第15話 邪悪なる少女、アルルカン・オーギュスト


 「死に晒せぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」


 先程とはキレの違う鋭いパンチ。

 速度も威力も段違いなそれは、高速で動く『双剣』のメイガス・ナイトに命中した。

 人間でいう下腹部あたりに命中したので、衝撃で脚がもげていた。これでは、自慢のスピードは出せないだろう。持っていた双剣すらどこかに飛んで行ったので、できるのは殴るくらいか。


 「次はテメェだよクソ金槌! お仲間で引導を渡してやる!」


 次の標的は『戦鎚』のようだ。

 取れた脚を細かく握り潰す。バラバラの鉄屑と化したそれを……


 「ふんッ!!!」


 大きく振りかぶって投げた。


 古来より投擲とうてきとは、人類にとって大きな武器であり、狩猟や戦闘に役立ってきた。

 人類の投擲能力は、他の生物の追随ついずいを許さないほど高いものである。一説によるとそれは、他の動物と比べて肩の可動域が広いからであるらしい。

 これによって人類は、強い力で、速く、精確に物を投げることができるのだという。


 では、人間を模した骨格・体格を持つが、人類の投擲を真似たとしたら……?

 例えば、とか。


 「アッハハハハ!!! ザマァないわねぇ!?」


 パァン、という破裂音とほぼ同時に着弾したそれは、『戦鎚』を容赦なくハチの巣へと変えた。

 穴だらけになった『戦鎚』は、ゆっくりと崩れ落ちた。


 「その自慢の盾ごとブッ潰してやるからなぁ!!!」


 それを確認したアルルカンは、盾へ肉薄する。

 鈍重な『盾』では、今から避けることが難しい。なので、『大砲』が接近を邪魔してくる。転ばせようと、さっきの油を撃ってきたのだ。


 「油撃ってんじゃねぇよ!!! 暇な時にやれ!!!」


 アルルカンは、油を手に持った『双剣』を盾にすることで防いだ。

 そして、油まみれの『双剣』を『盾』投げつける。それは防がれたが、油そのものは防げなかったようで……


 「馬鹿ねぇ、それは悪手よ」


 『盾』に拳がぶつかると、小規模な爆発と共に火がついた。

 シャークウェポンの解析によると、超硬質の金属同士がぶつかり合うことで火花が発生し、それが揮発きはつした油と接触したらしい。

 俺は『油』と呼んでいたが、揮発性が高いのでガソリンに近いのかもしれない。


 『双剣』ごと燃える盾。

 何とか火を消そうとしているようだが、油がへばりつくせいで上手くいかないようだ。

 ナパーム弾かな? しかし、シャークウェポンも発火したものの、すぐに海水スプリンクラーによって鎮火した……どうなんだろうこれは。


 「さて、コイツは貰っていきましょ」


 もがく『盾』を足蹴あしげにし、いまだ持っていた盾の片方を奪い取る。

 メイガス・ナイトにとっては身を隠せるほどの大盾かもしれないが、シャークウェポンにとってはちょっとデカいだけである。


 「アイツで最後ね~」


 さっきからちまちま撃ってきているが、シャークウェポンには何の効果も無い。

 根本的に威力が足りていないのだ。シャークウェポンの装甲を傷つけることもできないでいた。

 アルルカンは持っている盾を投げ、砲身に命中させた。その後、余裕の足取りで近づいた。


 「んー、なぶり殺し……そういえば、サメの顔には獲物を咀嚼そしゃくする機能があったわよね?」

 「ああ。シャークウェポンはそれで戦闘中にエネルギーを補充できる……まさかお前」

 「そのまさかよ」


 『大砲』を殴り倒し、足を掴む。

 そして、その足をシャークウェポンの胸にあるサメの口へ押し込んだ。


 『――!? ――!! ――!!!』


 声にならない悲鳴が聞こえる。

 間違いなく、メイガス・ナイトのパイロットだ。


 どこにコックピットがあるのかは分からないが、恐らく胸部か頭部だろう。

 足元からバリバリと喰われる鉄の棺桶の中で、刻々と迫りくる死の恐怖を味わう。もはやこれは拷問だ、どうせ殺すというなら、せめて一息に死なせてやるべきではないか。


 まあ、こいつらは魔力の無い、魔法の使えない人間にも同じようなことをするだろうって博士から聞いたから、同情だけにしておこう。

 アルルカンの機嫌を損ねるのも怖いしな。


 「アハハハハ!!! 見なさいよほら! 必死に手を振り回して抵抗してる! 無様ねぇ!!! 録画しとけば良かったわ!!!」

 「あ、ああ……」


 アルルカンは、死の恐怖に怯えるパイロットを前に、気持ちいいくらいの大笑いをしていた。本当にゲスいなコイツ。

 いや、ゲスを通り越して邪悪といっても過言ではない。尋常じゃない嗜虐心と悪意を持っている。

 正直、俺と一緒にシャークウェポンのパイロットをしているのが信じられない。


 『――!!! ――!!! ――……』


 胸部辺りが噛み砕かれると、抵抗が無くなった。死んだか、諦めたのだろう。

 そして、残ったパーツもシャークウェポンの餌食となった。

 それを見届けたアルルカンは、俺が出した座席にドカッと座り込んだ。


 「いやぁ、うざかったけど、最後は楽しかったわね」

 「そ、そうだな……」


 内心ドン引きしてたなんて言えない。

 話題変えてぇなぁ……そうだ。


 「そ、それよりさ、お前、調子悪くなかった?」

 「んー、ちょっと怪我しててね」

 「ああ、怪我……怪我なら仕方ないな、うん」


 なるほど、動きがにぶかったのは怪我のせいか。

 怪我の様子は若干心配だが、顔色は良くなってるので大丈夫だろう。

 アルルカンは明らかに常人ではないので、高い再生力とかも持ってるのかもしれない。


 俺はそのことを考えないようにしながら、外の様子を見た。

 ちょうど学校周辺で、アンドロマリウスがミノタウロスにトドメを刺したところだった。


 「おおう、串刺しか。えげつねぇな」

 「心なしか、槍に巻き付いた蛇が血をすすってるように見えるわね」


 命を失ったミノタウロスが倒れる。

 引き抜かれた血塗れの槍をかかげる姿は、悪魔のようであり、英雄のようでもあった。


 「ん!?」

 「うわっ!」


 それを眺めていたら、シャークウェポンがいきなり動き出した。暴走である。

 しかし、その矛先は倒れ伏したメイガス・ナイト、それも、燃え尽きた『盾』のようだった。

 まだわずかに息があったようで、シャークウェポンは執拗に攻撃していた。


 ぺちゃんこになったところで、俺は赤いレバーを引く。

 あまり潰れても、買い取ってくれるらしい多数のスポンサーに悪いからだ。


 「あー、終わった。帰って寝たい……」

 「回収を待ちましょ」


 デカいドローンみたいな奴に乗ってくる高瀬さんを待ちながら、俺は座席に深くもたれかかった。

 ふと計器を見ると、サメ率は44.21パーセントまで上昇していた。俺がサメになる日も近いな……




 ――――――――――




 【魔道騎士鎧メイガス・ナイト4体】体型:人型 身長:25メートル 分類:ロボット

 ・量産が成功したメイガス・ナイト。

 それぞれ双剣、盾2枚、戦槌、大砲(魔法)という堅実な構成をしている。

 【双剣】は、装甲を極限まで削り、身軽になっている。魔剣のヒットアンドアウェイで戦うアタッカー。

 【盾】は、硬い大盾を2枚も使い、敵の攻撃を防ぐタンクである。

 【戦鎚】は、柄が長い鎚により、硬い相手にもより大きな衝撃を与えられる。また、修復魔法も得意なヒーラー。戦鎚の巨人ではない。

 【大砲(魔法)】は、砲身から魔法を撃ちだす。遠距離からひたすら引き撃ちするが、遅いので近づかれたら硬いだけの的なアーチャー。

 『対魔獣用に育成された精鋭だ』

 『これでも魔獣相手に勝率4割くらいってマジです?』


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