第21話 明らかに寄せ集めメンバー


 今日は、前に博士が言っていた重要な会議がある日なので、俺は研究所に来ていた。

 しかも、その舞台はアメリカなのだ。なのだが……トラブルが起きたらしい。


 「何!? 水晶の護送車が襲撃されたじゃと!? 被害は!?」

 『こちらに人的被害はありませんが、水晶を1トンほど盗まれました』

 「下手人は!?」

 『恐らく、最近現れた新進気鋭しんしんきえいの魔術師、或いは異能力者集団であると思われます。詳しくは調査が必要ですが』

 「そうか……下手人は後回しでいい。しかし、水晶は探し出せ!!!」

 『は! 直ちにも!!!』


 本間博士は、苛立たしげに電話を切った。


 「え、あの水晶が盗まれたんですって?」

 「そのようじゃな」

 「じゃあ、会議はどうするんです?」

 「問題無い、手は打ってある。このまま行くからついて来い」


 俺とアルルカンは、本間博士について行く。

 そこまで深刻な事態ではなかったらしい。貴重品なので、想定済みのことなのだろう。


 「何で盗まれたんですかね」

 「あの水晶には、この世界基準では破格の魔力が含まれておる。それを狙ってやってきたのじゃろうな」

 「なるほど」


 あの水晶がダイヤモンドの山だとして、強盗団がそれを盗み去った。でも、ダイヤモンドはまだまだあるので、焦る必要は無い……みたいな状況だろうか。

 まあ、本間博士のことだ。すぐに犯人を見つけ出し、拷問する勢いで目的や仲間の有無などを割り出すだろう。


 「ついたぞ。ここからアメリカへ行く」

 「ここ?」


 考えている間に、目的地へついたようだ。


 「これは……」


 博士に連れてこられたのは、平べったい機械らしきものが、床に設置してある部屋だった。

 階段などがなくても上に乗れそうなくらい平らだ。


 アメリカに行くと言われて、全く関係なさそうな装置が出てくる。これは……


 「転移装置か何かですか?」

 「よくわかったな」

 「え?」

 「は?」


 まさかの正解だった。

 机上の空論みたいなものが、早くアメリカに行くためだけに出てきたぞ。


 「……その、大丈夫なんですか? ハエ男みたいにえげつないことになるのは嫌ですよ」

 「安心せい。この装置は、分解からの再構築ではない。空間と空間を繋ぐタイプじゃ」

 「何も安心じゃないけど」


 気色悪い化け物にならないだけマシか?

 いや、そもそも瞬間移動という超常の産物が存在したというのを忘れてはいけない。

 ……この世界、異世界とか魔術とか存在したわ。


 「どこに繋がってるんですか?」

 「会議のあるビルの地下じゃ」

 「不法入国?」

 「政府が認めたんじゃ。不法入国ではない」


 いいのかそれは。明らかに権力や金の力が見え隠れしているのだが。

 多分、シャークウェポンのスポンサーの方々が買収したのだろう。そう思うことにした。


 「ちょっと……いや、かなり不安ね……」

 「緊張してきた。こんなラフな格好で大丈夫かな」


 俺の服装は、普通のTシャツに、長ズボン、濃い青色のデニムジャケットだ。

 まあ、どこにでもいそうな感じ。


 対してアルルカンは、Tシャツ、ロングスカートにパーカーだ。

 地味に見えるが、元が人形みたいに美しいので、むしろちょうどいい感じだ。


 博士はいつもの白衣である。

 まあ、博士はラフな格好でいいと言っていたので、本人もそうしているのだろう。


 「皆、遅くなってすまねぇ!」

 「おお、キズナも来たか」


 研究員らしき人に連れられてきたのは、キズナだった。異世界のロボットを乗っ取ったキズナも、会議に行く必要があるのだろう。

 ちなみに、キズナの格好はいつもの改造学ランである。主張が激しいな。


 「よし、揃ったな? では行くぞ! スイッチオン!!!」


 博士が装置のボタンを押すと、俺達の身体が輝き出した。

 これ本当に大丈夫なのか?




 ◇




 「ついたぞ、ここがアメリカじゃ」

 「スゲェ……! ここがアメリカ!!!」

 「どこがよ。殺風景な部屋じゃない」


 アルルカンのいう通り、特に窓とかも無いせいで、全くアメリカっぽい感じはしない。キズナは何に感激してるんだ。

 強いて言うならば、研究員らしき人が外国人になったことだろうか。 


 「ようこそお待ちしておりました、ドクター・本間。こちらの方々も、パイロットで間違いありませんね?」

 「ああ、間違いない。はもうついているのか?」

 「ええ、この部屋の外に」

 「そうか。出迎えご苦労じゃった。ああそれと、例のデータはもう送ってあるから、後で見るといい。それではな」

 「はい、お気をつけて。パイロットの方々は、その……癖が強いので」


 本間博士を出迎えた科学者らしき人を後目に、俺達は部屋を出た。

 あの科学者、明らかに外国人だったが、普通に流暢りゅうちょうな日本語を話していた。日本語が喋れたのだろうか……


 しかし、癖が強いとは。先が思いやられる。

 所々に謎の機器が設置された長い廊下を進むと、エレベーターの近くにある部屋の前についた。


 「ここじゃ。ここがパイロットの待機場所じゃ、ここで待っといてくれ。わしにはやることがあるでな」

 「分かりました。待ってます」

 「うむ。時間になれば呼ばれるじゃろうから、それまでな」


 博士は、エレベーターに乗ってどこかに去って行った。


 「じゃあ、入るけど……」

 「何躊躇ちゅうちょしてんの。さっさと開けなさいよ」

 「緊張するんだよ」

 「先輩は心配しすぎだって! 堂々と開けりゃいいさ」

 「……それもそうか」


 キズナに勇気をもらった俺は、扉をノックした。


 『開いてるぞ』

 『新しいパイロットかしら?』

 「すでに誰かいるのか……」


 中からは、渋いおじ様と、お嬢様っぽい感じの声が聞こえてきた。

 やはり、思いっきり日本語に聞こえたけど、日本人……なのか?


 「お、お邪魔します……」


 中には、の人がいた。


 「あら、思ったよりも若いのですね」

 「それを君が言うのか? 君と同い年くらいじゃないか」


 俺達を見て口を開いたのは、いかにもお嬢様っぽい金髪の少女と、若い20代後半くらいの男性だった。

 どちらも、ロボットアニメでよく見るような、パイロットスーツらしきものを着用している。

 俺ら、そんなものパイロットスーツなんて着たことも見たこともないんですけど……


「私としたことが申し遅れましたわね。私、ベアトリックス・デビッドソンと申しますわ。お好きなように呼んでくださって結構よ」

「僕はマクシミリアン・マクィーン。マックと呼んでくれ」


 紅茶飲んでるお嬢様がベアトリックスさん、男性の方がマックさんか。

 ……もう1人、黙ってる人がいるんだが、彼(恐らく男性だからそう表現する)は喋らないのだろうか。


 「ああ、こっちの彼はジャンプ。見ての通り寡黙でね。でも、良い奴だから安心してくれ」

 「……」

 「えと……はい、よろしくお願いします……?」


 ジャンプさんは、ゆっくりとうなずいた。

 ヘルメットで顔も分からないが……多分、大丈夫だろう。うん。


 「オレは岩倉絆! キズナって呼んでくれ!」

 「アタシはアルルカン・オーギュストです。アルルカンでいいですよ」

 「キズナさんに、アルルカンさんですわね」


 キズナはサムズアップ、アルルカンがカーテシーで自己紹介をした。

 アルルカンに関しては、猫かぶってる。外面はいいんだけどな……次は俺の番か、緊張するなぁ。


 「俺は――」

 「おいおい、日本ジャパンじゃあ、こんなガキ共を駆り出してんのか? 世も末だな」


 言いかけたところで、遮られた。

 全く気づかなかった……反応からして、この部屋にいた人は勿論、アルルカンやキズナも気づいていたようだが。


 声のした方を見ると、黒いフード付きのコートを着た人物がいた。

 フードを被り、仮面までつけているので、見るからに怪しい。

 普通、こんな人に気づかないはずはないのに。気配とか全く感じなかった。


 「オブリビオン」

 「止めてくれんなよ、マック。テメェだって分かってんだろ? そっちの2人はともかく、そこのサメみてぇな間抜け面した奴は温室育ちの養殖魚だってな。こんな奴が危険な玩具で遊んでんのが我慢ならねぇんだよ俺は。テメェらもそうじゃねぇのかよ?」

 「ここに来たということは、問題は無かったということだろう」

 「ケッ! 甘ちゃんだなぁ? おい!」


 オブリビオンと呼ばれた不審者は、マックさんの言葉にそっぽを向いた。いきなり罵倒されたぞおい。

 流石にサメみたいな間抜け面とか、酷い言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど。


 「悪いな、オブリビオンは気が立ってるみたいだ。普段はこうじゃないんだけど」

 「まあ、はい」


 気が立ってるのか……まあ、お偉いさんとの会議だもんな。

 しょうがないのか? でもちょっとだけイラっとしたしなぁ……


 「ねぇ、アンタ。悔しくないの? 言い返してみなさいよ」


 お前なぁ。

 アルルカンは凄くニヤニヤしてる。こいつ本当、こういうの好きだな。

 ちょっとムッときたのは本当だから……罵倒は後が怖いので、偏見で行かせてもらおう。


 「アンタ、アサシンブレードとか使ってそうッスね」

 「!? テメェ、何で知ってやがる!?」

 「えぇ!? マジで使ってんの!?」


 オブリビオンは、仮面の下からでも分かる怒りを浮かべ、俺に詰め寄って来た。

 いや、まさか本当に使っているとは……え? マジで暗殺者アサシン


 「どこで知った!? 場合によっちゃあ、楽に殺してやる」

 「あ、あ、アサクリ知らないのぉ!?」

 「アサクリだと!? 何かの組織か!?」


 話通じねぇ。

 オブリビオンのそでを見ると、確かに何か腕輪っぽいものが装着されていた。

 え、これマジでアサシンブレード?


 「こりゃヤバそうだな!」

 「ええ。少し、度が過ぎるわ」

 「おい、そろそろ――」


 これ、そろそろヤバいんじゃないの?

 そう思った俺の願いに応じてか、キズナやベアトリックスさんが止めようとした時だった。


 ガチャ……


 「失礼する……どういう状況だ?」

 「な!? て、テメェは……!?」


 こっちが聞きたいよそんなこと。

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