めっちゃチョコ欲しい奴

やばい奴、だった

　2月14日。バレンタインデー、の、夕方。

　今、この電車に乗っている多くの男性が今日女性から貰ったチョコレートの入った鞄を抱え、胸を弾ませていることだろう。

　女性にとって今日は、自分の思いを男性に届ける、特別な日。美味しいと思ってもらえるかという抑えきれない緊張を感じながら、美味しくチョコを食べている愛する人を思い浮かべながら、電車の揺れに身を任せているに違いない。

　男性にとっても、今日が特別な日であることは変わらない。たとえそれがいわゆる義理チョコであろうと、本命チョコであろうと、バレンタインデーにチョコを貰った、という一つの事実が自らの人生に刻まれるか否かが、男としての価値に大きな影響を及ぼす。ゼロとイチの違いの大きさは計り知れない。そうした中で、今この車両に乗っている、今日チョコを貰った若い男性たちもまた女性と同じように、今後の恋の行方にワクワクや不安を感じているはずだ。僕を、除いて。

　どうも、今日絶対にチョコを貰う男、伊藤です。あ、誰だ今、「やっぱりこいつはうそつきだった」とか思ったのは。

　たしかに僕が今、というか物語の最初から乗っているのは帰りの電車だ。もう学校に戻ることはない。

　でも僕はこれから宣言通り、チョコを貰う。

　実は昨日駅に着く前、僕は自分の家宛に配達物を送っておいたのだ。僕がこの後帰って家のポストを開けると、そこには僕が昨日、守永のペットボトルから取った三百円を使ってコンビニで買ったチョコレートが送られてきているはずだ。

　だから嘘なんかじゃなく、僕は今日、絶対にチョコを手に入れる。

　僕が、僕に贈った、バレンタインチョコを。

　完