第18話 桃銀の魔導士、その名は綺羅星の如く
最近、意味の無い展開が続いている気がする。無駄に超能力者と妖怪か何かの戦いを見たり、無駄に魔術師に殺されかけたり。
それによって因縁ができたり、何てことも特にない。ただただ、世界観の説明を見せられているような気分だ。それこそ、ロボットものには不必要な要素ばかりを。
もしこの世界が物語だとしたら、一体どのようなストーリーなのか。
何故か俺には断片的な情報しかないので、全く分からない。
だが、学園ものとロボットものが主軸になっているのだろう。そこに魔法や超能力や異世界をぶち込み、無理矢理かき混ぜたような感じになっている。
「アンドロマリウスかっけーよな」
「シャークウェポンも中々」
「やっぱ怪獣の方っしょ――」
この矢倍高校の生徒らはいつも元気だ。
一学生の巨額の投資で学校がどんどん綺麗になろうが、異世界に侵略されようが平常運転を貫いている。
それに、自意識過剰といわれればそれまでだが、俺というシャークウェポンのパイロットがいるのに、執拗に絡んできたり、などということが一切ない。
つまり、元がボッチ気味な俺に対し、いきなりわらわら集うということがなかった。あくまで、気になったらちょっと聞きに来る程度である。
この学校は偏差値こそ低いが、民度は高いようだ。俗にいう、これが等価交換というものだろうか。
「最近、学校新しくなったよな」
「トイレも毎日綺麗だし」
「潔癖な美化委員が定期的に掃除してるらしいよ」
「へー」
それにしても、学校内は変わった。
細かいところでは、黒板消しクリーナーが新しくなったり、掃除用具が新しくなったりした。
屋外にあったプールが屋内プールになったこともある。まあ、この学校にプールの授業はないので、ほとんど水泳部専用なのだが。
これも全て、キズナが稼いだ金の大半を学校につぎ込んでるからだ。さらに、そこへ本間博士率いる研究所メンバーが乗り込んできた。
今やこの学校は、最先端技術の塊なのだ。どこへ向かっているんだ、この高校……
「おや? サメ先輩」
「ええと……」
そんなことを考えながら歩いていると、誰かに呼び止められた。
声のした方を向くと、桃銀の髪の女子生徒がいた。彼女は確か――
「ああ。確か、休校が続いたおかげで、こうして面と向かって話すのは初めてだったかな?」
「ああ、うん……」
確か、グリットと呼ばれている女子生徒だった。
まあ、例のごとく日本人には見えないので、多分外国人なんだろう。
「では改めて。ボクの名前は
「何て?」
待ってくれ。ご丁寧に魔法みたいなので文字まで出さなくていいから。
今、俺はとてつもないキラキラネームを、文字通り輝いているのを見聞きしたぞ。
「ほ、本名?」
「? ああ、勿論だよ」
いや、百歩譲って苗字はそれで読めるが、
『輝く』や『光る』とかそういう意味を持った漢字を当てただけにしか見えない。
確かに、当て字みたいな名前をしたキャラは、創作には付き物である。
ただ、限度というものはあるだろ。当て字にもなってないのは酷すぎるぞ。
グリットは、この世界の主要キャラか、濃いモブか……どっちだ?
正直クソみたいなキラキラネームにしか思えないのだが、本人が気に入っているならいいか。
子どもに名前を付ける時は、自分に付けられて嫌な名前は付けないようにしよう! サメのお兄さんとの約束だ。
「……そうか。それで、何か用か?」
「悩んでいる様子だったから、声をかけただけさ」
「そんな顔に出てた?」
「いや? でも、ボクには分かるのさ」
何で判断したんだよ。勘か?
まあ、ローブのように改造されたブレザーと、魔法使いのような長い杖を持っていることからして(何でそんな物持ち歩いてんだ)、彼女は魔法関係の人間なのではないか。
言ったら記憶とか消されるかな……言うだけ言ってみるか。
「実は――」
俺は、昨日あったことを話した。
自転車がブッ壊されたことから、魔術師野郎が研究所のハイエースで拉致られていったことまで。
「それは災難だったねぇ。このことは、魔術に関係することだからボクに話したということでいいのかい?」
「まあ、うん」
その見た目で魔法とか魔術を使わず、フィジカルで殴るとかだったらツッコミを入れてしまうところだったが……グリットが魔法らしきものを使えるのは、シャークウェポンの録画映像で確認済みである。
「じゃあまず、基本的に魔術というものは秘匿されている。これは、魔術師と普通の人間の確執が深いからなんだ」
「そうなのか?」
「ああ、そうさ。昔からお互いに迫害し合ってきたんだ。それに嫌気がした昔の魔術師が、魔術師の暮らす魔術界と、ボクらの住む世界を隔離して今現在に至る。一応、行き来できる
「なるほど」
「交流が無くなって久しい彼らにはね、魔術という神秘的な術を行使できる自分達は特別だと思ってる者もいる。自分達を、魔術を使えない人間とは別の種族だと思ってるんだ」
「別の?」
「ありていに言えば、こっちの世界を見下してるのさ。例えば、平気で法律を破った後、記憶消してハイ終了……ってな感じ。その癖、自分達の法は遵守させるのさ。魔術界にとって不都合な人間は消したり、事故でも故意でも、魔術によって死んだ人を隠蔽したり……ね。ご覧の通り、完全犯罪の出来上がりさ」
「何と言うか……クソムカつくな」
「勿論、そうでない魔術師も多いけどね。だから、彼らのためにも、いくつかの魔術組織を
「ん?」
聞き間違いか?
曲がりなりにも、人知を超えた術を使う集団を潰したと聞こえたのだが。
「しかし、この辺には魔術師はいないと思ってたんだけども……新参かな?」
「あ、あー、魔術師のアジトは本間博士が何かするらしい」
「なら安心だね。あの博士は科学者ながら、魔術のことをよく理解していたから」
「んー? 博士が?」
そんな詳しいのかね。てっきり、『科学なめんなファンタジー』とか言いって科学でゴリ押しそうな人だと思ってたが。
いや、今まさに『地球なめんなファンタジー』と『ファンタジーなめんな地球』がぶつかり合ってる真っ最中だったな。敵を知るのは基本か。
「それで、グリットは魔術か魔法が使えるって?」
「そうだね。今は
「触媒? 魔力の籠もった……何か、素材とか?」
「そうだね。今なら……水晶が欲しいかな。杖の先端につけたくて――」
バリィィィィンッッッ!!!
グリットが言いかけた時、まるで、ガラスが割れるような轟音が響いた。
「何だ!?」
「窓の外だ!」
外を見る。
すると、いつもの住宅街に、巨大な水晶の柱がそびえ立っていた。
「水晶……」
「いや、こんなにはいらないよ」
まあ、そうだろうな。
そしてこれは、十中八九魔怪獣案件だろう。
水晶柱にまぎれて、巨大な何かが動くのが見えた。
「シャークウェポンは……もう発進してるのか。あー、グリット、色々教えてくれてありがとう」
「いやいや、お安い御用さ。さ、行っておいで」
「おう」
ブースターによる推進力を利用し、柱をタックルでへし折るシャークウェポンが見えた。大雑把で荒々しい動きは、AI操縦だろうか。
あまりAIに任せると暴走の危険があるらしいので、早いとこ学校から出よう。
「――
去り際につぶやかれたグリットの言葉は、俺には届かなかった。
――――――――――
【
・長いのでグリットと呼ばれる。
桃銀としか言いようのない色をした長髪で、ボクっ娘。美少女である。
キズナとは幼稚園からの付き合いらしく、度々彼を魔法で手助けしていた。
魔法が使えると豪語し、実際に超常現象を引き起こすことができるのだが……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます