第2話鬼になった伯母(前編)

沼田杏は毎日家に来る伯母の長嶋和喜子が嫌いだ。

和喜子は、転職活動中で毎日沼田家に来ては、飼い犬の散歩をしたり妹である杏の母と会話をする。

杏が徹底的に和喜子を嫌いになったのは、2年前に亡くなった恩師の殿村佳苗を杏が「佳苗先生は優しい」と言った一言に対して和喜子は「責任がないから優しいんだ」と冷たく言われたからだ。和喜子は佳苗について「杏は佳苗に甘えてる」と考えている。

結婚せず子供のいない和喜子は親のように杏に接しているが、杏が中学生の頃からかなり迷惑している。

出しゃばりでお節介な伯母にストレスが溜まった杏は、SNSである言葉を見つけた。

「恨み屋…」


どんな事でも的中する占い師の百鬼なきり日羅里ひらりはTV番組での仕事を終えていた。

「百鬼さん!今回も的中しましたね!」

TV番組の男性ディレクターは誉めた。

「先程の方は表情を見てわかりましたよ」

日羅里は少し照れた。

「さすがです!あ、百鬼さんこんな話ご存知ですか」

「話?」

「いや〜、実は人間が突然変異して鬼になる話なんですが…」

「あー聞いた事ありますが、どんなのでしたっけ?」

「何でもネガティブな気持ちが高まって鬼火がたくさん出てきて体を覆った後鬼になるらしいんですよ」

男性ディレクターは小声で話した。

「そういえば!そんなのでしたね!」

日羅里は思い出したかのように言った。

「やっぱりご存知でしたか〜。百鬼さん以前妖怪を見たことがあるって仰ってたから〜」


数日後、日羅里の元に依頼人の沼田杏がやってきた。

「まさかあのヒラリー百鬼さんが恨み屋さんだとは」

「驚かせてごめんなさい。お話を聞かせてください」

杏は伯母の和喜子が毎日のように自宅を訪れ恩師に対しての酷い言動を日羅里に話した。

「沼田さん、突然ですが、伯母さんのお写真を拝見しても宜しいですか?」

「はい」

杏は鞄からスマートフォンを出し、和喜子の写真を日羅里に見せた。

日羅里は和喜子の写真を見て驚いた。写真には和喜子と一緒に無数の鬼火が写っていた。

「ありがとうございます。沼田さん、伯母さんを止めるにはお母様が落ち着いて話出来そうな方の力が必要です」

「祖父母とか母の友人とかですか?」

「お祖父様お祖母様やご友人はまずいです。身内や仲良しは特に…」

杏は暫く考えてからこう言った。

「では、知り合いの方は?」

「知り合い…人によります。どういう方ですか?よくお会いしますか?」

「私が生まれる前に知り合ったお婆さんで、最後に会ったのは私が小学1年生の時でした」

「なるほど。お名前は?」

「苗字しか覚えてないですが、住谷さんという方です」

「わかりました。では、その方にもお話して伯母さんを止めましょう!」

「よろしくお願いします」


杏が帰宅後、日羅里は鬼火の事について考えていた。

「まだ考えてんの?」

すねこすりの紅丸は日羅里を見上げて言った。

「うん」

「さっきの写真僕も見たけど、あれは放置したら鬼になるから早めがいいね。もしこのままだったら大変なことになる」

「わかってる。そしたら祓ってくれる人呼ばなきゃでしょ?それも視野に入れるわ。もし酷くなりそうだったら笛星に声かけるわ」

「まぁ彼はそういう場面でかなり役に立つからね」

笛星とは、普段は万引きGメンの仕事をしていて鬼や悪魔を祓うお札を使う日羅里の従兄である。

「今は住谷さんって人と話する事が先ね」

「うん」


杏は両親に内緒で住谷という老人に手紙を書き、1週間後、住谷の自宅で会うこととなり、早速日羅里に連絡し、日羅里は午後からTV番組の収録があるため、午前中に会う事になった。


約束の1週間後、杏は日羅里と共に住谷の自宅を訪れた。玄関のチャイムを鳴らすと中から出てきた住谷は上品でしっかりした高齢女性だった。日羅里と杏は住谷夫人に和喜子で嫌な思いをしている事を杏の母に話してほしいという事を話した。

「私思うんだけど、伯母さんは干渉してるね。特にあなたの先生のところ聞いて」

住谷夫人は言った。

「伯母のせいで亡くなるまで会えなくて辛かったです。あと、母が実家のように来ていいよって言うから毎日来るし、親みたいな態度は取るから不愉快です」

杏は涙声に語った。

「わかりました。お母さんにはその事を話してみるわ」

「ありがとうございます」

杏は深くお辞儀をしながら言った。


日羅里と杏が住谷夫人の自宅を訪れて数日後、住谷夫人は杏の母と住谷夫人の自宅近くのイタリアンレストランでランチをし、住谷夫人は杏の母に杏から聞いた話を包み隠さず全て話した。

住谷夫人から全てを聞いた杏の母はその日大学から帰ってきた杏を呼び出し住谷夫人に和喜子の事を話した事を感情的になって叱った。


杏から住谷夫人からの言葉が母に伝わらなかった事を聞いた日羅里はあまりのショックで1週間寝込んでしまった。

「悔しいよ…悔しいよ…」

日羅里は自宅のベッドで寝ながらぶつぶつ言っていた。

「日羅里、今回ダメだったけど、次あるよ」

紅丸はスープの入ったカップを持って来て言った。

「あと、さっき沼田さんから連絡あって沼田さん諦めてないから手があるよ」

「紅丸、何が?」

「ほら、彼を呼べば良いさ!」

「え、まさか」

日羅里はそう言って紅丸を見た。

「そう!あなたの従兄だよ!」

紅丸がニヤニヤしながら日羅里のスマートフォンを持ってきた。

日羅里は紅丸からスマートフォンを受け取り、アドレス帳から笛星という名前を探した。


(後編へ続く)

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