第23話 スポンサー
「まず最初に、君達が怪獣共を駆除してくれたことに、ここを代表して感謝を述べよう。ありがとう」
「私からも感謝を。あなた方のおかげで、我々はこうして、のうのうと生きていられるのですからね」
サメマスクのステインさんと、太った男性――ネームプレートからして、『ミリオンダラー・ゴールドラッシュ』さんというらしい――が、感謝を述べた。
ゴールドラッシュさんはともかく、ステインさんの言葉は形式的なものに聞こえる。
「最初に言っておくが、会議はすでに終わっている。今配られた資料は、その内容だ」
えぇ……じゃあ俺ら何で呼ばれたんだよ。
と思いつつ、ペラペラと流し読みをする。内容が難しくてあまり分からなかった。
「君達を呼んだ理由は4つ程ある。1つ目が顔合わせだ。来られなかった者達もいるがね……ああ、そうだ。非課税の、それも多額の報酬を支払っているのは我々であると知ってもらう目的があったな。提供クレジットだけでは分かりにくいだろう?」
「ああ! ありがたく使わせてもらってるぜ!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。何せ、紙切れや数字の羅列を皆がありがたがってるのだからね。安いものさ」
皮肉かな。
金銭に全く興味なさそうな感じだ。本気で言ってるのかどうかは分からないけど。
「ふむ、君は岩倉絆と言ったかな。あの
「おう、オレがキズナだ! でも、今の相棒はアンドロマリウスだぜ」
「
忠告だろうか。サメと契約してそうな人に言われても、頭に入ってこないが。
……俺こそ、サメと契約した人間なのではないか?
「さて、先程、面倒な自己紹介はしないと言ったが……我々には、君達についたスポンサーを紹介する義務がある。これが2つ目の理由だ。よって、簡単に紹介させてもらおうか。先に、これはあくまで『主なスポンサー』であることを言っておく。基本的に、ここにいる全員の支援は受けているぞ……まずはキズナ。君には、無限会社ウロボロスとクリフォト・コーポレーションがついている」
「おお! かっけぇ!!!」
「ああ、格好いいとも。特に、人類の発展のため、日夜その手を汚している点などがな」
え、ヤバい企業なんじゃねそれ。
というか、無限会社って何だよ。全部社内で回してんのか。
2社の代表者がいる方を見ると、モニターとスピーカーが設置されていただけだった。リモートか……まあ、秘密主義っぽいもんな。
「次に、マック。君と『ヒュージ・ジャンク』には、主にAARがついている。流石、ロボット専門の会社といったところか」
「そうだたんですか! 言ってはなんですが、あまりにもオンボロだったので、正直びっくりしました」
「そうだろうとも。何せ、ヒュージ・ジャンクは彼らの意欲作。プロトタイプらしいからな」
AAR。恐らく、
名の知れたロボットやAI技術の会社だったはずだ。
彼らの席には、明らかなロボットが座っていた。入って来た時に返事をしたのは、彼? かもしれない。
「ベアトリックス。君と『ブラストウェーブ』には、英国の企業、
「まあ! あの
「ふむ……英国面に堕ちた者の思考は分からんな。まあ、君が嬉しいならそれでいい」
英国面か……
チラリと、代表者の席を見る。そこでは、ネ〇ル・シュートがほほ笑んでいた。ネームプレートも、『ネビ〇・シュート』である。
何でこんなところにネビル・シ〇ートがいるんだよ……パンジャンドラムでも作ってろよ……
「次はジャンプか……言わなくても分かりそうだが、君と『メガロポリス』はエキュメノポリス建設会社だ」
「……」
「ああ、君はそこの社員だったな」
エキュメノポリス・コンストラクション・カンパニー。
噂で聞いたが、巨大な建設会社だそうだ。
席には、モニターとスピーカー。秘密主義多くない?
「ラリマー。君と『ラピスラズリ』には、これといったスポンサーはいない。だが、平等に支援をしている」
「ありがたいことです」
「それだけ機体されているということさ」
ラリマーさんは、特にないのか。
「
「ホッホッホ! 彼は実に働いてくれますからなぁ。支援もそれ相応になりますよ」
やっぱあいつ殺し屋だったんじゃないか?
金持ちに重宝されるとか、それしか思い浮かばない。
そして……最後は俺達の番か……ステインさん、絶対俺らを最後に回しただろ。
「さて……本日最後の紹介といこうか。君達には、A&A財団、ネプチューン……そして我々、世界サメ連合がついている」
「まあ、そんな気はしてたけど……」
「あの、世界サメ連合は分かるんですが、他2つは?」
「A&Aは、サメ映画やモックバスター映画でのし上がった財団。そして、ネプチューンはオイルの輸送だな」
「オイルの輸送に、サメと何の関係があるんですか?」
「ネプチューンにはサメがいる」
「……? え? それだけ?」
「ああ」
色々とおかしい。サメの片鱗……鮫肌を味わった気がする。
「そして、だ。君達には、我々世界サメ連合から、特別に名誉をお贈りしたい。これは、世界サメ連合の独断であり、他の団体は関係ないことだ」
「ん?」
ステインさんは席から立ち上がり、心なしか嬉しそうにしている。マスクでも、喜色を隠しきれていなかった。
ところで、サメにとっての名誉って何だ?
「アルルカン・オーギュスト。君には、『オオメジロザメ』の称号を贈ろう」
「え、いらない」
「使わなくてもいい。取っておいてくれ」
「嫌がらせかしら?」
そうか……アルルカンはオオメジロザメだったのか。ホホジロザメだと思っていたが、違ったらしい。
確かに、彼女の瞳は深い青色だが、白目の割合も若干多い。だからメジロなのだろう。どういうことだ。
で、俺も贈られるのか。何になるのかな。
「そして……うん?」
「どうしましたか?」
「いや……そうか。なるほど……」
ステインさんは、俺のことをまじまじと見つめ、何かに納得したようだった。
すると、彼はタイガー・シラフさんの方を向いた。
「シラフ」
「どうした?」
「この子だよ。君から称号をもらい受けたい」
「何だって? ……まあ、好きにするといい。元々そういう約束だからな」
え、何のことを話しているんだ。
凄い意味深だが、内容は何一つとして分かっていない。
「では、君に『
「虎鮫?」
「ああ。これからは是非、君のことはそう呼ばせてくれ」
「えぇ……まぁ、いいですけど……」
ホホジロザメ、オオメジロザメと並ぶ世界3大人食いザメで、危険度はかなり高いサメだ。
理由は、このイタチザメは海洋生物のみならず、生物の死骸、海のゴミなど、おおよそ何でも喰おうとするからである。勿論、人間とて例外ではない。
故に、『
そんな危険なサメが、俺の称号として決まってしまった。俺に虎要素は何1つないのに。
彼らは俺達に何を求めているんだろう……
「プッ……虎鮫! アンタのこと、これからそう呼ぶわ」
「うん、好きにしたら? オオメジロザメ」
「は?」
「先輩、オレもそう呼んでいいか!?」
「勿論。で、この名前どう思う?」
「カッコイイぜ! オレも欲しくなってきた!」
「フフ、ありがとう」
「ねぇアンタ、アタシとキズナで扱い違くない?」
「んー? 何のことかな?」
これが
笑ってから呼ぶと決めるのと、純粋に褒めてくれた上で許可を取るのと。扱いに差がでるのは当然のことである。
「早速気に入ってくれたようで何よりだ。だが……」
「ええ。大事なことを伝え忘れていましたねぇ」
「そう。3つ目の目的……単刀直入に言うが、このロサンゼルスに、異世界から大群が押し寄せてくるという情報がある。君達には、それを阻止してもらいたい」
「ええと……それはいいんですが、他の国は大丈夫なのですか?」
「それに、ここには私達のロボットもありませんわ」
疑問を口にしたのは、マックさんとベアトリックスさんだ。
確かに、シャークウェポンだって運ばれたという話は聞かなかった。それに、日本が攻められる可能性もある。
というかここ、ロサンゼルスだったのか……具体的な地名は教えてくれないと思ってたわ。
「他国は大丈夫だ。いざとなれば、まだここに来ていないパイロットもいる。それに、君達の機体はすでに運ばれているぞ」
「では、罠の可能性は?」
「それも問題ない。信頼できる情報筋がいるんでね……いや、極論のこと、罠でもいいんだ。こちらには
「……信じても良いんですね?」
「それは君次第だ」
ステインさんは、話を切り、一息ついた。
そして、また口を開いた。マスクで分からないが。
「そして、最後に4つ目の理由だが……我々の会議が長引いたせいで、これはもう時間が無い。1つだけ言っておこう。何があっても、君達の身は保証する、と」
「そういうことです……オブリビオンさん」
「おう」
バンッ!
「は?」
ゴールドラッシュさんが、オブリビオンの名前を呼ぶ。
すると、どこからかオブリビオンが現れ……
彼の手には、大きなハンドガンが握られていた。
「ど、どういうことなんですかこれは!?」
「簡単に言おうか」
その時、会議室の扉が乱暴に開け放たれ、中に多数の人達が入って来た。姿格好に統一性はあまりなく、寄せ集めにも見える。
その瞬間に、俺以外は臨戦態勢に入ったようだ。俺の反応鈍すぎ。
しかし、そんな事態にも、ステインさんは焦らずに話を続けた。
「この会議室に、魔術師や超能力者、反サメ主義者、その他
「もう逃げられんぞ、金で肥え太ったノー・マジック・モンキー共が! 今ここで――」
パァン!
いつの間にか、片手で銃を抜いていたステインさんが、威勢の良かった侵入者の額に穴をあけた。
俺にはその瞬間が見えなかったが、侵入者達にも見えなかったようで、かなりの動揺が走っているようだ。
「な、何!?」
「いきなりヘイトスピーチとは感心しないな」
今のはヘイトスピーチに入るのかな。
ステインさんは、銃を片手で構えながら、やれやれと肩をすくめて言った。
「最初のミッションは、敵の皆殺し。取りあえず、奴ら1人につき100万ドル出そうか」
広い会議室の中で、戦いのゴングが鳴った。
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