備の必要がない。

 マックさんとベアトリックスさん、ラリマーさんも、パイロットスーツ用のヘルメットだけだ。ジャンプさんは被ってるから手ぶら。

 オブリビオンは……知らん。さっきから黙ってる。


 「では、こちらになります」


 案内されたのは、待機部屋の近くにある、9人乗ってもまだ広いエレベーターだった。手すりはおろか、ふかふかの椅子までついている。

 しかし、誰も座らなかったので俺も突っ立っていた。

 エレベーターは、上階まで上がって行った。




 ◇




 俺達が案内されたのは、ほぼ最上階。

 目の前には、会議室のものらしい、豪華な扉が存在していた。扉を豪華にする必要性はあるのだろうか。


 「す、すげぇ威圧感だ! 扉越しでも分かる程の!」

 「これは……相当の魑魅魍魎かしら? 正直言って化け物ね……」


 以上が、連れ2人の感想である。

 いや、俺には何も感じられねぇのよ。精々が、緊張するくらいだ。

 俺が図太いのか、単に圧を感じ取れない程の雑魚か……後者だなこれは。


 「ああ、どうしよう。今更緊張してきたよ」

 「落ち着くのです。紅茶を飲んで……ここには無かったわ……」

 「……」

 「これは……紅茶の茶葉!」

 「というか、何でジャンプは茶葉だけを持ってたんだい?」

 「お前達は何をやっているんだ……」


 コントじゃないでしょうかねぇ、ラリマーさん。

 だが、マックさん、ベアトリックスさん、ジャンプさんの3人がこうも取り乱してるのには、若干だが不安になってくる。

 しかし、オブリビオンはさっきから見かけない。気配を消してるにしても、姿まで見えないのはおかしい。どこにいるのだろうか。


 案内者の女性は、俺達を見回した後、会議室の扉をノックした。


 「失礼いたします。パイロットの方々をお連れいたしました」

 『ドウゾ、オ入リクダサイ』


 明らかに合成音声のような機械的な返事が返って来た。

 一体、中で何が待ち受けているのだろうか。


 「では、失礼いたします……」


 女性が、ガチャリと扉を開け、中へ入る。俺達は、恐る恐るその後についていった。

 中で俺達を待っていたのは…… 円卓のように丸いテーブルを囲んでいる人達と、テーブルの上に置かれている電子機器という、異様な面子だった。


 『よく来たな、パイロット諸君』

 『!?』

 「……?」


 俺達のちょうど正面に座っている、サメのマスクを被った男性が言った。彼が喋った途端、俺以外のパイロットの間に緊張が走った……気がする。

 恐らく、彼は世界サメ連合とかいう団体の代表なのではないだろうか。


 「ホッホッホ……いきなりおどかすのはどうかと思いますよ、ステインさん」

 「脅したつもりはないのだがね」


 ステインと呼ばれたサメマスクの男をなだめるように言ったのは、まさに『恰幅の良い』という言葉が似合う、太った大男だった。

 きらびやかに装飾された仕立ての良いスーツなどから見て、金持ちであることは間違いないだろう。


 「いやぁ、申し訳ない。ささ、皆さん。どうぞお座りください」

 「おう!」

 「あ、はい……え、何で皆座らんの?」

 「いや、アンタらねぇ……」


 太った人にうながされたので、俺もキズナに便乗してサメマスクの男の正面にある席に座った。

 しかし、人数分空いているにもかかわらず、座ったのは俺とキズナだけだった。

 その上、アルルカンには呆れられるときた。え、マジで俺何かやらかした?


 「フフフ……そう警戒しなくてもいい。何も取って食おうという訳ではないのだからな」

 「いや、おっさん。あんだけの殺気ぶつけといて良く言うぜ」

 「え? 殺気?」

 「君以外は感じ取ったようだがな」


 俺がやらかしたんじゃなくて、できなかっただけじゃないか。


 「ステイン、時間が押しているぞ」

 「ああ、お前の言う通りだ、タイガー・シラフ」


 しびれを切らしたのか、タイガー・シラフと呼ばれた巨漢が、話に割り込んできた。

 服の上からでも分かる、屈強で筋骨たくましい頑健な肉体。そして何よりも、二足歩行の虎だった。

 獣人だぁー!? ナチュラルに獣人が出てきたぞ!


 「さてと……ああ、面倒な自己紹介はしなくていい。我々は諸君を知っているし、我々のことはネームプレートを見るといい。では始めようか……つまらない話を」


 俺達の前には、いつの間にか、資料が配られていた。

 す、すごい早業だ……



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