第12話 サメの直談判


 戦艦の中の人を救助した後、俺は研究所に来ていた。


 ちなみに、あの戦艦は海上自衛隊とアメリカ海軍のものだった。

 太平洋のちょうど真ん中だったことで、両国から送り込まれたらしい。

 何か色々ツッコミ所満載だ。


 「博士! 本間博士はいますか!?」

 「どうした?」

 「うぉッ!?」


 突然ぬぅっと出てきた本間博士。普通にビビってしまった。

 だが、正直この程度では驚いていられない。もっと常識外のことが起こってる可能性もあるのだから。


 「本間博士。シャークウェポンのことについて教えてください」

 「シャークウェポン? もう十分教えていると思うが……」

 「簡単な構造と操縦はそうです。俺が聞きたいのは、あの何も書いてない計器のことですよ」

 「……」


 本間博士は、ただでさえ恐ろしい顔を、更に歪めた。

 そして、少し考えるような素振りを見せた後、また口を開いた。


 「どうやら、真実を知る時が来たようじゃな」

 「真実……?」

 「そうじゃ。ついてこい」


 言われた通り、本間博士についていく。

 やがてついたのは、シャークウェポンのコックピットだった。

 あれ、俺さっきここにいたのに。もしかして、歩き損か?


 コックピットには、何故かアルルカンもいる。

 博士も入って来たが、コックピットは広いので、座席をしまえばかなりの余裕があった。


 「あら? アンタ、戻って来たの?」

 「うん。でも、お前はここにいたのか?」

 「まあね。それで、そうしたのよ、博士なんて連れてきて」

 「それはわしから説明しよう」


 何かを操作していた博士が、こちらを向いた。


 「まず単刀直入に言おう。この計器は、『サメ率』を表しておる」

 「サメ率……?」

 「やぶから棒にどうしたのよ。もしかして、とうとうボケたのかしらこの爺さん」

 「まあ聞け。サメ率というのは、その生物、あるいは無生物がどれほどサメに近いかを示している」


 思ったよりヤバい事実が出てきたな。

 狂っているとしか言い様のない、理解したくない類の事実だ。


 「その、サメ率と俺にはどういう関係が?」

 「シャークウェポンのメインパイロットは、敵を殺す度にサメ率が上昇する。つまり、サメに近づいていくのだ」

 「は……?」

 「サメ……?」


 え?

 俺が、サメに……?


 「ちょ! それ、アタシは大丈夫なんでしょうね!?」

 「お前さんは、問題ない。黒髪と白い肌で、ホホジロザメ判定を受けておるのだろう。そもそも、サブパイロットには何の影響もない」

 「なーんだ。それなら良かったわ。後、アタシの髪は黒じゃなくて、ガンメタルよ」


 掌返しが凄い!

 まあ、確かに色合いがホホジロザメっぽいとは常々思ってたんだよ。


 いや、それよりもだ。

 博士の言葉を鵜呑うのみにするなら、俺はサメに近づいていることになる。

 すでに、3割くらいサメになっている。もうこれ手遅れじゃないか?


 「そ、それって大丈夫……じゃないですよね?」

 「無論。サメに近づくということは、野性に近づき、凶暴性が高まる。しかし、今のお前には、まだ人間の部分が残っとる。なので、凶暴性と人間の知能が合わさり、残虐性が高まっておる。平たく言うと、理性が吹っ飛びつつあるんじゃな」

 「残虐性……」


 思い当たるふしはある。

 最初の出撃時、俺は異世界人を殺そうと考えた。思えば、そこから始まっていたのだろう。

 それに、巨大魚との戦いでは、オニヒトデをいたぶることを楽しんでいた。


 まさしく、俺がサメになりつつあるということだったのだろう。


 ……予想できるか!!!

 それにサメはこんな残虐じゃねぇだろ。サメを何だと思ってんだ。


 「その、100パーセントになったらどうなるんです?」

 「サメの身体能力と凶暴性、人間の知能を持ったサメになる」

 「ええ!? 俺、魚になるんですか!?」

 「いや、どんなサメになるかは、本人の精神や思想、深層心理などに左右される。故に、なってみなくては分からん。もしかしたら、人型などもあり得るかもしれん」


 もはや何でもアリだな。

 サメ映画並みの理不尽だ。見てるだけなら楽しんだり、鼻で笑ったりできるが、当事者にはなりたくなかった。


 「お前さんは、すでにサメになりかけておる。その兆候も現れとるぞ」

 「は?」

 「ほれ、鏡じゃ」


 本間博士は、手鏡を取り出した。

 俺はそれを受け取り、恐る恐るのぞき込む。


 「……どこも変わった所は――ああ!?」


 喋ろうと口を開けた時、とんでもないことに気づいてしまった。


 「歯がギザギザになってる!?」


 俺の歯が全て、綺麗な三角形をした、サメのような歯になっていたのだ。


 「えぇ……」


 歯を鳴らすと、ガチンガチンと、小気味のいい音がする。

 どうやら、人間の歯ではないようだ。生物由来かも怪しい。


 「まあいいいじゃないの、可愛らしくて。それに、平々凡々なアンタにも個性ができたと思えば悪くないんじゃない?」

 「そうかな……」

 「それで、歯ブラシをすぐダメにしそうってだけで、他に何か生活に影響ある?」

 「そうかも……」


 まあ……良くもないが、悪くもない。

 歯ブラシも、専用のを博士に頼めばいいし。


 サメになるのも、人型かつ誤魔化ごまかせる範囲なら、許容できるかもしれない。どうせこんな世界だ、誰も気にしないという思いもある。

 問題は凶暴性だ。この精神的影響さえなければ、まだ妥協はできる。


 「せめて、凶暴性云々ってのを無くすことはできませんか?」

 「方法は、無いでもないじゃろうな」

 「それじゃあ……」

 「わしには分からん!」

 「えぇ……」


 一気にこれ以上シャークウェポンに乗りたくなくなったぞ。

 だが、本間博士は更に続けた。


 「だが! 分かる者はいる!!!」


 博士が、操作盤にある何かのボタンを叩き込む。

 すると、デカいモニターに文字が映り、中性的な合成音声が流れた。


 『このロボットは、


 世界サメ連合

 株式会社ハイカロリーコレステロール

 無限会社ウロボロス

 タチバナ総合研究所

 牧島研究所

 東北重工

 霊知たる太陽教団

 月極定礎ホールディングス

 ゴランノス・ポンサー

 東亜複合工業

 九龍城塞

 ミリオンダラー・ゴールドラッシュ

 A&A Foundation

 Automata A.I Robotics

 BABEL

 British Side

 Ecumenopolis Construction Company

 Fate Against

 GG Laboratory

 Great Animal Titles

 Happy End Lucky Laboratory

 Neptune

 OAKFYKS

 Qliphoth Corporation


 の提供でお送りいたします』


 「何これ?」

 「戦犯リスト?」


 何だこの提供クレジットは。

 聞いたことのある大企業もあるし、無いものもある。宗教団体っぽいのや、何なのか分からないものも。


 もしかして、これの全部がシャークウェポンの製造に関わってるのか?

 だとしたら納得の報酬量だし、回収された魔怪獣の素材の行き先であるとも考えられる。


 まあ、アルルカンのいう通り戦犯リストだな。


 「この中に3つ、サメに関する組織がある」

 「3つもあるのか……」

 「サメ連と……どれ?」


 全く分からない。何で世界サメ連合なんてあるんだ。

 こんな奴らが協力してる時点で、サメ要素が強くなるのは明白だろ。


 というか、答えを教えてくれよ博士。自分で考えるのにも限界がある。


 「近いうちに、これらの代表が集まる会議がある。その時、何か方法が無いか聞いてみよう」

 「今じゃダメなんですか」

 「向こうもかなり忙しいはずじゃ、アポを取るにしても、数ヶ月はかかるじゃろう。なら、会議の時に聞いた方が早いという訳じゃ」


 なるほど、理にはかなっている。

 問題は、その会議のある日だな。明日とか言われたらキレるぞ。


 「会議は1ヶ月後じゃ。その時になったら、また連絡する。予定は空けておいた方が良いぞ」

 「あ、割と後なんですね」

 「ちょーっと興味あるし、空けといてあげるわ」


 代表ったって、どんな人(?)が集まるのか。想像もできない。


 「後、この会議があるというのは極秘じゃから、誰にも言ってはならんぞ」

 「分かりました」

 「まー、覚えといてあげるわ」


 何かの拍子にポロッと漏らしそうで怖いけどな……


 「まあ、解決しそうで安心しました」

 「それはよかった。まあ、凶暴性と言ってもな。これは元々、戦闘時に殺しへの躊躇ためらいを無くすシステムだったのじゃが……サメ連に任せた結果、どういう訳かサメになってしまったんじゃ」

 「諸悪の根源なのでは?」

 「大丈夫じゃろ。精神に影響があるのは戦闘時のみ。それは変わらん」


 あれ、凶暴化は戦闘の時だけなのか。

 というか、サメに埋もれてる感じがするが、元のシステムも中々にヤバい。


 「どちらにせよ、100パーセントに備えておいた方が良いだろうな」

 「そうですね……」


 これからどうなるのか。不安だな。


 「話終わったの?」

 「ああ」

 「じゃあアタシは帰るわね」


 アルルカンは、生身でも強い系のパイロットらしく、リフトも使わずそのまま飛び降りた。

 特に誰も何も言わないのはおかしいだろ。博士でさえ、呆れたような顔をするだけだ。


 やっぱりこの世界は狂ってる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る