第4話 隣のあの子はヤバい奴!? 第2パイロット候補惨状!


 「そらっ!」

 『ギッギッギギ!!!』


 シャークウェポンが腕を横薙ぎに振るう。

 頭の無い棒人間……ガリガリの奴は、それを巨体に見合わない、機敏きびんな動きで避けた。

 避ける際、胴体にあたる棒が一切動かず、足の関節だけがグルングルン動くので、滅茶苦茶キモい。


 『ギギーギー!』

 「チッ……当たれ!!!」


 何回も腕を振るうが、大振りな攻撃はかすりもしない。妙に甲高い声と、キモい動きで避けられる。

 そして、細い腕で殴りつけられる……が、対して効いてもない。見た目通りの貧弱だ。この分なら、装甲も紙だろう。


 体幹ブレないのヤバいな。足だけ使って高速で移動しそう。というか、してる。


 「うーん……何か無いんですか、博士」

 『ふむ……少なくとも、パイロットがもう1人必要じゃ。1人がシャークウェポンを動かし、もう1人が武装を使う。この機体のAIにも限界がある。それが奴じゃ』


 俺の質問に、モニターに映った本間博士はそう答えた。(電話はもう切ってある)

 つまり、AIでは反応できないので、2人いるのだろう。

 そして、限界とは多分、これ以上AIの性能を上げると、シャークウェポンが完全に制御不能になるとかだろう。完全に憶測だが。


 で、もう1人なあ。キズナは……わお、多対一で相手をボコボコにしてる。だが、油断すればすぐに校内へ侵入されるだろう。それは避けたいので、無しだ。


 というか、そんな都合のいい奴なんて……


 「ん?」


 カスみたいな攻撃で僅かに揺れるシャークウェポンのカメラが、何かを捉えた。

 それは、無駄に動き回るガリガリ野郎に踏み潰されないよう、全力で走る白い影。あれは……


 「隣の席の人!? 生きてたのか!?」


 てっきり、死んだか重症ではないかと思ってたが、そうでもなかったようだ。

 いや、そもそも、トカゲがいた場所にいたとは限らなかった訳で……

 うん。俺が勝手に不安になってただけだ。


 今、彼女は、人形のように美しい顔を歪ませて、必死に猛ダッシュしている。あれは凄く焦っている顔だ。


 下手に動くとヤバいかもだが、助けない選択肢は無い。シャークウェポンをかがませ、手を伸ばす。

 もう一方の手は、邪魔されないように防御に使うことにする。


 俺は、『スピーカー』と書かれたボタンを押し、喋った。


 「乗れ!」


 彼女は怪訝な顔をするも、魔怪獣を見ると、意を決したようにシャークウェポンの手に乗った。

 急いで、コックピットのある顔まで運ぶ。その際、コックピットの出入り口を開けておくことを忘れない。


 あれだけ走っていたというのに、息切れした様子も無い彼女は、コックピットを一通り見回すと、こちらを見た。


 「……何これ?」


 見た目通りに可愛らしいが、同時に腹に一物抱えてそうでもある。そんな声だった。

 いや、それよりも。何これとは……どう答えたものかな。


 「……何だと思う?」


 質問に質問で返すなとか言われそうだが、俺も説明が難しい。なので、自分で考えてもらう必要がある。


 シャークウェポンを操作しながら俺がそう答えると、彼女は、元々いぶかしげだった顔を、更に不機嫌そうに歪ませた。


 「……質問が悪かったわね。この……サメのロボット? は何?」

 「こいつはシャークウェポン。見ての通り、厄いスーパーロボットだ」

 「ふぅん……」


 彼女は、こちらを胡散臭うさんくさそうに見てくる。

 まあ、こんなことになったら、俺だってこんな顔をする。誰だってそうする。


 「ま、お礼は言っとくわ。あのままだと潰されそうだったし」

 「そりゃどうも」


 割とヤバい状況だったのか?

 それにしては、まだ余裕はありそうだが。


 『丁度いい! その借りは働いて返してもらえ!』


 モニターに映っている本間博士が、そんなことを言う。

 この場合の働くとは、シャークウェポンのパイロットである。俺の横の席だ。


 「何この爺さん?」

 「ヤバい人」

 「それは見れば分かるわ。で、働くって?」

 『横に操縦席があるじゃろう? そこにあるダイレクト・コントロール・システム……DCシステムを使うんじゃ!』

 「はぁ?」


 俺の横の席には、何かコードがたくさん繋がった、ガントレット篭手グリーヴ具足のようなものがあった。


 名前からして、本人の動きと直接リンクしてシャークウェポンを動かすもののようだが……


 『あの魔怪獣から逃げ回る身体能力! 間違い無い、お主は逸材じゃ! 故に、DCシステムを使えば、シャークウェポンもそれだけ強くなる!!!』

 「ねぇ、この爺さんボケてたり?」

 「ボケてはない。けど……狂ってる」

 「……」


 彼女は、こちらを同情するような視線を送ってきた。

 多分だが、これから君もこうなるんやで。


 『狂気だろうが正気だろうが構わん! それで、返事の方は!?』

 「何でアタシがこんなこと……とか言ってる場合じゃ無さそうね……」


 俺が操作していると言っても、向こうからの攻撃でボコスカやられている訳だ。

 今は問題無いが、その内響いてくるはずだ。


 「いいわ、協力してあげる。けど、アタシに何かあったら、こいつを殺すわ」

 「えっ!? 俺!?」

 『殺すのはいかん。せめて生かしておけ』

 「博士? それは……」


 クソッ、味方はいないのか。

 俺が博士に抗議している内に、彼女はDCシステムの装着を済ませる。


 装置は、腕と指、脚につけるようだ。動かすとこは最低限なんだな……向きとかは俺の方でも動かせるからいいが。


 「これでいいの?」

 『それでいい! これでシャークウェポンの操縦権はお前に渡った。だが、赤いレバーは忘れるなよ?』

 「……分かりました。赤いレバーは忘れません」

 「赤いレバー?」

 「後で説明するから、取りあえず、あいつに攻撃してくれないか?」

 「まあいいわ。こうかしら?」


 拳を握ったり、足を動かしたりして調子を確かめていた彼女は、鬱陶しい攻撃を続ける魔怪獣に対して、パンチを繰り出した。


 『ギギッギギギギ!?』

 「もろッ!」


 俺が操作するよりも、AIのものよりもはるかに鋭い一撃。素人目に見ても明らかに他者を殴り慣れたそれは、的確に魔怪獣を打ち付け、その四肢を砕いた。

 え、あいつそんな紙装甲だったのかよ。


 「はぁーん? とんだ見掛け倒しのクソ雑魚じゃないのよ、あの。アンタ、一発も当てられなかったの?」

 「いや、クッソ素早かったんですが……ん!?」


 あまりにもあっさりと倒された魔怪獣に対して疑問に思っていると、手足がバキバキに折れ、もがいていた魔怪獣が、急にガタガタと震え出した。


 「え、ちょっと……」

 「マジか……」


 魔怪獣は、折れた手足で起き上がる。すると、その手足が逆再生のように生えてきた。

 見た目自体は変わっていない。しかし、動きが違う。

 前よりも高速回転する手足で、更なるスピードを出して移動している。


 間違いない。強くなっている。


 「何か速くなってるわよ!」

 「もしかして、一撃で殺さないとダメだったか……うおっ!? まずい、避けろ!」

 「もうやってる!」


 俊敏な動きで動き回る魔怪獣に、彼女は攻撃を当てていく。

 だが、先程とは打って変わって、直撃したとしても四肢がちぎれるなどということはない。構わず細い腕でシャークウェポンを叩いていた。


 「クッソ……博士! 何かないですか!?」

 『すまん、今は手が離せん! 異世界人共の数が多い!』


 博士から打開策を得ようとしたが、断られてしまった。

 異世界人が多いとのことなので、シャークウェポンの足元を見てみる。

 周辺には、チラホラと異世界人の軍隊の姿が見られた。


 カメラをズームすると、指揮官っぽい奴が、推定部下と話しているのが見えた。

 せっかくなので、集音マイクを使ってみる。


 『なんということだ。一体どこの誰だ、ガリガリさんを呼び捨てにするなんて。こうなってはもう制御不能だ』

 『ですが、これはチャンスですよ。“アレ”をこっちに呼び込めます。それならあのサメも、向こうで暴れてるガキも倒せます』

 『むぅ……やむを得ない。本部に要請しろ』

 『了解』


 全く攻略に必要ない情報だった。

 『ガリガリ』がキーワードだったのかよ。というか、魔怪獣の名前、それでいいのか。駄目だ、ツッコミが追い付かん。


 しかし……何か来る? 新しい魔怪獣か?

 だが、どちらにせよ早く倒した方が得策だ。


 コックピットの内部を見る。『ミサイル』というボタンが目に入った。

 シャークトルネードは威力が高すぎる。この辺は滅茶苦茶になるだろう。


 「博士! ミサイルは自動追尾ですか!?」

 『自動追尾じゃ!』

 「よし! なあ、奴を上に飛ばせるか!?」

 「上に!? 出来なくはないけど……ねぇ!」


 俺がそういった瞬間、彼女は魔怪獣をアッパーで打ち上げた。すげぇ有能……

 そして、やっぱりシャークトルネードじゃなくてよかった。シャークウェポンは、胸のサメが上を向けない! どうしても斜めになる!


 「こいつで止めだ!」


 ボタンを叩き込むように押すと、肩、脚、腕……様々な部分から、無数のミサイルを内包したミサイルポッドが現れた。

 モニターでは、魔怪獣が自動的にロックオンされ、『JAWSジョーズ MISSILEミサイル』という文字が浮かぶ。


 「ジョーズミサイル発射ァ!!! 死ねぇ!!!」


 点滅するボタンを、もう一度押し込む。

 ミサイルポッドから、サメの形をしたミサイルが全て発射された。


 『ギギ!?』


 ミサイルは、本物のサメの如く魔怪獣み群がり、噛みついた。


 『ギ……ギィィィィッッッ!?』


 魔怪獣は、身体の内外から食い破られ、最期に爆発四散。その生涯を終えた。

 後には、ちりも残っていない。文字通りの木っ端微塵こっぱみじんである。


 「終わったの?」

 「いや、油断はできない。取りあえず、しばらくじっとしててくれ」

 「分かったわ」


 ガリガリさんは死んだ。だが、まだシャークウェポンの暴走がある。

 いつでも赤いレバーを引けるようにしていたが、一向に暴走する気配がない。


 「……?」

 「ねぇ、アンタ。何を待ってんのよ?」

 「暴走が……どわぁ!?」

 「何!?」


 暴走を待っていると、シャークウェポンが強い衝撃を受けた。

 ガリガリさんよりもはるかに強い。新手の魔怪獣かと身構えると、俺は驚愕した。


 「何だあのヒロイックなロボは……」


 倒壊しかかっており、ボロボロのビルの上に、そいつは立っていた。


 筋肉質で均整の取れた手足。綺麗な逆三角形のフォルム。勇ましい顔。そして、身体の細部をいろどる、わずかにとげとげしいがきらびやかな装飾。

 シンプルながらも、人型に近く、まさに『カッコイイ』という言葉が似あうロボットが、そこに存在したのだ。


 「アンタ、呆けてんじゃないわよ。アレは敵よ」

 「分かってる……」


 まだ動いていないロボットを観察する。

 身長は20メートル前後といったところだろうか。シャークウェポンの半分ほどだ。だが、その分スピードは段違いであると予想される。

 また、手には槍らしき武器を持っている。


 ……そして、その後ろには、新たな魔怪獣がもう一匹。

 ガリガリさんよりは小さいものの、十分デカい鳥が、建物の上にとまっている。そして、こちらをじっと見ていた。


 「実質2対1か……?」

 「そう考えた方が良さそうね」


 俺達にとっても、シャークウェポンにとっても厳しい戦いが幕を開ける……!




 ――――――――――



 【ガリガリさん】体型:人型 身長:50メートル 分類:ゴーレム

 ・種別としてはゴーレムに分類される。

 細身とはいえ、その巨体からは想像もできないようなスピードで動くことで知られる。

 また、名前を呼ぶ際に、『さん』をつけないと、烈火の如く怒り狂い、目につくもの……取り分け、呼び捨てした者を破壊しようとする。

 『どこかの間抜けが、ガリガリさんを呼び捨てにしたようだ』

 『また制御不能だよー(´・ω・`)』


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