第168話 機巧帝と破壊王
「これまた随分と遠くまで来たな……ここに来たことってあるのか?」
「うん。旅の最初あたりだったかなー…私はレザーゴントを通ってラヴァン王国を出たからさ、ここは道中だったんだよね」
「南の四大都市か……俺は行ったことなかったな。にしても……滅びた街、か…随分と大きい場所に来たなぁ。いつもの霊山じゃダメだった?」
「今回は特別!…まぁ普段からここでやっても良いんだけど、ちょーっとだけね?用事があって」
時間は少しだけ遡る…学院で雫が現れてから超大型航空要塞機『バハムート』に乗ってやって来たのは、300年以上も昔に滅び去った都
雫との手合わせの為にこの場へと降りた雫と彼方ではあったが、普段から彼女と多々手合わせをしている場所は歴代勇者(霊体)の本拠地である霊山だ。
なのでバハムートは最初こそ霊山を目指していたものの、雫の要望によってこの場所へと向かう先をこの場所に変えたのである
そして、彼方は突っ込まなかったが…妙な件が1つ
『あ、朝霧ちゃんはこの地点で降りてね。ほら……危ないから』
…同乗していた朝霧を、離れたポイントで降ろしていた事だ
確かに彼方と雫との闘いに巻き込まれるのは危険きわまりないが、普段からそんなに周りを気にせず闘っている訳ではない。
講義的な部分や術式を弄る等が半分を占める場合が多く、手合わせをしても彼方が生身で合わせながら型や動きのアドバイスをする程度だった
雫の様子はいつも通りだ
機体の下に開いたハッチから2人揃って飛び降りると、そこそこの高度から悠々と両足で着地する。
そこは…廃都市の中央にあたる場所だ
周囲には魔物の気配がわんさかと蠢くその中で…2人は警戒すらせずに顔を会わせて立つ
そこまで来て、彼方はようやく溜め息混じりに呟いた
「…流石の俺でも分かるわ。わざわざさっちゃん引き離して、俺と何を話したい?」
「だよねー。ちょっとあからさまだったかな?ほら、精神世界で初代と色々話したんでしょ?その件で、ね」
「階堂吾妻か……『自分からこの場の話は表に出さない』なんて言ってた割に口の軽い奴め…」
「あ、それはほんとだよ?初代はなんにも喋ってない……ただ、あの精神世界には最初から私も繋がってたってだけ」
「あんにゃろ……さては最初から雫にも聞かせる気で色々と喋らせたな……。てかどうやって精神世界なんか繋げたんだか……霊の期間が一番長い奴はこれだから…」
「確かに霊歴は一番長いね…うん…。ま、それはさておき…初代と話してた内容については全部聞かせてもらったからさ。そんで私は口止めされてないしー…?」
「おいおい…まさか全員に喋ってないだろうな?」
「大丈夫大丈夫!知ってるのは私達歴代勇者だけだから!」
「…1人から一気に118人に知れ渡った訳なんだが…大丈夫、とは一体……」
彼方はショックを受けた!
そう、聖都防衛戦が終って皆とちょっとしたピクニックに行った時のことだ…ラウラの母性の象徴に溺れ(比喩無し)意識を失った彼方は、霊体である初代勇者・階堂吾妻と話した
彼はアルスフィラとの会話の様子を見ただけの違和感から彼方への心配に連なる不信感…つまり彼方自身が穏やかならざる渦中に身を投げるような計画をたてているのでは?と勘づいた。
これを確かめに精神世界等という器用な場まで彼は設けて彼方からある程度の話を聞き出していた
……まさかその精神世界に、同じ場に居た雫まで繋げられていたとは思う筈もなかった。
成る程、確かに階堂吾妻が口約束した「自分からは広めない」という約束は守られているだろう…何せその場の会話を雫が聞いていただけなのだから
それをまだこの世界の…特に親しい人達には知られたくない彼方だったが、そこは雫も気にしていてくれたらしい。
……代わりに、119人も自分が隠していた内容を知ることになってしまったのだが
「それでね?歴代勇者達で会議を開いた訳。ズバリ!『このまま彼方を突っ走らせていいのか!?』っていう議題で」
「わお…知らない内に滅茶苦茶デカイ会議にかけられてる…。ま、まぁそれは良いとして……面倒は止めよう雫、会議の結果は?」
「……私達歴代勇者達からの要求、と言うより提案は2つ。1つは『彼方のプランを進めるのは少なくとも勇者20人の蘇生を待って欲しい』…もう1つは『勇者に限りで良いから彼方が考えてるプランの大まかな概要の公開』…そういう結果になった。それなら、彼方が死ぬリスクを極限まで私達が減らせる」
「…悪いな。まず1つ目、それじゃ遅すぎる…『Re.Birth』はアルスフィラへの
「事を起こす…じゃなくて?」
「……………2つ目、公開しても意味がない。もともと俺1人で進めようとしてたものだからな…知ったところでなんの変化もない」
1つ目の要求に対した雫の返答に彼方が口を噤んだ…そして2つ目もやはり取りつく島はない。
僅かに目を細めるのを見た雫は小さく「やっぱり…」と呟き、何て事なく浮かべていた笑顔をゆっくりと目を閉じながら消す
「今の状況を見て。彼方の軍勢が居て、四魔龍は1体が死んだ…戦うことにはなるけど均衡をわざと保つことも出来る、そうだよね?そこに私も加わったなら、時間は引き伸ばせる。『Re.Birth』が勇者達を呼び戻す時間を確保できる筈だよ」
「ガヘニクスはどうする?奴は無限に一個体として成長を続ける…今の俺の兵器で押さえ込める期間は決まってるんだ。エデルネテルもそう…無限に進化を続けるならいずれ穴を突かれる。悠長はしてられない」
「悠長してられないのに、体勢を建て直してる魔神族に追い討ちをしないのは何故?出来ないとは言わせないよ、本拠地はある程度絞れてる筈…あんな衛星打ち上げてるんだからね」
「………それを加味しても、20人は無理だ」
「じゃあ10人!」
「値切りかよ……」
雫が両手の指を広げて突きだし「10!」と作っている
だが、彼方は彼女が自分をここに連れてきた理由くらい察しは着いていた。
それが彼方の為に、というのだから邪険にあしらうことも出来ない…
彼が手を広げて雫に見せながら溜め息と共にその条件を突き付ける
「5人だ。俺が待てる限界の人数はここがギリ……ハッキリ言って俺は雫と次に控えてるあいつの3人が限界だと思ってた。そこに加えてあと3人……少しプランが遅れるけどそこまで言うなら仕方ない。プランの公開もだ…こんな詰められてしらばっくれるのも嫌味だしな。ただし……」
「あははっ!どっちも私が勝てば、でいいかなっ?もともとそのつもりだったし、上等!いやぁ、シオン達の『
「参考にしたのそこかよ……」
彼方はがっくしと肩を落とした…どうにも真面目な話をしてるのに気が抜ける
雫の持つ特有の空気だろうか……きっと自然体でこれなのだろう。
まさかこの要求を通す為に参考にしたのが、かつて勇者としての正体を問い詰めた際のペトラ、シオンのやり方とは…なんともやるせない気持ちになる彼方であった
そして…予想外の歴代勇者達からの干渉に少し想いを馳せる。
確かに、階堂吾妻に語った内容は無理を通す話だった…そこに彼方自身の安全は一切の保証が無く、むしろ致死の魔法を受ける事を前提としたプランだ
それを彼方はなんとも思っていなかった…これが自分の魔法なのだ。
だからこそ、勝ち目があり帰還の未来が見えている、と……しかし彼らはそう素直に思うことはなかったらしい。
わざわざ初代勇者が彼方を出し抜いてまで勇者達との共有と協議にかけた…どれほど無謀と思われたのかは想像に難くない
(アイツが天涯を抉じ開けようとする周期的に……5人は間に合うか怪しい。その前には仕掛けておきたいけどタイミングがシビアすぎる…早く仕掛けるとそもそもアイツが来ない、なんて事になりかねない。そうなりゃ本末転倒だ…ただ、決戦に踏み込むまで引き伸ばせるなら、あるいは5人も……)
彼方は頭の中でひたすら計算する……ハッキリ言って彼もまた、タイミングを計っている最中であった。
魔神族への攻撃は早く仕掛けてもダメ、しかし遅すぎれば負ける可能性が高まる…その適切なタイミングは彼方の計算上、2人の勇者が蘇生された後の筈だった
しかし勇者達の要望は…勝率の底上げと彼方の安全面を鑑みて最低でも、5人の蘇生。
いや、最初に20人なんて言ってきたのは明らかにブラフでその半分の我が儘を言ってるように雫が見せたのも…恐らくは演技込みのブラフ。
今思えば階堂吾妻が飲ませたい最低蘇生人数は元から5人だったのだろう
事実として……階堂吾妻は『Re.Birth』の魔力充填速度から何ヵ月で何人揃うのかを大雑把に計算できていた。
そこに加えて彼方の攻勢ペースの明らかな遅さや、勇者達全員から引き出した魔神族や魔物の進攻速度やパターン、四魔龍の詳しい生態サイクルを考えて出した現実的結論こそが……勇者の5人蘇生
そこに今さら思い至り、はぁ……と深く吐息を漏らした彼方と、にこっ、とご機嫌な笑顔を浮かべる雫は……同時に言い放った
「……
ーーアメジスト色と、黒紫の爆発的な閃光と稲妻が炸裂した
2人の体…彼方の心臓の真上にあたる胸に刻まれた紋様と、雫の肩甲骨の上辺りに刻まれた紋様が目映い光を放ち周囲の空間を歪ませた。
彼方の周囲に現れる漆黒の装甲が装着されていき、それぞれの装甲が火花と共に連結…歯車が回るような重々しい音を響かせ激しい魔力のスパークと共に…世に黒鉄の勇者と知られるもっとも有名なその姿へと変貌する
鎧の名は『リベリオン』……その黄金の双眼バイザーに光が宿った
対して雫は来ていた衣服が魔力となって紋様に収納されていき、代わりに真っ白のインナーへと変わっていく。
首元から覆う肩を露出した上部アーマー、金属装甲が施されたスカート状アンダーアーマー、足首までフルメタルで覆われた装甲ブーツに、手の甲から指の第二関節まで金属装甲が施された指貫グローブ。
耳を覆う形のヘッドパーツは頭の後ろに向けてアンテナ状に一部が伸ばされる…彼方と反して生身を感じさせるパワードアーマーに、腰後ろに装備された短剣
名は『ヘルクレス』…その胸の前で、彼女は拳を打ち合わせた。
彼に勝つ為に…実戦以外で初めてこの鎧を戦闘に繰り出したのだ
不気味な程に黒と紫の混ざり合う魔力を放つ漆黒の鎧、その黄金に輝く双眼のバイザーが妖しく煌めく凄まじいプレッシャーの中…破壊の勇者は不敵に口角を吊り上げた
空気が変わる…会話はもう無くなった
あとは……話さなくても解決できる
一瞬の静寂……言葉もなく、動きもない雫と彼方は合図もなく気合いの込めた言葉すらも発すること無く…ーー
「ッッ…………!!!」
「…………っっ!!!」
ーー激突した
互いの距離を瞬きする間もない程の速度で一瞬にして詰め、相手の腕をお互い掴み合うように組み合う2人の衝突による衝撃…それだけで大地はひび割れ大気は震えて悲鳴を上げる。
完全に取っ組み合った状態による力比べと化し、互いに押されず押さえ込もうと力を込める…彼方の背面装甲が展開して魔力のブースターが噴出して力を強めるが、アメジスト色の魔力を溶岩のように身に纏った雫は一歩も下がることはない
「ッ……馬鹿力め……ッ!!」
「それ程でも……っ!」
爆散するスパークした魔力が大地を引き裂き、亀裂となって広がっていく…その力と力の衝突がどれ程の破壊を伴っているのかなど、見なくとも分かる程に。
そして…背面のブースターまで噴かせた彼方の突撃を真正面から制止させるこの力に、彼自身も頬が引き攣る
(冗談じゃねぇ……!!こちとら装備モリモリに持った状態で全身武装のフルアーマーだぞ、なんで素手で対抗してくんだよ…!?)
彼からすれば、身に纏う兵器の馬鹿パワーにより力付くで捩じ伏せんとしてあるのを生身の素手で張り合われているのだから当然だった。
それ程までに雫のパワーは尋常の物ではなかった
しかし、当の雫も強がりな笑みで表情を作ってはいるものの、内心では悲鳴のような声を上げていた
(ど、どんなパワーしてるの!?私これでも
特殊強化魔法『
肉体機能、筋力や剛性の全てを強化する通常の強化魔法の発展型であり難しい理屈抜きに凄まじいまでの魔力出力と巧みという言葉すらも生温い術式と強化規模のコントロール、そこに間に合わせる肉体の動きの適合を組み合わせてこそ真の力を発揮する
雫は術式云々や理屈と理論で考えるのが苦手だった…故に術式は落書きのように滅茶苦茶、理論的でも効率的でも実用的でも無い程にコントロールが狂ったレベルの難易度の魔法と化した『
だからこそ、使い熟した際のパワーは桁違い
全ステータスを爆発的に上昇させる事による肉体的戦闘ステータスは文字通り…生身のフィジカルだけで言えば彼方を抜いた全勇者の中でもトップ5には君臨する
だからこその…彼方と組み合った際に感じる、戦慄
戦闘能力で不満足を覚えたことは無い雫が感じる底知れない不安……自分が通用しないのでは?と思わされる恐怖にも似た感情、三魔将すら退けたこの力でも動かせない……怪物
わざわざ階堂吾妻の提案に乗って勝負を仕掛けた…頭を使って策を通すなんて苦手分野なのに、こんな回りくどい真似をして
それは何故?……当然、決まっている
(勇者達の案を通したいのはそうだけど……でも!私としてはそうじゃないっ!……追い付いて見せたいんだっ!!最強だなんて持て囃された私も出来なかった、世界を救ったこの男に…挑んでみたかった…っ!私の命の恩人、メリアの恩人、アルスガルドの救世主………現最強の勇者の君にッ!!)
ーー悔しかった
ギデオンと戦い、殺され、相棒に100年を超えて涙を流させた…それに気付きもしなかった事が、悔しくて悔しくて仕方がなかった
そんな私のバッドエンドを覆した君は、これ程強く、考えを巡らせ、今も進み続けている
…その身の破滅を考慮せずに、ただひたすらに
許せない…そんな事実は、到底許せない
だから初代の提案に乗った…勇者の要望を彼に通す為の鉾として自分を使うことを進んで名乗り出た
この役目は…彼に自分も相棒も救われ、そして去りし日に『最強』の名を謳われた自分にしか出来ないから
「っ…っ、らぁぁぁぁぁっっっっ!!」
烈迫の気合いを込めた雫の声と共に、強引に引き寄せる動きと同時に彼女は自分の額を思い切り漆黒の兜に叩き付けた
ギャォンッッ!!と重々しい金属音が炸裂し、空気が爆ぜるように衝撃を撒き散らした雫の渾身の頭突き…それは『リベリオン』を纏った彼方と言えども真後ろに吹き飛ばされ、瞬時に十数mも下がらされる程の威力
飛ばされた彼方はブースターを噴射させてすぐさま体勢を立て直しつつも「い……ってぇ…!俺がよくやるやつだろそれ……!」と悪態を付いた。
まさに、彼方がよく行う密着からのヘッドバッドのセットアップを雫は先じて仕掛けた
とは言え、雫側もなかなかに痛そうだ…額は赤く、余程ぶつけた彼方の兜が頑丈だったのだろう。
頭が揺れる感覚を「ふぅぅっ…!」と深呼吸1つで押さえ込むと、その目で漆黒の鎧を見詰め直した
「ラウラも、シオンもペトラもマウラも…それに雫も、パーティの皆さえもが彼方の全貌を知らない。現状誰1人として、彼方に付いていけてない…それでいい訳がないんだよ」
まるで独白…雫の強く、そして寂しい声が彼方の耳には訳に大きく聞こえてくる
その言葉に、彼方も思わず動きを止めた
強烈な頭突きの衝撃で眩む頭を雫の方向へ向け…そして目を見開く
そこに…雫の後ろに光輝く人の姿が、視界いっぱいに立ち並んでいる光景を見てしまったから
その人数、118体…今は亡き彼ら彼女らの姿が、まるで雫の後ろで彼女にエールを送るように…
「命を救い上げられて、後は少し力を貸せば帰れるまで待ってればいいって……?自分の命をチップに戦う彼方をそのままに…?それは違うよ、彼方。私は今……全ての勇者を代表して君の前に立っているんだ」
握る拳から炸裂するアメジスト色のスパークが、放たれる莫大な魔力が大地を震わせる
その意思と、戦意の強さを物語るように
彼女の後ろから…全ての勇者が漆黒の鎧へと視線を向けている。
眼差しに籠るのは敵意ではない…それは友を見る目だ
そして雫から放たれる魔力に込められた凄まじいまでの…焦りと心配の感情が嫌という程に伝わってくる
「全ての勇者の総意として、私は彼方に挑む。君をこのまま…独りで進ませはしない」
光の人影を背後に背負い、後光のように光の中で姿を映しながら握る拳を突き付けて静かに言い切った雫の姿……それは、まさに……
「…は、ははっ…っはっはっ…!!勇者め……!」
笑いが出てしまう程に……勇者だった
ビキッ…!!と嫌な音が彼方の耳に伝わり、日の光が稲妻のような形で視界に飛び込んでくる
……亀裂が入ったのだ、彼女の頭突きで…『リベリオン』の兜に。
魔力によるエネルギー装甲『
黒紫の魔力がスパークし、すぐさまその亀裂は巻き戻るかのように光になぞられて再生し、塞がっていくが……彼女の一撃一撃が、このエネルギー装甲では防げないことを証明していた
しかし、そんなことも気にすること無く…彼方は意思を固めた
(なら、偉そうなことを言うようで悪いけど……試させて欲しい…もう一度死なせるような事にはしたくないから…。あぁ……こんなに勇者なんだな…皆……なら、俺は……!)
(ふっ………どう?今のは結構キマッてたんじゃない、かなっ?)
『流石だ、破壊………今のお前は最高に輝いてるぜ』
『素晴らしい…この流れるようなヒーロームーブ、やはり本物だな…破壊の』
『そりゃ女の子にモテモテになるわよ…こんなばっちり形作ってくるんだから。あの聖女の子も可哀想に…』
『やれやれ…熱すぎて火傷しそうな展開になっちまった。これこそ勇者……はっきり分かってしまうな』
雫の後ろで腕組みしながら「うんうん」と頷く光る人影数人組と共に、彼女は「ふふん…!」と少し満足そうに小さく鼻息を漏らした!
それと同時に殆どの光る人影が額に手を当て、眉間を揉み、呆れるような視線を雫達に送っていた!
そう、雫がここまでバッチリ決めるところまで全て計算済みなのだ!
初代勇者・階堂吾妻の案により彼方からプランの聞き出しと蘇生案の修正を彼に迫る所までは真面目なプランだった
だが……雫はこういう場面でしっかりとキメる女だった…!
あからさまなヒーロームーヴに一部勇者達が多いに盛り上がり、彼方にバレない程度の動きで頷き合いながらそのあまりの勇者的なムーヴに拍手を送っていた!
しかも雫がちょっと自慢げなのがなんとも言えない…!
そんな集団を冷めた目で見る他勇者達だが、苦笑いしながらもその内の1人…初代勇者・階堂吾妻は楽しそうに笑っている所を、ジト目の小柄な少女が溜め息混じりに背後から突っついた
不思議な雰囲気の少女だ…前髪は横一線にぱっつんと揃えられ、後ろ髪も肩に触れない程度の場所で切り揃えられた日本人形のような美しさのある和風な美少女だ。
背の高い階堂吾妻と並ぶと、その小柄さが顕著に出る…彼を見つめるジト目がとても印象的だ。
…世が世ならゴスロリなんて似合いそうな雰囲気だろう
『…なに笑ってるです、初代。破壊は悪ノリが過ぎるのです』
『いやぁ……我々も随分と明るくなれたと思わないかい?こんなに軽く楽しく話せるようになるなんて…少し前からは考えられなかった』
『ふーん……まぁ、それは同意してやるのです。…と言うか、黒鉄を相手に随分と吹っ掛けやがったのですね?一歩間違えれば黒鉄ブチギレ案件なのです。せっかく3番目なのに、これで
『あっはっはっ!そこは少し勇気が必要だったかな。幽霊に怨まれるなんて穏やかじゃないなぁ…君の3番目が決まったのは最近だったし、仕方ないと思っておくれ』
『ふんっ……希望者が多い中で3番目にしてくれたのは感謝するのですが……星那も理由が出来た以上は遠慮しないのです。…これ以上無いほど起きる理由が出来てしまったので』
『…この件は少し、我々も頭に来ているからね。起きた後は存分に…あの子の為に暴れてくると良いよ、君にはその資格があるからね……
『本番……?』
ーー ぞ わ ぁ ぁ っ っ
全ての勇者達が、一斉に口を止めて視線を向けた
そうせざるを得ない程の尋常ならざる魔力が、空間を歪ませ光をねじ曲げ黒紫の魔力光がブラックホールのように見える勢いで放たれたのだから…雫が光の中に立つのと対照的と言わんばかりに、黒と紫の魔力光の中で鎧の黄金色に輝く双眼のバイザーと走るラインが不気味さを際立たせた
雫は瞬時に、口を一文字に結びさらに姿勢を低くし、魔力のスパークを纏う程の最高出力まで
その額から頬を伝って一筋の汗が伝い落ちる…暑いわけではない、これは…冷や汗だ
…漆黒の鎧が、変わり始める
虚空から現れた様々な追加パーツがドッキングしていく…肩部には追加の兵器内蔵装甲に加えてキャノン砲のような兵器が装備され、アーマー各所に用途の想像も付かない追加装甲やアタッチメント、武装が装備されていく
3つの2mを越える十字の骨組みに盾を重ね合わせたような兵器が浮遊して付き従うように彼方の周りを旋回し始めた
只でさえ厳つい鎧が、さらに大きく見える程の追加武装と装甲はもはや元の『リベリオン』とは別物とすら言える程に…金属音が連続して響き、それが勇者達の悪寒を加速させた
『なっ、ななななんなのですあれ!?見るからにやばいのです!フルアーマーとか、アーマードパッケージとかそんな雰囲気なのですよ!』
『…存外SF系に詳しいね、瀑征。でもその通り…彼の性格ならまずは試す。だから彼女に任せたのさ、彼女で駄目なら…彼を力で納得させるのは不可能だから』
「スサノオから
『「
「当たり前だ……!ここまで覚悟を見せたなら、俺もそれに応えるとも!相手は単騎でギデオンを凌いだ女だ……生半可やってられねぇだろ!……偉そうと罵られても構わない…試させてもらう、もう決して死なない。傲慢だと思って良い…ここで俺に潰されるなら、この先もう死なせないという俺からの慈悲だと思ってくれ……俺より後に、地球人は誰1人として死なせ無いッッ!!」
【Side 霊堂雫】
ーーついに、ここまで来た
勇者達が集まり、皆で話し合いを繰り返した
彼方の計画とプランに乗り、それを横で支える事…彼の危険を取り払えるのは恐らく自分達しか居ないであろう事を
けれど、彼方の秘密主義は徹底してる…一線を引いてしまったら決してその先に関わらせることは無いだろう。
それこそが、彼の計画の真髄…己の安全の完全度外視という危うさと隣り合わさるそれを、黙って見過ごせる訳がない
彼の愛した少女達すらもが何も伝えられていない……今まで勇者達も知らされていなかった、階堂吾妻が彼からそれを喋らせるまでは
きっと、後ろに続かせるつもりだったんだろう……隣ではなく、波風全てを自分で受けてその後ろを進ませる気だったのだろう
今までは、取り付く島もなくあしらわれたり知らないフリで通された…のらりくらりと躱されていたそれが今…!
正面切って立ちはだかったっっ!!
(傲慢?偉そう?…誰が君にそんなことを言えるのさ、私達の心配なんて出来るのはこの世界で彼方だけなのに…!ただ私達の命を心配する事をそんなに自分を卑下した言葉で飾って…悪役を演じるなんて向いてないよ、彼方…!今の自分をちゃんと見なよ、君は否定するけどさ…勇者達の命の心配の為にに立ち塞がる君の姿は……ーー)
ーーこんなにも勇者じゃないか
『おい破壊の!ちゃんとビー玉持ってんな!?予想通りっちゃ予想通りだが、バキバキの追加アーマーと武装で固めた第2形態だ、あれ無きゃ勝機なんかゼロだぞ!』
「大丈夫っ!鉄糸が皆と考えてくれたんだ、ちゃんと3つ持ってきた!…というか、3つしか残らなかった!不器用でごめんっ!」
『お前さんがもっと器用だったら色々とやれそうだったんだけどよ……!生き返ってるのが破壊のだけじゃこの程度の隠し球が限界だ!』
『見た感じ重装甲と大出力砲で固めた火力とパワー特化なのです!それとビット兵器3つ…黒鉄1人だけまるで宇宙世紀の産物なのですよ!?』
横から声をかける勇者達の声に耳を傾けながらも、雫は自分が出せる最大出力の
次の瞬間…彼方の両肩にマウントされた魔導砲が魔力の光を収束させたのを見て、瞬時に動き出した…次の瞬間に短いチャージにも関わらず大地ごと吹き飛ばす破滅の閃光が二本…正面の景色を消し去った
斜線の全てを薙ぎ払い、消滅させるビーム砲の一撃を瞬時に躱した雫は迷うことも恐れることもなく彼方の間近へ一瞬で踏み込んだ。
ビーム砲がある時点で遠距離に居るのは雫が不利、ならばこそ至近距離へ突入する彼女に対して彼方は増加装甲に内蔵された固定型の小口径レーザーを連発する
両肩の魔砲と共に全てが新型の
当たればまず無事では済まない光の粒子によるレーザー銃撃の嵐が壁のように雫の接近を拒もうとする
その光の小さなレーザーが雫の肩に触れようとして…彼女を覆う球状の何かに触れて砕け散るが如く霧散した
「アレンジか……これだから感覚派ってのは厄介な……!!」
「便利な魔法ありがとっ!!破壊蹴ッ!!」
「チィッ……!!『
それは彼方が操る全方位衝撃粉砕による無差別攻撃魔法『ヴァニシング・フィールド』と彼の作品である『
自身の周囲に衝撃を爆散させるのではなく、自分の破壊の魔力を濃く薄く球状にして自分を覆い尽くすことである程度の強度の魔法であれば、その幕に触れた瞬間に破壊される防御魔法『ブレイク・フィールド』はばら蒔く程度の弾幕を全て破壊し無力化する
つまり小さめの威力であれば飛び道具を完全に無効化した上で突っ込んでくる
これに彼方は舌打ちを漏らした……彼女が実戦復帰してからまだ時間はそこまで経っていないのだ。
それなのに自分の得意技に加えて防御魔道具の特性まで取り入れたオリジナルの防御魔法まで完成させてきた…学習が早すぎるのだ
破壊のエネルギーを脚部に収束させ、煌めく魔力光を纏った回し蹴りを即座に放つ雫に対して右腕を振り上げ、手の甲を裏拳の要領で雫の蹴撃にぶち当てる……その衝突の瞬間、分厚い魔力と衝撃のエネルギーが放たれ雫の破壊の魔力とかち合った
それだけで…二人の居る廃都市の中心部は原型も無くなる
激突の破壊力は遠くから球状に見える程の広範囲に渡り、周囲の地面は鳴動しクレーターを産み出した。
たった一撃がぶつかっただけで、形を残していられたものは地面とて無かった…ありとあらゆる物が砕け散り消滅する中、雫と彼方の二人だけが衝撃と破壊の爆心地の中心で未だそれらを振り撒きながら脚撃と裏拳をぶつけ合い押しきろうとしている
ただ『
その一撃が、彼方の足を動かすことすらなく雫を脚撃ごと弾き飛ばした
「
『ありゃパワーと防御ガチガチの重戦車形態だ、シールドと装甲が分厚すぎて相殺されたら殆ど攻撃は効きゃしねぇぞ!』
『でも最初から大技で行くわけにもいかないのです…!遠距離から削れないのですか!?破壊拳なら…!』
『無防備にゼロ距離で食らってくれるならいいけど、いくら破壊拳でもあそこまでガン待ちの防御形態じゃ………』
『…破壊は遠距離攻撃のバリエーションが少ないんだ。あの両肩の重砲が距離の壁を作ってる…けどまずはシールドからだ、一度割れたら再展開には時間が必要の筈だよ』
「分かってる……!今のでだいたい硬さは掴んだ……次の一撃で叩き割るッ」
弾き飛ばされた端から一瞬で体勢を立て直して着地をした雫に、容赦なく2本の大型レーザー砲が地面を消し飛ばしながら迫りつつ上空からは大量の光球が放物線を描きながら彼女に向けて落下…途中から明らかに雫へ向けて追跡しながら迫ってくる
まるでミサイルの雨だ。
それを着地の瞬間に真横に飛ぶことで直ぐ様回避すると、追跡してくる光球に向けて手を差し出し、親指と中指の腹を擦り合わせ…
ーーパチンッ
指を鳴らす
その瞬間に拡散する破壊のエネルギーが小さくドーム状に拡散し、迫っていた光球に触れた瞬間に悉くが爆発…その全てを薙ぎ払ったのだ。
『ヴァニシング・フィールド』の簡易版、指を鳴らした勢いで衝撃波を全方位に拡散させ周囲を吹き飛ばす。
本家の魔法は僅かな溜めと強大な破壊力が特徴だが、ある程度の規模だけあればいい時も多い
魔法名すら雫は考えていない小技だが、これも彼女独特のアレンジ魔法である
よって、ミサイルのように迫る光球を振り向くことなく全て撃墜した彼女は腰に装備された短剣を引き抜き一直線に彼方へ突撃を開始した
「歴代勇者のアシスト付きか……!」
「1人だけで勝てると思うほど増長してないからねっ、贅沢させてもらう!」
「上等ッ!」
ーー ド バ ッ ッ !!
そんな音が聞こえる程の勢いで、凄まじい弾幕が光の壁となって雫へと迫った
両肩の大型魔導砲『ヘリオドール』ニ門による重レーザー砲撃、浮遊する3つのユニット『三賢者』から放たれた紫のスパークを放つ重力砲弾『ブラックパール』、大腿部側面の装甲が展開してばら蒔かれた誘導炸裂魔導弾『ジャスパー』、両手の平から放たれる1m程の大きさで簡易的ながら即座にチャージし放たれた超重力破壊魔法『
その全てが…一瞬にして雫の正面を埋め尽くした
『『『『『『いやいやいや死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぁぁぁぁぁぁっっぅ!?!?!』』』』』』
『もう死んでるんだから静かにしてるですおバカっ!!』
『避けきるのは無理だ、どうすんだ!?』
『ッ……分かっているね破壊っ!』
「とーぜん……ッ!!皆しっかり掴まっててね…!」
『『『『『『どこにぃぃっっっ!?』』』』』』
勇者達の悲鳴が止まらない!
そう、彼らは今この戦いを乗りきる為に雫に全員が取り憑いている状態なのだ……つまり皆が雫というジェットコースターに乗っているのと同じ!
彼女の中で雫が見ている光景のままに感じている彼らは彼方による破滅の弾幕にこれ以上ない程に死の恐怖を感じているのだ!
もう死んでいるけれど!
逃げ場などない、防げる威力ではない
ならばどうするか?
階堂吾妻の言葉に短く答えた雫は目の前に迫る破滅の弾幕に…速度を引き上げて真正面から突入を開始した
自分の中で上がる阿鼻叫喚の悲鳴を他所にして…右手に構えた短剣と、そして握り締めた左手の両方に空間が歪む程の魔力を収束、圧縮していく雫は猛烈な速度で自分に迫る最初の死線…両肩からの2本の大型レーザーを前に体を真横に向けながら側転の要領で…跳んだ
体を横に向けた事による被弾箇所の縮小により彼女は……両肩の大型レーザーの間にある隙間に飛び込んだのだ。
髪の毛先が少し掠め、スカート状の装甲の表面を擦るようにレーザーが通過する…ほんの少しでも見誤ればレーザー砲へまともに当たり吹き飛ばされるであろう、光の柱の間に体を捩じ込むが如き超高精度かつ狂気の回避
これを真顔で完遂する
しかし残る弾幕が、直ぐ様迫る事に変わりはない
彼女が作り出した防御魔法『ブレイク・フィールド』とて、こんなアホみたいな量と火力の攻撃は受けきれる筈もない
だからこそ……彼女は握り締めた左手の拳に夜空のようなアメジスト色の光輝を全力全開で振り、正面に迫った超重力の星と言える破壊魔法叩き付けるが如く打ち抜いた
「抉じ開けるっ………破壊拳ッッ!!」
まさに拳撃一閃…ここで頼った魔法こそが十八番の特技、破壊拳
ただ破壊の力と衝撃を拳撃に乗せて放つだけのシンプルにして超威力の技…彼女が一番信頼を置く魔法
その一撃は正面の弾幕を景色ごと根刮ぎに消し飛ばした
弾幕の魔法が誘爆して爆発することすらない、完全に破壊し尽くされ、その他一切合切形あるものを否定する…まさに破壊の権化。
アメジスト色のスパークが走る度に大地を引き裂き天より雲は千切跳び、その一撃で消滅しなかった付近の魔物は命辛々に逃げ出した
当然、彼方の居る場所も破壊範囲の只中だ
しかし、鮮やかな青色の光を放つ魔力のシールドに加えて更に分厚く表面にシールドを張る三機の追従するユニット『三賢者』が彼の前を塞ぐように立ち塞がり、その衝撃を完全に受け流す
…今だかつて、相殺せずまともに受けに回って「破壊拳」を無傷で防ぎきった者などいない
破壊と衝撃の嵐をやり過ごした彼方が直ぐ様目の前に展開した『三賢者』を自分の周囲に展開し直し……眉を潜める
(雫の姿がない……!まさか…「破壊拳」を目眩ましに使った……!?近付かれるのはマズイ……どこにいるか分からないが、ここは全方位吹き飛ばして……!)
目の前から突入していた雫の姿がない
これに悪寒を覚える彼方は即座に両手を握り締め、魔力を爆発的にチャージする…どこに居るのか分からないならば全方位まるごと壊してしまえば良いだけの事
自分を中心とした全方位を衝撃波によって粉砕する無差別攻撃魔法『ヴァニシング・フィールド』は彼方ほど使い慣れれば発動までのチャージに僅かに2秒
あまりにも……遅すぎた
彼方からしても、背筋が粟立つ魔力の波動が真上からビリビリと伝わってくればさしもの彼も冷や汗が噴き出す
魔力探知が、破壊拳の暴れ狂う魔力によって狂っていた…動体感知等のレーダー系魔力照射は雫の肉体に触れた瞬間に破壊されて返ってこない。
破壊拳の直後…完全に雫を見失ってしまったのだ
そこに生まれた2秒の隙は雫にとって……十分過ぎた
直ぐ様に三賢者の一枚『カスパール』を真上に展開しながら片腕を真上に掲げて防御に回った彼方に、真上から隕石のように雫が突っ込んだのだ
破壊拳を放った直後に思い切り跳び上がった雫は彼方の真上に……そして最大跳躍点から頭を真下に向け、脚から衝撃波を放ち彼方に向けて急降下。
その手に構えた凄まじい魔力を蓄えさせた短剣を構えた彼女が………
「………
その短剣を叩き付けるように、振り抜いた
青とアメジスト色の閃光が花火のように爆ぜ、ぶつかり合い火花を散らす。
陽光まで塗り潰して周囲を染め上げる強さの光は普通に見れば眩しくて直視も難しそうな程だ
直情から急降下と共に放たれる破壊の斬撃……
先程の雫の蹴撃を弾き返した時とは違い、彼方の迎撃に振り上げた腕は間に合わず、その身を守っていた高出力のエネルギー装甲に直撃したのだ
彼方の隠す事もしない舌打ちと共に横薙ぎに振り払った裏拳を直ぐ様にエネルギー装甲を切り払おうとしていた雫の横から打ち込む。
これを一撃に意識を集中させていた雫が避けられはしなかった……
「が……ッ………ぐ………っっ!!」
鋼鉄の裏拳が彼女の横腹に叩き込まれ「メキメキッ」と嫌な音を体内に感じながら、ボールのように弾き飛ばされる…伝わる衝撃と痛みに表情を歪ませる雫は錐揉みしながら吹き飛ばされ、地面に叩き付けられながら地を転がった
しかし、それでもよろめきながらすぐに立ち上がる雫は殴り飛ばされた右の脇腹に手を当てて歯を食い縛る
『破壊の、大丈夫か!?』
「
『怪我は!?立てるかい!?』
「骨は無事!内蔵は……潰れちゃいないけどちょっと休めたいかな…!」
『よ、よく平然と立てるのです…!星那だったら今ので真っ二つになりかねないのです…!』
『てか、今ので無傷か…!?どうやって倒すんだよアイツ!?』
「……いや、それはどうかな」
悠然と立つ漆黒の鎧に勇者達が頭を抱える中で……雫だけが、息を整えながら彼方を冷静に見詰めていた
ーーガラン……ガラン……
ーー バ リ ッ バ キ バ キ ッ
何かが落ち、ガラスが砕け散り崩れるような音が、聞こえてきた
見れば……雫と彼方の間に割って入った筈の大型ユニット『カスパール』が真っ二つに両断されて地面に落ちている
そして彼方を覆う青色のエネルギー装甲が…天辺が完全に砕け散り、そこから広がる皹が全体へと広がりどんどんと欠片が溢れ落ちていく音だった
彼方を守る
更に彼方の両肩にマウントされた大型の
そして、彼方が彼女の剣撃の迎撃に打った裏拳を覆う追加装甲が…
ーー バ ギ ン ッ ッ !!
轟音を立ててバラバラに砕け落ちた
その当時より更なるパワーアップを遂げた雫の一撃は今の一瞬において彼方が想定した力を上回ったのだ
「……まさか、抜かれるとは……」
呆然と呟く彼方の破壊された腕甲の皹や僅かな隙間から……ぽたり、と赤い液体が滴り落ちる
装甲を貫通して腕にまでダメージが入ったのだ
しかし…怯むこと無く彼方は両肩の魔砲と腕の追加装甲をパージして切り離す
同じ腕甲が直ぐ様に虚空から現れて新しく腕に装着され、両肩の魔砲がマウントされていた場所には新たに別種の魔砲が装備された。
そう…あくまで破壊された武装と装甲部分はリベリオンの後付け、生産機能に振り切った彼方ならば替えのアタッチメントは数多残してある
「それでも、俺を倒すのは無理だ。諦めろ。別に何もかも秘密にする訳じゃない、ただ…知らなくても問題ない事だってあるってだけだ」
新たに追加装甲を装備した手を握り締めると、凄まじい魔力が溢れ出す…
勇者達も言葉を失った
勝てるかもしれない、と思った…事実として今の一撃であの黒鉄の勇者は腕から血を流した…そんなことが出来た者が一体何人いるだろうか?
その鎧と武装を幾つも同時に破壊した者が居ただろうか?
しかしそれでも、彼は戦闘能力を失わない
最強と呼ばれるには理由があるのだ
しかし…雫だけは絶望とも言えるこの状況に影を落とさなかった
「…悪いけど、それで頷くようならここに立ってないよ。それに、今のぶつかり合いで分かったんだ…ーー」
ーーそのままなら……多分、彼方に勝てるよ
逆に……勝利を宣言した
勇者達もこれには目を向いて雫を見る
明らかに勝てる相手ではない……あの追加装備は恐らく雫を倒すために専用で開発したものだ
彼女の大技を無効化する防御力、得意の距離に近付けさせない火力、正面から殴り返せるパワー…どれもが雫を上回るように設計されている
雫は静かに考える…その代償は恐らく速度だ。
あの追加装備を身に纏っての戦いが始まってから彼方は一歩もあの場所を動いていない、得意のブースターによる飛行すらしていない
だが…実際にこれが効いている
つまり明らかな雫メタ装備だ
彼女より強くなるように作られているのだ
それを相手に…不敵に勝利を言い切った雫は指を三本立てて、続けた
「3分だけ……今から3分間、私は今の彼方を越えられると思う。戦ってみて…それを実感できた」
雫の手の平に……明るい紫色に輝く大きめのビー玉のような物が2つ、いつの間にか乗っている
鉄糸の勇者が『お前、それ……使うのか?』と恐る恐る言うと、雫は静かに頷いた
「…やってみてくれ。何かするなら…俺はそれを見届ける」
「ありがと…あ、先に謝っとくけど皆のおすすめでこれ作るのに霊山に保管してあったの珍しそうな金属とかくすねちゃった、ごめんっ」
「……おい、そこの生産系勇者共…後で話がある……」
『『『『やべぇバレた!?』』』』
ちょっと怒った彼方!
その金属作るのにめちゃくちゃ手間かかってんだぞ、と言わんばかりに!
さて、そんな勇者達が知恵を出した美しい光を籠ったビー玉だが……おもむろに雫は胸部を守る鋼鉄の装甲を、ガパッ、と開いたのだ。
インナーに守られた彼女の体の曲線がよく見える格好になってしまったが…彼方はそんな場所は見ていなかった
胸部装甲の内側に…制作者の彼方が造った覚えのない機構が見えたのだ
「おいまさか……改造したのか、いや…出来たのか!?そんな簡単な造りじゃねぇぞその鎧…!」
「うん、皆が色々知恵を貸してくれてさ…私はこういうの苦手だからかなり不格好な仕組みになっちゃってるらしいけど。でも…勇者の皆が全部教えてくれたんだ、これで彼方に勝つよ」
それは生産系の歴代勇者達が勢揃いで雫を言葉だけで遠隔操作しながら行った……彼方手製装備の改造。
いかに魔道具の天才とも言える彼方と言えども…魔道具である以上は理論と理屈が物理的に形となって存在している
それを兎に角、生産系に覚えのある歴代勇者達が雫を使って彼女の『ヘルクレス』を直せる程度に分解、ある機構を雫に造らせて取り付けさせたのだ
…ちなみに、雫がもっと器用だったら色々出来たらしい
どんなに勇者達から説明されても彼女では理解できない部分が多すぎたのである
開いた胸部装甲の内側にある機械的な穴に、ボルトアクション式のライフルに弾丸を込めるかのようにビー玉を2つ、順番に押し込む。
『ジャコッ、ジャコッ』と銃器のような装填音が聞こえてくると、雫は胸部装甲を元に戻した
…変化はまだない
しかし……何かが回転するような音が雫から響きはじめて彼方は眉をしかめた
「……何をした?」
『俺らが造らせたのは1つだけ…「魔力の逆流装填」だ』
「魔力の逆流装填………成る程、そう言うことか…!」
『え…今ので分かるのですか?星那には何がなんだか……』
『黒鉄が造る鎧は、使用者の魔力を吸い上げて色んな機能やら付与やらが発動する仕組みになってる。ほら、破壊の背中にもブースターとかあんだろ?あれは破壊のヤツの魔力で動いてんだ』
「要するに、あのビー玉には雫の魔力が詰まってた訳だ。お前達が造った機能は…使用者から鎧への魔力流入機能を逆転させた、鎧から使用者への魔力充填機能だな?」
『正解だ……魔力を封じ込められる物さえあれば出来る。…ま、そんなワケわからん機能の素材に高級希少金属を使わせて貰った訳だ。ただ、それでどうにかなるかは俺達も分からねぇ。戦闘で破壊にアドバイス出来るヤツなんか殆ど居ねぇし…』
『破壊は…自分だけでも勝ちのプランを持ってきていた、ということかな』
唸る駆動音と共に、アメジスト色の魔力は溢れ出した
彼方が造る鎧は、装着している使用者の魔力を燃料にして機能している…それは彼方の『リベリオン』とて同じものだ
つまり魔力は装備者から鎧へと流れていく……これを逆転させればどうなるか?
普通ならば鎧側から使用者へ流れる魔力の溜めは無い…しかし、それを雫のビー玉が解決する。
希少金属により魔力を大量に蓄えておける超簡易的な魔道具。
雫は自分の魔力の最大値を越える魔力を日々コツコツと素材に込めてビー玉を作っていた
…ただ、それだけの物だ
それを飲んだり潰したりしても、空間に霧散して終わり…生物が自分の魔力として取り込むことは決して無い。
だが、勇者達が考案した『魔力の逆流装填機構』は装着者から鎧に流れる魔力流入回路を逆手にとって、鎧側にある魔力を装着者へと流し込む…これに専用機構を取り付けたビー玉を装填した場合のみ、装着者は魔力を回復できる
これは自分が作り溜めした自分の魔力でなければならないが……平時にこれを作りおけば実質的に最大魔力をストックすることも可能だろう。
……素材の希少さに目を瞑ればだが
莫大な魔力を放ち始めた雫はその勢いを強める……それは歴代勇者達にすら、教えていなかった…
「昔から……殺される前からずっと悩んでた。自分で作った『
1人、言葉を続ける雫に彼方が「おいおい…まさか……!?」と珍しくも戦慄を顕にした
言わんとしている事が…分かってしまったから
しかしそれは……普通の発想ではない
「強引に形にする為に魔力が沢山必要だった……私の100%の魔力を越えた魔力がね。だから、これは今の私だとまだ手が付かない完全な未来の力。持続時間はたった3分だけだけど…今の私を超越するっ!」
地面が震えている…雫のあまりの膨大な魔力が、音波に物が揺れるように大地そのものを振動させている。
雫が胸の前で拳を突き合わせ…歯を食い縛り震える程の力を込めながら…何かを発動しているのだ
彼方が身に纏う『リベリオン』の計器類が異常を検知するアラームを鳴らし始めた。
彼方の愛機が言っているのだ…『警戒しろ』『あれはマズい』と、主人に警告し続けている
そして…雫が魔力を爆発させた
津波のように押し流されんばかりの勢い、この重装甲に重きを置いた体が抵抗を感じる程の魔力の濁流と閃光…地は裂け、岩が隆起し、地形そのものが変形し始め彼女の魔力光に全てが塗り潰されて何も見えなくなる
その光が…突然重力に負けたかのように光の粒子となって、ふわり、と地面に舞落ちて…消えた
不気味な程の静寂と、キラキラと舞う美しい明るい紫色の魔力の残滓が漂う幻想的な光景の中で…彼女はそこに立っていた
その姿……明らかに今までと違う
まるで天使の輪のように、アメジスト色の魔力が白銀のスパークを撒き散らしながら猛烈な勢いで回転している。
同じものが両手首と両足首の回りを回転しているのだ……何よりも、目の色が魔力光と同じ色に変わり光を宿している
(なんだそれ…!?強化魔法のさらに上が
彼方の頬が兜の中で盛大に引き攣る
彼は今…この世界で初めて存在を編み出された新たな魔法概念を目の当たりにしていた
強化魔法の二段階目…
それの、さらに上の三段階目なんて考えられる余地もない幻どころか発想すらもが誰もしなかった。
シオンの『
ーーそんな魔法を…殺される前から構想してたのか…!?俺の作った『ヘルクレス』と歴代勇者の知恵と工夫がまさかこんな……!
「これが、私の全魔力の魔力280%使わないと発動すら出来ない最後の切り札…『
ハッ……と気が付いた時にはすぐさま両腕を交差して防御の構えを取り、残る補助ユニット『バルタザール』『メルキオール』を前に掲げて盾にした
チリついたのだ……命の危機が
リベリオンにさらなる増加装甲を施した防御形態を固める彼方が…命の危険を感じ取った
ただ、離れた場所から…どこか息を荒く口で呼吸をしながら雫が拳を引き絞っただけで、あの旅の最中に感じた死の気配を、死神の鎌が首に添えられた悪寒を錯覚したのである
その悪寒は雫が離れた場所から振り抜いた渾身の拳撃の波動によって……ーー
「………破 壊 拳……ッッッ」
「がッ……ァ………ッッッッッッ……!?!?」
ーー…一撃で、防御体制をとった彼方の『リベリオン』貫通し増加装甲の上からを半壊させ、内部の彼方の肉体をズタズタに破壊したことで…現実となった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【Data base】
《
彼方が雫と本気で戦う際に使用するべく製作していた『リベリオン』専用追加装甲武装パッケージであり、『リベリオン』の上から各所に装着することで機能を発揮する
前提として軽装甲高機動は雫に対して圧倒的に不利になる。
中近距離で超威力広範囲の技を連発してくる雫にはあまりにも相性が悪く、避けても迎え撃っても先に削られてしまうからだ
故に分厚い装甲と圧倒的火力が特徴であり、物理的に盛られた特殊魔法合金装甲に超出力の『
その防御は雫の代名詞と言える特技『破壊拳』すらも受け流す
大型魔導砲『ヘリオドール』は新開発の
雫をそもそも近寄せずに一方的な射程外からの攻撃を可能なするものだ
両腕には同じく無属性の魔法針速射砲、機体各所から魔法誘導弾の発射機能を備え、両手の平には威力を抑えた変わりにチャージ短縮用のスーパーチャージャーと魔導重力レンズを搭載して
腕甲には衝撃増幅と
総じて「動かずに防ぎきりながら乱れ撃ち、近づかれたら殴り飛ばす」を徹底したコンセプトであり、その代わりに空中機動力は絶望的。
戦闘機動のことなど考えておらず、浮遊の移動くらいが関の山。
機体にブースターはあるものの、増加装甲が重たすぎて機動性は皆無
よって「重戦車」と言った鉄糸の勇者の言葉はまさに的を得ているだろう
強化魔法のモード『
それをサポートするための戦闘補助ユニットが『
分厚い特殊魔法合金の機体に高出力の
補助ユニットとしては異例の大型機であり、その分だけ機動性を捨てて彼方の側で火力と防御に徹するのが役目となる
しかし……新たなステージに無理矢理進んで見せた雫には打ち砕かれた
リベリオンでは勝てない…もうこの鎧で彼方が『
『マスター、大丈夫ですか、マスター。バイタルが危険域です。マスター、しっかりしてください。このままでは生命活動の極端な低下に入ります。聞こえていますか、マスター』
(聞こえ……てる、っての…。…やべぇ……全身ズタズタだな……無事な骨残ってんのかこれ……?あー……内蔵も幾つか潰れてんな……マジで死にかけだ……よく体の原型が残ってるってもんだ…)
『ナイチンゲールの起動までなんとかお待ちください。リベリオンの生命維持機能・・・喪失を確認。ラウラ状に緊急連絡を、すぐに治療を』
(落ち着け………あぁ、お前を創ってからここまでボロボロにされたのは初めてだったか……大丈夫だ、リベリオンごと壊れたけど『
『・・・はい、何なりと』
(……スサノオに『ロンギヌス』の転送準備をさせておいてくれ…。あの状態の雫…
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