第3話 この世界の主人公発見!?


 「見たかよ、昨日のアレ!」

 「勿論。ニュースもやってたし」

 「サメの方はどっか行っちまったけど、また出てくんのかな?」

 「あの怪獣の方も――」


 教室は、サメとトカゲの話で持ち切りだ。

 流石に学校内の珍事件とは規模が違うのか、普段よりもうわついたようにざわざわしている。


 俺は知ってるぞ。お前ら、人体実験騒ぎも、人間料理未遂の時も平然としてただろ。

 ……思えばその後か、俺がこの世界がおかしいと気づいたのは。


 「おーい、ショートホームルーム始めるぞー。席につけー」


 そんなことを考えていると、教室に先生が入って来た。

 明らかにまだ若い、20代前半くらいの先生(しかもイケメン)だが、このクラスの担任である。名は、段内だんうち融路ゆうじ先生。

 免許取り立てほやほや、今年から入った、ガチの新任教師である。


 そんな人を担任にするとは、狂ってるなこの高校。


 「せんせー! ニュース見ました!?」

 「見た見た! というか、先生は生で見たわ。いやぁ、あれを間近で見た時は顎が抜けるんじゃないかって程驚いたぜ。一緒にいた広田先生なんかもう……おっほん! 話が逸れた、今日と言う今日は脱線しないぞ。そうだ、今日はあのロボットと怪獣についての話がある」


 割とひょうきんなんだよな、この先生。

 そして、話の内容は昨日のアレか。まぁ、学校としては無視しない訳にもいかんよな。何せ、近所で起きた出来事なのだから。

 ……何で休校になってないんだ?


 「何で休校にならないのかってことだが、まぁ、話は簡単だ。万が一の際、学校と避難場所が近い……というか、体育館とかが避難所になるらしい。だから、学校にいた方が都合がいいってことだ」

 「えー、じゃあいつも通り授業あるってことですかぁー?」

 「ま、そーゆーことだ。取りあえず、怪獣が出たら、慌てずに避難するんだぞー」

 『はーい』

 「いい返事! でな、あのロボットと怪獣にのことだがな――」


 先生は、早速雑談に入ってしまった。そんな適当でいいのかよ。いや、理にはかなってるけど。

 というか、こんな話、普通は全校集会でやるもんじゃないのか?


 危機感足りてないぞ。 やっぱこの世界狂ってるじゃないか。


 キーンコーンカーンコーン……


 「お、もうこんな時間か。じゃあ、授業始めるぞー」


 授業が始まった。特に何事も無かったように。

 隣の席を見る。誰もいなかった。


 ……もしかしたら、隣の彼女も、あの倉庫の近くにいたのかもしれない。

 死んだと決まった訳ではない。だが、授業に身が入ることはなかった。




 ◇




 あれから時間も経ち、昼休みに入った。

 俺は、窓の外から様子を見ていた。


 あの二足歩行トカゲ魔怪獣が現れた時、空は雲で覆われた。

 本間博士によると、その現象は異世界人の使う魔法の影響であり、魔怪獣が現れる目安でもあるらしい。

 だからこうして、窓の外に目を光らせておかねばならない。勿論、博士の方からも連絡は来るけど。


 それでも、覚悟というか、気の持ちようの問題だ。連絡で聞かされるのと、自分の目で見るのとは大分違う。

 まあ、出てくるかは分からないけど。


 「ん?」


 空が急に曇り始めた。え、スパンこんな短いの?

 大体週1くらいだと勝手に思い込んでたわ。


 「おい! あれは何だ!?」

 「か、怪獣だ!」


 案の定、光の粒子から魔怪獣が現れる。

 今度の魔怪獣は、やたらと細い、人型。棒人間の頭だけ無いやつを想像したら、それが正解だ。マジで棒みたいに細い。


 魔怪獣が現れたと同時に、スマホが鳴る。電話番号は、博士のものだ。


 「もしもし」

 『もしもし、アレが見えとるか!? 今、学校にシャークウェポンを送っとる! 外に出て待機するのだ!』

 「あ、はい」

 『電話は切らずにこのままにしておけ! ああ、後、パイロットであることはバレてもいい! 急げ!』


 まさに緊急事態のようだ。電話の向こうからは、博士が大声で指示を出すのが聞こえる。

 というか、バレてもいいのな。後で情報隠蔽しまくるんだろうなぁ。


 「おい! お前ら、大丈夫か!? 取りあえず体育館まで避難するぞ!」

 「先生! あの巨人から見えませんかね?」

 「大丈夫だ! あいつからは、体育館へのルートは見えない! 皆、慌てず、騒がずに避難するんだぞ!」


 クラスメイト達は、静かに並び、体育館まで行こうとしている。

 俺だって逃げてぇよ、畜生。


 「お、おい。並ばねぇのか……って、どうしたその顔は? まるで苦虫を噛み潰したみてぇだ」

 「聞くんじゃない……! 何も……!」

 「お、おう……って、どこ行くんだ!?」


 逃げたいという思いとは逆に、並んでるクラスメイトとは反対方向へ進み続ける。

 何かのロボットアニメのアニソンの、そのまんま過ぎる歌詞と映像のようだ。

 まさか、俺がこんなことをするはめにはるとは、思いもしなかった。


 「ぬぉっ!? っと、すいません!」

 「おおっと、こっちこそすまねぇ……って、あれ? アンタ、どこ行くんだ?」


 考え事をしていたからか、曲がり角からいきなり人が出てきたのに気づかずぶつかってしまい、思わず変な声が出てしまった。

 出てきたのは、赤みがかった茶髪の、180センチくらいある改造学ランを着た1年生だ。入学式で目立ってた。


 凄いイケメン……というか、兄貴って言いたくなるようなタイプだな……

 まぁ、下駄箱はもうすぐだし、言ってしまっても構わないだろう。


 「ちょっと外に用事が……」

 「何だって? 外にはアレがいるんだぜ、危険だ!」


 彼は、俺を引き留めようとしてくる。凄くいい人だ。

 でも、立ち止まる訳にはいかない。


 「そのアレを何とかしに行くんだよ」

 「……もしかして、アイツをぶっ飛ばせる方法があるとか?」

 「その通り! だから、先を――」

 「オレもついてっていいか!?」

 「へ?」


 肩をガシッと掴まれ、詰め寄られる。

 俺よりも背が高いので、威圧感が凄い。本間博士ほどではないけど。


 いや、それよりも、彼は何と言った?

 

 「ついて来るって?」

 「ああ! アンタ、きっとあのサメに乗ってるんだろ!?」


 勘が鋭い。鋭すぎる。

 え、彼が主人公なんじゃないか。もしかして、俺は彼を庇って死んだり、大怪我で機体を託すポジションの人間だったりするんじゃないか。


 ……彼がどういうポジションなのかにもよるな。

 赤髪、熱血、勘がいいとか、主人公っぽい特徴を満たしてるっぽいので、ほぼ決まったようなものだが。

 そういえば、シャークウェポンには操縦席が2つあったな。答え決まりじゃないか?


 「……俺が言えたことじゃないけど、それこそ死にに行くようなものだと思うぞ」

 「いや、構わねぇ! アンタが命がけで皆を守ってくれるんだ。だったら、その恩は命で返すのが道理ってモンだろ!!!」

 「……」


 覚悟が決まり過ぎている。

 多分、死ぬことは無いだろう。連れて行くことにする……前に、幾つか確認しておかなければならないことがある。


 「そこまで言うなら、まぁ、自己責任?」

 「望むところだぜ!」

 「じゃあ、移動しようか」


 俺は、下駄箱の方へ移動しながらスマホで博士に話しかけた。


 「博士」

 『なんじゃ!?』

 「異世界人はいますか?」

 『待て……おる! 17人じゃ! 数は多いが、魔力反応は、前の奴らよりはるかに低い!』

 「ありがとうございます」

 『じゃが気をつけろ、奴ら、学校の方に移動しとる!』


 それだけ言われると、また怒鳴り声じみた指示が聞こえる。

 しかし、そうか。異世界人が学校に……


 「ええと、赤髪の……えー」

 「岩倉いわくらきずな。キズナって呼んでくれ!」

 「じゃあキズナ君。突然だけど、喧嘩は得意?」

 「この辺じゃ常勝無敗だぜ!」

 「根性や気合いはどうかな?」

 「自信あるぜ!」

 「じゃあ、魔法使いと戦える?」

 「ああ。使、絶対負けねぇ」

 「ヒューッ!」


 肩に羽織った、ド派手な改造長ランから覗く、細身だが鋼のような筋肉。こいつはやるかもしれねぇ。

 いや、マジで。


 「聞いたかもだけど、この学校に17人、異世界の軍人が近づいてきてる」

 「オレは、そいつらを全員ぶちのめせばいいってことだな?」

 「そう。ヤバくなったら逃げていいから」


 シャークウェポンでは、全く小回りがきかない。故に、人間大の相手は苦手である。建物が近くにあれば、まずぶっ壊れる。

 だが、彼ならば。キズナならば、学校に被害なくやってくれるに違いない(根拠無し)。


 「じゃあ、覚悟はいいかな?」

 「生まれた時からできてるぜ!」

 「頼もしい……」


 玄関から出たそこでは、ちょうどシャークウェポンが棒人間を殴り倒し、こちらに手を向けたところだった。


 「スゲェ……! アレが!?」

 「ああ、シャークウェポン……ナイスタイミング!!!」


 俺は躊躇ためらいなくシャークウェポンの手に乗り、そのままコックピットへと運ばれた。

 運ばれる途中でふり返り、大声で叫んだ。


 「下は頼んだぞー!!!」

 「任せてくれぇぇぇぇ!!!」


 コックピットでレバーを握ったのと、校庭に異世界人が現れたのは、ほぼ同時だった。


 「フゥー……シャークウェポォォォォンッッッ!!!」

 『GHAAAAAAAA!!!』


 鋼のサメが、吠えた。




 え、こいつこんな吠える機能あったの?



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