第5話 正義の悪魔! アンドロマリウス見参!!!
「さて、どう来る……?」
主人公機みたいなロボットは、槍を持って仁王立ちしたまま、動かない。隙だらけだが、何か狙いがあるのだろう。
俺達は、いつでも動かせるようにしながら、様子をうかがっている。
しかし、
「……?」
「これは……笑い声?」
高笑いだ。『ウワハハハハ』とか、徐々に高くなっていく系の。
その音源は、間違いなくあのロボットである。
『ハァーッハッハッハァ!!! 愚かなる異世界人達よ! この無敵の装甲、魔道鎧メイガス・ナイトの前にひれ伏すが……うわぉおおわああああっ!?』
あのロボットに乗ってる奴が名乗りを上げた瞬間、
その腕に横っ腹をぶん殴られ、面白いように飛んで行ったあのロボットは、廃屋確定な建物をなぎ倒しながら、学校の前に止まった。
あ、危ねぇ~……
「お前、躊躇いも無くロケットパンチのボタンを……というか、最後まで言わせてやっても」
「最後まで言えない程度の実力しか持ってない奴が悪いとしか言いようが無いわね~」
俺は操作していない。彼女が、コックピットにある『ロケットパンチ』と書かれたボタンを押した。
彼女は、倒れ伏したロボットを見て、
段々とゲスさがにじみ出てきたな……若干、隠しきれてなかった気もするが。
『ギャアアアア!!!』
「うわっ! この鳥ヤバイぞ!」
「んなもん見りゃ分かるわ!」
ロボットを吹っ飛ばしたのを、戦いのゴングとでも思ったのだろうか。
さっきまでの落ち着きは何だったのかと思う程、滅茶苦茶な攻撃を仕かけてきた。
勿論、迎撃してはいるが、当たらない。
ガリガリさんよりは遅いのだが、どういうことだろう。
「……? あっ」
「どうしたの……よっ! クソが、当たりゃしねぇ……」
「エネルギー残量が、底をついた」
「はぁ!? 嘘でしょ!?」
コックピットのメーターによると、エネルギー残量は僅か1.2%である。
そんな状態なので、シャークウェポンの動きは鈍くなっていたのだ。
1パーセントはおかしいだろ。
「何かが、予想以上にエネルギーを大量に食ってるんだ」
「ちょっと派手に動き過ぎたか……?」
腕を動かすのも、非常にゆっくりとした動作になってしまった。
今は、腕を顔の前に持ってきて、ひたすら防御の体勢を取っている。
「あ」
「止まったぁぁぁぁ!?」
そして、ついに防御の姿勢のまま、棒立ちになった。
もはや俺達の制御を受け付けず、鳥に突かれるしかない。
その鳥は、腕の間を無理矢理こじ開け、シャークウェポンの顔。つまり、コックピットを攻撃しようとしている。
狙ってやっているのか、偶然なのか。どちらにせよ、俺達のピンチに違いない。
「博士! 博士! シャークウェポンが止まっちまったよ!」
急いで博士に通信する。困った時の博士である。
でもこれ、『お前は用済みだ』みたいな展開にならないよな?
『何!? エネルギー切れか! そうなればシャークウェポンは暴走する鉄の塊じゃ! 気を張りながら、何とか耐え忍ぶんじゃ!!!』
「無茶言ってくれるわねぇ、この老いぼれは! 何をどうしろってのよ!? このままじゃアタシら共々鳥のエサになる! コックピットが壊されるのも時間の問題よ!」
「言いたいこと全部言ってくれた……」
おおむね彼女の言う通りである。
今、コックピットは物凄く揺れていた。
言うまでもなく、原因はあの鳥だ。コックピットを突かれている。
「ああ、
『馬鹿な!?超強化特殊ガラスが破れるなど!?』
そんなもん、壊されるために存在してるようなもんだろ。
設定上は強いはずなのに、噛ませ犬になるアレと同じだよ。
『ならば、緊急脱出ボタンを……』
「さっきから押してるのに何も起こりません!!!」
『馬鹿なぁぁぁぁ!?』
そう。俺はフロントガラスに罅が入った時点で『緊急脱出』と書かれたボタンを押したのだが、何も起こっていない。
「ああ! ガラスが破れる!」
「クソッ! これは使いたくなかったけど……いややっぱ無理!!!」
ボロボロになったガラスの隙間から、風が入ってきた。
鳥は、最後の一突きと言わんばかりに、身体を大きく後ろに反らせる。
ガラスが、いよいよ破られそうになった時だった。
『ギェェェェ!?』
「んあ?」
「あら?」
突然、鳥が汚い奇声を挙げながら、視界から消え去った。
まるで、何かに横殴りにされたように。
「あ!? あれは!?」
「さっきのロボット!? でもどうして……?」
『なぬ!?』
あの鳥を殴り飛ばしたのは、先程ロケットパンチで不意打ちしたはずの、ロボットだったのである。
『危ねぇとこだったな! 助太刀するぜ!!!』
「この声! キズナか!?」
「あの1年の……?」
乗っていたのは何と、あの高笑いしてた奴ではなく、キズナだった。
校庭の方を見ると、異世界人の軍隊が、多数の生徒にふん縛られていた。
高校生に負ける軍人って……
『やい鳥野郎! ここからはこのキズナ様と、スーパーロボット・アンドロマリウスが相手だぜ!!!』
『キョオオオオォォォォ!!!』
名乗りを上げたキズナとロボット、アンドロマリウスは、
どうやら、あのロボットは
仮にも高校生にここまでやられるかよ。雑魚過ぎるだろ……
◇
情に厚く、正義感も強い。そして、どこまでも皆を引っ張っていくカリスマ性を持っていた。
そんな彼も、高校1年生。悪友達とバカ騒ぎをするのは鳴りを潜める……かに思われた。
だが、校内での事件も落ち着いた矢先、この騒ぎである。
1人、外へと駆け出す先輩からは、どういう訳か、頼りにされた。
危険だと言われたが、もとより厄介事には首を突っ込み、全身全霊を以て解決するキズナである。
命など惜しくはない。故に、キズナは立ち上がった。
「オラァァァァッッッ!!!」
「ぐわああああ!?」
――キズナの拳が、侵略者の顔面を打ち
幼少期から
それに、気合いが加わると、軍人といえども耐えられるものではなかった。侵略者の意識は、痛みとともに暗転した。
「おおおおぉぉぉぉ!!!」
キズナの背後から、異世界人が襲いかかる。
手に持っているのは、警棒にも見える、棍棒である。
魔法がエンチャントされたそれは、普通の棍棒よりも、はるかに高い破壊力を発揮する。当然、人間が耐えられる威力ではない。
「おっと……ラァッ!!!」
「ぐわっ!?」
キズナは、野性的な直感でそれを察知し、回避した。異世界人は、体勢を崩す。
それと同時に、異世界人の腹部に、膝蹴りを叩き込んだ。
蹴りは、的確に肝臓を打ち抜き、意識を刈り取る。
「な、何て奴だ……おい! 合わせろ! ファイア・アロー!」
「アイス・アロー!」
「サンダー・アロー!」
「マジック・アロー!」
瞬く間に仲間が減っていくのを見て、比較的遠くにいた異世界人達は、攻撃魔法を使用した。
「当たるかよ!!!」
だが、キズナは高速で飛来するそれすらも避けた。またもや、野性的な直感によるものである。
しかし、文字通り矢継ぎ早に連射されるそれは、いつまでも避け続けることはできないだろう。
その証拠に、キズナの息が上がってきている。
「おわっ……!」
「これで終わりだ!」
疲労から、わずかにバランスを崩した隙をつかれたキズナが囲まれる。
今度こそ、避けられない角度だ。
「手こずらせやがって! これで止めだぁぁぁぁ!!!」
魔法は、キズナに命中する――
「これは!?」
「何ィィィィ!?」
――ことは無かった。
窓から投げられた何かが、魔法に命中し、かき消したのだ。
「な、何が……」
『ふざけんじゃねぇーっ!!! 妙な手品使いやがって!!!』
『キズナと学校を燃やす気かぁーっ!?』
まだ避難していなかった生徒達が、窓から身を乗り出していた。
更に、それとは別の生徒達が、ぞろぞろと玄関から現れた。
彼ら彼女らは、それぞれ程度は違えど、皆が異様な風体をしていた。
「お、お前ら……! 逃げてなかったのか!!!」
「あの巨体に踏み潰されたら、どの道助からないって聞かなくてねぇ」
「!」
その集団の最前線にいるのは、魔法使いのローブのように改造されたブレザーを着込み、桃銀としか言いようのない色の髪をした、美少女といっても差し支えない女子である。
敵が増えたとばかりに、魔法を発動する異世界人だったが……
「君達が魔法を使うタイミングは手に取るように分かるよ。ボクも
「ぐわああああ!?」
彼女が、
「サンキュー! グリット!」
「お安い御用さ」
桃銀の髪が、風になびく。
本当の魔法使いが、そこに存在した。
「他の奴らは?」
「ほら、向こうに」
グリットの指し示す方向では、異世界人達が、何人かの生徒に蹂躪されていた。
鎮圧されるのも、時間の問題だろう。
「やるなぁ! オレも休んでる場合じゃ……」
ほの時である。
ドワォォォォッッッ!!!
シャークウェポンの戦う方向から、とてつもない爆発音が聞こえた。
即座に、シャークウェポンの方を見る。
キズナの視力は3.0もある。故に、何が起きたのか、はっきりと見ることができた。
「爆発!? やったのか!」
見ると、あの頭の無い棒人間は、木っ端微塵となっていた。
シャークウェポンは、見事やりとげたのだ。
「オラッ! てめぇらの頼みの綱は粉々になったぜ! 観念しな!」
「が、ガリガリさんがこうも容易く……!?」
地に伏せ、
「いや? まだ終わってないみたいだよ」
「何!?」
「ど、どういう……!?」
グリットがそういった直後、シャークウェポンの背後に、光の粒子が現れた。
それらは、やがて2つの影を作り上げた。
「あっ!?」
その内の1つが、長柄の武器らしきもので、
「な、何だあのロボット!?」
「あ、あれは魔導騎士鎧メイガス・ナイト!? 試作品じゃなかったのか!?」
「知ってるのか、おっさん!」
「うむ……あれは制御の難しく、コストのかかる魔獣に代わり、次世代の兵器として開発された新型兵器……の試作品! 何故ここに……?」
ご丁寧に、ロボットのことを解説する異世界の軍人。
「あ、やられた」
「何と言う醜態……我が軍ながら恥ずかしい……」
ことの成り行きを見守っていると、無抵抗のメイガス・ナイトに、シャークウェポンのロケットパンチが炸裂した。
それをもろに食らったメイガス・ナイトは、校門まで後一歩、という所まで吹き飛んできた。
「危ねぇな……お?」
「どうしたんだい?」
「グリット、アレを見ろ」
キズナは、メイガス・ナイトを見て、何かに気づいた。
メイガス・ナイトの頭部から、人影が現れた。恐らく、コックピットから操縦者が出てきたのだろう。
「ここで動かされたら大惨事だ!」
「あ……おいおい」
グリットが何かするよりも早く、キズナは倒れたメイガス・ナイトに接近した。
「不意打ちとは……ふ、不覚……」
そこには、あちこちぶつけたのか、怪我まみれの人物が、コックピットと思わしき場所から身を乗り出していた。
それを見たキズナは、即座にメイガス・ナイトの上へとよじ登った。
「やい! 神妙におとなしくしやがれ!」
「何だお前!? ちょ、わ、わああああ!?」
あれよあれよという間に、コックピットから引きずり出され、蹴落とされる。
勿論、敵とはいえ殺したい訳ではない。蹴落とされた人物は、グリットの
「よし……ん?」
メイガス・ナイトを支配したキズナ。
彼は、シャークウェポンの様子がおかしいことに気づいた。
「全然動いてないぞ!?」
この時、シャークウェポンはエネルギー切れを起こし、巨大な鳥に防戦を強いられていた。
そして、ついには動かなくなってしまい、まるでキツツキのように顔面を連続で突かれていた。
「どうにかしなきゃやべぇぞ……あ!!!」
ここで、キズナに天啓がおりた。
――今、オレの立っている“こいつ”は!
「よし!!!」
思い立ったが吉日。キズナは、ちょうど開いていたコックピットに飛び込んだ。
中は、見たことも無いような操縦システムだった。
「ひぇ~。どうなってんだ、こりゃ? 動かすとこは……ここか?」
恐らく操縦桿であると思われるものを、持ち前の鋭い勘で掴み、ガチャガチャと動かす。
しかし、メイガス・ナイトは、うんともすんとも言わなかった。
『お困りのようだね』
「グリット!」
突如、脳内に響くグリットの声。そう、彼女は、テレパシーでキズナと交信しているのだ。
『動かないんだろう? ボクにいい考えがある』
「本当か!? で、そいつは一体?」
『フフフ……分からないかい? 気合いと根性だよ』
グリットの考えとは、まさかの気合いと根性である。
おおよそ、魔法使いというイメージにあるまじき理論を、彼女は提唱したのだ。
「なるほど!」
『いや待て待て待て!!!』
「あれ? おっさん?」
2人のテレパシーに割り込んできたのは、先程キズナに伸されていた男である。
『何を馬鹿なことを言ってる!?』
「気合いと根性のどこが悪いんだ?」
『そういうことじゃない! 魔力の無い者では、そいつは動かせない! いや、動かすことはできるが、代わりに生命力を使う! 死にに逝くようなものだぞ!?』
男の口から出たのは、どういう訳か、キズナの身を案じる言葉だった。
「命だって? 上等! あの先輩は、命懸けてオレらを助けてるんだ。なら、その借りは命で返す!!!」
『お、お前……』
しかし、それでもキズナの意志は揺るがなかった。
あのサメ――シャークウェポンに乗る先輩は、人間の手に負えない怪獣を、命がけで足止めしているではないか。
そして、現にコックピットを割られそうだ。
「このままじゃあ、先輩は死んじまう!!! あのガラスがぶっ壊された時がそうだ!!! 取りあえずあの鳥をどうにかするぜ!!! だから……」
キズナは、操縦桿らしき場所を握り、気合いをこめた。そして――
「動けぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
魂の限り、叫んだ。
『ゴォォォォ……』
その叫びに呼応したのだろうか。
沈黙を保っていたメイガス・ナイトは、突如として起動。その目に光を宿したのだった。
「やった!!! 動いたぞ!!!」
『そんな馬鹿な!?』
『やはり気合い……気合いは全てを解決する』
キズナの操作で起き上がったメイガス・ナイトは、そばに落ちていた槍を拾い、調子を確かめた。
土木作業のバイトにより、重機の操作ができるキズナなら、簡単に動かすことができるようだった。
「よーし、じゃあ……こいつの名前は何だ?」
『魔道騎士鎧メイガス・ナイトだ』
「うーん、イマイチしっくりこねぇな……そうだ! 前に読んだ悪魔の本に載ってた、最後の方にに書かれてた奴!」
『! そうか。それはぴったりの名前だ。では、いってらっしゃい。正義の悪魔よ』
「ああ!!!」
メイガス・ナイトは、軽やかに駆け出した。
先輩の乗る、シャークウェポンを助けるために。
「うおおおお!!!」
『ギェェェェ!?』
今にも破られそうなガラス。
それを、寸でのところで、鳥に対して槍を当てた。
ガラスの奥には、2人。あの先輩と、もう1人。
特に怪我をした様子はないと、キズナは安堵した。
そして、巨大な怪鳥に向き直り、啖呵を切った。
「やい鳥野郎! ここからはこのキズナ様と、スーパーロボット・アンドロマリウスが相手だぜ!!!」
『キョオオオオォォォォ!!!』
新たな勇者の戦いが、今始まる……!!!
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