サメ兵器シャークウェポン

アースゴース

第1章 学園サメ大暴れ

第1話 鋼鉄の鮫兵器シャークウェポン発進!!!


 「……」


 俺は、スマホを見ていた。

 その内容は、まことしやかにささやかれれる、怪物や、それと戦う者達の噂。

 胡散臭うさんくさい映像や、話の数々。どこかの匿名掲示板の、まとめである。


 この通り、非常に悲しいことだが、俺には休み時間に話すような友人はいなかった。1年の時からそうだ。

 クラス替えで運よく窓際の目立たない位置になったというのに、酷く憂鬱な気分になってしまう。

 だが、その憂鬱はボッチが原因ではなかった。


 「……」


 俺は、チラリと横の席を見た。

 ――そこには、人形がいた。


 いや、人形というのは語弊があるだろう。正確には、人形のような人間である。

 美しい、という意味でもある。しかし、それだけではない。白人はおろか、アルビノさえも凌駕する白さの肌をしていたのだ。

 そう、人間の白さではない。かといって、死人のような青ざめたものでもない。比喩でなく、陶磁器のような色をしている。

 血の通う気配の見られない、まさに人外の美がそこにあったのだ。


 「……」


 わずかの黒子ほくろやできもの、シミといったものが一切存在しない、完全な左右対称シンメトリーの顔に、俺はみとれて……


 (いや、やっぱりおかしいだろ!)


 いる訳ではなかった。

 ありえない程綺麗……というより可愛いが、人間に見えない。

 名前は外国人っぽかったが、クラスの反応は『可愛い』とか、『外国人?』だとか、そんなありきたりなものばかりだった。

 それ以外の要素は、一切触れられていなかった。


 (いや、それはまだいい。皆が気を利かせた可能性もある。問題は……)


 俺は、また教室中を見る。そこには、色とりどりの頭があった。

 自分の髪の毛をいじる。ごく普通の、黒髪だった。目もそうだ。彼らと見比べても、地味なことこの上ない。


 そう、この高校。髪を染めてるのか、地毛なのかは分からないが、派手な色合いの奴が多いのだ。

 まるで、何かのラノベやアニメとか、物語の中のように。


 その事実に気づいたのが、俺が2年に進学した時である。

 まるで、雷が落ちたような衝撃を受けた。その日から、俺はこの世界はまがい物ではないかという考えに囚われているのである。


 (多分、学園ものなんだろうな……)


 しかし、この矢倍やばい高校は、偏差値が微妙に低い。まかり間違っても、金持ちや天才などのエリートが入るような場所ではない。

 何か特別な名門校が舞台であることが多い(俺が勝手にそう思っている可能性あり)学園もので、この矢倍高校が選ばれるのだろうか。

 ギャグコメディならあるいは……といったところだろうか。


 いや……そういえば、矢倍高校の近くに、エリート専門の学園があったな。

 何とか学園……名前が思い出せないが、かなり由緒正しい名門校だったはずだ。


 もしかして、そっちこそが主人公側なんじゃないか?

 噂で、黄金世代がどうたらとか聞いたことがあるし。


 ……この前、矢倍高校では、1年生が理科室で人体実験したとか、家庭科室で人肉調理未遂だとか、ちょっと学校では聞きたくない噂が聞こえた。

 もしかして、この矢倍高校は向こうの学園のライバルとか、ヤバい敵対者とかでは?


 恐らく、今スマホで見ているスレのまとめの内容も、何かが動いた結果なのではないかと思っている。その何かは分からないが。純粋な学園ものじゃないのかもしれない。ジャンルが学園ものなのかかも怪しいが。

 まあ、一生かかわることは……デカい事件みたいなのはありそうだけど、基本無いだろう。無ければいいなぁ……


 ――キーンコーンカーンコーン……


 チャイムが鳴った。もう休み時間は終わりのようだ。

 俺は、スマホをポケットにしまい、教科書を取り出す。もちろん置き勉(置き勉強道具の略で、勉強道具を置いて帰ること)だ。別に何も言われないので、しているのである。


 さて、次の授業は何だったか……

 例えこの世を物語と思い込んでいても、授業をサボる訳にはいかない。授業こそが、嫌な事を忘れさせてくれるのだ。




 ◇




 数時間後、学校は終わった。部活にも入っていない俺は、学校から帰る道を歩いていた。

 閑静な住宅街に、たまにビルとか店があるような、そんな道だ。


 (異能力バトルものとかだったら、能力者同士の戦いに巻き込まれたりすんのかね)


 例えば、近道するために入った路地裏でバトル。またある時は、人払いが施された結界の内部でバトル。

 こいつらいっつも戦ってんな。能力者とか魔術師、血に飢え過ぎだろ。


 まあ、そうなるのは大抵は主要人物で、俺みたいなモブの仕事ではない……まあ、犠牲者役なら、その限りではないかもだが。

 いや、こんなことに気づいていて、何かに巻き込まれるパターンもあるな。


 ……自分をモブとか言ってる時点でかなりヤバいかもしれない。これは重症だ。気を付けて帰ろう。


 「ん? 雨か?」


 そう思った矢先、何だか空が暗くなってきた。雨でも降るのだろうか。いや、天気予報では一日中晴れで、雲も無い快晴だったはず。

 そう思い、上空を見てみると……


 『――グルルルルゥ……』

 「ぁ……?」


 暗くなった空から突如現れた光の粒子から、巨大な怪獣としか言い様の無い生物が構成され、ズシン、と、俺が今いる場所からほんの少し外れた倉庫の密集地帯に降り立ったのだ。


 『ギャオオオオォォォォッッッ!!!』


 そいつは倉庫を踏み潰し、耳をつんざく雄叫びを上げ、目につく建造物を破壊しながら進行を開始した。


 「……特撮? ロボットもの? モンスターパニック系?」


 あまりにも非現実的な光景を目の前に、俺はそうつぶやくしかなかった。


 『ギャアアアア!!!』

 「へ? あ、うわあぁぁぁぁ!?」


 怪獣の巨大な尻尾に巻き上げられた瓦礫がれきが、ちょうど俺の目の前まで落ちてきた。

 そして、そな瓦礫がアスファルトに直撃した瞬間、地面に大穴が空き……


 「わっ、わっ、わあぁぁぁぁッッッ!?」


 俺は、その穴に吸い込まれるようにして落ちて行った。




 ◇




 「うわああああぁぁぁぁーっ!?」


 紐なしバンジーという、命の危機を味わいながら落下。浮遊感が全身を支配する。

 頭から真っ逆さまに落ち、地面が見えてきた時、俺は死を覚悟した。


 「うぅ……ん……?」


 恐怖に目を瞑っていると、いつまで経っても衝撃が来ない。

 恐る恐る目を開けると、何と、身体が宙に浮いていた。


 「はぁっ!?」


 当然、俺は驚愕し、手足をジタバタさせた。

 しかし、いくら足掻こうが、下に降りることはできない。むしろ、グルグル回ったり、逆さまになったり、同じように浮いていた瓦礫にぶつかったりしたので、動くのをやめた。


 「ど、どうしたもんかなぁ……というか、ここどこ?」


 人工的な空間である。イメージ的に一番近いのは、病院か研究所だろうか。

 何か、よく分からない機器が置いてあったり、浮いてたりする。


 「……! ……!?」

 「ん?」


 しばらく宙に浮いていると、奥の方から話し声……というより、怒号に近いものが聞こえてきた。

 流石に、俺は被害者なので、怒られるとかないだろうが……

 そんなことを考えていると、声の主は、はっきりと聞こえる場所まで来ていたらしい。


 「こんな時に反重力装置の暴走で、パイロットが全滅だと……!? 馬鹿な! 呪われているのか!?」


 反重力装置。

 明らかにオーバーテクノロジーみたいなものが聞こえたんだが。

 いや、それが本当なら、この状況にも納得できる。しかし、俺の理解を超えている!


 「こうなれば、残る職員を使い潰してでも……」


 物騒なことを言っているその人は、顔まで物騒だった。

 奥の通路から姿を現したのは、顔面にXの字に深い刀傷みたいなのが入っている、白衣を着た初老の男性だった。多分、博士。


 「いや、かくなる上はわしが……?」


 そのクッソ顔の怖い老人が、こちらに気づいた。眼力も怖すぎる。


 「誰じゃお前は!?」

 「上から来ました」


 ガン開きだった目を更に見開いて、俺に詰め寄って来た。

 俺は、落ちてきたことを伝えるしかできない。


 「上……?」


 老人が上を見ると、大穴の空いた天井が見えた。


 「お前は、あそこから落ちてきたのか!?」

 「はい。助けてください」


 驚愕する老人に、俺は逆さになりながら懇願する。

 老人は凶悪な双眸で、俺をまじまじと見て、やがて口を開いた。


 「……これも、運命の導きというのか……。いいだろう、助けよう。だが、1つ条件がある」

 「え、何ですか? 内容にもよりますけど、俺に可能なことじゃないと、できませんよ」

 「問題無い。凡人だろうが、天才だろうができんことじゃが、これからできるようになる」


 老人は、そう言って、反重力装置らしき機械をいじくり、もとの重力に戻した。

 ようやく、俺も地面に立つことができた。


 「わわっ……と、あ、ありがとうございます。で、その内容はなんですか?」


 ここまで来たら、もうヤケクソだ。何だってやってやる。

 老人は、凶悪な顔を歪ませて笑いながらこう言った。


 「ところでお前さん、あのデカブツに一泡吹かせたくないか?」

 



 ◇




 「こっちじゃ! ついてこい!」

 「こんな地下空間に研究所があったとは……」


 俺は、老人――本間ほんま餓智蔵がちぞう博士と一緒に、メカメカしい地下研究所の廊下を走っていた。

 結構な歳してる割には、堪えた様子も無い本間博士と、若いのにちょっと息切れしてる俺。運動不足がなぁ……


 「ここは本間研究所という。わしらはあの巨大生物……通称“魔怪獣”に対抗するため、この地下空間に研究所を作った」

 「魔怪獣?」

 「あぁ。奴らは地球上の生物とは異なる法則で動いておる。現状の科学では解き明かせない、未知の法則で成り立っている。故に魔怪獣」


 本間博士は、走りながらそう言った。

 地球上の法則ではない……? ろくな生物ではなさそうだ。きっと、何か厄い事情を抱えているに違いない。面倒事だ。


 そういえば、学校には明らかに物理法則を無視したような奴らがいたんだが……? もしかしたら、関係があるかもしれない。


 「奴らは異世界から来た、いわば侵略者じゃ! 奴らを全滅するまでは、地球に平和は無い!」

 「い、異世界ですか?」

 「ああ、そうとも! 魔法という、計り知れない未知が渦巻く、正真正銘の異世界じゃ!!!」


 要は、剣と魔法のファンタジーから、魔法使いが巨大生物を隷属させ、地球に送り込んでるらしい。

 どうやって調べたんだよ、そんな情報。昭和のロボット作品かよ。


 それにしても、異世界か。転生とか転移とかではなく、向こうから送り込んで来るとは。異世界の可能性は無限大だな。


 「偶然、奴らが攻めてくることを知った我々は、手をこまねいていた訳ではない。対抗手段を作り上げた!!!」


 本間博士の目は、爛々らんらんと危ない光を帯びている。

 博士の顔を見ていると、いつの間にか、廊下から広い空間にでた。


 「そら、見えてきたぞ。その対抗手段こそが! 最強無敵の暴食大王!!!」

 「あ、あれが……?」


 広い空間では、作業員や研究員らしき人が、ひっきりなしに何らかの作業をしていた。

 そんな彼らの中心に、堂々とたたずんでいたのは――


 「そう! あれこそが人類の希望!! 海よりいでし可能性の獣!! 鋼鉄の鮫、シャークウェポンじゃ!!!」


 丸太のように太く、丸い両手足。逆三角形のマッスルな胴体。悪人面の顔。

 ――そして、胸に巨大なサメの顔がついた、巨大ロボットだった。


 だ、ダセぇ〜……


 「お前さんにはシャークウェポンに乗って、魔怪獣と戦ってもらう」

 「え、えぇ……俺、操縦できますかね? もっと相応しい人がいるんじゃないですか?」


 そうだ。こんな研究所があるんだ、パイロットもいるはず。


 「残念じゃが、パイロットは先の反重力装置の暴走で全滅じゃ」

 「……マジすか。」

 「大マジじゃ。しかし、反重力装置の暴走程度でくたばるなら、ここで死んだ方が遥かにマシじゃったろう」


 えげつなく残酷なことをサラッと言う本間博士。

 パイロットがどんな死に方をしたかは、聞かない方がいいだろう。反重力装置で命を拾った俺は、幸運だったのかもしれない。


 「まぁ、反重力装置が予想以上に強力だったのと、パイロットが繊細過ぎた……いや、今更悔いても仕方あるまい。……よし、では、お前さんは横のリフトで、シャークウェポンに向かってくれ」

 「分かりました」


 俺は、研究員に促され、リフトに乗る。自動で、結構な速度で上にあがって行く。

 その間、何度か小さい揺れが起きた。あの魔怪獣が、まだ暴れているのだろう。


 「ハッチがあるでしょう? そこから顔のコックピットに入れます」


 リフトからタラップを経由し、シャークウェポンの顔までたどり着いた。


 「これですか? あ、開いた」


 頭部の目の部分が、開閉するようになっているようだ。

 そこ、開閉して大丈夫な場所なのか? 事故か何かで突然開いて、放り出されたらどうすんだ。


 「それです。中に入った後は、あなたから見て左の操縦席に座って待機してください。主任……本間博士から連絡があるはずです。では、ご健闘を祈ります」

 「あ、ありがとうございます」


 リフトに同乗していた研究員は、去っていった。

 俺も、言われた通りに俺から見て左……シャークウェポンにとっては右の操縦席に座る。ちなみに、反対側の席は折りたたまれていた。


 中は、まんま昭和のスーパーロボットの操縦席といった感じであり、何に使うのか分からないスイッチやレバーが多く存在した。

 しかも、その全てにテープ貼り付けられている。


 そのテープには、何か書かれている……右手のレバーには、『右腕 ボタン押す 拳』。 いくつかのスイッチには、『ミサイル発射』など。


 ……もしかしてこれ、どこが動くかというのを全部書かれてるのか。そうだとしたら、覚えられるかなこれ……まあ、博士が何とかしてくれるだろう。(丸投げ)


 いや、それにしても……どうもこの操縦席、急ごしらえというか、がする。

 とっても怪しいな……


 『どうだ、聞こえるか?』

 「あ、本間博士」


 コックピットにあるモニターに、本間博士が映し出された。


 『お前さんは、シャークウェポンの操縦方法を知らんじゃろう?』

 「まぁ、はい。初めて見聞きした代物ですから……でも、テープに何か書かれてますけど」


 逆に知ってたら怖い。


 『うむ。その通りに操縦してもよい。だが、基本はAI操作にまかせてもよいぞ』

 「AI? じゃあ俺が乗る意味は?」


 レバーやボタンで覆い尽くされたコックピットは、とてもではないがオートマチックには見えない。

 しかし、パイロットがいなくとも、高性能なAI操作ができるらしい。

 なおさら俺が操縦する意味がわからない。


 『お前さんは、ヤバいと思ったら、赤いレバーを引いてくれ。押し込む、ではなく引く、だぞ?』

 「それだけ?」

 『それだけじゃが、最重要と言っていい。いいか? ヤバいと思ったら、赤いレバーを引くんじゃ』


 凄く念押しされている。

 ヤバい、というのが曖昧だな……赤いレバーのテープには、『ヤバい 引く 止める』とのみ書かれている。

 止める……? シャークウェポンのことだろうか? それとも何らかの武装?


 ……まぁ、なるようになるだろう。どうせ、拾った命だ。存分に使ってしまおう。


 『さて……準備は良いかな?』

 「まぁ……はい」

 『そうか……では、シャークウェポン、発進!!!』

 「……よーし! 初陣は勝利で飾ってやるか!」


 半ばヤケクソ気味でそう叫んだ。

 こんなの、無理矢理テンション上げなきゃやってられない。


 研究所の天井が左右に開き、シャークウェポンの足場が上昇を始める。

 そんな中、俺が初めて行った操作は、何故か存在する『腕を組む』と書かれたボタンを押すこと。つまり、シャークウェポンの腕を組むことだった。そう、ガイナ立ちである!


 「シャークウェポン、行きます!!!」

 『行って来い、シャークウェポン!!! 人類の希望を掴み取れ!!!』


 研究員や作業員の全員の歓声とともに見送られながら、地上に出る。

 完全に地上に出た時には、ちょうど、魔獣と向き合う形になっていた。


 『グルルル……』

 「危うく死ぬとこだったんだ……ブッ殺してやるよ!!!」


 サメと魔獣。野生全開の死闘が、幕を開けた。



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