第17話 捕獲! 初めての魔術師


 バランスのいい4体パーティをほふった日から数日経った後。夜中の10時くらい、急に腹が減ったのでコンビニへ買い物に行った時のことである。


 俺は自転車を走らせ、前に異能力者(恐らく)が戦っていた場所の付近を通っていた。

 ふと、ライトに照らされた地面や住宅のへいを見るが、戦いの痕跡は勿論、血肉や闇っぽいものは一切ない。


 それもそうだ。裏の存在、超能力者みたいな奴らが戦ってる場面の証拠など、隠滅されて当然だろう。超常の力が世間にバレるなど、能力者と一般人、どちらにとっても良くない。

 特殊能力を『持つ者』と『持たざる者』では、確執かくしつが起きることはほぼ確実。超人と常人の確執の先に何があるのかなど、そういったテーマの創作を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。アメコミとか。


 だから、彼らは必死になって証拠隠滅するし、その存在を認知してる政府も手伝う……というのは、完全に俺の妄想である。

 実際はどうなのだろうか。やはり、目撃者の記憶を消したり、普通にしたりしているのだろうか。もしそうなら、そんな連中と関わるなど、こちらから願い下げだ。精々、バレないようにコソコソ生きて……死んでてもいいや。


 まあ、巨大ロボットと怪獣でその均衡きんこうが崩れつつあるらしいのだが。

 当事者じゃなければ知らんぷりできたんだがなぁ……ロボットのパイロットな上、戦いを既に目撃してる身としては、警戒するしかない。そう簡単に出くわすことではないことは分かっている。余程か、そういう運命だったか。


 「……ん?」


 通りかかった廃ビル。割れた窓から一瞬、光が見えた。

 浮浪者か誰かが、懐中電灯でも点けたのだろうか。俺は少しだけ気になり、そちらを見た。

 そこには、誰かがいた。浮浪者にしては身綺麗すぎる……というより、身なりがいい。何で仕立てのよさそうなスーツっぽい服装してんだ?


 「?」


 すると、あまりに凝視したからか、

 あちらは何か驚いているようだが。また、厄介なものを目撃してしまったかもしれない。ここはさっさと立ち去ろう。そう思い、自転車を走らせたその時。


 「ウェッ!?」


 自転車が、

 整備不良かもしれないが、間違いなくそんな壊れ方ではない。いきなり、何の前触れもなく、パーツごとに分解されたからだ。


 ……これは、不味いかもしれない。

 俺は、ポケットから博士に貰ったを取り出し、その辺に投げた。これで、俺にできる準備は終わった。


 廃ビルから足音が近づいてくる。

 余裕からなのか、正直とても遅いペースだったが、そいつはようやく廃ビルから出てきた。


 「ふむ。まさか見られてしまうとはな」


 姿を現したのは、そこそこ若く見える男だった。

 仕立てのよさそうな洒落しゃれたスーツを着ており、所作からは育ちの良さがうかがえる。

 しかし、俺を見下しているというのが、その目からありありと見て取れた。


 「な、何だアンタ……?」


 多分、超能力者とかそんな具合だろ。

 いきなり人様の自転車ブッ壊しやがって……俺は4割サメだけど。


 「ふん。お前のように下賤な者と話すことはない……が、冥土に土産に教えてやろう。魔術師だよ」

 「ま、魔術師ィ~?」


 魔術師! そう来たか。


 「魔術を見られてしまったものだからな。貴様には死んでもらう」

 「は?」

 「本来なら記憶を消すところなのだが、面倒でな。どうせ魔力の欠片もない者が死んだところで、もみ消すのは簡単なことだ」


 こいつ……魔力を持ってないとか、魔術を使えないとかの理由で一般人を見下してる奴だ。

 魔法とか魔術が出てくる、あらゆる創作で見かける奴やんけ。

 しかも記憶消せるのにしないとか。喧嘩売ってんな?


 「殺す? 俺を?」

 「何か文句でも?」

 「待って、殺さないでくれ……よっ!」

 「おっと」


 俺は素早く、自転車のパーツを投げつけた。


 「手癖の悪い……が、所詮しょせんは浅知恵か。大人しくしていれば楽に死ねたものを……貴様! 投げるのをやめんか!」


 しかし、それは魔術によって防がれる。

 だが想定内だ。後退しながらどんどん投げよう。


 「貴様……私を怒らせるとは、良い度胸だ。苦しめて殺してやる」

 「お前がな、出オチ野郎」

 「何? ……ぐわぁッ!?」


 魔術師野郎が、いきなり膝から崩れ落ちた。

 地面に倒れて、ピクピクと痙攣しており、動けないようである。


 「き、貴様……何をした!?」

 「サメだよ」

 「は……?」


 サメ、というのは本当だ。

 正確には、本間博士に持たされていたガジェットが、サメの形をしているのである。


 魔術師野郎の脹脛ふくらはぎや二の腕などに、金属製の小さなサメが噛みついている。

 これが博士の作ったガジェット、『メタルコバンザメ』である。

 この『メタルコバンザメ』は、対象に噛みついて、強烈な電流と筋弛緩剤などを一気に流し込むという、対象の無力化を狙ったアイテムである。


 しかも、電気ショックについては『電流』なので、0.1アンペアくらい流せば人は死ぬ。

 つまり、噛みつかれた時点で、生殺与奪せいさつよだつの権は握ったも同然である。


 だが、これだけは言っておく。コバンザメは厳密にはサメではない!


 「く、わ、我が名においてこの者の……グエェッ!?」

 「何しようとしてんだ! あぁ!?」


 魔術にありがちな詠唱を始めたので、自転車のチェーンで首を絞めつける。

 さっきは無詠唱だったっぽいが、今は詠唱を必要としている。集中が乱れたからとかそんなんか?


 そういえば、まだ何もされてないな。

 まあ、殺すとかいう恐喝とか、器物破損とかはあるので、正当防衛だ。それに、殺人をほのめかす供述もしてる。

 メタルコバンザメ君がレコーダー代わりになってくれているらしいので、証拠もある。


 俺は、首を絞めながらメタルコバンザメ君を呼び、スマホを取り出してもらった。電話先は本間博士である。


 「もしもし博士?」

 『ああ、状況は把握しておる。魔術師じゃな』

 「あれ? 何で知ってるんです?」

 『メタルコバンザメには監視機能もあるのじゃ』

 「なるほど……プライベートとかは? いや、見られて困るようなものは無いですけど」

 『そこは問題ない。別にトイレまでついていこうとかではないのでな。普段はGPSじゃ』

 「なら安心? ですね」

 『そうじゃ。あと、人員をよこした。もうそっちにつくはずじゃ』


 博士がそういうと同時に、俺の目と鼻の先に1台のハイエースが止まった。

 中から出てきたのは、作業員風の男達だった。


 「何か、ハイエースからぞろぞろ出てきたんスけど」

 『それじゃな』


 男達は、魔術師野郎に手錠などをかけ、ハイエースに乗せた。はたから見たら誘拐だが、本当に誘拐に近いので困る。

 それが終わると、自転車のパーツを片付けていた男が、ハイエースから自転車を取り出し、俺のそばに置いた。今まで乗ってた物と全く一緒のやつだ。


 「ど、どうも……?」


 俺の言葉にも、男達は会釈えしゃくしただけで一言も返事をしなかった。

 やがて、彼らはハイエースで去って行った。


 「……無駄な時間を過ごした気が」

 『そうでもないぞ』

 「はい?」

 『おかげで憎き魔術師共のアジトを割り出すことができる。お前さんのおかげじゃ、今日はゆっくり休むがええ』

 「……はい」


 電話越しでも分かるほど博士は喜んでいるし、まあいいか。

 しかし、魔術師のアジトを割り出して何をするつもりなんだ?


 「……帰るか」


 きっと、ろくでもないことだろうな……まあ、俺にはあまり関係ないことか。



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