第3話鬼になった伯母(後編)

百鬼なきり笛星は、普段はスーパーで万引きGメンとして万引きした未成年や高齢者を取り締まっているが、笛星には鬼や悪魔を自作のお札で祓う力があった。


仕事の休憩中、笛星の元に従妹の百鬼なきり日羅里ひらりから電話がかかってきた。

「よぉ!日羅里か!久しぶり!どうした?」

「笛星、頼みがあるの!」

「え!何?恋愛相談?」

「何言ってるの!かなり込み入った話なの!これは笛星じゃないとダメなの!」


1週間寝込んでた日羅里は、やっと回復し仕事に復帰した。

「元気になったね」

すねこすりの紅丸がホットミルクを飲みながら言った。

「うん!」

「今日はあれでしょ?リベンジ」

「そう」

日羅里は頷いた。

日羅里は以前、依頼人の沼田杏の伯母長嶋和喜子を止めるために杏の母の知人である住谷夫人が代わりに母に杏の気持ちを伝えようとしたしたが、残念な結果となってしまった。

暫くすると従兄の百鬼笛星が入ってきた。

「久しぶり!元気かい?」

笛星はハイテンションになって聞いた。

「元気よ!この間まで寝込んでたけど」

日羅里は呆れて言った。

「あー!紅丸久しぶり!まだ日羅里の秘書やってたの?」

「そうだけど…」

「よかった。日羅里、話って何?」

日羅里は、笛星に杏の事を話した。

「なるほど、知人に言ってもダメだったと」

「そうなの。もっと別のやり方がいいなと思って私なりに考えたりしたんだけど」

ドアをノックする音が聞こえ開けると沼田杏が入ってきた。

「沼田さん、先日はすみませんでした」

日羅里は深くお辞儀をした。

「大丈夫です。親身になってくれて嬉しかったですから。あの、そちらの方は?」

杏は笛星を見て言った。

「私、百鬼笛星と申します。ヒラリー百鬼の従兄です。そのー、沼田さんの伯母さんのお写真拝見してもよろしいですか?」

杏は笛星に和喜子の写真を見せた。

笛星は写真を凝視した。

写真を見た後、笛星は顔を上げて

「沼田さん、伯母さん、かなり危険ですよ」

笛星は写真に写っている鬼火を指差し

「この鬼火が体を覆うと鬼になって人を襲うのです。人間が鬼になるのは憎しみなどのネガティブな気持ちが増幅してしまうからです」

「じゃあ、伯母は…」

「危ないですね」

笛星は写真を見た。

日羅里は周りの様子を見てから

「質問いいですか?脱線して申し訳ないですが、沼田さん、恩師のお墓参りかお線香を上げに行く予定はありますか?」

「行くはずでしたが、急用が出来たので行けなくなってしまいました」

「因みに、先生のご自宅は?」

「学校を退職されてから京都に引っ越しましたが…」

「そのお墓参り、伯母さんに代わりに行ってもらうのは?」

日羅里が笑顔で言った。

一同は唖然として一瞬言葉が出なかった。

「日羅里、これはどういう事だ?」

紅丸は聞いた。

「いやね、鬼火なんとかしなきゃかな〜って」

「鬼火をなんとかする…」

笛星は呟いた。

「詳しく聞かせてください」

杏は身を乗り出した。


日羅里は、翌日和喜子に会いに杏の自宅へ行った。

和喜子は疑いの目で日羅里を見ていた。

「長嶋和喜子さん!」

「はい」

和喜子は怠そうに返事をした。

「姪御さんとは仲良くしたいですか?」

「したいわよ。ずっと冷たくされてるし」

「そのためには、姪御さんの代わりに姪御さんの恩師の家へお線香を上げに京都へ行く事を提案します!」

「そんな事で仲良くなれるの?」

「はい!」

日羅里は笑顔で言った。

「後は」

日羅里は鞄から柊と鰯の頭を模ったブローチを和喜子に渡した。

「これを着けて京都へ言ってください」


1週間後、ブローチをつけた和喜子は京都へ行った。

笛星は和喜子より先回りして殿村佳苗の夫の殿村正一に何か命の危険を感じたら使ってほしいとお札を渡し帰って言った。

1時間後に和喜子が殿村氏の家に到着し、お線香を上げた後、殿村氏はお茶を出した。

「先生には姪がかなりお世話になったみたいで」

和喜子は怒りを抑えなから言った。

「妻からも姪御さんの話は聞いてます」

「姪はお陰で優しくて元気な子に成長し…」

和喜子は我慢し続けた。

「それは妻も喜びます」

「けど、姪は…甘ったれで泣き虫で我儘になりました!」

和喜子は、怒りを爆発したかと思うと鬼火が和喜子の体を覆い始めた。

「お、落ち着いてください」

殿村氏は焦り出した。

「姪が3歳の子供みたいな考えを持ち始めたのは、全部全部アンタの妻が悪いんだよ!」

和喜子は怒鳴ったかと思うと額に角が生え、口元には猛獣のような牙が生えた。

和喜子は鬼になった。和喜子が鬼になった事で、身につけていたブローチが外れ粉砕した。

身の危険を感じた殿村氏は後退りをしたが、鬼になった和喜子が、今にも襲い掛かろうとしていた。

殿村氏は、ふと笛星からもらった札を思い出し、ズボンのポケットから取り出しそれを和喜子目掛けて投げた。

和喜子は甲高い声を上げた後、消えてしまった。

殿村氏は、和喜子が消えた後を茫然と見ていた。


和喜子が京都に消えた翌日、杏が日羅里の元を訪ねた。

「百鬼さん、先日はありがとうございます。まさかあんな形になるとは…」

杏は和喜子が消えた事を殿村氏から聞いていた。

「そうですよね…」

「あ、あの従兄さんにもお礼を言いにまた来ますね!」

「あぁ、今度会うので私から伝えます」

「よろしくお願いします!では!」

杏はそう言って去った。

杏を見送った日羅里は

「さすが笛星…」

と言って窓の外を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百鬼さん!危険です! 目黒恵 @meguro831

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ