第1話猫又の置物
ここは、東京都府中市にある賃貸事務所。
この事務所の一室にある占い師がいた。
「さぁ、雑誌の星座占いランキング書き終わったし、次は今日収録がある番組の台本読まなきゃ!」
そう言って
「紅丸、何⁉︎」
日羅里は驚いて聞いた。
「日羅里、何じゃないよ!日羅里にはいっぱい仕事あるでしょ!台本読む以外に…」
「何言っての。星座占いの記事は書いたし…」
「星座占いと台本以外に、YouTubeの動画撮影…」
「あれは趣味で…」
「趣味でもやるんだよ!登録者増えてるんだから!後は、占い雑誌の記事、それとTVコマーシャルの資料を読んだり…」
「コマーシャルって私女優やタレントじゃないんだけど」
「文句を言わずに取り掛かって!」
この紅丸、日羅里が生まれた時から一緒にいるすねこすりで時には母親のように口うるさく時には兄弟のように日羅里と対等に接している。現在は、日羅里の秘書として働いている。
「わかった」
と日羅里が机に向かおうとしたその時、チャイムが鳴った。
「はい!」
そう言って日羅里がドアを開けると20代前半の若い女性が立っていた。女性は日羅里を見た瞬間、
「ヒラリー百鬼⁉︎」
と大声を出した。
「しっ!声大きいですよ!」
と言い、日羅里はドアを閉めた。
女性は、
「こちら恨み屋さんですよね?」
それに対し日羅里は
「はい…恨み屋です。無償でやってますが…」
「こら、日羅里」
と紅丸が日羅里の足にまとわりつくと女性は初めて見るすねこすりに驚き、後退りをした。
日羅里は紅丸を抱き、
「すみません。驚かせてしまって、彼は私の秘書の紅丸です。安心してください。彼は怖くないですから」
「ひーらーりー!!」
女性は納得した様子で、
「そうですか…」
「ところで、ご用件はなんでしょうか?先程恨み屋と仰ってましたが」
日羅里はそう言うと女性を目の前の来客用の椅子に座らせ、自分は机からバインダーと紙、ペンを出し、女性と対面している椅子に座った。
「もしかして恨み屋ってSNSで知ったんですか?」
日羅里が小声で訊ねると
「はい」
女性ははっきり返事した。
「お約束ですが、恨み屋が誰がやってるかは内密にお願いします」
日羅里は手を合わせて言った。
「有名ですからね…わかりました」
と女性は言った。
「ありがとうございます!では、本題に入りますが、内容を詳しく教えてください」
女性は、川島理央といいある学童クラブで働いているというが、理央の上司である志村六郎から入社して1週間後に嫌がらせのメールを送られたり不愉快な言動をされているとのこと。また、子供の目の前で怒鳴ることもあったそうだ。
理央は、志村のことを彼の上司に相談したが、すぐ志村の耳に入り却って火に油を注いでしまう結果となり、志村のパワハラは更にエスカレートした。
一番理央を傷つけてしまったのは、トイレで静かに泣いたことに対して「普通じゃない」と言われたことだ。
理央としては、何十社も落ちて苦労してやっと入った職場だから長く続けたいが志村が原因で退職を考えていると涙を流しながら日羅里に語った。
日羅里はバインダーに挟まれた紙にメモを書きながら
「その上司は何処ら辺に住んでますか?」
「立川駅の南口の近くでした…確か…そこのドトールによく行ってると…」
「ありがとうございます。明日早速上司の志村六郎に会ってきます!因みに上司の特徴は?」
「40代の男性で、眼鏡をかけていて痩せ型です」
日羅里はバインダーに挟まれた紙にメモをし、顔を上げた。
「ありがとうございます!」
「うわ〜どうなるんだ…」
紅丸が心配そうに言った。
理央は、日羅里にお礼を言い帰った。
理央が帰った後、紅丸は日羅里に
「ひーらーりー!どうするの?どうやるの?」
日羅里なニヤニヤして机の引き出しを開け、御守りに見える物を取り出し、紅丸に見せた。
「これをあの志村って人に渡すの!」
紅丸は瞬きし、
「これは…いいのかよ?」
と不安になったが、日羅里は力強く頷いた。
「いいの。これが一番ピッタリだから」
翌る日、日羅里は理央から聞いたドトールにいると痩せ型の男が向うからやって来たのに気づき、声をかけた。
「こんにちは」
日羅里に気づいた男は驚いた。
「すみません。急に声を掛けてしまって…志村さんですか?」
「はい…そうですが、確かあなたは」
「私は占い師の…」
志村は急に思い出したように
「ヒラリー百鬼!TVで観たことあります!そんな人がなぜ?」
日羅里はわざとらしく口角を上げると
「アポなしで占いをしようって雑誌の企画で参りました」
日羅里は自分の席の向かい側に志村を座らせ、鞄からタロットカードを出し、シャッフルした後その内の3枚を置いた。
「ではタロットカードを1枚引いてください」
そう言われ、志村は真ん中のカードを引いて見るとそのカードには死神の絵が描かれていた。
志村は恐る恐る日羅里にカードを見せると
「あなたは職場で新人さんと上手くやっていないみたいですね…」
「あ…」
志村は図星だったようで上手く返事が出来なかったが、すぐに
「その新人が子供を事故に合わせるようなことするし、俺の気に入らないことするんです」
「そうですか…志村さん、新人にピリピリしないために…」
日羅里は、鞄から御守りを出し、志村に渡した。
「その中には、猫又の置物が入っていてトイレに飾るといいことがあります」
志村は暫く眺めていたが、少ししてデニムのポケットに入れた。
「早速置いてみます…」
と志村はあまりいい表情をしないまま帰って行った。
その日の午後、志村は日羅里から貰った御守りの中を開けた。中には金色の目をした猫又の置物が入っていた。
志村は置物を触ったり眺めたりした。
「あの占い師、よく当たるとか言われてるけど、こんなの置けとか本当か。しかも川島さんを注意してるのは、川島さんが普通じゃないからだし。トイレって何?訳わからん。」
そう言って志村は置物をゴミ箱に捨てた。
その夜、バリバリという猛獣が爪で引っ掻いてる音で目を覚ました志村は後ろを振り向くとライオンのように体が大きい金色の目をした獣が志村目掛けて突進し、志村を襲った。
翌朝、志村の知人が志村のアパートを訪ねるとアパートの部屋で酷い爪痕とともに全身血塗れになって絶命している志村と口が血だらけになっている猫又の置物を発見した。
その頃、理央は職場である学童クラブで仕事をしていると他の部署と志村の上司が話しているのを耳にした。
「志村さん、来ないね」
「その志村さんなんだけど、今朝亡くなってたのよ。部屋で殺されてたみたいで…」
「嘘⁉︎怖い」
恐ろしくなった理央は2人の間に入り
「詳しく聞かせてください!」
と言った。
日羅里が机に向かって記事を書いていた時、紅丸がTVのスイッチをつけるとニュース番組が流れた。ニュースでは、立川のアパートで男が何者かに殺されて死亡したと報じられていた。驚いた紅丸は日羅里とTVを交互に見た。
「日羅里、結局あれ渡したんだ」
「うん。あの置物は酷い行いをした人間の命を奪うっていわれているのよ。だけど、汚いところだと大丈夫。だから渡した。私は、彼にトイレに置いて下さいって伝えた。」
そう言って日羅里は記事を書く作業に取り掛かった。
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