優しい光
「先生、今日からよろしくお願いします。」
挨拶や室内の使い方を一通り伝えた後、病院での様子や気を付けることを母親から聞いた。
「はるとくん、今日からよろしくね。」
「はると」は静かにうなずいた。落ち着きがあり、物静かだが母親ともすんなりと離れ部屋に一緒に入ることが出来た。
「はるとくんだ!」
久しぶりの再会に不思議がるどころか喜びを爆発させるのは「ゆみ」だった。誰とでも仲良く接することが出来る。距離感が近すぎて時々引かれ気味になるのは内緒だ。
「はるとくん!なんでお休みしてたの?風邪ひいてたの?大丈夫だった?...」
「ゆみ」のマシンガントークは登園初日から大変だろうな...されるがままに「はると」は「ゆみ」に手を引かれ部屋の奥の奥へと連れて行かれてしまった。
体のこともあるので、始めのうちは短い時間で生活に慣れ少しずつ時間を延ばしていこうという話があり、「はると」の園生活は再度スタートを迎えた。
その日は約時間ほど過ごし、お迎えが来た。
「ゆみちゃんがはると君とたくさん遊んでくれて、はると君も楽しそうでしたよ」
「そうですか、ありがとうございました」
「はると君のママ!はると君と一緒に遊んだんだ!」
「そうだったの、遊んでくれてありがとうね」
初日は何事もなく過ぎていった。次の日、その次の日も「はると」が来る度に「ゆみ」は笑顔で出迎え、遊びに誘うのである。そのおかげもあって「はると」はすぐにクラスに馴染むことが出来、落ち着いて生活をすることが出来ていた。体調のこともあり、しばらくは給食を食べて帰っているが、調子がいい時は外でも少しずつ体を動かせるまでになっていた。
そんなある日のお迎え。
「先生、いつもはるとをありがとうございます」
「いえいえ、はると君だいぶ外でも遊べるようになりましたよ」
「あの...、すごく伝えにくいことがあるのですが...」
...やはりそうなってしまった。予感はしていた。
「ゆみ」のことだ。「はると」が来てから毎日のように「ゆみ」は「はると」と一緒に生活や遊びをともにしていた。
「はるとが、最近ゆみちゃんと遊んだりお話するのが少し嫌だと言っていたんです。どうやらそのことが少し負担になっているみたいで。仲良く遊んでもらっている分こういうことを伝えるのはどうかと思ったのですが..」
「そうだったんですね。教えてくれてありがとうございます。確かにゆみちゃんは誰とでも仲良く接してくれる反面、ちょっと距離が近すぎてしまう部分があって、それが負担になってしまっていたかもしれませんね」
「せっかくできた友達でもあるので、一緒に遊ぶなとも言えないですし...」
天真爛漫という言葉が似合う「ゆみ」とは裏腹に「はると」は物静かだが、優しく断れないような性格。二人は相性こそ悪くはないものの性格は真逆と言っていいほどだ。
「そうですね、少し様子を見て、困っている様子があったらゆみちゃんにもこちらから声を掛けてみますね」
「ありがとうございます。すみません...」
「明日からしばらくお休みになるので少し疲れをとってもらって、また来週からお待ちしてますね」
GWがやってくる。新学期が始まり初めての長期休暇。大人も子どももリフレッシュをするいいタイミングだ。今年も特にすることがなく過ぎていくんだろうな...
...その通りだった。
GWを終え、再びやってくるにぎやかな日々。
「はるとくん、おはよう!」
「おはよう、ゆみちゃん」
「あのねはるとくん、あたしねおやすみのとき...」
「...。」
「ゆみ」の話に聞く耳も持たず、「はると」は一人で遊びだした。
「まぁ、いいや」
その日から、「はると」と「ゆみ」の関係が一変した。普段は特に関わらないわけではないのだが、一緒に遊んだり、会話をする場面がめっきり減ってきた。「ゆみ」もいつもと変わらない様子だがどこか寂し気な表情をするようになった。代わりに
「めい」の名前をよく聞くようになった。二人とも同じような性格をしているせいか、よく気が合い一緒にいる姿を見かける。
「はると、早く保育園行きたいって言うことが増えてきました。めいちゃん?と遊ぶことがすごく楽しいみたいで」
「それはよかったです。はると君笑顔が増えてきましたね」
「そういえば最近、ゆみちゃんの名前を聞かなくなりましたね。あまり一緒に遊ばなくなったんですか?」
「ゆみちゃんとはお話したりはしてるんですが、今はめいちゃんの方が気が合うみたいで。でもクラスのお友達ともすごく馴染んでいますよ」
母親は「ゆみ」のことを少し心配していたが、「はると」がクラスに馴染んでくれているのならばと安心した笑みを浮かべた。
次の日、「ゆみ」は体調を崩し休んだ。にぎやかなクラスではあるが不思議な感覚だった。
「せんせい」
「どうしたの?はると君」
「ゆみちゃん、今日お休みなの?」
「うん、お熱出ちゃったみたい。はるとくんは大丈夫?」
「うん、大丈夫」
そういうと何かを思いついたのか急ぎ足で戻っていった。
結局熱がなかなか引かず、週末まで欠席となった。
週明け月曜日。
「おはよう!ゆみちゃん!」
先に挨拶をしたのは「はると」の方だった。
「...おはよう」
病み上がりだからか、やはり元気はあまりない様子だった。
「ゆみちゃん、これ...」
そういって差し出したのは小さく折りたたまれた1枚の紙。
「ゆみちゃんにお手紙あげる。元気になってよかったね!」
「ありがとうはるとくん!ほら、ゆみ。大切にとっとかなきゃね!」
「ゆみ」は手紙を受け取ると中を開いた。そこには笑顔で遊んでいる二人。ひらがな表を真似て書いたのだろう、不格好な形ながら「ゆみ」「はると」という文字が書かれているのがわかった。
「ありがとう...」
恥ずかしそうに母親の後ろに隠れながらもそう伝えると二人は隣同士座り、1枚の白い紙に絵を描き始めた。窓から差し込んだ優しい光が二人を照らし、包み込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます