第13話 すまん、魔法少女ではなかった
平日だというのに、俺は家でゴロゴロとしていた。原因は、学校の地下が空洞と化し、今は工事をしている最中だからだ。
また、本間博士から、しばらく魔怪獣は出ないだろうと言われたからというのもある。
何で来ないと分かるのか、内通者でもいるのかな。まあ、そこら辺は知らない方がいいかもしれない。
「うーん?」
そんな俺の目の前には、壊れたシャーペン。
サメに近づいた影響で、力の制御が難しくなっているのだ。
一応、研究所の方で訓練はしているが、気を抜くとすぐこうなる。
仕方ないので、買いに行くことにした。ついでにお菓子も買おう。
莫大な報酬は貯まる一方で、どこかで使わなければ。まあ、全然減らないのだが。
俺は、本間博士からもらった
◇
町中は、不気味なほどにいつも通りだ。仕事に行くサラリーマンに、子連れで買い物をする主婦。
何度も魔怪獣が暴れているというのに、その気配を感じさせない。
建物が壊れても短期間で元通りになるので、危機感が薄れているのかもしれない。シェルターもあるらしいし。
ちなみに、俺はシェルターの位置を一切知らない。何で教えてくれないんだよ。
「んで、どうすっかなぁこれ……」
ビニール袋に入ったシャーペンと菓子類。それ以外にも、シャーペンの芯やホッチキスなどが入っている。
金が余っているので、つい買ってしまったのだ。
俺みたいな奴が大金を得ると、大体は
金持ちと成金の違いはそこだとか、何かで聞いたことがある。
本間博士とかに相談して、マジで
一生遊べる額だが、それ故に無駄遣いはしたくない。こんな世界、何があるか分からないしな。
その点、キズナは相変わらず豪快だった。
今度は校舎を増築したり、トイレをリフォームしたり、各部室を新しくしたり。
学校大好きだな、キズナ。まあ、綺麗になる分には問題ない。
今この間にも、地下を直すついでに学校にぞろぞろと機材やら作業員やらが出入りしていることだろう。
その中に、本間博士の研究所で見た人が何人かいたので、博士も一枚噛んでるのかも。
一体何をやらかす気なんだ……
「……ん?」
俺が学校の未来を考えていると、何やら急に辺りが暗くなった。
すわ、魔怪獣かと思ったが、博士からの連絡もない。
それどころか、この時間帯なら割と人通りの多い道路なのに、誰もいない。
「どうなってる……?」
ロボットや異世界が存在するんだ。今更、大抵のことがあっても驚かない。
こんな人払いじみたマネをするのは……現代に生きる、一般人に存在を知られてはいけない魔術師とか?
あるいは、結界内に人を誘い喰い殺す、妖怪やモンスターかもしれない。
「お?」
辺りを見回すと、一瞬光った場所があった。
何かがいるようだ。友好的な存在ではないかもしれないが、手がかりを求めて行くことにした。
灰色に染まる空に見守られ、あまり行ったことのない道を進む。
「ヤベぇな……」
近づくにつれ、ガキンと
どうやら、戦っているようだ。
ここまで来たら確認するしかない。物陰から覗いてみると……
「!?」
俺が声を出さなかったのは奇跡だろうか。
大小、様々な怪物の
そして、その先に存在したのは、きらびやかな制服っぽい衣装を身にまとい、身の丈に合わない大きな武器を振り回す、カラフルな少女だったからだ。
……この世界、魔法少女も混じってるのか!
いや、服装がそれっぽいだけで、本当に魔法少女かは分からないけど!
『せやぁぁぁぁッッッ!!!』
彼女は、何かと戦っているようだ。
その視線の先を、俺は見た。
『グギャアアアア!!!』
おおむね人型、体格良し。多分何かの哺乳類らしき特徴を持った、筋肉モリモリの怪人としか言い様のない奴がいた。
まあ、そうだよな。魔法少女っぽいのがいるなら、敵もいるよな。
その怪人(仮称)は、魔法少女(仮称)の持つ大剣に切られ、いくつもの傷を負っていた。
しかし、その傷から流れるのは血ではなく、黒みがかったモヤのようなものだった。
他の怪物の死体には、モヤではなく血を流している者もいる。
この差は一体何だろう。
俺は、積み重なった怪物の死体の横に移動し、戦いを更に近づいて見ることにした。
サメになりつつあるおかげで、たいしてグロいとか、気分が悪くなることもない。むしろ、食欲をそそる気もする。
……自分の異常性を自覚するって、悲しいことだ。
俺も怪人側の存在になるんじゃないかなぁ……
『しぶといわね……でも、これでトドメよ!!! バーンスラッシュ!!!』
『ギャアアアアァァァァ……』
少女の持つ大剣が激しい炎をまとい、一撃のもとに怪人を両断した。
肩口から
『ふぅ……終わったわね』
『おーい!』
「!?」
一息ついた少女とは別の声がした。しかも、その声は俺の背後の道から聞こえてくる。
……怪物側かあの少女側かは分からないが、わざわざこんな別空間みたいな、結界みたいなマネをしているんだ。見つかったら面倒なことになるぞ~。
本間博士にも、
「クソッ!」
小声で悪態をつき、覚悟を決めた。
俺は見つからないように、積み重なった死体の中へ潜り込んだ。
怪物達の死体は、獣じみた見た目にしてあまり臭くないのが救いだろうか。
やがて現れたのは、やはり今風で派手な格好をした、少年少女だった。
俺よりは年下だろう。中学生くらいか、多く見積もって高校1年生くらいだ。
男がいるってことは、魔法少女モノではなく、異能力バトルに近いやつなのか……?
『ちょっと手こずっちゃった。そっちは?』
『こっちも似たようなもんだ』
彼らは一体何の集まりなんだろう。
日本人っぽい奴もいれば、明らかに外国人な奴もいる。
服装は、そこそこ統一感があるが……って、それ変身だったのか。
彼らの身体が光ると、元々着ていたのだろう服に戻ったらしい。
あの服は……見たことがある。
超エリート名門校、『
基本的に馬鹿しかいない矢倍高校とは、何もかもが違う。
そんな将来を約束されたエリート達の中には、どうやら異能力バトルじみた連中が混ざっていたらしい。
『まさか、怪人と妖怪が争ってるとこに出くわすなんてな』
『漁夫の利みたいで、申し訳なかったですけど』
『あのままでは、勝った方が人々を襲っていただろう。どちらにせよ、殺す必要があった』
この死体は怪人と妖怪のものなのか。世界観、色々混ざりすぎだろ。
というか、こいつらはどうして争ってんだ。
『やはり、どちらも気が立っているようですね』
『これも全て、あの怪獣とロボットが現れたせいだろう』
俺……のせいだけではないだろう。
平たくいうと、バランスの良かった勢力図に、巨大ロボットと怪獣が台頭してきたにより、各勢力で混乱が起こっているようだ。
彼らは、その対応に駆り出されたのだろう。大変なんだなぁ。
『早くあのロボットのパイロットを見つけなければ……』
『そうだな。だが、場所からして矢倍高校周辺だということは分かってる』
『あの力は、危険すぎます……』
『せめて、どんな人かだけでも知ることができたら……』
『そのためにも調査を続けよう』
会話はそこで終わり、少年少女達は去って行った。
……俺、見つかったらどうなるんだ。パイロット(俺)に接触した後の具体的な内容が一切なくて、凄い怖いんだが。
はぁー、クソ。
今日はツイてない。この汚れは職質不可避だ。言い訳は署ですることになってしまう。
「お?」
俺が憂鬱な気分でいると、死体に変化があった。
怪人も妖怪も、まるで透過するように、だんだんと消えていったのだ。勿論、俺についた血なども。
「……」
何だったんだ、一体。別に巻き込まれるでもなく、死体の山から見物してただけじゃねぇか。
いや、世界の裏の情報をちょっとだけ得たけど、総合的には謎が増えたぞ。
無駄な時間を過ごした。
まあ、取りあえず博士には報告しとこう。
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