第167話 目撃者となる


強烈な閃光と共に放たれた魔法弾が螺旋状にエネルギーの帯を回転させながら高速で飛翔し、的として置かれている木と鉄で組み合わせた案山子の胴体をど真ん中から削ぎ貫いて吹き飛ばした光景はそれを見ていた生徒達から歓声の声を引き出した


ここはヒュークフォーク王立魔法学院の屋内演習場であり、現在は高等科一年生の実践魔法講義の真っ最中だ。

既にこの学年の生徒達が入学して数ヶ月…春に入学して夏を超え、そして秋の今ともなれば皆がある程度の魔法への慣れを得ている頃であり、むしろちょっとした自信の行き過ぎすら見えてくる頃だ


これも一過性の思春期と言うべきか…「ここまで練習していて、魔法の腕は上がっているのだから凄かろう!」…なーんて思っちゃう時期でもある。

勿論、上級生達や実戦経験のあるも者からすると「あー…あるあるそんな時期」と遠い目をするようなモノだ


さて、そんな場にそぐわない明らかな異色を放つ実力の魔法を見せた少女が自分の放った魔法に感慨も自信も見せず淡々と元の場所へと戻っていく所である


これは「魔法弾バレット系」の魔法講義である。

魔法攻撃の基本中の基本である魔法弾…魔力を固めて放ち相手にぶつける単純にして基礎の魔法は魔法の才能が少しあれば取り敢えず練習次第で放てるくらいの敷居の低さ、いわば攻撃系魔法の入門とされるもの


この場の高等科一年生全員が放てる、と言えばその難易度は分かるだろう。

しかし…「実用的か?」と問われればまだ殆どの一年生達が首をかしげるレベルだ


当たっても銀級冒険者ならばよろけるレベル…と言えば実用性が理解できるだろう。

実際、子供の覚えたての魔法弾ともなればその程度の威力しかないのだ。

護身用と呼べるレベルにするまでに丸一年は優にかかるのが普通である


練習の的に使っている案山子は頑丈な丸太を束ねて鉄製のコートを巻き付けた者であり、この学年の生徒達が放つ魔法弾では凹ませることも出来ず、そもそもコントロールがおぼつかずに数m先の的に当てる事さえ初心者には難儀だ


優秀なクラス・アーレの者達はそんな覚えたて程度は越えているとはいえ、まだまだ魔法に慣れていない初心者と言える


ともなれば、たった今見せられた光景は皆の度肝を抜いたのは言うまでもなかった


魔鉄ではないとは言え鋼鉄のコートを纏った硬い丸太を4本は束ねた案山子のど真ん中を容易く貫通せしめたその魔法を撃った少女はトレードマークの白銀色に光を返すサイドテールの髪を揺らせながら…その歓声に首をかしげたのであった



「皆どうしたのかな……あ、もしかしてあの的を全部壊さなきゃダメなんだ!じゃあもう少し撃って…」


「はーいそこまでっすよルルエラー。あれ壊しすぎると先生達が泣くっすからね、1体で110万くらい値段するんすから」


「うわ、マジでルルエラやばいんだ魔法弾系!噂にしか聞いてなかったけどさ、生で見ると感動モンだよ!」


「ぅえっ?でもあれ、撃つためにあるんじゃないの?ほら、皆バンバン撃ってるし」


「壊されない前提なんすよ、あれ。普通は魔法弾の講義でそんな威力だす生徒居ないっすから、使い回し用の的、って事っす。…ちなみにうちベルフォリア商会の商品っすから、個人的には派手にぶっ壊しちゃっていいんすけどね」


「そういう営業は睨まれるよー?ほら、学年主任の先生があそこで真っ青な顔になってるし。シオン達がこの講義で魔法使わないのも、的用の案山子が一撃でバラバラになっちゃうからだもんね」


「最初は酷かったっすね……全部一撃で吹き飛ばすもんだから学年主任が頭を抱えてたっす。ちなみにあの時の商会の収入は1000万超えてたっすね、ガッポガッポっすよ」



そんな注目の魔法の射手はルルエラである


才能や得手不得手の関係から攻撃魔法は魔法弾系のみに絞っているルルエラではあるが、その練度は非常に高く通常の魔法弾1つでも鋼鉄に穴を空ける威力を叩き出す。

さらに上位の魔法弾系魔法を自身で編み出し、習得しており単系統ながらにバリエーションも多い


魔力量も彼女を取り囲む異例の友人達を覗けば桁外れのモノを保有していると来れば、その威力は知れるだろう


しかしながら、ルルエラは目の前の結果にそれ程の価値は見出だしていなかった


見ているのは聖都での戦い……自分の魔法が通じず、得意の転移すら対策されて逃げ場を失った苦い経験。

友人達の凄まじい戦いぶりにあまつさえ助けられる始末であり、その彼女達すらも庇護される扱いと来ている


目指すべきはそこだ…特に親しく、熱い愛情を寄せる少年は勇者と同じ異世界人。

彼に置いていかれる、守られるだけの存在にはなりたくないのだ


つまり、目標とするステージがあまりにも高い


動かない人形を撃った程度では自尊心すら動かないのは当然であった


それを迎えた二人の少女が笑いながら言葉を掛けた


スーリ・ベルフォリアとレイラ・マルトゥーカの2人だ。

レイラは現ラヴァン王国宰相の一人娘、スーリは世界最大手ベルフォリア商会の跡取り娘と超が付くお嬢様であるが、ルルエラとは仲良しであった


これもひとえにルルエラの隔てない性格もあり、シオン達を経由して友好を深めた結果である


……そんな世界を股に掛ける大商会ベルフォリアから学院が購入しているのがたった今ルルエラが魔法1つでバラバラに破壊した案山子であった。

それはもう情け容赦なく一撃で粉砕した案山子ではあるが、頑丈な丸太を束ねて鋼鉄のコートを巻き付けた特製品…安物の筈がない


簡単な魔法抵抗の付与が施され、初心者の魔法弾では傷も付かないような硬さは備えているものだ。

だからこの案山子は長年備品として使い回される。

この講義に参加するような一年生が傷でも付けられれば優等生なのだ…それを鋼鉄までグシャグシャに貫き丸太の束を木っ端微塵にする生徒が現れるなんて思いもしていない


このクラスでシオン、マウラ、ペトラの3人がこれをやってのけ、20本以上の案山子を原型すら留めない勢いで破壊してしまい再購入に大出費があったのは生徒達の間で笑い話である。

その学院にとっての悪夢がルルエラでも起きてしまったわけだ


買い直しの仕入れでベルフォリア商会はウハウハだったのはここだけの話だ…大会頭のスーリのお爺様が大笑いしながら「素敵なお友達じゃわい!もっと壊させれやれぃ!」と上機嫌だったらしい


以降、この講義でのシオン、マウラ、ペトラの3人は殿堂入り扱いで案山子撃ちは厳禁となったのだった。

今では空いてるスペースで色々と術式を編んでは改良を繰り返す自習時間と化しており、ルルエラも3人と同じ場所に送られるのは時間の問題である


見れば他のクラスや学年の生徒達までもが野次馬で集まっていた。

これはもはやヒュークフォーク王立魔法学院の伝統とも言える光景…皆が他人の魔法が気になって仕方がないのだ、足を止めて劇を見に行くように魔法講義を覗き込んで人の魔法を観察するくらいには当たり前の風習


やはり、と言うべきかルルエラは目立っていた


元が小柄ながらに美しく愛らしい少女と言う事もあり、途中入学してきた時から話題にはなっていたのだ。

それが魔法の腕前までピカ一と来れば注目を浴びないのも無理な話、皆が見たくて仕方がない


だがそんな大衆にルルエラはあまり興味がなかった


生徒達の波の中から探していたのはある一人の少年だ。

上級生はこの午後の講義は無く放課の筈だが、その人物は……



「あっ、居たっ!」



嬉しさを隠さない声と共に手を大きく振るルルエラの視線の先に居たのは勿論、耀だ


戦士科の制服に身を包んだ彼は1人で様子を見に来ていたのか、少しはなれた場所から彼女の活躍を見ていた耀はそんな彼女へ微笑ましそうに小さく手を振り替えしている


なんとも仲睦まじく、誤解の余地もない2人の関係を目の前で見たスーリとレイラはニマニマしながら顔を寄せあい小声で言葉を交わす



「…ルルエラもあからさまっすねー。こりゃ難攻不落もいいとこっす…狙ってる男も多いのがいたたまれないというか、ざまぁみろと言うか…」


「だよねー……結構なピュアピュアちゃんに見えるし、愛想はいいけど本当に無防備な笑顔は極少数にしか向けてないし、意外と防御硬いよルルエラって」


「あーあ、ヨウ先輩の手前に居る男子達が自分に手振ってるって勘違いして手振り返してるのが痛々しくてメシウマいっす…!罪な女っすねぇ」


「シオン達と違ってまだバッサリ切り捨ててないから余計にねー…。希望持っちゃってると言うか、夢見ちゃってる的な…あ、最近もヨウ先輩スゴかったんだってさ」


「それ聞いたっす。戦士科の中では殿下もストライダム大将の子息も及ばないぶっちぎりの腕前だって判明したらしいっすよね。あーんな大人しそうな感じなのに…人は見かけによらないっす」


「それはルルエラもだよ?ふっふっふっ……私は見ちゃったもんね、ルルエラが放課後誰も居ない階段の踊り場でヨウ先輩に飛び掛かってキスしてたところ…!」


「うわぁっ、マジっすか!?それ聞いただけで男子が何人も失神するっすよ…というか、ルルエラが捕食者側ハンターなんすね。ホントに見かけによらないっす」


「ちなみに私の見立てだと…あの2人、まだは行ってないね…!ルルエラは押せ押せだけどヨウ先輩は受け入れつつ先に進む部分は慎重派と見た…。しかもルルエラからのキスには恥ずかしがりながらしっかり応えてたところを見るに、ちゃんとひよらず向かい合う男気もある…いい男だよ、ヨウ先輩…!」


「さっすが宰相の娘……人の関係とか心情見るのは得意っすねレイラ。端から見ると完全に恋愛脳の余計な勘繰りする野次にしか見えないのが玉に瑕っすけど。あ、ならカナタ先生は?」


「そうだなぁ……あの3人がめっちゃ押し強なのに満足そうだからじつはめっちゃ甲斐性あって進むとこまで進んでると見た。普段は結構ラフっぽい性格だけど押された分だけ全員纏めて満足させちゃうくらい愛のリターンが特大、ってとこかな?」



そう、レイラの父は宰相なれば外交から貴族の相手までなんでもこなす王政の番人…その後を継ぐとされるレイラ・マルトゥーカともなれば普段の態度と相関図でこの程度の情報を察することくらいお茶の子さいさい!


耀とルルエラどころかシオン、マウラ、ペトラとカナタ達の関係性までまるっとお見通しだった!


少し遠くでシオン、マウラ、ペトラの3人が一斉にくしゃみをしたのはきっと噂をされたからだ…!


そんな話の中心に居るルルエラは、といえば…



「…あれ?なんか……地面揺れた?」


「えっ、ほんとっすか?」



首をかしげてそんなことを言っていた


言われて初めてスーリとレイラも、たっている地面が少し揺れたのを認識する。

アルスガルドでの地震は珍しいのだが、この時確かに連続して地面が揺れていたのだ


基本的に火山地帯でしか起こらない現象であり、その他の場所では十数年に一度程度か発生しないのだがこの時は珍しく、不規則な周期で揺れが起こっていたのだ


こうしてじっ、と立っていれば感じる程度なので震災のようなレベルではないのだが…ルルエラは人生初の地震に少し驚いていたりする




一方、耀の方はと言えば…






(うわー……すっごい目立ってるよルルエラ。あぁ、嬉しそうにこっちに手振ってる…可愛いなぁ)



こういう時に己の感情を包み隠さずさらけ出すルルエラの爛漫とした姿に遠くから癒されていた!


地球にいた頃は毎日が平和で楽しく、危険や冒険など起こる筈もない日常を当たり前として過ごしていた耀もアルスガルドに来てもう何ヵ月だろうか…半年はいかずともそれなりの時間が経ち、様々な経験をした


命がけの冒険、命がけの戦い、命を狙われた攻撃の痛み、流血の感覚、魔物という怪物の奪命…何もかもが新しく、良くも悪くも刺激が加わった。

そして耀は…何気ない平和な日々に黄金のような価値を感じるようになっていた!


それはもう、縁側で鳥の囀ずりと木の葉の擦れる音を聴きながらお茶を静かに飲む爺やの如き波風のない時間へのリスペクトが湧き出して止まらない!


こうして学院生活を送り、友人と顔を合わせ、惚れ込んだ少女の花咲く笑顔に癒される…これを幸せと呼ばずになんと呼ぶのか


だが、勿論彼自身は有事への備えを忘れない。

王都に戻ってきているザッカーのと新しい修練と1人で時間があるときに行う練習と鍛練…元より家が古流武術の道場だった耀にとっては通ったことのある時間であり、同時にアニメ、漫画やライトノベルで見た魔法とゲームで得意としていた戦況の組み立てとレベリング好きが幸いし…わりと楽しみながら自分を磨いていたりする


それに…聖都で垣間見たルルエラを喪う未来の光景が、後押しして強さの獲得を熱望させていた。

彼女への強く熱い気持ちを自覚した今、ルルエラを必ず害意から守ることを決意した耀はかなりのハイペースで実力を底上げしにかかっていた


友人達と魔法の講義を受けるルルエラに心和ませながら小さく手を振って返すと「さて…」と1人呟いて屋内演習場を後にする。

この後は1人の時間…図書館にでもいこう、と足を向けた耀の頭上を影が遮った


天気は良好、雲1つ無い見事な秋晴れだ


いきなり天気が崩れたのか…?と視線を上げた耀の目に、妙な景色が写った



「…なんだろう、あれ…渡り鳥…?」



複数の飛行する影が、空の上を飛んでいるのがみえたのだ


最初は鳥の群れかと思ったが…それも思い違いだとすぐに気がつく



……多すぎるのだ



凄まじい量の、陽光を半分は隠してしまえるような凄まじい数の翼を持つ姿が不自然なほど一方角、南西方向から一直線に王都上空を通りすぎていくのである


しかも、鳥だけではない…有翼の魔獣や魔物までが入り乱れながらまるで川の流れのように一方向に向けて飛んでいく光景は間違いなく異常だった。

そして王都に襲撃に来たのかとも一瞬考えたものの、目もくれずに通りすぎていく…


そこに加えて…



「また揺れた……地震なんてこの世界で初めてなのに、しかも変だ…普通の地震じゃないような…」



また地震だ


地震大国とまで呼ばれる日本育ちの耀からすれば慌てるような物でもないが…揺れ方がおかしい。

横に揺れていない…縦揺れだ、それも地震というより巨人の足音というべきか…揺れが不規則で連続していない。

しかも1つの揺れの振動が単発…ガタガタと揺れずに「ドン…ドン、ドン」と妙なテンポで揺れている


耀もここまで不自然な地震は初めてだ


なにやら嫌な感じがするが……


そんな彼の視界の上、校舎の屋上で妙な魔力の光と独特な風が渦巻くような光の流れが目に留まった。

ただの魔力の流れにしては不自然…だが、耀はその現象を見たことがあった


強化魔法で底上げした身体能力により一飛びで軽く三階建ての校舎の屋上まで飛び乗った耀は、その屋上の渦巻く魔力の光と、それと同時に現れた人影に「あれ…?」と首をかしげた




「やっぱり、彼方君の転移魔道具だ……って、朝霧さん?」



そこに居たのは朝霧だった


シュッツェルトーの森から王都に、そして王都と聖都の往復に使用された彼方の転移魔道具『遡行の羅針盤トレーサー・コンパス』の転移時の魔力流を覚えていた耀だが、てっきり彼方かラウラが転移してきたのかと思っていたのだ


朝霧が1人でここに転移してくるのはなかなか珍しい…そして何故か彼女は制服姿ながらにどこかその服が煤けて見える。

砂埃か炎の煙か…しかもどこからどう見てもお疲れのご様子だった



「……耀……ふ、ふふ…こんなところで、奇遇ね…」


「き、奇遇かどうかは置いといて…どうしたの?なんかこう…ボロボロだよ?」


「えぇ……ちょっと大変なことになってて、一度避難しに来たわ…あぁ、学院は平和で素敵ね…」


「朝霧さんが天を仰いで遠い目をしてる……!?いやいやっ、そんな穏やかじゃないこと起きてるの!?」


「全然穏やかじゃ無いわ……あ、そうよ。耀も来なさい、私1人は不公平よ」


「嫌だよ!?今の聞いて朝霧さんを見たら絶対に行きたくないけど!?というかそろそろ何してきたのか教えて欲しいかな!?」



めちゃくちゃ不穏だった…朝霧の普段の様子からは離れた疲れたような雰囲気、絶対に何か穏やかならざる事が起きている!


そこに連れていかれそうな耀は全力で首を横に振りまくった!


折角穏やかな放課後を過ごして平和を堪能していたのに自分から渦中に飛び込んでいく程、彼はバカではないのだ!


そんな朝霧が取り敢えず萎びれた様子から復活するまでに数分程かかったのだが…



「それで、なにかあったの?」


「こればかりは見た方が早いと思うけれど……ここから離れた廃都みたいなとこに居たのよ、さっきまで」


「なんでそんな場所に……って、この辺りにそんな場所あったっけ?」


「遠いわよ、かなり。そうね…かー君の大きい飛行船みたいなので一時間くらいかしら。ほんとに街の残骸しかない場所よ、ラヴァン王国の外らしいわ」


「ますますそんな場所で何してたのか気になるんだけど……」


「空から見た感じ方向的にはここから南西かしら…昔は大きな国があったらしいけれど随分と前に滅びたみたい。今は魔物や魔獣が住み着いてるから危険地帯扱いみたいよ」



調子が戻ってきた朝霧から聞いた感じ、物騒な場所ではあるが彼方が一緒に居たらしく危険や物騒さは皆無のように聞こえる…先程までの煤けた姿はなんだったのか


良く見ると別に傷が有るわけでも痛めたわけでもなさそうだ


さて、そんな朝霧が先程までの居た場所というのも不思議なところ。

ここから離れた先…約300年までは昔にラヴァン王国の南西側に隣接するようにあった国があった。

ラヴァン王国を囲む高山や渓谷の先、さらに進んだ場所にあったその国は魔神戦争に災して滅亡の歴史を辿ったのだ


現在は廃都と化し、風化して土台のみを残して殆どが崩壊して自然に還った家屋が存在来るのみであり、国を滅ぼした魔物が住み着いて危険な地帯とされている。

多くの人々から危険視され、他国へのルートとしても除外され、いつしか場所の名前すらも忘れ去られた悲しき場所だ



「で、ルルエラの講義はもう見なくていいのかしら?」


「うぐっ………な、何故それを……」


「分かりやすいわね、耀。この時間は一年生の魔法講義……今のベタ惚れな耀なら真っ先に見に行くと思ってたわ」


「べ、ベタ惚れとか言われると恥ずかしいんだけど……まぁ…否定はしないと言うか…」


「そこで否定しないところが、耀の良いところよ。それであなた達…どこまで進んだのかしら?」


「それ答えなきゃダメかな!?」


「えぇ答えなさい。私は出会いの最初から耀とルルエラを見守って楽しみにしてたのよ、聞く権利があるわ」


「あんまり言いたくないんだけど…ほら、こういうのって人に聞かせる話でもないと思うしさ」


「ちなみに私はさっきかー君とキスしたわ」


「人に聞かせる話でもないと思うんだけどなぁ!?」


「はぁ…かー君からして貰えたキスはすっごくドキドキしたけれど、でも幸せだったわね…。それで耀、あなたからキスしたことはあるのかしら?」


「ぐふぅっ…!?そ、それは……その……したことがない事も、無い…はず、と言うか……」


「あら……あらあら、もっと覚悟が決まってると思ったのだけど?素敵だったわねー、男性からされるキスっていうのもー」


「く、ぅ……!わ、分かってはいる…よ…!けどその…いや、言い訳なのは分かってるけど…!れ、恋愛初心者にはなかなか……!」



わっっざとらしい言い方の朝霧だが今の耀にはこれが効いた!


暇になった放課後の自分がルルエラの様子を見に行っていたのをお見通しであった事自体がこっぱずかしいことこの上ないのに、加えて自分が彼女に対して強いアプローチが出来ていない事を突っつかれている!


いや、耀とて応えていない訳ではないのだ…学院の中で人気の無い場所でのルルエラからのアプローチ…というかキス魔の彼女からのキスはしっかり受け止めて返しているあたり嫌なはずもないのは伺える


しかし…!これを「耀からルルエラに」したかどうか、と言われれば今日の今までNo!


いかに冷静かつ客観的に俯瞰した視点を持ち、ルルエラに対してしっかり応える気概の耀とは言え恋愛初心者には変わりなかった!


内心では「今度こそ…!」「今なら…!」と散々考えては来ているのだが、ちょっとした恥ずかしさによるタイムラグの隙にルルエラは一瞬で彼の唇を奪い取る!

その速度に、まったく勝てていないのだ!


耀もしてみたい…してみたいのだがルルエラの攻撃力が高過ぎて太刀打ちできない現状は彼に悶々とした日々を送らせているのだった



「わ、分かってはいるんだよ…このままだとダメだって。またいつ後悔しそうになるか分からないのに手を引っ込めてる場合じゃないんだ…」


「…それが分かってるならいいんじゃない?私は地球でそれを学んだわ、そしてこの世界は優しくない…。ねぇ、もしも「まだ高校生だから」とか地球の基準で考えてたりするなら、それは止めちゃわない?」


「高校生だから……あぁ、そっか……それは……」



耀は少し、自分がルルエラに踏み込めない理由の一部が分かったような気がした


……なんて考えてる部分があったことに、自分のことながらようやく自覚したのだ。

きっと魔法学院という学校生活を送っている事もあるのだろう…頭の中でどこか「学校生活での恋愛」に分類しかけてしまっていたのではないのか?


いや、心持ちは変わらない…だからと言って彼女への気持ちの強さが変わるわけではないのだ。

しかし学生のお付き合いとことの間にはきっと大きな差がある気がする…


ーーまだ、覚悟が足りなかったのではないのか?


その考えに思わず溜め息が漏れた


命が懸かったあの戦場でルルエラへの気持ちを自覚したのに、そこに自分は…


彼方の姿が脳裏を過る…自分が愛した彼女達の為に全てを懸けて徹底的に障害を破壊しにかかるその姿に………ようやく

恋愛というで見ていた自分が居たことに恥ずかしくなる


彼女は、ルルエラは少なくとも自分の全てを懸けたぶつかってくれていたはずだ。

まさに不退転、これは…学生の恋愛のような、切れても「次に進む」なんて甘い世界の話ではないのだと自覚した



「…それが甘かった、かなぁ。もっと…聖都で追い詰められた時くらいに必死で手を伸ばさないとだめだ…そうだよね」


「あら、今気が付いたの?…なーんて茶化すのは無しよね。ねぇ、耀…あなた日本に居た時よりも随分と良い男になったわよ」


「あはは……そう言われるのはまだ早いかな…。この気持ちにしっかり結果を付けないと、僕は前に進めないから」


「そうね…私はまだかー君がこの世界で生きててくれたから良かったけれど、本当ならこれが今生の別れだったもの。私も、もう後悔はしたくないわ」



ここに来てようやく耀は朝霧の彼方に対するブレーキの無さにちょっとだけ「なるほど…」と内心で思う。

確かに、耀はあの時ルルエラを喪う感覚を未来予知による「起こっていなかった光景」として捉えた…だが朝霧は実際に好きだった人を一度喪っているのだ


それが異世界に来ていて、その世界に偶然自分も喚ばれるという奇跡の先に2人は再会を果たした…ブレーキも壊れると言うものだ


そしてこの世界では…命の脆さが異様に目立つ異世界ではその姿勢こそが正しいのかもしれない



(さ、流石に急に朝霧さんやルルエラくらい押せ押せでは行けないけど…でも、僕もそうあるべきだよね)



それを認識した耀は改めて決心するのであった













ーーズ ン ッ ッ




ーー ズ ズ ン ッ ッ




「…あれ、また揺れてる…。さっきから妙だ……ずっと繰り返し、変なペースで地面が揺れてる気がして…」


「あーー……それね、えぇ……やばいわよねー」


「それに鳥とか翼や羽のある魔物と魔獣が向こうの方角からどんどん王都の上を一直線に流れていくんだよ……悪いことの前兆じゃないといいけど」


「まぁそれは……大丈夫だと思うわよ、多分……きっと…」


「こう言うのってさ、天変地異の前触れみたいな感じでよくあるし…嫌な予感がするよ。理由もなく起こらないと思うんだ」


「理由なら……あるわね…まぁそれはそれとして、ね?耀…そろそろいいかしら?」


「えっ、何っ?なんで急に手首なんて掴んでくるの?…ってそのコンパスは確か…」



度重なる地震と飛行生物の大移動が、まるで世界の週末を予想させる光景を作り耀の悪寒が加速していた


そんな彼の言葉を人知れず視線を朝っての方向へとずらして小さな声で返していた朝霧が…そぉっ、と彼の手首を握ってくる


……まるで、逃がさない、とでも言うかのように


瞬時に朝霧の顔を見た耀は…彼女の耀かんばかりの笑顔を見たと同時に、その反対の手に見覚えのあるコンパス型の魔道具を握っていることに気が付く。

それは転移の魔道具…彼方が手製で作った遠距離を繋ぐ移動の要


耀の「朝霧さん何を…」という言葉を待たずして、彼女は転移を発動させた


…掴んだ耀もろともに


風の巻き起こる音と光を残して…2人の姿は屋上からかき消えたのであった
















ルルスラット小王国は現在のラヴァン王国国境線が引かれてからラヴァン王国から派生する形で興った小さな国だった


ラヴァン王国地方特有の四季と安定した気候が特徴であり、王国と隣接するような場所にあることもあり国交も盛んだったと記録されている


他の町等はなく、首都のみで完結した国としては小さな規模ではあったがラヴァン王国の四大都市に匹敵する規模を備えたルルスラット小王国だったがラヴァン王国と隣していたにも関わらず…小王国だけは滅亡した


理由は立地


ラヴァン王国国境線は四大都市を起点として王都を中心に円形に引かれており、その国境線付近は深い渓谷や高山が取り囲む非常に特殊な立地を持つ。

それは天然の要塞であり、地上型の魔物はそう大挙して押し寄せることが出来ない


飛行能力があるエデルネテルが襲来し、地を這うガヘニクスがラヴァン王国を戦場としなかった理由はここにある。

ガヘニクスならばラヴァン王国に地中から入り込めるが、そこに共する魔物が入り込みずらかったのだ


これがラヴァン王国の防御力の理由であり、その外にあるルルスラット小王国は魔物の侵攻に対してあまりにも無力だった


押し寄せる魔物に対し抵抗をしたものの、結果的に小王国は魔物によって滅ぼされることとなった


それから魔物の巣窟として危険地帯と化したルルスラット小王国は人から避けられ、そして記憶より遠ざかっていく…いまやかつての廃都市としてのみ、人々に認識されている


立ち並ぶ建物は基礎の部分を残して崩れ風化し、町の場所だけが分かるような有り様は滅び去ってからの長い時間を視覚だけで訴えかけ、草に飲まれる町の姿は人の手を離れ自然に帰ろうとする様を見せつけてきていた



「えっと…もしかしてここが朝霧さんがさっきまで居た廃都?」


「そうよ。最初は風情があって哀愁を誘う場所だったのよね…」


「いやでも……ように見えるんだけど?ただの荒れ地というか……穴ばっかりの月面みたいだね」


「…元はそうだったのよ?ほら、あの辺りとかちょっと名残を感じるわよね」


「…あそこのちょっとだけレンガが積んであるみたいな残骸のこと?言われなきゃ気付かなかったよ?…というかそろそろ聞いても良いかな?」


「…あのなにかしら?」


「……………ここで何してたの?」


「それは………あっ、伏せた方がいいわ耀っ」


「え………?」





























「破滅の殲星、ここに来たりッ!!原始の星は絶滅の綺羅星ッ!!ーー手合わせなんて建前だろ……っ!いい加減諦めろッ、源星核アトム・オリジンッッッ!!」





「我は破壊者、天命を穿つ滅びの使者なり!!我が一撃は常世の理を打ち崩す…!!ーー色々聞かせてくれるならねっ!こちとら勇者118人の代表さっ!!壊焉デミスぁぁぁぁッ!」









景色が…………視界の全てから消滅した


遠く、転移した向こうの向こう、地平線にも見える場所で異色に輝く2つの巨星がその操手の手ずから叩き付けられ、衝突したのだ


漆黒に暗い紫の光を収束させた超重力を宿す星と、明るいアメジスト色と銀光を迸らせる破壊の理を宿した星が互いに突き出した手によって真正面から叩き付けられ…地平の向こうが極光によって消え果てる


地を衝撃波が舐め、土の粉塵が瞬時に舞い上がり…その直後に破壊の嵐とも言うべき衝撃の波動が地上に残る有形の存在を塵へと還す。

あまりの威力衝突により大地は泣き叫ぶように鳴動し、大揺れとなって揺るがした…まるで星の爆発を見ているかのような破滅の光景だった


それは地球のあらゆる兵器で行える破壊規模を…いとも容易く上回る


まるで世界の終末、大地は激震により弾むように揺れ動き大気は弾け飛ぶように衝撃を伝播させる。

空の雲は一変も残さず消し飛び、強制的に快晴を作り出され、この場にあったであろうかつての廃都市はたった2人の地からの衝突により…数分と経たず原型を残すことなく消失したのだ


住んでいた魔物達は認識する間もなく消滅した……付近に住む魔物は一目散にこの場と正反対の方向に向けて逃げ出した。

地を駆ける魔物は他の魔物を踏み潰してでも走り、空飛ぶ魔物は空に川を描くような大群を作ってその方向へと逃げ去っていく


あまりにも強すぎる魔力波動は棲み家を荒らしたたった2人の存在に対して反撃や交戦なんて微塵も考え付かせない。

全ての魔物が、この場の周囲数kmを越える先の魔物までもが本能で理解した



ーーここに居れば死ぬ



それを想起させるには十分すぎたのだ


地を薙ぎ払った衝撃の津波を腕を構えて耐えた耀はようやく理解した


地震も、空を飛ぶ魔物の大移動も……ーー




(ーー……全部この2人の、彼方君と雫さんの闘いの余波っ!?まさか2人が衝突する度にその衝撃が王国まで地震になって届いてたってこと…!?あの魔物の群れは…ここら地方全部の魔物が2人から一斉に逃げ出したからだ…!!滅茶苦茶すぎるっ…!!なんでこんなことになってるかは知らないけど、でもこれが……ーー!!)





全て、彼方と雫が激突する際の余波でしかなかった





金色のラインに双眼を不気味に耀かせる光を飲み込む漆黒の鎧と、肩を出しスカート状から健康的な肉体を覗かせる明るいアメジスト色の近未来的パワードアーマーを身に纏う2人が対峙した


あれ程の破壊の嵐の中で…無傷


恐ろしい魔力波動で空間そのものを歪ませる彼方は己の魔力の色光で全てを塗りつぶす勢いのままに、両手の平の上に超重力の魔力球を顕現させ…息を漏らした


その魔力波動を正面からアメジスト色の魔力に押し返す程の魔力圧をビリビリと放つ雫は静かに握り締めた右の手に…地表が細かく振動する程の莫大な魔力を収束させる


あまりにも物騒な様子の中、からかうように笑みを浮かべる雫と彼方は友人に語りかけるかのように言った





「まだ諦めないのなら……自分の聖女を呼んでおけ。ここから先は…軽傷では終わらないぞ」




「そっちこそ、その鎧…壊れちゃっても知らないよ?」








ーーこれが……………っ!!



耀は初めて目撃する…戦闘において力を振るう、の二文字を冠された2人の姿を…


勇者という存在がどういう物なのかを……目の当たりにすることとなった





         【次回】


        ー機巧帝最強破壊王最強
















(あれ?遠くてよく見えないけど、なんか今の彼方君の鎧……いつもと少しーー)



ーー……形が違う気が……

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