第14話 『ちゃんと前衛と後衛で役割分担されている堅実な王道パーティ』がやって来た!!!


 「てなことがあったんですよ」

 「むぅ……」


 いかめしい表情で目を見開いた本間博士。

 あの後、俺はシミュレーターでの訓練ついでに、見たことを報告しチクったのだ。

 俺の報告を聞いた博士は、凶悪な顔を歪めていた。


 「確かに見たのじゃな?」

 「は、はい。嘘は言いませんよ」


 顔が怖い上に、年の割にはガタイがいい博士に嘘ついたら何されるか。


 「三羽侘仁さんばたに学園か……前々から怪しいと思っておったが」

 「そうなんですか?」

 「この研究所にも三羽侘仁の卒業生がおる。その時に調べたんじゃが、違和感があってのう」


 博士によると、用途が不明な金の流れがあったり、政府関係者がちらついてたりしたらしい。

 中でも決定的だったのが、三羽侘仁学園から高濃度の『魔力』が検出されたことだ。これによって、博士は学園を最大限警戒するに至ったらしい。


 ……魔力?

 いや、魔法や異世界があるんだから、魔力もあるんだろうけども。

 サラッと新たなエネルギーの存在を暴露された気がする。


 「ああ。専用の機器は必要だが、精度はほぼ完璧。異世界人共や魔怪獣の出現も察知できる」


 なるほど。これで事前に知ることができたのか。

 適当に休みをくれてるわけじゃないんだ。


 緊急出動! 緊急出動! 緊急出動! 緊急――


 「ほれ、このようにな」

 「しばらく来ないって言ったじゃないですか!?」

 「多少の誤差はあるし、向こうも進歩するでな。じゃが、負けてはいられん……負けてなるものか!!! さあ、出撃じゃ!!!」

 「はい!」


 シャークウェポンのコックピットまでたどり着くと、中にはすでにアルルカンが待機していた。


 「遅かったわね。ほら、さっさと座んなさい」

 「何かやる気あんなぁ」

 「暴れ足りないのよ。せっかくボコってもいい相手がノコノコ来てくれたんだから、遊んでやるのが礼儀ってもんでしょ? あ、今回は近接戦オンリーでやりたいわ。武装使わないで」

 「分かった。使わなけりゃいいんだな? よし、じゃあ発進!」

 『GHOAAAAAAAA!!!』


 うるさっ!

 そうだった、シャークウェポンには吠える機能がついてたんだった。




 ◇




 「あれが今回の相手……」

 「多くね?」


 俺達を待ち受けていたのは、4体のメイガス・ナイトと、1匹のミノタウロスだった。

 ミノタウロスは何故かアンドロマリウスに突撃していったが、メイガス・ナイト達は油断なくこちらを見据えていた。


 「武器持って囲って叩けば何とかなるとでも思ってるのかしら?」

 「武器も数も力だけど、体格差が……」


 4体のメイガス・ナイトは、武装していた。

 物々しい剣を2本持った奴、デカい盾を2枚構えた奴、柄の長い巨大な戦鎚を持った奴、大砲のような物を持った奴。

 前衛と後衛の分かれた、バランスのいいパーティである。


 それぞれ『双剣』、『盾』、『戦鎚』、『大砲』と呼ぼう。


 彼らの身長は25メートル前後。50メートル近くあるシャークウェポンと比べては、大人と子どもくらい離れた体格差だ。

 しかし、子どもでも武器を持って囲めば大人を殺せるだろう。油断せずに戦わなければ。

 

 「どれから殺る?」

 「うーん……ここは手始めにタンクからにしましょ。見たところ、他のは鈍重か紙装甲よ」

 「じゃあそうすっか」


 いつも通り、俺はレバーや操縦桿をガチャガチャ。アルルカンがダイレクトコントロールシステムでの殴る蹴る。

 コックピットはやたらと広いので、どれだけ動いても平気だ。


 「行くわよっ!!!」

 「応!」


 俺がアクセルを一気に踏み込み、『盾』へと肉薄する。

 それを見た『盾』は、両手の盾を構え、深く腰を落とした。そして、残りの3体はすでに散開していた。


 「ブッ飛びなさい!!!」


 大きく拳を振りかぶり、力の限り振り下ろす。

 小さな体格に見合わない構えから繰り出された拳は、シャークウェポンの屈強な体型とマッチしていたようだ。


 『ッッッ!?』


 上手く受け流したようだが、あまりの威力に両方の盾がほとんど砕かれている。

 その上、衝撃で後方に吹っ飛んでいったようだ。


 「雑っ魚……って、何よこの衝撃。鬱陶しいわね」

 「双剣と大砲がちまちま攻撃してきてるっぽいな」


 『盾』のはるか後方から、『大砲』が色とりどりの弾を発射している。

 あれは恐らく実弾ではなくエネルギー弾……魔法だろう。


 だが、コックピットのフロントガラスとは違って超硬度を誇るシャークウェポンの装甲に傷を入れることはできないようだ。

 それは『双剣』も同じで、有効打には程遠い。鉄骨をひのきの棒で叩いてるようなものだ。


 「……無視でいいわね。それよりトドメを……は?」

 「えぇ……またこのパターンか……」


 倒れていた『盾』を、緑がかった光が包み込む。

 すると、壊れた盾が直ってしまった。


 ヒーラーがいる。そう思い、どいつがやったのかを確認すると、『戦鎚』の仕業だったようだ。

 戦鎚をかかげながら、魔法陣のようなものを浮かべていた。


 「予定変更! 戦鎚から潰すわよ!」

 「応!」


 俺は『戦鎚』に路線変更。全速力でシャークウェポンを動かす。

 重厚な音を響かせながら走り、アルルカンの操作でタックルの体勢に入った。


 「ブッ潰れなさい!!!」


 フルパワーのショルダータックルが『戦鎚』へ迫る。

 その距離は30メートルほどに縮まっていたのだが……


 「うぇっ!?」

 「な、何だ!?」


 シャークウェポンが、もはや目前というところで、ズッコケたのだ。

 ゴロゴロと転がりながら、豪快に建物(すでに住人は避難済み)を軒並みなぎ倒す。


 「アンタ、操作ミスったんじゃないの!?」

 「違う! アレを見ろ!」

 「下……これは!?」


 シャークウェポンの足元には、何らかの液体が溜まっていた。

 黒く、少し粘度の高いような液体。これは……


 「油か何かかしら……あっ!?」


 他のメイガス・ナイトが距離を取る。

 そして、後方にいる『大砲』がこちらを向き、大きな砲身から火を噴いた。


 「ヤバい! 燃えてる! シャークウェポンが燃えてる!」


 着弾した火炎弾は、シャークウェポンがこけた拍子に全身にへばりついていた油らしき液体を瞬く間に飲み込み、巨大な炎になった。

 コックピット内では熱さは感じないものの、炎で前が見えなかった。


 「えーっと、こういう時は……か、海水スプリンクラー? ええい、ままよ」


 だが、その炎は『海水スプリンクラー』という機能によって、瞬く間に鎮火された。無駄に高圧な海水が全身から勢いよく噴射され、周りの炎ごと消し飛ばしたのだ。

 おかげで辺りは水浸みずびたし。シャークウェポンに有利なフィールドの完成……ではないか。


 「クッソ、あの芋砂野郎がうざってぇな……」

 「芋ってもスナイパーでもないだろ」

 「言葉のあやだよ!」


 いかんな、アルルカンが本格的にキレてる。

 口調が荒くなり、本性が見え隠れしてきた。


 「あのクソ大砲から殺すぞ!」

 「……おう」


 ドツボにハマった気がしつつも、俺はシャークウェポンを走らせる。

 武装を使うなとアルルカンに言われてるので、今は使わないでおく。まあ、住人はいないし、建物もいくら壊しても何故か短期間で元通りになるので、こうやって遊べるのだ。


 ……万が一があるので、とっとと終わらせたいんだがなぁ。


 「ブッ殺してやる!!!」


 アルルカンが選択したのは、跳び蹴りである。

 何か、どんどん雑になってくな。その隙だらけな技は、当然すぐに対策され……


 「またかよ!!!」


 今度は、『双剣』に防がれた。

 跳び蹴りで宙に浮かんだところを、横から思いっきりずらされたのだ。

 そして、こけたところで、シャークウェポンの装甲の隙間を執拗に斬ろうとしていた。まあ、隙間まで頑丈なので一筋縄ではいかないだろう。


 「双剣! ブッ殺す!!!」

 「おう」


 次の目標は『双剣』。俺はまた、アクセルを踏み込んだ。

 シンプルな大振りのパンチ。しかし、これはまたもや防がれることとなる。


 「盾ぇぇぇぇッッッ!!! テメェェェェェッッッ!!!」


 『盾』に真正面から受け止められたのだ。盾は砕けたものの、ヒーラーである『戦鎚』が修復する。

 格闘オンリーを続けるなら、無限ループになるだろう。しかし、台パンしそうな勢いで発狂したアルルカンは、素直に各種武装を使ってくれるかどうか。


 「お、落ち着けよ」

 「こんなコケにされて落ち着いてられっか!!!」


 こうしている間にも、ちまちまと攻撃を受けている。

 アルルカンは隙をついてカウンターする方向にシフトしたようだが、そこそこ鈍重なシャークウェポンでは当たらない。これは怒りで精彩を欠いていることも要因だろう。


 「冷静になれ! 何そんなにキレてんだ!」

 「ああん!? そりゃ……」

 「いっ……」


 いきなりピタッと止まるアルルカン。

 それに合わせてシャークウェポンも急停止したので、肘をぶつけた。痛い。


 「お、落ち着いた?」

 「まあ……そうね……悪かったわ」


 あまり申し訳なさそうではないが、口調は戻ってる。

 冷静さを取り戻したようだ。


 「どうした? 動きも雑で若干ぎこちないし」

 「色々あったのよ」


 アルルカンはしきりに手を握ったり開いたりしている。

 顔色も悪い。いや、元々人間の色をしていないが、何となく青いというのが分かる。それに、色合いで分かりにくいが、汗もかいているようだ。

 調子が悪いのは明らかだった。


 「いや、気分悪そうで……ぐわぁっ!?」


 『戦鎚』の攻撃が、コックピットである頭にクリーンヒット。

 衝撃というか、振動が内部で反射し、シャークウェポンごと俺達を揺らした。


 この頭に響く一撃で、アルルカンはよろめき、転んで頭をぶつけた。

 特にボタンとかも無い場所だったのは幸いだが、かなり盛大にぶつけたので痛そうだ。


 アルルカンは、やがてよろよろと立ち上がる。

 髪で顔はうかがえないが、怒っている……のか?


 「……てやる」

 「お、おい?」


 先程とはキレが違うファイティングポーズ。

 流れるような、しかし力強い動きだった。


 ゴキゴキと首を鳴らし、アルルカンが叫んだ。


 「なぶり殺しにしてやるよクソカス共がぁぁぁぁッッッ!!!」


 アルルカン、キレた!



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