第169話 BRAVE HEART


『……マジでやりやがったのです』


『いや火力ぶっ壊れすぎだろ…見ろよ、地平線の先まで川底みたいに地面が消し飛んでやがる』


『凄まじいね……黒鉄が来るまで「最強」と呼ばれただけある、戦闘能力で比肩できる勇者は殆どいないよ』


『しっかし、破壊のがここまで秘策持ってくるとはなー…俺はてっきり「気合いと根性でどうにかする!」とか言い出すかと思ってたわ』


『イメージはそんな感じなのですが…案外、破壊は戦いに関して行くとかなりのリアリストなのです。勝算はあったのですよ、この様子だと』



景色が一変する程の絶大な破壊の一撃……強化魔法の極致へと至った臨戦バスターモードから更なる進化を遂げた強化魔法……征天大征セイテンタイセイ


雫が独自進化させた強化魔法『臨戦バスターモード』を基本として彼女が生前から構想を重ねて弄くり回していたとっておき中のとっておき、出力規模を桁違いに引き上げ、強化方法の術式を重ね書き、肉体への力の巡らせ方まで変更最適化をした渾身の切り札


言ってしまえば強化魔法の1つだが…そのパワーは文字通り異次元とすら言える。

彼方が現在装備している『リベリオン』は延々と改造と改良、素材の魔改造を加え続けて非常に堅牢かつ彼方の手が加われば再生能力まで発揮する。

これを再生不能なまでに破壊できた者など未だ誰一人として居なかった


それを…彼の体が完全に見えるまでに漆黒の鎧を破壊し尽くし、倒れた彼方が動き出す様子はない。

血溜まりが少しずつ広がるばかりで、沈黙だけが横たわる…勝利、と見て間違いない物だろう


しかし、そんな偉業を成し遂げた雫は……



『お、おいどうした破壊の?』


「はぁ……っ…はぁ……っ……確かに手応えは…かなりあったかな…。ふぅ……全身の骨はまず砕けてると思う…あれなら内臓も幾つか逝ってるよ…」


『どうしたのですか破壊っ?な、なんか汗も出てるし息を切れ切れなのですが…』


「……せ、征天大征セイテンタイセイは無理矢理形にしたから…っ、まだ未完成でさ……。消耗が激しすぎて正直…さ、3分は盛ったなぁ~…なんて…」


『おぉぉぉい!?早く解除しろよ!?んなぶっそで危なっかしい状態なんざ維持してんじゃねぇ!さっさと休憩だ休憩!』



息も上がり、走り回ったかのように汗を浮かべているような状態…それは世界初の第三階強化魔法『征天大征セイテンタイセイ』による消耗に他ならない


雫はこの魔法を昔から構想していたとは言え、試してみるには異次元の魔力が無ければ試すことすら出来なかった。

この魔力をストックできるビー玉が初めて完成して、ようやく試し研究し試行錯することが可能となったのだ


つまり…荒削りの未完成魔法なのである


それを実戦に突っ込んで勝ちをもぎ取ったあたり流石としか言いようがないのだが……雫が征天大征セイテンタイセイを解除しないのは、ある懸念があったからだ



『てか、それだと黒鉄の方がヤバいじゃねぇか!さっさと治さねぇとマジに逝くぞ!?ラウラちゃん呼んでこい…って俺達呼べねぇし!』


『あれ…もしかして黒鉄の方が不味い感じなのです?全身骨折に内臓複数損傷は普通にいつ死んでもおかしくないのです』


『しかも破壊の魔法で付けられた傷は治りがわりぃ!聖魔法の効きは微妙だろ、どうすんだ!?あいつピクリとも動きやしねぇし…!』


『破壊の魔法は言わば「破壊状態を作り出す魔法」だからね…治癒よりも破壊されたままを維持しようとする力がある。……死ぬね、このままだと』


「うん……、ね」


『は?いや……どう言うことだよ、破壊も初代も……』




















「認めないと、いけないよな……この姿で初めて敗北したんだ…。お前達は凄い……流石は勇者達…こうやって艱難辛苦を切り開いてきたんだな、皆…。俺はやっぱり違う…意思の力で切り開いたんじゃない、狂い暴れて全てを壊しただけだ……」




ーー寒気、悪寒…ありとあらゆる嫌な予感が全ての勇者の肌を逆撫でした


その静かで呟くような言葉が異様な程に大きく聞こえてくる…誰も、なにも喋れなかった


ただ1人、霊堂雫のみが…険しい眼差しで彼を見つめ続けている


その視線の先で……亡霊のように立ち上がった姿の彼は……ボロボロにひび割れて半身は消し飛び、残りの部分がパラパラと音を立てて崩れる様を見せる漆黒の鎧を身に纏った神導彼方が、半分しか残っていない兜から露出している右目だけで見返していた


鎧がガラガラと崩れる…無敵の象徴とすら思えた漆黒の鎧が、壊れて彼方の姿が露になっていった…その身の異常にすぐさま気が付いてしまう



『っ、き、傷が無いのです!?破壊が付けた傷がどこにも…な、治らない筈なのです!破壊の魔力が治癒を阻害するのに……!?』


『どうなってんだ……!?おい魔力云々は瀑征の方が詳しい筈だろ!聖魔法系で破壊の魔力に抗える特殊な魔力ってのがあんじゃねぇのか!?』


『そんなもの無いのです鉄糸っ!破壊の魔力による破壊現象はなのです!確かに治りが悪くても治癒自体は進行するのですが…ま、まだ倒れてから40秒くらいしか経ってないのですよ!?治癒は不可能っ、断言するのです!』


『じゃあなんだってピンピンしてんだ…!良く見りゃ血の一滴も服についてねぇ、効いてなかったんじゃねぇのか疑うレベルだっての…!破壊の、ちゃんと倒せてたんだろ!?』


「…うん、間違いなく死ぬ寸前くらいだった。でもなんだろう……途中で雰囲気が変わった…?コンマ1秒の間に…無傷の体と切り替わるみたいに」


『……やっぱりそうなんだね、黒鉄。使ってくると予想はしてたけど、こういう使い方か……』


「初代…?どういうこと?」



体を揺らせて自分の体に乗る漆黒の鎧の破片をパラパラと揺すり落とす彼方の姿は最初から無傷だったと言わんばかりだ


…そんな筈は無いのだ


霊堂雫の特異魔法破天壊皇ブレイク・ダウンは対象物を破壊する…これは単に壊すのではなく『概念的な破壊状態を付与する』というものだ。

故に、触れるだけで、触れずとも魔力を当てれば相手の魔法まで壊すことが出来る。

そしてその破壊状態は残留魔力によって維持する力を持つ…具体的に言えば治癒に対して強い抵抗力を持つのだ


現在、雫が撃破したギデオンが負傷から立ち直らず昏睡状態に陥っているのもこれが理由


これはラウラ程の聖魔法使いであっても例外ではなく、集中して治癒を施しても数分は専念する必要がある驚異のデバフである


それが…数十秒足らずで完全回復、服の血痕すら残っていない


これに動揺するのも無理はないが、険しい表情の階堂吾妻は嫌な汗を流しながら呟いた



『破壊から聞いたね?彼の特異魔法は体に受けた魔法を金属に付与して操れる…特異魔法以外の他人の魔法を使えてしまうんだ』


『それは確かに聞いたのですが……でも星那達の結論は出た筈なのです。「黒鉄は聖魔法をコピー出来ない」…でなければ、あの体の傷は説明が着かない…。黒鉄に自分を治癒する力は無い筈なのです!』


『そこが彼の恐ろしいところさ…。これも聞いているね?黒鉄は時の魔神の魔法「無限天征ムゲンテンセイ」をコピーして操られる時間の中での戦いを成立させた。つまり、黒鉄は…見たところ恐らくは限定的ではあるけれど…』


「時間を…操れる……?っ、初代まさかっ……って言うの!?傷付いた体を無傷のところまで!?」


『いよいよ人間辞めてきてるのです黒鉄……!でも、それなら理論上は破壊の付けた傷から即回復は可能なのです…そもそも回復ですらありませんから…!でもそんなことされたら無敵に近いですが…!』


『無敵………なら何故すぐに使わなかった……?死にかけの時間が数十秒続いてた…もしかしたら発動前に死ぬ可能性すら………いやそうか、発動に時間がかかるのか』


『ってなら無敵って訳でもねぇな……回復にしちゃ隙がでか過ぎる。使い勝手は悪かろうに……でも、ありゃまだやる気だぞ!』



そのカラクリが、初代勇者の中では既に可能性として考えられていた


あの精神世界で彼と話した時…特異魔法『神鉄錬成ゼノ・エクスマキナ』の魔法特性と『時の魔神の魔法をコピーし、勝利した』という話から嫌な予感はしていたのだ…これ程の魔法を、魔力炉にしか使っていない訳がないのだ、と


だが、そんな復活の仕組みを理解されても彼方は静かに俯くように視線を少し下げたまま…ただ言葉を繋ぐ



「…勇者として活動したことは、認める…結果的に俺がやって来たことは勇者の行為に変わらないこと、それはシオン達が教えてくれた。けどな、そこから先は違う…戦って、皆と対峙して分かった……」



不意に……空間に歪みが生じる


彼方の周囲からだ


まるで雷雲の中に迷い混んだかのように、黒と紫を混ぜ込んだスパークが周囲一体を這い周り…地面が揺れた


人は怖がると震える……それはまるで大地が彼に怯えて震え上がっているかのようですらあった


空間の歪みから現れる…新しい鎧


色は漆黒


しかし形が違う


分厚い装甲はそのままに、『リベリオン』では宝玉のようなパーツがあった胸の中心には歯車のパーツが組み込まれ、そこから緋色のラインが鎧の各所に走っている。

『リベリオン』よりも鋭角的な輪郭だろう…兜も先の鎧よりも攻撃的なフォルムになり、装甲間のブースターが蹄を打ち立てる馬のように光を吐いては止めてを繰り返す


重々しい金属音と歯車が噛み合わさる重低音と共に…彼方の姿は変わっていった。

その鎧に身を包まれていき…最後に装着された兜が合わさった瞬間に灯る、双眼状ではなく横一線状のバイザーの緋色の光



「『ロンギヌス』……今の雫を倒せる鎧は、現状コイツだけだ。これを使ったのは……ディンダレシアを殺した時以来だな…。……これから俺がする事は、決して勇者がすることじゃない。雫、その強化形態は残り2分くらいか?なら……その間に諦めさせる。ここから先は……………




    勇者はお呼びじゃないんだ皆がするような事じゃないんだ     」








『考えて、なかった……ッ……あの強化パーツが切り札だと思ってた、なのに………ッ!?黒鉄、てめぇどこまで……!!』


『破壊、正念場だ気張ってくれッ!負けなければ良いッ!あれは…恐らく時の魔神を討滅しただ!まともに張り合うのはあまりにも不味いッ!予想してなかった……っ、ここまで彼がここまで勇者を…!!』


『星那達が乗ってくる黒鉄の魔力の線が…み、見たこと無いくらい大きくて大量に黒鉄と繋がってるのです……っ!まるで巨大な蜘蛛の巣の中心なのですよっ!?』



……階堂吾妻でさえもが、この時一瞬だけ思ってしまった



ーー止められない、と



神藤彼方の勇者に対する思い入れ、いや……勇者達への敬意がここまでに強いとは思ってもいなかったのだ


その思いが…自分の計画を知られることを妨げている


まさか…この戦いにかつての最終決戦に持ち込んだ決戦兵器を持ち出すなんて思いもしなかった


だが……流れる汗を他所に「ふぅぅぅっっっ……」と深く深く呼吸をする雫は静かに構える。

この異常事態、予想を超えた戦況に…慌てる心を吐き捨てて…


その肩に、そっ、と手が添えられた



『……やりましょう、破壊さん。貴女に…いえ、私達勇者に交代の二文字はありません。特に仲間の為ならばひたすら前に進むのみ……それがです』


「…その通りだね、豊穣。たとえ戦いには退いたとしても、仲間の為に体を張る…私が死んだ時もそうだった。あの時は殺されたけど、それでも私は少しも後悔してないっ!」


『今まで多く見てきました……己を捨て去り進む者の目と、背負う空気…人を後ろに抱え命を盾に立ち塞がる覚悟…今の黒鉄さんと全く同じです。彼をこのまま行かせてはいけません』


「当然……っ!!をやる、合わせてよ3人ともっ!!」


『えぇ、行きましょう。……貴方が伊達に「最強」などと謳われている訳ではない事を、お教えしなければなりません』


『大して練習してないのに出番来るなんてなっ!ま、やるしかないだろ!』


『ここは意地の見せ所だ!いつでもOK、合図は任せた!』



最後の自身の魔力を込めたビー玉を開いた胸部装甲のシリンダーに『ジャコンッ』と装填し、そこに込めた雫の全魔力を超える溜め込んだ魔力が彼女に補充される。

雫の頭部や手首足首に巻くように浮かぶ強大な魔力が猛速回転する光輪が、さらに速く強く、莫大な魔力を撒き散らしながら光を放った


その側に…3体の勇者が付き添う


不屈と呼べる雫の姿に……圧倒的と思わされ気圧された勇者達も頷いた


手にしていた短剣『ネメア』を腰の鞘に差し戻し、姿勢を極限まで低くして構える雫の背後から腕を回すようにして艶やかな黒い髪を靡かせる和風令嬢とでも言うべき麗しい少女の姿…豊穣の勇者と呼ばれた少女がしがみつくようにして姿を重ねた


直後、彼方は動き出す


全ての空間を黒と紫に押し潰すかのような魔力の爆風が新たな漆黒の鎧が放たれ、前後左右の感覚すらもが失われる程の色と圧力が押し潰そうとしてくる中でも雫は決してそれに気圧される事はなかった


自分の中に響こうとする魔力の圧は…その全てが彼女に取り憑く歴代勇者達によってはね除けられ、絶望も恐怖も緊張すらもが凪ぐ…


その心のままに、雫は先じて攻撃へと移った


大地が消し飛ぶ踏み込みは音と衝撃を置き去りにして彼方の目の前までの移動を可能とさせ、瞬きせずともその瞬間が見えない程の速度によって振りかざす拳撃が漆黒の鎧の頭部を捉えた




「破壊け……っ…!!?」




破壊の拳を振り抜こうとしたその瞬間……正面に捉えていた漆黒の鎧が目の前から姿を消し、掌の不穏にスパークを放つ紫色の重力球をサイドスローのようにゼロ距離から雫の横腹に押し付けようとする姿が視界の端に入った


破壊拳の構えをしていた雫に、ぶわっ、と嫌な汗が浮かぶ…無防備な横っ腹に食らえば一撃でアウト、その重力球を真下から何かが雫の体を突き飛ばすように空へと跳ね上げて回避させた


からぶった重力球はそのままあらぬ方向に飛翔し……遥か先の着弾地点でドーム状巨大な重力の破壊空間を膨張し形成する。

発動時間があまりにも短く、小型で威力も桁違いだが…彼方の得意技である星核アトムに違いなかった


地面を転がるように着地した雫は浮かぶ汗を拭う…今のは食らえば終わりだった



「何が……!?一瞬で真横に居た……!攻撃モーションが殆ど見えなかった…!……っっ!?」



ーー ド ン ッ ッ



重力球を放った直後、その動きの姿勢だった彼方が異常な早さで右、左、右、と姿を表しては移動し表しては移動しを繰り返して瞬時に雫へ向け鉄拳を振り下ろす姿勢で目の前に現れたのだ


……動きが異常過ぎる


魔力がバチバチと光を放つ不穏の鉄拳を強引に掌で真横に流し神速の回し蹴りを即座に放つ雫の脚を強引に足首を掴んで受けた彼方は、そのまま棒でも振るうように足首ごと雫の体を持ち上げた



「やっば……っ!?」


「強い!それは認める!リベリオンを一撃で破壊した時点で少なくともその戦闘力は魔神族の最上位陣まで優に届く!きっと一緒に戦えば心強い……それでも!」



大金づちでも地面に叩き付けるかのように、彼方は雫の体を掴んだ脚を振り回して地面に向けて思い切り振り下ろした



「これは線引きだ!勇者として戦ったか、そうでないかの!人の為に命を懸けた英雄が、関わるべきではない事もある!これは俺の仕事だ……ッ……いいから寝てろォォォォォォォッッ!!」



「っ……そう言う訳にはいくかぁぁぁっっっ!!命を!人生を!全部取り戻してくれた彼方の障害を打ち砕くっ!恩義も果たせずに勇者が名乗れるものかッッ!!意地でも押し通るッ、破壊震っっ!!!」



掴まれた雫の脚がアメジスト色に光を纏い、彼方はそれを見て慌てて掴んでいた彼女の脚を手放した。

直後、景色を変貌させる破壊の衝撃波が雫の脚から爆散し彼方を大幅に吹き飛ばす


間一髪で叩き付けられる寸前から抜け出し、両手で逆立ちのように地面を触るとバック転の動きで脚を地面に下ろす雫はすぐさま視線を彼方へと戻して叫んだ



「皆っ!今の動きのカラクリ分かった!?」


『ブレて見えた…!異常に早い一瞬を繰り返してる、としか……!』


『っ……そうなのです!時の魔法が少し使えるなら、もしかしたら自分の動きの時間そのものを一瞬だけ加速させてるかもなのですっ!』


『そうか…!さっきの星核アトムの異様なチャージの速さもそれかもしれねぇ!もしも自分や魔法のチャージ時間まで加速させられるなら説明はつく…!』


『多分……一瞬、それも1秒あるか無いかの時間しか加速させられない。だからこまめに加速するタイミングがあるのか…!じゃなければ既に我々は負けてる!』


『でもどうする!?この戦闘速度で1秒あるか無いかなんざ、勝敗に直結する致命的な隙だ!あれがありゃ破壊の攻撃は大概避けられちまう!直に当てんのは難しいぞ!』



雫は己の中に憑く勇者達の知恵を即座に借りる


戦闘の判断や動きが混ざる自分では見れないところまで見ていて、様々な得意分野を持つ歴代勇者達118人からの知恵は即座に今起きた彼方の技を看破する


それは時の魔法の応用、僅かに0.75秒だけの時間を異常に加速させる事が可能と言う『ロンギヌス』の能力。

通常ならば歩く一歩が二歩に変わるくらいの大差ない時間だが、この領域の戦闘に至れば話は変わる。

恐ろしい速度で動き回る彼方の動きがそれだけ異常加速されれば、それは短距離の瞬間移動を錯覚させる動きへと変貌する


だが、そんな極短時間しか時間操作を、それも自分限定でしか行えない所に使い勝手の悪さが滲み出ていた。

追加武装を装備していない…肉弾戦と星核の使用のみで来ている……これは時の魔法がいかに融通が効かず他武装との併用すら難しいのかを物語っていた



(だから普段は『リベリオン』を装備してたんだ…!この鎧は装甲もパワーも桁違いに強いけど、器用さも汎用性も低すぎる…!力技っ…バ火力と装甲、シールド任せのドシンプルっ!そこに時の魔法が加わってるディンダレシア専用装備…!)


『ディンダレシアを倒した時のことを「気合いで殴り飛ばした」って言っていたのはこれか…!!でもシンプル過ぎて対策が…じゃ対策も何もない…ッ!』


『でもこれだけなら朗報なのですっ!デタラメではあるけれど、戦闘能力のデタラメさは破壊も釣り合ってるのです!こういう時はに限るのですよ!』


「だね…!狙って当たらないなら……ッ!!」



雫はぐっっ……!と両腕を腰元で構えて力と魔力を爆発的に溜め込む


今の彼方は瞬間的にバカみたいな速度で超短距離の瞬速移動を繰り返す機動力の怪物と化している。

まともに追い付いて拳を振り抜いても当たりはしない……ならば、取れる方法は1つだけ


脚から放つ破壊の衝撃で地面ごと吹き飛ばされた彼方は即座に姿勢をブースターで取り戻し、直ぐ様低空へと浮遊し直し両手の平の真上に圧縮させた星核を展開して雫へ向けて放とうとしその直後…腰を落として握る拳を構え凄まじい魔力の高まりを見せる彼女の姿に背筋を粟立たせた



「対応が速いな…!流石に118人分の知恵が集まってると初見殺しも無理か……!」



…普通ならば先の一撃で終わってる筈だった


雫の天才という言葉すら生温い戦闘の勘がこれを回避させ、距離まで離された……今の彼女の構えは彼方に危機感を満たすのに十分な程…驚異的だ


手にした星核を雫へ向けて放った瞬間に彼女は動いた





「全部壊す…ッ!破壊拳…百式ッッ!!」




その場から移動すること無く放つ、目にも留まらぬ速度で振るわれる……拳撃の連打。

ただひたすらに空に向けて連打される拳はその場で素振るかのようだが……


その全てが………破壊拳


地獄が形成された


彼女の正面に存在する有形物は何もかも連続して放たれる破壊の連撃にさしもの彼方を表情が固まる


戦法もなにも無い、回避されるならば回避先まで吹き飛ばせばいい。

そんな彼女のパワープレイは単純かつ明確に成果を叩き出す


回避先まで関係無く一切合切に破壊し尽くす連続した不可避にして必滅の拳撃は浮遊していた彼方を時の加速に関係なく遥か先へとゴルフボールのように吹っ飛ばしたのだ


破壊の嵐の奔流、常人が巻き込まれれば即座に木っ端微塵に粉砕される衝撃と破壊の濁流に飲まれた彼方は幾ばくかも飛ばされない内にブースターで無理矢理姿勢を直し、爆発的に出力を引き上げた魔障領域エーテリオン・フィールドによって力付くで地面に降り立つ


そこで…体を振るわせるように大噴火を錯覚する魔力を爆発させた彼方に、雫は破壊拳連打という力技を停止させた。

あまりにも深い…まるで一点に収束したブラックホールが如き漆黒と深淵の魔力と共に手に乗せるように魔力と超重力を集中させる漆黒と紫色の光点には冷や汗を浮かばせながらも雫の口角を引き上げさせた



まるで…黒い星のように



「よし、撃ち合いに応じた……っ!!」


『そりゃいいけどよぉ!ありゃヤベェぞ!?』


『普通の星核アトムじゃないのですっ!術式が根本から違いすぎてまるで別物…!向こうも殺す気にしか見えないのですがっ!?』


『向こうも加減が難しいくらい余裕も無いって事さ!手が届く場所に来てる、力比べなら破壊の得意分野だ!』


「あのガチガチに固まった思い込みをぶっ壊す……!ここでやれなきゃ破壊の勇者は名乗れないねっ!!」



雫の両手の平が彼女の胸の前で上下に向かい合わさる


その場所に…光の点が凄まじい勢いで粒子をかき集めるようにして顕現し、膨張と圧縮を繰り返し始める。

彼女の頭に浮かぶ光輪が猛烈な勢いで回転を強め爆発的な魔力を放ち始め…アメジスト色に輝く光の新星は、漆黒の星と相対した


魔力だけで地鳴りが止まず、2人の間の空間は互いの強すぎる魔力によって景色がねじ曲がり空間そのものが歪んでいる…異なる色の宇宙が衝突しているように



「破滅の殲星、ここに来たりッ!!原始の星は絶滅の綺羅星ッ!!ーー手合わせなんて建前だろ……っ!いい加減諦めろッーー」



「我は破壊者、天命を穿つ滅びの使者なり!!我が一撃は常世の理を打ち崩す…!!ーー色々聞かせてくれるならねっ!こちとら勇者118人の代表さっ!!ーー」



互いに咆哮する、その叫びにも似た宣言と共に…


同時に前へと飛び出した彼方と雫はその手に顕現させた星の如き魔力のエネルギー体の圧縮を解除した。

直後、小山のように肥大化し本来の大きさへと姿を取り戻した魔力球がその手の動きに合わせて振りかざされた





「ーー源星核アトム・オリジンッッッ!!」




「ーー壊焉デミスぁぁぁぁッ!」





それは小さな核兵器の炸裂のようで、黒紫とアメジストの巨星が衝突し、互いに一歩も引かず破壊と破滅の応酬を繰り返し…全ての存在を塵以下に分解し消失させた


巨大化した魔力による光球が押し合い、壊し合い滅ぼし合う…その余波だけで廃都の実に7割以上は原型を残さず消し飛んだ。

隕石が落ちたようなクレーターが瞬時に完成し、そこを中心として大地はひっくり返り、亀裂は渓谷のように巨大化して広がる…まさに天変地異の中心地


その大爆発と衝撃波と重力の嵐が巻き起こる地獄の中でも…緋色のバイザーを不気味に輝かせながら地にゆっくりと降りる漆黒の鎧と、回る白銀の光輪を天使のように浮かべた銀光を光彩に宿す少女が悠々と向かい合う



「まだ諦めないのなら……自分の聖女を呼んでおけ。ここから先は…軽傷では終わらないぞ」



「そっちこそ、その鎧…壊れちゃっても知らないよ?」



互いに一歩も譲らない…その言葉が合図となった


彼方が魔力のスパークを撒き散らしながら掲げた右手を握り締めた瞬間に彼の周囲に浮かぶ手に載る程度の大きさをした漆黒の光球を蛍のように数多浮かび上がらせ、指2本を立てて雫へ向けて振り下ろす。

指揮者の号令のように、その瞬間には浮かび上がる全ての光球が土星の輪のように魔方陣に囲まれ…巨大化した


それは全てが星核…『リベリオン』では両手で1つずつを展開していたそれを、夜空に浮かぶ星のように多数展開し一気に魔力を圧縮膨張させて同時に放つ。

まさに流星群、超重力による破壊の天体が群れを成して落下する地獄に雫は迷うこと無く突撃した


あの星核を雨あられと撃ちまくるその姿…もはや彼の加減がどこまで機能しているのか怪しく疑う程だ



「万掌!両手のリングに触れてッ!!」


『よし来たぁ!ただこの程度の出力じゃ纏わせるだけだぜ!!』


「十分ッ!豊穣は右足ッ、蒼炎は頭ッ!」


『お任せください、タイミングは合わせます』


『りょーかいッ!やるだけやってみるか!!』



短く、しかし的確に打ち合わせたように動く雫と数人の勇者達は雫に合わせるように…


万掌の勇者は彼女に重なりあうように両手を魔力によって出来た『征天大征セイテンタイセイ』の両手首を回るリングに手を重ね


豊穣の勇者は右手を雫の右足首に回るリングに


蒼炎の勇者は天使の輪にも見える頭上のリングに手を重ねた


…この3人は雫に知恵を化して共に第三階強化魔法『征天大征セイテンタイセイ』の構築に寄与した勇者達だった。

他の勇者達ですら『おい、何を…』と困惑する中で……雫の両手首の魔力リングが、光を放つ


目の前と上空を埋め尽くす不可避の超重力の星に突っ込む雫は一跳びに距離を詰め、星核の流星群とも言えるそれを……ーー






「限定起動ッ、『万解掌蹄マスター・ハンド』ッッ!!弾けッ、幻想付与イマジナリー・エンチャントッ、バニッシュグローヴ!!」





ーー





「何っっ!?!?」





彼方のそこ抜けたような驚愕の声が響いた!


星核は超重力の圧縮空間を押し付け触れた相手を飲み込み内部で降り潰す破滅の魔法……


それを、連続で振るう拳撃によってバランスボールでも殴るかのように漆黒の光球をあらぬ方向に向けて殴り飛ばして見せたのだ。

不可能、魔法によって相討ちや押し退けるならばまだしも手で触れて弾くなど出来るわけがない…触れた瞬間に手が乱れ渦巻く超重力によって損壊することは目に見えている


そう、ここに来て…雫達は彼方の想定をさらに越えた



「いやその魔法、そんなまさか…っ!!出来る筈無い!それは俺が何度も試したッ…なのに……なんでその魔法をッ、江道吉常の特異魔法『万解掌蹄マスター・ハンド』が使えるッ!?!?」


「偶然見つけたッ!万掌と豊穣と蒼炎に術式手伝ってもらってる時に、試しに起動した『征天大征セイテンタイセイ』のリングにたまたま3人が触れたらほんの少しだけ使えたッ!だから…こんなことも出来る…!!」



…それも当然だった


その魔法は本来、万掌の勇者と呼ばれた53代目、江道吉常が持っている特異魔法の筈だからだ。

魔法効果は『魔法に対して物理干渉可能な8本の巨手を操る』…つまり魔法を実際に触れる力、それが今は雫の手に重なるようにして発動している


他人の特異魔法は使えない……これは神鉄錬成を持つ彼方だからこそ、その不可能さを分かっている。

だから叫ぶように言った…「出来る筈がない」と


唯一の前例は一度だけ、グラニアスを抹殺した巨砲『一一式・武御雷タケミカヅチ』で偶然発現した雷導の勇者の特異魔法のみ…それを彼方は何度研究しても再現させることが出来なかったのに、である


彼方は驚愕に少し遅れて、突っ込んでくる雫を時の加速を利用して真上に上昇して距離を離した。

雫は飛行魔法など使えない、ましてやブースターで戦闘機動を取る彼方には追い付けることはないのだ


しかし、雫は右脚を震脚のように地面に叩きつけ…その魔法の名を叫んだ



「限定起動ッ!『地母豊穣エタナシェルナ』ッ!!塞げッ、天覆の樹海ッ!」



「おいおい冗談だろ……ッ」



叩き付けた脚から広がる魔力の波動と共に地表が波打ち……8本の高層ビルのような大樹がミサイルサイロから飛び出す巨大化ミサイルのように天へ瞬時に伸び、直ぐ様空を覆うように張られた枝が完全に上空を覆い尽くしたのだ


これに彼方は飛び出した勢いを殺され、空への逃げ道を潰される。

力ずくで破壊するべく星核を天井のような枝や8本の幹に何初ずつも容赦なく叩きつけるものの…そのスケールと頑丈さはもはや植物のそれではなかった



「は……っ!?硬……ッ……!?」



星核ですらも、幹の真ん中まで反り削ったところで止まってしまったのだ


硬すぎる…そう、彼方は歴代勇者の特異魔法をどのような魔法効果なのかは知っていても実際に見たことなど一度としてない。

想像も予想も、全て飛び越えられた…この状態の自分ですらも破壊しつくせなかった威容の大樹に目を見開くのも無理はなかった


その一瞬の隙…雫からターゲットが外れた僅かな隙を彼女は見逃さない


巨大樹の幹をピンボールのように反射するかの如く足場にして凄まじい速度で飛び交いながら瞬時に彼方の飛ぶ高度まで追い付いた雫は頭上に浮かぶ魔力リングを移動させて正面に構え…掌を翳して叫ぶ



「限定起動ッ!『蒼天炎熔メルト・ブルー』ッ!!私達の意地をしれぇぇッ!合魔合体魔法ッ、爆龍覇ァァッッ!!」



「こ、のォォォォォッッッッッッッ!!」




この急襲に対して彼方が咄嗟に放てた巨大化させた源星核アトム・オリジンは、雫が放った蒼い炎が龍頭を形どる凄まじい破壊と衝撃の波と真正面から衝突した


天が割れそうな威力の衝突は天変地異にも類する絶大な被害を撒き散らす…漆黒の巨星と蒼炎で象る破壊の巨龍が爆炎とスパークを拡散させ、その地方にいる全ての魔物はあまりの魔力の波動を受けてどこへとも無く逃げ出した


圧し破ろうとする超重力の星は…しかし蒼炎の龍頭がアギトに咥えられて不穏な光を明滅させる


超重力の星に食らい付く蒼炎の龍頭は意思を持つように轟音の咆哮にも聞こえる破壊音を響かせて…そして膨らんだ源星核そのものを


彼方の驚愕と怒声のような声が…龍に呑まれた


雫の破壊拳と、蒼炎の勇者が操った魔法が組み合わさった合体魔法は彼方の星核の上位魔法『源星核アトム・オリジン』を上回ったのだ


時の加速…それは確かに瞬時に超短距離を瞬間的に移動し、星核のエネルギー圧縮を短縮させる反則的な魔法ではあるが、それも本人の反射神経が上がっている訳ではない。

反撃を上から潰されれば…回避の間などありはしない、まともに食らうしかなかった


蒼い炎の龍頭に押し込まれて地面にまっ逆さまに墜落する彼方を破壊の波動と劫火のアギトが襲った。

鎧をギャリギャリと削るような音は特異魔法『蒼天炎熔メルト・ブルー』の特殊効果…物理特性を持つ炎、という力によるものだ。

それが魔力によるエネルギー装甲をガリガリと削る…さしもの彼方もこれを強引には抜け出せなかった


彼方もろともに地面に激突と共に蒼炎の大爆発が周囲を飲み込み、蒼の光が照らし出す煉獄へと周囲一帯を染め上げる…そこに、雫は静に着々をした


彼方は……巨大な溶解したクレーターの底に姿を消していた



「はぁっ……はぁっ……!やばっ……そろそろ、動けなくなりそう……っ」


『破壊、こんな隠し技まで持ってきたのか…グラニアスを殺したあの時の現象をまさか再現出来たなんてね』


「初代、隠しててごめん…なんでか分からないけど再現出来る人が限られてたから………私達も詳しく分かってないんだ」


『ま、秘密の技は秘密のままの方がカッコいいだろ?今のコンボはかなりキマったな!魔法の相性ってやつか?』


『でも、これは魔力の消耗が桁違いのはず……一発でも征天大征の維持に支障があったはずです。それを3発も…破壊さん、そろそろ限界ですよ』



その代償は大きかった…汗は絶え間無く流れ落ち、肩で息をするように呼吸は荒く、脚は少し震えている。

もはやこの強化形態の維持は難しいのは目に見えて明らかだ


しかも他勇者の魔法が偶然にも使えたことが分かったものの、あまりにも魔力消費がえげつなさ過ぎて本来ならば実戦で使うことすらリスクの塊と言える程だ。

それをこの局面で3発も使い、見事に彼方へ決めた雫は流石としか言えなかった


決定的、とすら言えたはずだ


それでも雫は強化形態を解除しない


自身が作り出した蒼炎燃え盛る赤熱したクレーターを見つめ続けていた


それは…嫌な予感か、それとも確信があったのか…



ーー神を殺した男が、で倒れるのか?



その疑問を…彼は裏切ることはない



蒼い炎が燃え盛る大穴から…その姿がゆっくりと歩いて表れた


蒼い炎が燃え盛る中で…緋色に輝く鎧のラインと横一文字のバイザーが不気味に光を目立たせる、まるで地獄の釜から鋼鉄の魔王が歩み出てくるかのように


全身が煤けているが、損傷箇所は無い。

まるで無傷にも見えたが…その鎧には目立って先程とは違う物1ヵ所だけがあった



「ほんっ……とに……予想なんか役に立たないよな…。何をしてくるのか検討を付けて戦ったはずなのにこの始末だ……俺が最強の勇者なんて、笑わせる……」



ーーバチッ…バチバチッ



不穏な火花のスパークが、漆黒の鎧の胸の中心から走っていた


強力な魔力の迸り…ではない


胸元にあった複数の歯車状の部位が…完全に砕けて原型を留めていないのだ。

そこから壊れた機械のように火花とスパークが断続的に飛び散り、金属の欠片が動く度に崩れて地面に落ちていく


そこに手を当てながら、少し荒い息と共に独り言のように彼は呟く



「…加速神機ソニック・ドライブが完全に破壊された、今の俺は時の加速を使えない……ほんとにやってくれる…。ただ、それでも言わせてもらう!ここから先は俺の仕事だ…大人しくしててくれないか?あんた達はもう仕事を終えてる、これはもう…俺の我が儘でしかないんだ」



その戦意に翳りはない


決して退かず、その考えに揺らぎはなく、悲壮すら無く、ただ直向きですらある程の決意があった


それを前にしても尚…雫は僅かに震える脚を無理矢理地面に踏み込ませて前を向く



「…彼方はさ、自分のことを「勇者足り得ない」ってよく言ってるよね?」


「当然だろ……俺は皆と違うんだ、理性無くして戦った俺をどうして同じ勇者と讃えられる?…人の為に戦った訳じゃない、俺は常に俺の為に戦ってきたんだ」


「なら、私達が勇者と呼ばれる為に戦って命を懸けて死んだなんて…思ってる?」


「……………」


「違うよ、断言する。私達も彼方と同じ……やりたいようにやり続けて、そして勇者と呼ばれたんだ。ねぇ…いい加減自分のことを卑下するのはやめなよ、黒鉄の勇者。君は120代目勇者で…私達が誇る最強の勇者なんだ」



その言葉に彼方は…何も言い返せなかった


皹が入った…自分を押し固める理性無き狂像に、縦一直線の巨大な亀裂が入った


ーー自分も同じ…


命を散らせ世界を護った彼ら彼女らと…?


そんな馬鹿な…筈がない


だって自分はただ帰る為だけに戦って


この我が儘を叶える為に殺して壊し続けて


これから、自分の為に世界まで巻き込もうとしているのだから


これは言いきれる、彼女は間違ってい…ーー














ーー『己の為だけだと?笑わせるなッ!連れ帰ろうとしたのだろう!?責めて、その亡骸と思い出の品だけは、故郷へと帰り着けるように!勇者召喚魔法陣を破壊したのも、これ以上自分と同じ境遇の者が現れないようにしたのだろう!我らをあの時魔神族から助け出したのは何故だ!?故郷へ帰るには随分と関係が無いのではないか!?』



ーー『理由があるのではないですか?カナタは無差別に人を傷付ける人ではありません。誰よりも、知ってます。カナタはとっても優しくて…でも、守る人は選んでる…夢想主義ではなく現実主義者です。もし、それだけの人を殺めたのなら…殺めた事でそれ以上の人々が救われたのではありませんか?』



ーー『………カナタ…会えたよ、私…っ。…私だけの…ヒーローっ…それがカナタ…っ』



ーー『それを決めるのは貴方ではなくてよ?あまり私たちを子供扱いするのもおやめなさい。着いていく相手は自分で決めますわ、ジンドー』



ーーなんで俺は今……彼女達の言葉を……思い出すんだ…


この世界で出会った彼女達の言葉が…なんで否定の言葉を止めてしまったんだ


違うだろ…それとこれとは、かつての勇者達とは比べてはいけない筈なんだ…














「もしも勇者が見たいなら……教えてあげる。我が儘を通したその先で、人を救えてしまえる、大事な人を護れてしまう……だから勇者なんだ!私達は皆同じ…やりたいようにやった先で『勇者』って世界中から云われてきた!勇者と呼ばせた訳じゃない、我が儘を押し通したらそう呼ばれるようになってただけ!それなら今の彼方と私達で、どれだけの差があるって言うんだッ!?君はこの世界で自分の我が儘に巻き込んで何人の命を救ったっ!!?それが『これからやる事が勇者らしくない』だって!?自分が何をして来たのか良く見てみろっ!誰がそんなことを信じるものかぁぁっ!!」




ーーやりたいようにやっただけ…そして勇者と呼ばれた…?


その結果…人や何かを救っていた、って…でも俺は……


俺はやりたい放題して…どうなった…?…それで何て呼ばれたんだ……?


それじゃあまるで、これから………ーー……する俺まで彼らと同じ……ーー







    






「好き勝手して押し通したからこそ、その先で人を助けた人達が勇者っ!だからっ!ここで彼方を1人で行かせない…!だってこうして私達は、今も我が儘を押し通しているんだから!!それを君は……勇者と讃えてくれたじゃないか…!」




ーー勇者だって、言うのか


人の為に命を費やした彼らと自分が…同じ?



彼方の視線が自分の手に下りる…漆黒の鋼鉄、銀色のクロー、分厚い装甲……我が儘を通して時の魔神を抹殺し、これから数多の戦火を巻き起こし平穏を脅かしかねない…それが僅かに震えていた


この手が…彼らと同じものだというのか…


感情のままに動いて創世神とまで事を構えかけた自分が…


これから…俺が……?


カタカタ……金属が触れ合う僅かな音は、無意識に自分が見る鋼鉄の手が小刻みに震える音だ。

ザリッ…と砂を擦るような音が地面から聞こえて、妙に気になってその方向を見る…


真下だ…自分の足元から…しかし何もない


ただ、何かを引きずった跡が自分の爪先から少しだけ伸びているだけ……いや違う


ほんの爪先の指1本分だけ……意識すらしていない自分の脚が……

雫の、歴代勇者達が居る方向から…反対方向に向けて



(っ……なにを圧されてるんだ…!優勢だ、雫の強化形態はもう切れる…消耗を明らかだ、勝てる…!なのに何故……怖くて震えてるのか…?圧倒されて後ずさったのか…?…いや違う、そんなんじゃない…動揺だ…俺が皆のような光を浴びるべき勇者と同じだと括られて気が揺らいだ…それだけだ。やっぱり…こんな事を言ってくれる英霊達を、俺のしでかす事の中心に触れさせてはダメだ。…もう彼らは、やはり休むべきなんだ…雫を聖都戦に投入した事が間違いだった…かつての勇者を戦いに戻ってはいけなかったんだ…!俺の引いた一線が…彼女に全て破壊された…!『Re.Birth』は早すぎた……頼るべきでは無かった……ッ!)



彼方は見下ろしたその手の震えを押さえ込むように…ぎゅっ、と握り締めた


その握り締めた拳が…莫大な魔力を収束させおぞましい波動と魔力のスパークを放ち始める。

意思の強さと決意の強さを見せつけるように、周囲の光を飲み込む程の魔力を滾らせ叫ぶように言い放つ



「違う、断じてッッ!!!人を救う結果になるならなにをしても良いとでも言う気か雫ッ!?お前達は群がる人間を数万単位で皆殺しにしたことがあるか!?人が住んでいた場所を彼らの思い出ごと根刮ぎ焼き払ったことがあるか!?手を伸ばしてくれた仲間達を自分の手で殺しかけた事があるって言うのかッッ!?!?その男がこの世界を再び戦火の舞台に引き摺り下ろそうとしているのを見て、『勇者』だとほざくのかぁぁっ!!?そんな話があって良い筈がない…!我が儘を通した先が勇者なら!!その我が儘で他の神を殺そうと画策しアルスガルドの戦災を呼び戻しかけている俺はなんだ!?今は勇者と呼ばれようとも、あと幾ばくかの時間が経てば我が儘で世界を滅ぼしかけるバケモンだッ!そんな道に誰が仲間を同伴させると思う!?だから俺の仕事なんだッ…後に『世界を窮地に堕とした怪物』となる俺だけがするべき事…ッ!の出番なんざ影の先すらある筈ねぇだろうがッッ!!お前達の出番が来るとすれば、それはだッ!」



それはもはや……信仰、とすら言えたのかもしれない


勇者という存在への…篤い尊敬と先人達が切り開いた未来への崇敬から来る、という信仰


120人目の彼は……それが強すぎた


自分をこんな目に遭わせた世界を、命を懸けて延命させ救おうとした先人達。

調べれば調べる程に滲み出す先人達の英雄像…歴史から伝わる伝承はそれを如実に伝えていた


1人調べるだけでも、英雄…「何故そんな目に遭ってまで助けた?」「そんな目に遭わされて、何故人の為に戦った?」「こんな絶望的な局面で…どうして世界の為に立ち上がれた?」……調べる程に皆が勇者足らしめる歴史が見つかる。


ーーこんなにも勇者としてやり遂げて、死に倒れてしまった英雄が居たのか…




…そう思わされること、




最後の勇者だからこそ……最強とまで呼ばれようとも、彼らの打ち立てて来た威光は眩しすぎた



ーー家に帰りたいだけのガキが、二度目の魔神大戦を引き起こしかねない自分が……そんな彼らを自分が起こす戦火に引きずり込む…?

こんな自分が……人と世界を護った誇り高き『勇者』と同じ…?



…認める訳にいかなかったのだ



それは彼らを





「やっと……やっと聞かせてくれたね、彼方。幽霊の時はあんなに取り憑いたりしてたのに、ようやく……君の魂に触れた気がする。そっか……それが君をのか…!」




雫が最後の魔力を高め集める


まるで睨み付けるような彼方へと視線を向ける彼女が、実際に恨めしげに睨むのは…彼方ではない。

彼を姿モノを……


腰に据えた右の拳に左の掌を圧し当てて…姿勢低く腰を落として構えた。

歴代勇者達が皆頷き…彼女の手に自分の手を重ね合わせる。

右手首を回る魔力リングが…凄まじい勢いで回転し、七色の光を放つ光景は漆黒と紫に染められた世界を真っ向から押し返そうとするかのようだった


そして……同時に正面へと飛び出した


地を蹴って加速する雫と、背面のブースターによって加速する彼方が衝突するのに1秒すら掛からない


もはや魔法も技もない


ただ魔力によって高めた威力により……







「だからッ!!いい加減に諦めろォォォォォッッッッッ!!」




「ッ、ら、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァッッッッ!!」




互いの咆哮が木霊して、フルスイングで打ち出された拳撃は真っ正直から轟音を立てて衝突した


防御等無い、相手の攻撃の上からねじ伏せようとする力と力の激突…それは周囲の全てを押し退けるように余波だけで破壊し景色を変貌させる


その威力は遠く離れた場所に居た朝霧と耀の2人がそれぞれの防御姿勢の上からゴムボールのように弾き飛ばされて転がる程の尋常ならざる余波だ


雫と彼方の2人は……拳を打ち合わせたまま静止していた


押し合おうともしていない…ただ、余韻のように拳を激突の後に合わせているだけ


何故ならば…





ーー パ リ ン ッ




儚い程に呆気ない音を立てて…雫の体に顕現していた銀色の魔力リングがガラスのように砕け散り、消滅したからだった


目に宿していた魔力の光りも消え去り…その一撃により完全に征天大征セイテンタイセイは限界を迎えた解除された証拠だった


崩れ落ちたのは…雫だった


力無く打ち出した腕は落ち、膝が地面に落下して…残る腕で地面をついて支えなければ体を起こしていられなかった。

滝のような汗に「はぁっ……はぁっ……っ、かふっ……ひゅぅ……ひゅぅ……っ」と息をする事すらも大事と言わんばかりの消耗は…無理に限界を超えた第三階強化魔法という新たな次元の力を強引に行使し続けたからだ


自分の100%の魔力の3倍以上の魔力をフル回転で使い続けたのだから…当たり前だった


もう一歩すらも動けない…崩れ落ち、倒れて意識を失わない事が精一杯


対して彼方は…悠然と打ち合わせた拳を引き戻して彼女を見詰めていた


いかに雫と言えども…届かなかった


その呼吸の乱れる音と、なんとか首を上げて視線を彼方に向ける彼女の姿に彼とて胸が痛まない訳ではなかった。

それでも…護らなければならない一線がある、それだけの事だと自分に言い聞かせた


もう明らかだった…


雫の力は彼方に……あと一歩届かなかったのだ











































ーーパキッ……ビキッ、ビキッ……ビシッ




その音に、最初は気が付かなかった


彼女が地に尽き、虚しくも勝利した苦い味に顔をしかめていた彼方は気にも止めていなかった


その音がだんだんと大きく、自分の方に向かってくる事に気が付かば…探してしまう


そして…見てしまった


雫が最後に打ち込んだ渾身の一撃と打ち合わせた自分の右腕の鎧が……手甲の先からひび割れていたのを





「………………………………………………な、ぁ…………………っ」




言葉を失った


体が止まる…あり得ないものを見たかのように


その皹は亀裂に変わり…手首へ、腕へと走り広がって来ていた


徐々に腕を登り、肩から胴体へと亀裂は伝播していくのを呆然と見ることしか出来なかった



(あり得…ない……ディンダレシアを殺せた鎧だぞ……こんな……事が……………)



魔神ディンダレシアとまともに殴り合った魔導鎧『ロンギヌス』…3年前、当時の自分が造り上げた最高傑作と呼ぶに相応しい超兵器


時の魔神を討ち滅ぼした神殺しの鎧…あの魔神ですらも砕ききれなかった『ロンギヌス』が、ひび割れて亀裂を広げていた


亀裂は腕から胴体へ、胴体から兜に走り…徐々に広がり金属が悲鳴を上げる音が強まっていく


あり得ない、と彼方が呆然とするのも無理はなかった…つまり彼女の、いや…勇者達が重ねたこの一撃は……ディンダレシアの攻撃を上回ったという事に……




「は、ははっ……ばーか…っ!こちとら勇者119人分のパンチだっての………見たか、勇者達わたしたちの意地……っ!」



疲労と消耗に歪む顔に、不敵な笑みを浮かべた雫の言葉が……まるでトドメを刺したかのように…




ーーバギィィィィィィィンッッッッッ!!




『ロンギヌス』は…右腕と胸から上部にかけての全ての鎧が…木っ端微塵に砕け散ったのだった


魔力によって修復する機能があるのに、再生の気配すらない…彼女の魔力が完全にその機能を抑え込みながら機能そのものを破壊してしまっていた


露になった彼方の表情はあまりにも驚愕に染まりきりながらも……その目尻からは一筋の涙が流れ落ちた


彼の目に……もはや戦意など宿ってはいなかった


彼方自身ですらも、自分が涙を落としたことに気が付いていない…嗚咽すら無く「………そん、な………ばか…な……こと……が…………」と点々と呟くのみ


ボロボロと破片となって地面に落ちるロンギヌスの鉄片を、ただ唖然と手で掬うようにして…指の間から溢れ落ちる様を見ていた。

鎧に走る緋色の光のラインは輝きを失い黒へと戻る…まるで生き絶えるかのように


神を抹殺したロンギヌス機巧の怪物は…勇者達の一撃により完全に破壊されたのである






歴代最強と謡われる神殺しの勇者は今ここに……全ての勇者達を前に敗北を喫した






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





   ー  ロ ン ギ ヌ ス  ー



時の神を滅ぼす為に打ち鍛えられた鋼の怪物


その一撃は天を割り


流れ操る時の中ですら、止める事は叶わない


静止した時間も、神と呼ばれた者すらも、止めることは出来なかった


神殺しの槍の名を付けられた、神殺しの鎧


人を越えて神を討つべく鍛え創られたその鎧を身に纏う……それはまごう事無く人に非ず


英雄という言葉すらも生温い


まさに怪物、超越された完全なる機巧


神を越える為に創られた鎧は、神を超えた


故にこそ………神を滅ぼし次なる神の抹殺の為、あの日より動き続けていた機巧の鎧怪物






      英雄達に打ち砕かれた






戦いが終わってなお、己が計画を打ち立て進める彼は自らを『世を戦火に戻しかねない怪物』と称し続けた


その象徴として自らの逆巻く運命への反逆を鎧に名付けた


リベリオン復讐者』と『ロンギヌス神殺し


しかし、少女達と結ばれて行き先を失った復讐と人外足らしめる象徴たる神殺しは……かつての勇者達により破壊された


この先、打ち鍛えられる彼の鎧は……彼が運命を呪い名付けたその宿命から解き放たれる事となる


きっと次に勇者たる姿を見せた神藤彼方こそが…



       黒鉄の勇者なのだ



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