第2話 必殺! 人工サメ台風発動!!!


 「死ねぇぇぇぇ!!!」

 『ギャオオオオ!!!』


 腕を動かすためのレバーを握りしめ、思いっきり前方へ倒す。

 すると、シャークウェポンが大きく拳を振りかぶり、魔獣の鼻っ柱を狙った。


 『ギャアアオオ!?』

 「オラァァァァッ!!!」


 しかし、魔怪獣は体をずらし、鋼鉄の拳を硬い胸部装甲のような皮膚で受けたのだ。

 だが、大質量の拳の衝撃は、ただ硬いで殺し切れるものではなく、魔怪獣は体勢を崩して倒れた。


 「死ねっ!! 死ねっ!!!」


 俺は、自動的に動くシャークウェポンの動きを邪魔しない程度に操作し、容赦なくマウントポジションを取り、全力で殴り続ける。

 みるみるうちに、魔怪獣の顔がボコボコになっていくが、ほぼ全てがAIの判断なので、シャークウェポンは俺にも止められない!


 『ギ……ギャオオオオ!!!』

 「うおっ!? て、てめぇ~!!!」


 しかし、魔怪獣はわずかな隙をつき、口から炎を吐いた。

 灼熱の業火はシャークウェポンを瞬く間に包み込み、その装甲を溶かす……などということは無かった。


 多分、スーパーロボット特有の謎金属でできているのだろう。至近距離から炎を浴びたというのに、シャークウェポンはびくともしなかった。

 だが、乗っている俺はそうではない。炎にビビりまくって、変に動かしてしまった。やっぱ俺いらないんじゃ……


 魔怪獣は、俺が怯んだ隙に、長い尻尾をシャークウェポンの首(カメラアイがある上の頭の方の首)に巻きつけ、力ずくで引き倒した。


 「うおおおお!?」

 『ギャオオオオ!!!』


 形勢逆転。先程から一転して、今度はボコられる番に。

 魔怪獣は、太く筋肉質な尻尾と、口からの炎、太い脚と拳で、シャークウェポンに猛攻を仕掛けている。


 「く……何か無いか……」


 頑丈なシャークウェポンだが、この調子ではその内、俺もろとも壊されてしまうだろう。

 というか、中の俺も体中あちこちぶつけて、ダメージを負っている。痛いぞ。


 『おい、聞こえるか!? やられっぱなしでは訳ないぞ!』


 丁度いいタイミングだった。いや、俺がやられたから通信してきたのかもしれない。

 博士なら、打開策を知っているだろう。(他力本願)


 「博士! 何か……武器とかはないんですか!?」

 『あるぞ! 腕に!』


 シャークウェポンの腕の外側。そこには、サメの胸ヒレにしか見えないものが生えていた。

 巨大な刃のようだが、形状や色的にどうしてもヒレにしか見えない。


 「ヒレ?」

 『違う! この腕のカッターは、フカヒレザー!!! あらゆる物体を切断する驚異の刃じゃ!!! そいつを使ってどうにかせい!』


 ヒレじゃないか。フカヒレって言ってるじゃないか。

 だが、博士の言う通りなら、逆転できる武装なのだろう。


 「……死ねっ!!!」

 『ギャアアアア!?』


 腕をがむしゃらに振り回し、無理矢理にヒレ、もといフカヒレザーを、魔怪獣の尻尾に当てる。

 すると、尻尾は半ばから切断された。トカゲのような尻尾は、いまだビタンビタンと元気に動いている。


 形勢逆転だ。

 俺は腹いせに鼻っ柱を連続で何発も殴り、距離を取った。すると、魔怪獣はフラフラと目を回している。

 チャンスだ。そう思い、一気に畳みかけようとすると、あることに気が付いた。


 「ん……? 何だあいつら……」


 シャークウェポンと魔怪獣の中間……より若干魔怪獣側に寄った位置に、数人の人影があった。

 そのどれもが、統一された服装をしており、軍人っぽい雰囲気である。

 自衛隊かと思ったが、それにしては、明らかに日本人離れした容姿。じゃあ米軍か。それも違う。


 現代のどこの国に、剣や魔法を使えそうな杖を装備した軍隊があるんだ。

 そう、奴らは、明らかに異世界っぽい身なりなのだ。

 どうしようかと迷っていたところ、また通信が入った。


 『何をしておる!? うトドメを刺さんか! 魔怪獣は再生力が強い!』

 「いえ、そうじゃなくて……何か、下に変な奴らがいるんですけど……」

 『何?』


 博士が画面の向こうでカチャカチャと機器をいじくっている音が聞こえる。

 ものの数秒後、博士は再びこちらを向いて言った。


 『奴らは異世界の侵略軍じゃ! どうやら魔法でここらに前線基地を作ろうとしているようじゃが、シャークウェポンのおかげで予定が崩れたようじゃな』

 「どうします? 捕まえるとか……」

 『いいや、捕虜はいらん。皆殺しじゃ』

 「えっ」


 博士のあまりにも過激な発言に、俺は絶句した。

 いくらなんでも、高校生に殺人を強要するのはイカれてる!!!


 「ちょ、その、殺人は流石に……」

 『確かに殺人かもしれん。だが、奴らは我々を同じ人間などとは思っていない!!! 良くて家畜か、資源くらいにしか思っとらん!!』

 「それは……」

 『それに、お前さんも思ったことは無いか? 数ある創作の中で、魔法や超能力などを使えない人間を見下し、貶める描写を。神秘を隠匿し、そのくせ無辜むこの一般人をもてあそぶ奴らを、衝動的に殺してやりたいと思ったことはないか!?』


 有るか無いかで言えば、有る。

 だが、それはあくまで創作の中の話だ。妄想の中では殺し放題だが、それを現実でやれというのは酷じゃないか。


 『どうしてもと言うなら、集音マイクを使え。それで奴らの声を聞け』

 「マイク? このボタンか」


 博士に言われた通り、『集音マイク』と書かれたボタンを押す。

 すると、奴らのものと思わしき声が聞こえた。


 『隊長、ビッグリザードが目を回しちまいましたよ』

 『あのビッグリザードがな……だが、奴のタフネスは折り紙付きだ、何も心配することはない。それよりも、さっさとあの不格好な軟骨魚類モドキを鎮圧し、前線基地を建設するぞ。奴の材質は金属……腐食魔法で、奴がこちらに気づく前にケリをつける』

 『この辺に住んでるらしきサルどもはどうします?』

 『ビッグリザードのエサでよかろう。どうせ魔法も使えんゴミ共だ』


 最後に笑い声と、呪文の詠唱らしき仰々しい言葉。


 ふーむ、これは……




 「殺すか~」

 『そうこなくては!!! いいぞ!!! では必殺技じゃ!!!』

 「必殺技……この、必殺って書かれたやつですか?」

 『その通り!!! どれでもいいから、早うトドメを刺せ! データ解析によると魔怪獣は再生力が強い! モタモタするな!!!』

 「はい」


 いくつかあるが……これでいいか。この、『サメ台風』と書かれた、危ない色とマークのボタンだ。

 これを、思いっ切り押し込む。


 WARNING! WARNING! WARNING!


 「な、何だぁっ!?」


 けたたましい警報ととも、コックピットのモニターに、WARNINGという、危険を示す赤い文字が現れた。

 それらが消えると、次は、こんな文字が出てきた。


 「SHARKシャーク TORNADOトルネード……?」


 直訳して、サメ竜巻……




 この名前は大丈夫なのか?


 押したことを後悔した瞬間、モニターの画面が切り替わる。

 どうやら、シャークウェポンの全身をリアルタイムで映しているようだ。


 それを見ると、シャークウェポンの胸にあるサメの顔、その口が大きく開いた。更にボタンを押して、発射するらしい。


 「……やるしかないのか」


 スゥ、と息を吸い込み、覚悟を決める。そして、思いっきり、叩き込むようにボタンを押した。


 「必殺!!! シャァァァァク・トルネェェェェドッッッ!!!」


 シャークウェポンの口から、巨大な竜巻が噴射された。異世界の奴らが何やら慌てているが、もう遅い。

 竜巻は、魔怪獣を巻き上げるように、下の方から直撃した。


 『ギ……ガアアアアッッッ!?』

 

 魔怪獣の体には、まるで無数のサメに食いちぎられたような傷ができた。そして、巻き上げられた部分を竜巻が細かく粉砕し、血と肉と化した魔怪獣の雨が、シャークウェポンに降り注いだ。

 竜巻で飛散した黒雲の間から太陽の光が覗く。それはまるで、血に飢えた凶悪なサメを慰めるような光景だった。


 穴だらけになり、身体の大部分を削り取られた魔怪獣は、徐々に目から光を失い、立ったまま息絶えた。


 「か、勝った……俺、ボタン押しただけなんだけど……」


 まるで現実味が無いが、コックピットに座る感覚も、レバーを握る感触も、本物である。


 「勝ちましたよ、博士」


 気の抜けた声で、モニターに話しかける。どうにかして、回収してもらわなくては。

 そう思っていたのだが……


 『まだじゃ! まだ油断するな!』

 「えっ!?」


 博士の怒声に、はじかれたように警戒する。

 また、あの魔怪獣が現れるのだろうか。


 「う、うわっ……!?」


 シャークウェポンが独りでに動き出した。

 AIの判断だろうかと思っていたら、シャークウェポンはおもむろに口を開き、シャークトルネードを放った。


 は?


 『う、うわああああぁぁぁぁ!?』

 『助けてくれぇぇぇぇ!!!』

 『あ、ああ……』


 それは、運よくシャークトルネードを免れた(殺しそこねた)異世界の軍隊に直撃。

 一瞬でサメに喰われたような、無惨極まりない死体と化した。


 そして、今度は町に向かって放とうとし――


 『赤いレバーを引けぇぇぇぇ!!!』


 博士の怒声に返事をする前に、赤いレバーを引いた。すると、シャークウェポンは停止した。

 な、何だったんだ……?


 「えっと……」

 『これがシャークウェポンの恐ろしいところよ。血に飢えたサメそのものであるシャークウェポンは、敵を葬り去った後も止まることはない! 故に誰かが止めなくてはならんのだ』


 何でそんな恐ろしい兵器にしたんだ。

 ただでさえ人の手に余るものを、制御不能にするなよ……


 「でもそれ、俺じゃなくてもいいんじゃ?」

 『訳あって、研究所の人間を1人でも欠くことは許されない状況だった』


 まあ、スーパーロボットなんて精密機械、管理は難しいよな。


 『詳しくは後で説明する。迎えをよこすので、待っておれ』

 「うす」


 返事の後に、息を吐き出し、先程のことを思い返した。


 学校から帰る途中、怪獣に出くわし、穴に落ちた先でロボットに乗せられる。

 そして、怪獣と悪人をブッ殺し、束の間の平和を手に入れた。


 ……暴走とはいえ、人を殺して何も思わない自分に、疑問を覚える。

 気分が悪くなるとか、吐くとか。もっとそういう反応があると思ったのだが。


 いや、それ以前に、俺は明確な殺意を持って、人を殺そうとした。

 ありえない……とは言い切れないが、もっと指示に渋るか、捕縛するくらいはするのではないか。


 「俺、こんな人間だったか……?」


 コックピットにある、いくつもある計器……その1つ。

 何を示すのか唯一書かれていないそれに映し出された、0.95%という数値を見て、更に疑問は深まった。




 ◇




 「ご苦労じゃったな……本当に」

 「ど、どうも……」


 シャークウェポンから降ろされた俺は、医務室っぽい部屋に寝かされている。

 そこに、本間博士がやってきて、俺をねぎらってくれていた。


 「物凄く痛いんですけど、どうなってます?」

 「手足の打撲じゃな。骨は全くの無事だが……強く打ち付けたんじゃ。すまんな、コックピットにはシートベルトしかなかった。何せ、急ごしらえなものでな……」


 骨折じゃないだけマシか。

 というか、やっぱり急ごしらえじゃないか。


 「何で急ごしらえ何ですか?」

 「それはな、本来の乗組員が全員死んだからじゃ。だから、コックピットを増設する必要があった」

 「コックピットを急遽作る必要があった? ……もしかして、その乗組員って」

 「ああ。まごうことなき、サメじゃ」


 まさかのサメ用。人間用ですらなかったのか。

 つまり、俺は本来サメが乗るはずの兵器に乗せられ、戦いを強要されたのだ。

 ……こう書くと、箇条書きマジックみたいだな。


 「つまり、反重力装置の暴走で死んだとか言ってたのは、サメ?」

 「そう。サメは意外と繊細な生物。故に、急激な環境の変化多大なストレスを感じ取り、死んだのだ」


 まあ、素人目に見ても、人間が死ぬような暴走の仕方じゃなかった。

 だが、ストレスを感じるというのは別だ。無重力というのは、ストレスを感じるものなのかもしれない。

 俺はというと、ストレス云々は、その時の衝撃で全部どっか行った。


 「はぁー、頭の中がパンクしそう。今日一日で色んなことありすぎだ……」

 「それについては、申し訳ないと思っとる」


 本間博士は、深々と頭を下げた。

 メタ〇マン的な謝罪ではなく、誠心誠意のこもったタイプだ。

 俺には、怒る気にもなれなかった。というか、気力が無いと言った方がいいか。


 ……いや、こんな強面の博士にキレる度胸が無いと、素直に言おう。


 「下校途中でマジで死にかけたですからね……そういや、俺、家帰れます?」

 「おお、そうじゃった。……重ね重ね迷惑をかけるが、今日はここに泊まっていってもらいたい」

 「あー、後処理とかですか?」

 「まあな。情報隠蔽もあるが、お前さんも、その体で動くのはちとキツいじゃろ?」

 「そうですね。分かりました、家族には友達の家で泊まると言っておきます」

 「うむ。この程度の打撲なら、研究所の科学力をもってすれば、明日中には治る」

 「科学の力ってすげー!」


 その後、博士といくらか話をして、改めて傷の手当てを受けた。

 腕がまともに上がるようになったら、家族に電話をする。

 友達の家に泊まるなんて、幼稚園か小学生以来のことだ。誤魔化すのには、多少苦労した。




 ◇



 


 夜になったものの、俺は眠れないでいた。

 知らない環境というものもあるが、多くはあのロボットや魔怪獣が占めている。


 俺は、言ってはなんだが、モブ的な存在である。

 こんな、ロボットに乗って敵を倒すなんてことをするような……いや、巻き込まれるような人物ではない。


 そういうのは、もっと人間がするはずなのだ。

 例えばそう、主人公的な、熱血漢やクールな天才、ロボット好きなど。


 こんなモブ陰キャが巨大兵器に乗せられるなんて、ろくなことは1つも起きやしないだろう。

 何たって俺がこんな目に……


 高校には、おかしな奴らがわんさか存在する。

 隣の席には人形みたいな奴。熱血漢、クールな天才、三枚目の大食漢。

 ああ、挙げるとキリが無い。


 ……マジでどうなってんだろう?

 この世界は、ほぼ間違いなくロボットもの、あるいはそれに準ずる何かである。少なくとも、戦闘が鍵になっている。


 サメは……まだ分からない。だが、サメ特有の理不尽が、この世界に存在するかは、時間が証明してくれるはずだ。


 いやぁ、ヤバいくらい物騒な世界に生まれてしまった。


 ……うん! 考えないようにしよう!

 俺は毛布に包まり、やがて眠りについた。




 ◇




 「おぉい、起きろ! 学校に遅刻するぞ!?」

 「ファッ!?」


 え、俺これから学校行くの?

 というか、あの騒ぎで学校は休校とかになってないのかよ。


 「取りあえず、今日は学校に行け! 魔怪獣が出たらまた呼ぶ!」

 「また乗るんですか!?」

 「しばらくは付き合ってもらうぞ! 車は用意した、さぁ、登校じゃ!」


 やたら学校推してくるな、この爺さん。

 もう俺の意志じゃどうしようもないので、学校に行くしかないか。


 そして、俺がシャークウェポンに乗ることは決定事項のようだ。

 はたして、俺はこの先生き残れるのだろうか。




 ――――――――――



【ビッグリザード】体型:ゴジラ型 身長:45メートル 分類:爬虫類

 ・コドモドラゴンという名前で恐れられている。

 魔怪獣の中でも一際タフであり、全魔怪獣の中でも1、2を争う程。その反面、鈍重なものの、強靭な生命力や肉体を持っている上、恐れを知らない勇敢さを持ち、齢を重ねるにつれて知能も高くなる傾向がある厄介な魔怪獣。

 群れで現れた際には、いくつかの国が滅んだという記録も残っている。

 『異世界にコドモドラゴンを放てっ』

 『異世界侵略はルールで禁止スよね?』

 『異世界はルール無用だろ』


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