第6話 アンドロマリウス勝利! そしてその後……!?
「そこだぁぁぁぁ!!!」
『ゲェェェェ!?』
キズナの駆る、魔道騎士鎧メイガス・ナイト改め、正義の悪魔アンドロマリウスは、その槍で怪鳥を狙った。
槍は怪鳥へと命中したが、見た目に反して分厚い肉を貫くには至らなかった。
だが、浅いといえど、怯ませるには十分な威力を持っていた。
「
『ギョオオオオ!?』
怯んだ怪鳥を、空いた手で殴る。
パイロットの動きを機体へダイレクトに伝えるシステムが、喧嘩で鍛えられた拳筋を忠実に再現した。
その威力は、いくら頑丈とはいえ、鳥類ゆえに軽く脆い骨を砕いた。
『ゲェェェェ!!!』
「このッ! ハァッ!!!」
『ギェェェェ!?』
だが、狂気に燃える怪鳥は、怯みこそすれど、止まることはなかった。
『肉を切らせて骨を切る』。砕かれたのは骨だが、まさに文字通りに、持ち前の鋭い翼で反撃した。
アンドロマリウスは、咄嗟に上体をそらすことで、これをギリギリで回避することに成功した。
そして、その勢いのまま、槍を下から突き上げ、逆に怪鳥の喉元を突き刺した。
『ゲッ!? ……ゲェェェェ!!!』
「うわっ!?」
喉を突き刺された怪鳥は、そのまま身を無理矢理ひねり、アンドロマリウスごと回転することによって、槍の拘束から逃れた。
「チィッ! そらよ!!!」
『ガッ!?』
無理な回転により、体勢を崩しながら宙を舞うアンドロマリウス。
しかし、その一瞬で、足場だった
コンクリートや鉄などが入り混じった
不意打ちじみた
「まだやるのか!?」
『グググ……』
無数の傷を負い、ついには地に墜ちた怪鳥。
アンドロマリウスを睨みつけるその目に浮かんでいるのは、狂気。ただそれだけだった。
『ギョアアアアァァァァッッッ!!!』
怪鳥に、生き延びるなどという、生物としての生存本能など一切存在しない。
ただ、自身の全てを振り絞り、全身全霊で
怪鳥は、見て分かる程の狂気を身にまとい、空に飛び立つ。
向かう先は、アンドロマリウスただ1人。
「……来いッ!!!」
アンドロマリウス……キズナには、怪鳥が『俺を見ろ!』と言っているように聞こえた。
それが錯覚なのか。彼には分からない。だが、彼は全身全霊で迎え撃つことを選択した。
『ゲェェェェッッッ!!!』
「うぉぉぉぉッッッ!!!」
大空を飛ぶ怪鳥。その
生存など考えない、捨て身の特攻である。
対するアンドロマリウスは、死を覚悟しているものの、死ぬつもりなど毛頭ない。
怪鳥より高い建物から、鳥に狙いを定め……槍を投げた。
『ガギッ……』
胴体……心臓を貫かれた怪鳥は、アンドロマリウスに追突することなく、大空を羽ばたいた。
怪鳥は日輪の中を飛び続け――
ドワオオオオォォォォ……
やがて、爆散した。
巨大な羽毛が、空を舞う。
「――勝ったぞぉぉぉぉッッッ!!!」
キズナとアンドロマリウスの勝利である。
◇
「これが才能の差ですか」
「笑っちゃうくらい強いわね」
俺達2人は、危機が去ったからと、呑気に操縦席に寝転んでいた。
動力が独立しているのか、まだ動くモニターで戦闘を見物するのは、正直のところ、楽しかった。
「何か、完全にモノにしてるって感じね。動きからして、アタシらとは違うわ」
「パイロットの腕……やはり天才……」
俺は、パイロット歴2日だが、キズナは1日。
どんぐりの背比べのはずだが、動きは確実に向こうへ軍配が上がっていた。
「同じ機体で戦ったら確実に負ける自信があるぞ」
「同じ機体なら、でしょ? こっちの土俵に持ち込んだら、勝てはせずとも負けない……いや、勝つわ」
「はぁ〜、凄い自信。まあ、言うだけのことはあるけど」
ガリガリさんに一撃当てたからな。
彼女はその点、反射神経とか、動体視力とかは凄いんだろうな。
「うわ、槍が刺さったまま飛んでる……」
「フクロウじゃないけど月輪に飛んでそう」
即死の邪眼とか無くてよかった。
「あ、爆発した。綺麗な花火ねぇ〜」
「汚い花火だなぁ」
まるで正反対の意見。
まあ、純粋な感想でしかないので、仲違いとかは無い。
「勝鬨……ここまで聞こえるとか、どんな肺活量してんのよ」
「さっき高笑いしてた奴よりデカい……」
戦慄する俺達。
まさか、後輩が肺活量オバケだとは思わなかった。
て言うか、やっぱりキズナは主人公だったんだ。1話特有の初登場補正もあるだろうが、初陣であの戦果。
間違いなく、熱血系主人公だろう。後は仲間だが……考えないようにしよう。
「……で、こっからどうすんの?」
「取りあえず、博士が何とかしてくれるっしょ」
俺達は、機能停止したシャークウェポンから抜け出すことができないでいた。
コックピットのフロントガラスも、ガラスを固定している金属のフレームが折れ曲がり、出入り口が開閉しない。
叩き割ろうにも、すでに
つまり、博士の助けを待つしかないのだ。
『今、救援が向かっておる。しばし待て』
「うっす」
博士はすでに動いているらしい。
俺達にできるのは、このままのんびりしてることだけだろう。
「……ん?」
「どうした?」
「いや、何か……動いてる?」
「そんな……エネルギー切れで……!?」
身体を伸ばしてくつろいでいたら、明らかにシャークウェポンが揺れた。
急いでエネルギーを確かめると、係数が無茶苦茶に増減を繰り返していた。
そして、シャークウェポンの状態を表すモニターでは、今まさに、ミサイルポッドが現れたところだった。
そのまま、深く腰を下ろした四股のような体勢からミサイルが発射されようとしており……
「マジか!?」
俺は、急いで赤いレバーを引いた。
すると、シャークウェポンは急停止し、ミサイルポッドは全て収納された。
念のため、エネルギーなどを確認するが、全て停止していた。
「フゥーッ……ヤバかった……」
「ちょ、ちょっと! 今のは何なのよ!?」
彼女は、俺に詰め寄ってきた。
人形のように綺麗な顔だが、それ故に怒ると迫力があって怖い。
「い、今のは暴走だ」
「暴走~?」
「ああ。シャークウェポンは、敵を倒した後には暴走するんだ。だから、こうやって赤いレバーを引いて、止めなきゃならない」
「……暴走するのは分かった。けど、エネルギー切れとか言ってたじゃない。それはどう説明すんのよ?」
「俺にも分からん。エネルギー切れでも動くとは思わなかったし、そもそも乗って2日目だし……」
「アンタも素人だったの!?」
「まあ、詳しいことは、博士から聞いてくれ」
「……しょうがないわねぇ~。取りあえず納得しといてあげるわ」
渋々ながらも納得はしてくれたようだ。
まあ、同じ立場だったら俺もこうなってただろうし。
そして、全ては博士に押し付けるに限る。シャークウェポンのことは、誰よりも知ってそうだ。
そんな中、博士を待っていると、シャークウェポンの前方から飛行物体が現れた。
モニターでよく確認すると、前にもシャークウェポンからおろしてくれた人だった。
「あ、助けだ」
「やっと来たのね」
デカいドローンみたいな乗り物に乗って来た人は、取り出した機材で、出入り口をこじ開けた。
「大丈夫だったか!? ガラスがとんでもない状態だが」
「正直後一歩で死んでましたね……」
開始一番に心配してくれているが、俺にはそう答えるしかなかった。
「その……すまない。こんな危険なことに巻き込んでしまって」
「いえ……命の危険を除けば、いい仕事かなぁ、って……」
博士には、早急にシャークウェポンを強化してもらいたい。
急に止まったり、鳥に壊されるスーパーロボットに乗るのは流石に嫌だ。
「そうか……博士には進言しておく」
「聞きますかね?」
「……期待は、しないでくれ」
まあ、そうだろうな。
しかし、何で俺なんだろうか。さっさとパイロットを見つけてほしいものだが。
彼は、気まずそうに俺から顔をそらし、隣の方を見た。
そこには、いつの間にかたたずまいを正している彼女がいた。はりつけたような笑みを浮かべている。
……?
「それで、そちらのお嬢さんとは初めましてだな。俺は
「これはこれは、ご丁寧にどうも。アタシはアルルカン・オーギュスト。か弱い一般女子高生でーっす☆」
綺麗なカーテシーの後、全力で媚びるような、しかし、どこか胡散臭い自己紹介。
知らない者が見たら、よほどでなければ本性を隠し通せるだろうそれを、彼女は平然とやってのけた。
えぇ……か弱い一般女子高生は、高速で動き回る奴を一撃で倒したりはしないんだよなぁ。
というか、何だ? こいつはこんな猫被って何がしたいんだ?
「あんな首無し棒人間に追いかけられたあげく、鳥に食べられそうになって……アタシ、もうどうしたらいいか分かりませーん!」
「そうか……本当にすまない。博士には、言っておこう」
「えぇ……」
明らかにウソ泣きだし、高瀬さんは騙されてるし。
この空間に居続けるのは無理だ。早く回収してもらいたい……
目をそらした先には、あの計器。
前は確か、0.95となっていた。しかし、今は1.45に増えている。
嫌な予感がするんだよなぁ……
◇
あの後、高瀬さんには無事に下までおろしてもらった。
異世界人のことも気になったが、高瀬さんに聞くと、降伏して無力化した者以外は殺したらしい。
……日本は他国とは戦争しないが、異世界とはするのか?
それとも、本間博士のように、一部の者が独自に動いているのか。
どちらにせよ、高度な政治的判断とかそんなアレだろう。
「……なあ、さっきのは何だよ? あんな猫被って」
「さっきの……アタシのこと?」
「ああ」
高瀬さんがどこかに行ったので、こうして話している。
俺の質問に、彼女、アルルカン・オーギュストは、肩をすくめながら答えた。
「学校じゃ、あのキャラで通してんのよ。訳あってね。いやぁ、コロッと騙されてくれて助かったわ~」
「訳……その、アルビノか……? いや、深くは聞かないが……お前ゲスいなぁ」
デリケートな問題かもしれない。聞かない方がよかったかも。
しかし、彼女は……
「は?」
「っ!?」
ガシッ、と俺の肩を掴んできた。
物凄い形相だ、逃さないという意志を感じる。
俺は何か、地雷を踏んだのだろうか。
「アンタ、何てった?」
「え、い、いや、その」
「あ、アルビノって言ったの?」
「い、言ったよ……」
地雷だったか?
次からは言葉に気をつけよう。次はあるか分からないが。
彼女は、今度は難しい顔……心無しか、焦ったような顔をした。
「……アタシは、何に見える?」
「な、何?」
「印象とか、ド直球に、具体的に答えなさい」
「に、人形か……? 正直、アルビノよりも白くて、人間には見えない。最初見た時は、本当に人形が動いてるのかと……」
俺がそう答えると、彼女は俺から手を放し、『しまった』というような顔をした。
おまけに、両手で口元をおさえている。とんでもない失敗をしたようだ。
「アタシ……化粧忘れてきた……?」
「化粧も何も、1年からそんな様子は無かったが……?」
彼女の言う『化粧』というのは、人間にしては白すぎる自分の肌を、できる限り人間の色に寄せるためのものだろう。恐らくだが。
しかし、彼女はあろうことか、その化粧を1年間忘れるという、とんでもないガバを犯したのだ。
「嘘……これじゃ任務が……」
おおっと。聞いちゃいけない単語が。
ゲスさに反してポンコツなのだろうか。それとも、普段は有能だが、たまにうっかりするのか。
取りあえず、耳をふさいでおこう。
その内、落ち着きを取り戻したのか、彼女は立ち直った。
そして、はっとした様子で、こちらを見た。
「……聞いてた?」
「何も」
「……嘘ね」
「……任務って単語だけ」
「……」
「……」
「黙っててくれる?」
「うん……」
俺は何も聞いていない。
なので、話題を変えよう。こういうのは、切り替えが大事だ。
「あー……それで、シャークウェポンのことなんだが」
「アンタ、話題転換下手じゃない?」
「お、お前、痛いとこを……まあいいや。とにかく、お前も博士に目をつけられた可能性が高いぞ」
「博士って、あの顔面凶器の?」
「その顔面凶器の博士は、前も言ったが、狂ってる。強く断らないと、またシャークウェポンに乗せられるはめになるかもしれない」
「それはごめんだわ……」
俺も、乗るのはいいんだが、耐久力の強化してくれねぇかな。
そんなことを考えていると、誰かが近づいてきた。あのシルエットは……
「おお、お前達。ここにおったか」
噂をすれば、この始末。
顔面に大きくXの刀傷。本間博士である。
「博士! どうしてここに?」
「シャークウェポンの修理じゃったが、ちょうどお前達を見つけてな。丁度いいので、報酬のことを言っておこうと思ってな」
『報酬?』
報酬とか出るのか……いや、タダ働きの訳が無いよな、うん。
もしそうだったら、博士を殴ろう。
「うむ。取りあえず、これだけ出る」
「どれどれぇぇぇぇ!?」
博士が、取り出したタブレットを操作し、こちらに向けてきた。
そこに表示されていたのは、ゼロが8個……ウン億円の大金だった。
「ほ、ほ、本当にこんなにもらえるんですか!?」
「無論。しかも、非課税じゃ」
『非課税!?』
俺達は、思わず顔を合わせた。
命がけの任務で、この大金はずるい。
「まさか、1億円以上ももらえるなんて……」
「山分けでも十分ね……」
「ん? 勘違いしとるようだが、円ではないぞい」
「へ?」
「ドルじゃ」
『ドル!?』
大金持ちってレベルじゃねーぞ!?
逆に怖くなってきた。多分、今の俺の顔は青ざめている。
「それに、山分けではなく、1人あたりじゃ」
『1人あたりでこれ!?』
もう、めまいがしそうだ。
これは、夢なんじゃないだろうか。
「……は、博士」
「どうした?」
「何で、俺なんですか……? 他の人でもよくないですか?」
何故、シャークウェポンのパイロットに選ばれた……というより、まだ代わりのパイロットは見つかっていないのか。
「……それは、まだ言えぬ。だが、お前があの穴から落ちてきた時、運命を感じたのは事実じゃ。そして……更に残酷な運命を背負わせていることも、な」
「……」
「どちらにせよ、他のロボットならともかく、シャークウェポンに乗れる……いや、メインパイロットになれる人間はお前さんだけじゃ」
「専用機かな?」
「そんなところじゃろうな。何はともあれ、当分頑張ってもらうぞ」
抽象的な答えが返ってきた。
恐縮だが、ロボットモノにありがちな、
まあ、シャークウェポンから降りることはできないらしい。
報酬もあるが……使い道が見つかんねぇ。
「して、そちらのお嬢さんはどうかな? よければ、シャークウェポンのサブパイロットとしてスカウトしたいのだが……」
「あ、アタシは……」
滅茶苦茶迷ってる。
大金とかと色々天秤にかけてるんだろうなぁ。
彼女は、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと返事をした。
「……そうね。ま、面白そうだし? やってあげてもいいわ」
「ほほう! それでは」
「ただ……」
「ただ?」
「ガラスの強度を上げといて欲しいわね……」
「あぁ……」
本当に、全体的な強化をして欲しい。
何なら、今稼いだ金を全ブッパしてもいい。流石に命には代えられない。
俺もその辺の話をしようと思っていると、こちらへ向かってくる人影が。
あれは……キズナだ。手を振りながら、笑顔でこちらに向かってくる。
「センパァァァァイ!!!」
「そうじゃった。彼にも報酬を渡さんとな」
「あんま金に興味なさそうですけどね」
取りあえず、今回生き延びることができたことに感謝だな。
やっぱり、研究所に行って操縦の練習とかさせてもらえないものだろうか。
近づいてくる後輩を見ながら、そんなことを思った。
――――――――――
【
・通称、キズナ。
気風の良い熱血漢兄貴分系1年生。
喧嘩やバイトで鍛え込まれた素晴らしい肉体を持っている。視力が高く、3.0もある。第六感も優れている。
人々を惹ひきつけるカリスマの持ち主であり、その気になればどんな者であろうと彼に跪くだろう。
熱血漢であるものの、ロボットの操縦に関してはかなりの技巧派。使えるものなら何でも使い、相手をじわじわと追い詰めてから狩る、狡猾な天性のハンターである。
【
・毎回シャークウェポンからおろしてくれる人。
【狂っ鳥】体型:鳥 身長:25メートル 分類:鳥類
・普段はじっとしているが、戦闘が存在するとそこに介入し、死ぬまで暴れ狂う。
繁殖力が高い上に基本群れで行動する。しかも、耐久力や生命力、魔力なども高いという、正真正銘の害鳥。
この鳥の暴走が連鎖した時の被害は、異世界では驚異的な災害の1つとして畏れられている。
『こんな鳥と一緒の任務とか、気が、狂っとりますわ(氷属性魔法)』
『は?(氷耐性)』
【魔道騎士鎧メイガス・ナイト】体型:人型 身長:27メートル 分類:ロボット
・魔獣は、強大な力を持つが故に、制御は難しい。そして、魔力以外にも、食料の消費が馬鹿にならない。そもそも、捕まえて手懐けるにしても、大きな危険を伴う。
そんな現状を打破するために、魔獣に頼らない新兵器が開発された。それが、この魔道騎士鎧メイガス・ナイトである。
その中でも、最初期に作られた1体が、異世界への侵略のために持ち出された。
『これの試作品、鹵獲されたらしいっスよ』
『ほわああぁぁぁあああぁあああぁぁぁぁぁ^p^(発狂)』
※【魔獣】とは、【魔怪獣】のことである。異世界では魔獣と呼ばれている。
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