第19話 シャークウェポン(サメ×兵器)VSレプリスタル(爬虫類×水晶)!!!


 「はー、これ全部水晶でできてんのか」


 住宅街に乱立するのは、大きさも形もバラバラであるが、全てが水晶でできた柱だった。

 先程、シャークウェポンのロケットタックルにより大半がへし折られたものの、すぐに生えてきたのだった。


 俺は、操作をAIに任せてくつろいでいたアルルカンの方を向いた。

 真剣な表情で窓の外を見つめている。何かに気づいたのだろうか。


 「どう思う?」

 「……」

 「おーい?」

 「へ? あ、あー……そうね、部分的にはそうね。アタシもそう思うわ」

 「いや、全部水晶だって」


 部分的もクソも無いんだよ。

 さては話聞いてなかったな。相手の弱みを握ろうと常に聞き耳を立てているようなアルルカンにしては珍しいことだが。


 「しっかりしてくれよ。お前がいなかったら俺、レバガチャするだけの一般高校生になっちゃうじゃん」

 「別に最悪レバガチャだけでも勝てるでしょうが。ちょっとボーっとしてただけよ、何でもないわ」

 「あー、ごめん。大丈夫か?」

 「そこそこってところね。今日はダルいから、アタシもレバガチャにするわ」


 そういうアルルカンは、すでに座席へ座り込んでいた。

 ちなみに、『レバガチャ』とは、文字通り操作盤のレバーやボタンでシャークウェポンを操作することだ。つまり、マニュアル操作のことである。

 ダイレクトコントロールシステムと比べて細かい操作は苦手だが、一撃が必殺級である各種武装が使いやすい上、ロボット特有の無茶な動きや体勢がとれたりするのだ。


 ちなみに、基本的には俺が右半身で、アルルカンが左半身を担当している。

 互いのコントロールを奪うこともできるが。


 「本当に俺が役に立たなくなるじゃんか」

 「まぁそれは大変。肉壁くらいにはなるかしら」

 「魔怪獣相手じゃお前諸共終わりだよ」

 「それは困ったわね。じゃあそうならないためにも、アタシの足引っ張らないように頑張んなさい」

 「善処しまーす」

 「んー、ほぼ絶対やらないやつ」

 「まあな。で、まずは水晶を全部ブッ壊した方がいいかな?」

 「アタシもそれに賛成ね。だってほら」


 目の前にある水晶柱の側面で、何かが動いた。

 姿形は全く分からない。しかし、どこぞの狩りが文化の宇宙人のように、光学迷彩っぽい透明の姿が薄っすら見ることができる。


 「多分だけど、あれは光学迷彩じゃなくて保護色ね。元が透明に近いから、水晶の上なら姿を消せるのよ」

 「厄介だなぁ……いや、厄介じゃないのはいなかったけど。取りあえず壊すかー」


 俺はシャークウェポンを操作し、手始めに目の前の水晶柱を破壊した。

 水晶柱はパンチ一発で容易く粉砕され、破片をまき散らした。


 「柔らかいな。水晶ってどのくらい硬かったっけ」

 「モース硬度7よ。鋼鉄にも傷をつけられる硬さ……らしいわ」


 そんな硬かったのか。

 腐ってもスーパーロボットなシャークウェポンは強かった。


 「透明の奴らは……」

 「そこよッ!!!」


 アルルカンが左腕を動かし、何かをつかみ取った。


 「何だこいつ。透明のトカゲ? 尻尾無いけど」

 「四足歩行で腕の長い人間っぽくも見えるわね」


 巨大な腕の中でもがくのは、尻尾が無く手足が長い、水晶でできたトカゲらしきものだった。

 シャークウェポンのせいで小さく見えるが、人間からすると脅威的にデカい。


 「えいっ」

 『ギ、ギャァァァァ……』

 「容赦無いな……」


 そんな水晶トカゲを、アルルカンは無情に握り潰した。

 俺は戦慄せんりつしながらも、右腕と武装で水晶柱を破壊し続けた。


 「流石にそいつ1匹ってことはないだろうな」

 「でも、全然出てこないわよ」

 「確かにな……一気に吹っ飛ばすか?」

 「それいいわね。その前に、あっちに一言かけときましょうか」


 向こうでは、アンドロマリウスことキズナが大暴れしている。

 槍を持って大回転することで、水晶柱をまとめて切り倒しているのだ。


 明らかに達人級の技なのだが、それを当然のようにやってのけている。確か、たまにヴィクセントに師事してもらってるらしいな。だからって短期間で習得できるものではないだろうが。

 これが、才能……? いや、キズナのことだから常人には理解し難い努力の可能性も……


 「じゃあスイッチ入れるわよ……あれ? 通信機能どこ? ……スピーカーでいいや」


 アルルカンがスピーカーのボタンを押す。

 確かに、他の機体と通信することを想定していないのか、そういった機能は存在しなかった。

 だから、あのシュモクザメもスマホに直接DMを送って来たわけだ……どういうことだ?


 『あー、あー、こちらシャークウェポン。アンドロマリウス、聞こえるか』

 『聞こえてるぜぇ!!!』


 スピーカーを使った形跡の無い、肉声らしき音声が帰って来た。やはり肺活量オバケか。


 『今から広範囲攻撃をするから、退避した方がいいぞ』

 『おっ! ド派手な爆発が見れるってわけか! そいつは楽しみだぜ!!!』


 そういって、キズナは水晶柱を蹴って跳びながら、少し離れた場所にあるビルの上まで移動した。

 すでに避難済みで中に誰もいないからって、あまりにも遠慮がなさすぎる……


 「よし、じゃあジョーズミサイルを……!?」

 「何!?」


 またこのパターンか! 何かやろうとした時に邪魔が入る!

 フロントガラスを見ると、透明の何かがへばりついていた。


 「うわっ、水晶トカゲ」

 「多すぎるでしょうが」


 全身を映すモニターを確認する。大小様々な大きさの水晶トカゲが、全身に引っ付いていたのだ。

 どこにこんな数がいたのか、なぜ今更張り付いてきたのか。色々いいたくなる光景だった。


 「お? あ、水晶柱が……」

 「せっかく壊したのに」


 破壊された破片はそのまま、新たな水晶柱がニョキニョキ生えてきた。まるで雨後のタケノコのようである。

 いつぞやの魚を思い出すようで、さっさと終わらせたいのだが。


 「デカいのは何発か殴らないと死なないみたいだな」

 「でも、ちっちゃいのを叩き潰すのは楽しいわね」

 『ギャアアアア!?』


 俺とアルルカンは、水晶トカゲを叩き潰した。

 シャークウェポンの左右の腕がそれぞれ全く違う動きをするせいで、とても気色悪いことになっているが、背に腹は代えられない。


 「お? 砕いた水晶と水晶トカゲの残骸が……」

 『ギャオオオオォォォォ!!!』

 「合体してデカくなったわね」


 しばらく水晶トカゲを潰していると、散らばった水晶とトカゲの残骸が融合し、シャークウェポンにも迫る巨大な水晶トカゲになった。

 しかも、尻尾もないのに上手くバランスを取っており、二足歩行をしている。腕が長くて、顔がトカゲなだけの人間に見える。


 「いくら図体がデカくなたっところで、シャークウェポンにゃ勝てやしないわ……よっ!!!」

 『ギャアアアア!?』


 アルルカンの操作する、鋭い左ジャブ。

 牽制けんせいを目的としているものの、超硬質の金属から繰り出されるそれは、水晶の身体を打ち砕いた。

 大きくのけぞったその隙を逃さず、俺は右手で巨大水晶トカゲを掴んだ。後は、砕け散るまで殴り続けるだけだ。


 「よし、掴んだ!」

 「ナイスよ!」

 『ガッ!? ギッ!?』


 殴られ続けた巨大水晶トカゲの身体には、徐々に亀裂が入って来た。魔怪獣とはいえど、水晶とは思えない硬さだ。

 そして、ついに全身が砕かれようとした、まさにその時だった。


 「ぐおっ!?」

 「今度は何!?」


 いきなり、シャークウェポンが揺れたと思ったら、吹っ飛ばされたのだ。

 今まで、シャークウェポンがここまで吹っ飛んだことはなかった。最初のビッグリザードにも、ガリガリさんにもできなかったことだ。


 目の前でうずくまっている水晶トカゲの仕業ではないだろう。

 どこかに下手人……いや、下手魔怪獣がいるはずだ。


 「何が起きた……あれか!」

 「うわ……これはまた……」


 モニターと肉眼を使い、周囲を探していると、そいつは存在した。

 折れた水晶柱が並んだ場所の真ん中に浮かんでいる、だった。


 シャークウェポンのてのひらくらいの、小さなぼやけたようなおおむね円状の形が、陽炎かげろう、あるいは蜃気楼しんきろうのようにゆらゆらと揺れていた。

 そこに何かあることは分かるものの、光学迷彩のようになっており、大きさも相まって目を離すと見失ってしまいそうだった。


 「空間が揺れてる……?」

 「あれは……ぐっ!?」

 「どわぁ!? 衝撃波か!?」


 空間が一瞬だけ肥大したかと思うと、空間を中心として目に見えるほどの衝撃波が放たれた。

 その衝撃波は、折れた水晶柱を文字通り根こそぎ吹き飛ばし、辺りへまき散らした。


 「なんて威力だ」

 「とんでもないわね……」

 「けど、邪魔な水晶柱が……あー……」


 いつの間にか復帰していた巨大水晶トカゲを中心に、光が舞う。

 すると、飛び散った水晶の欠片を巻き込み、新たに水晶柱が構成される……が、その形は歪だった。

 しかし、さっきよりも形状的に邪魔になっていた。


 「俺らいっつも邪魔されてんな」

 「そうね……毎回……鬱憤くらいは晴らさせてもらいましょ」


 巨大水晶トカゲと、うごめく空間を前に、俺達は操縦桿を握りしめた。



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