捨て身の選挙演説
キーンコーンカ ピンポンパンポーン
二時間目終了のチャイムを遮り、連絡放送が流れる。
〈えー、えー、二年三組、守永です〉
クラスの皆が一斉に一つの席に目をやる。いない。いつの間に。
〈全校の皆様にお知らせがあります〉
放送部だからといって、勝手に放送室使っていいのか、これ。
〈今日の昼休み、昇降口前でチョコレート活動をしたいと思います〉
チョコレート活動。
〈女子の皆さんは特に、積極的に来てください〉
……絶対見に行くぞこれは。
〈以上でお知らせを終わ……ってあれ、今朝椅子に貼った名前無くなってんだけど! おい誰だよ勝手にガムテープ取っ〉
ピンポンパンポーン
——キーンコー ガラガラガラガラ
守永がもの凄い早さと速さで教室を出ていき、沢山の生徒がその後をついて行く。僕もハヤタと一緒に、昇降口へと向かった。
「守永にここまで行動力があったとは知らなかったな」
「バレンタインの力だよ、これが」
昇降口は、もの凄い人手であった。文化祭に匹敵するほど激しい、大量の生徒たちの往来。その中で守永はタスキをしながら、何か紙を配っていた。
〈ありがとうございます、ありがとうございまぁす〉
スタンドマイクを通じて、声が辺り一帯に響き渡る。どうせこのマイクといいスピーカーといい、放送室から勝手に持ち出したものだろう。
「ねぇ伊藤、後ろの旗、なんて書いてある?」
「旗?」
ハヤタの言う通り、守永の後方には一枚ののぼり旗が掲げられており……
「えーと……『チョコレー党 守永』」
「会長選挙ってまだ終わってなかったっけ」
とっくに終わってるし、そんな小学生みたいな政党組んで立候補する奴なんかいないでしょ。
〈ありがとうございます、ありがとうございます。この度、チョコレー党からゴディバ致しました、守永です〉
出馬な。
〈チョコを多く貰おうと、一念ポッキー致しました〉
一念発起な。もうチョコで頭いっぱいじゃないか。
「伊藤。守永が配ってるやつ貰ってきたよ」
ハヤタが紙を一枚、僕に手渡した。二人でじっとそれを眺める。
「これってさ……守永の家の、住所と地図だよね」
チョコを家まで届けろというのか、さては。
〈第三公園からガソリンスタンド方面に出ていって直進でーす。ポストに入らないようでしたら、インターホンを鳴らして僕の母に直接渡してくださーい〉
これほど堂々と個人情報を発表する人は初めて見た。
「あ、ちょっと待って、この紙、裏にも何か書いてある」
ハヤタがそう言い裏返したのを僕も覗き込む。
「学校周辺の、チョコが買える店のマップだ」
圧が凄いな。
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