第111話 『バードストライク』Ⅴ


まるで質量を伴うかのような重たい風が、それを中心にゆっくりと回転を開始した


中心に居る怪物…グラニアスがゆっくりと翼を羽ばたかせる度にその回転は加速していき…次第に周囲を埋め尽くす巨大な竜巻へと成長していく


その大きさはもはや竜巻ではなく巨大なハリケーンと言ってもいい。ジュッカロ魔棲帯の中心地帯全てを埋め尽くす巨大な渦が巻き起こり立つことすらも困難な勢いへと加速していくのだ


だが、これはグラニアスにとって攻撃でも何でもない…



ただ、移動するために羽ばたいただけである



飛ぶ為に翼を動かすだけで周辺は巨大ハリケーンのような爆風の渦へと飲み込まれる…飛行するだけで大地を削り、森を薙ぎ、雲を散らし、水を巻き上げる。そして人の作る家も、塀も、国すらも磨り潰してしまう悪魔の鳥


そうして磨り潰した国や街の瓦礫の山を己と巣とし、眷属達を呼び寄せ有翼の魔物の巣窟へと変えてしまい、生き残った人々は全てエサとする…一国の跡地を自身の帝国へと変貌させる


暴風の支配者、天空の暴君それが魔鳥龍グラニアス


グラニアスが動く時、奴は必ず渦の中心に存在しているのだ


近寄ることすら難く、空への攻撃手段を持っていても空を立体的に機動する四魔龍へ地上から攻撃を当てるのは困難を極める


口から吐き出すのは魔力によって空気を超圧縮し、一点に収束して吐き出す『風束砲エアロメーザー』はまるでウォーターカッターのように直撃したものを貫通、両断し、付近の物は風のレーザーから解けた爆風により木っ端微塵に砕け散る


これにより、一薙でカナタが差し向けた大量の航空兵器を360度全方位に放ち爆散させた


巨躯を満遍なく覆い尽くす鶏のような白色の羽毛は光沢があり、まるで白い鴉の羽にすら見えるが同時にそれはグラニアスを守る鎧でもある


並の魔法や武具では傷付ける事など不可能であり、大砲などの攻城兵器を当てられたとしてもその程度では攻撃されたと気付くことすら無い




だが、その右前の翼には虹色の光沢を放つ他の翼とは違い羽が縦一閃に削ぎ抉られて肉を切り裂かれた跡が遺っているのが目に留まる


余程の威力だったのか、その傷は完全に治ること無く新しく傷を塞いだ皮が他の羽や皮との色の違いを目立たせていた


さらには、左半身の脇腹…前翼と後翼のちょうど真ん中の辺りにはさらに生々しい傷が残る。鎧の役割を果たす羽は完全に消し飛び、肉が深く凹み真っ黒に焦げて染まっているのは白色の全身から異様に浮いて見える


その2箇所の傷だけが、この怪物が無敵ではないことを伝えていた……ーー


















『あ!見て見てまだ残ってる!あの翼の傷、私が切ったんだよね。いやぁ、ね?他の3体はイメージ的に硬そうだなぁって思ってたのに…ほら、蛇に虫でしょ?ルジオーラは見たこと無いけど…なのに鳥まで硬いんだよ?私、切り落とすつもりで斬ったのにさ』


『……なんでここに来てんだ、霊堂雫。ってことは他にも何人か来てんな…?あとそのテンションはやめてくれ…気が削がれる。それとも役に立つアドバイスでもあるのか、先輩?』


『いやいや、あの鳥仕留めたのは黒鉄じゃん。私に聞かないでよ、黒鉄は四魔龍退治の専門家でしょ?。というか逆に聞きたいんだけど、どうやって仕留めたの?』


『あいつに生身で突っ込んで翼切り落としかけた奴に「専門家」とか言われたくねぇ…。あの横っ腹の傷が俺の付けたやつだよ。どデカい大砲でふっ飛ばした。あんたと違って飛び回るあいつを格闘戦で殺すのは面倒臭すぎる』


『あ、確か「武御雷」ってやつでしょ?あれすっごいよねぇ…そう言えば、今ちょうど蒼炎と夢幻と魔纏の3人が「黒鉄の名所」見学ツアー中で「武御雷」の所よ。私もこの前見てきた、まるで宇宙要塞の大砲みたいでテンション上がってた』


『俺の兵器は観光名所じゃないんだけど……てか「黒鉄の名所」ってなんだよ。あんたらそんな自由に動けんのか?』


『そう言えば…こんなふらふら出歩けるようになったのは黒鉄と話してからだったね…なんでかな?ってそれよりもさぁ、暇なのよ幽霊って!』


『えっ…暇とかそういうのあるんだ、意外だわ…』


『考えても見てよ?ここって地球の輪廻じゃないから成仏も出来ないし、かと言って自分の死体の側に居てもやることないでしょ?黒鉄の兵器ってSF感満載で心が踊るのよね』



側にふわふわと浮かぶようにして居たのは濃い茶髪を肩口まで伸ばした少し背の低い少女だった


そんな彼女が指を差しながらテンション高くはしゃいでいる姿に溜息を漏らすカナタだが、彼女……今しがた話に上がった霊堂雫はどうにも緊張感の削がれるノリでカナタとしても力が抜けてしまう


そう…最近からなのだがちょくちょく先輩勇者達が出張してきてカナタの周りに現れる事があるのだ。ちなみにギデオンに言った彼女の言葉はたった今、本人に教わったのである


『そこでこう言ってやったの!どう?最期の姿バッチリ決まってるでしょ…?』…という言葉と作ったニヒルな笑顔の抱き合わせではあったが…


この姿を見たらギデオンを肩を落とすだろう、カナタは優しさから伝えるのを躊躇うのであった





『変なもの弄ったりすんなよ…?っと…そんな事言ってる場合じゃなかった…。アマテラス、始めるぞ!』


『発射準備、完了。いつでもどうぞ、マスター』


『ストームライダー全機、ディヒューザー発射ッ!』


『了解。「ストーム・ディヒューザー」、全弾発射します』



気を入れ替えて叫ぶカナタに応え、その上を舞う巨体なブーメラン型の大型航空兵器が、内蔵していた金属製の柱を発射した


先端が杭のように尖った四角形の10mはある柱に見えるそれはグラニアスが宙へと舞い始めた場所を中心として円形に囲むようにして大地に突き刺さり、魔力が回路を迷路のように光を放ち始める


高まる魔力と「キィィィィ………」と駆動音を静かに響かせた柱は刻まれた魔法を発動させた…



12本の柱が一斉に大型の竜巻を発生させたのだ



なんの前触れもなく、渦巻く爆風がグラニアスの巻き起こす巨大ハリケーンの外周部に突き刺さる柱を中心に12箇所で立ち上がっていきバチバチと稲妻を伴いながら天へと伸びていく


大きい…高層ビルのような大竜巻が縦一直線に駆け上り、空気を震わせて…すぐに異変が現れ始めた


グラニアスの巻き起こしたこの地帯を覆い尽くす巨大なハリケーンが突然勢いを失い、渦の形を崩壊させたのだ



グラニアス討伐で最初に致命的障害となるのが、ここ巨大ハリケーンになる。近づくことすら出来ずに木っ葉の如く吹き飛ばされ、潰される


これを突破してグラニアス本体を叩くのは至難の業…さらに、このハリケーンを操って風の巨刃や巨針を全方向から放ってくる。その状態で生還するのはほぼ不可能だ


故に、これを無力化する魔道具が必要となった


カナタが用意した12本の柱…『ストーム・ディヒューザー』は柱を中心に巨体な竜巻を発生させる。それも…グラニアスのハリケーンとは反対回転の竜巻を、ハリケーンの外縁部に12箇所円形に発生させ回転の力を相殺させていた


いかにカナタと言えどもこんな天災規模のハリケーンは引き起こせない。12本もの大竜巻で分担させ、その勢いを真正面から打ち消す…ストームライダーはグラニアスが巻き起こす巨大ハリケーンの爆風の中でも安定した飛行を可能とする為に作られた全翼機である。発生したハリケーンの中でもこのディヒューザーを射出出来るように作られた『対グラニアス』の為に創られた飛空戦機である


自身の生み出す牙城が崩壊したのを感じ取った巨鳥元凶となるそれを首を回して眼光を向ける。グラニアスにとってはただ羽ばたくだけで起きる現象に過ぎないが…その目が語っている


ーー不快である、と


ガパッ、と嘴が開きカナタの小型兵器を薙ぎ払った魔力の光が収束を始めた。その威力に反し、発射までの溜は僅かに数秒…



そのグラニアスの頭頂部に黄色い雷撃の光が殴り付けるように降り注いだ





ーーAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!




地響きのような叫び声を上げるグラニアスに、先程の小型機から攻撃を受けたような不動さは無い。空中で姿勢を崩しながら速度を上げて上空を旋回し始め己の上を取る不届者を睨みあげる


空から…スコールのように極太の雷撃が降り注いでいた。それをグラニアスを狙い撃つようにしながら、真下の領域を無差別に撃つようにも乱れ撃ちする形で


上空を旋回するブーメラン型の大型機『ストーム・ライダー』はハリケーンは無くとも風が吹き荒れるこの領域を姿勢も乱さずに飛行しながら機体下部に装備された幾つもの電極のような形の搭載砲『イエロースコール』から巨大な稲妻を真下に落とし続けているのだ


命中したグラニアスの羽毛は少し煤けて僅かに煙が上がっている…防御を貫通している証拠である



「まさか、グラニアスを討つ為だけに造った兵器か…!ジンドー、貴様いったいどこまで…!」


『時間ならあったからな。ここからが本番…次に奴が地面に降りる時は、死に絶えて墜落する時だ。何よりも…ここまで手の込んだ準備を事前にしてるんだ、手古摺るなんてもってのほかだと思わないか?』


「……確かに、貴様からすればやりやすいだろうな。封印が破られる事もタイミングを事前に把握出来ていた、我らの進軍ルートも予め対策をして絞らせた……認めよう、我らにとって不利な戦いだ」


「でも、私達も相応に用意はしてきてるの。それも一手だけしかないけれど…悪いけれどもう少し頑張らせてもらうわ。いくら貴方でもグラニアスを瞬殺するのは無理でしょう?なら、私達がすることは1つ…」


「卑怯とは言わせん。使える手ならば使わせてもらおう。例えそれが…貴様の教え子を盾にする事だとしてもだ。弟子に任せるつもりだったが…出しゃばらせてもらおうか」


『そうか……そう来るか』



ギデオンとレイシアスの言葉が彼らの次のプランを示す


つまり…シオン達を自分の手で捕らえて人質にすること。成る程…カナタはそう内心で頷いた


確かに、如何にグラニアスが通常時から封印の影響で著しく力を失っている状態だとしても瞬殺するのは不可能だ。その生命力も生命体としての強度も他の魔物とは桁違いの四魔龍は弱っていたとしてもすぐに始末できる相手では無い


自分の相手をグラニアスにさせて、魔将達であの3人を押さえてしまえばゲームセット。……とても合理的だろう、わざわざ勇者の相手をする必要もないのだから



「…レイシアス、お前は残れ。魔物達を盾にしてグラニアスを援護してくれ。俺が奴の教え子を確保する」


「そうね。……こんな勝ち方は好みじゃないのだけど、ね」


「仕方あるまい、俺とて不本意だ。しかし戦法を選べる状況でもない」



つまらなそうに鼻を鳴らすギデオンにくすり、と笑いながらもレイシアスは頷く


ギデオンもレイシアスも…この手の詰め方は得意としない。だが、この手を使わなければ勝ち目が薄いのも事実であった


レイシアスの体が浮遊魔法で宙へと浮かび上がり、その姿を有翼の魔物達が取り囲むように隠してしまう。魔物達を操り、空の魔物を己の兵体として従えるレイシアスをカナタはその場で見詰めていた


それと同時に3人が戦う場所へと跳び出したギデオンを視界の端で捉える


ふぅ…と落ち着けるように吐息を漏らし、今すぐ飛び出したい気持ちを落ち着けて……



『……そっちは頼んだぞ』



カナタは空へと飛翔したのであった








(……追ってこない?レイシアスとグラニアスの相手を選んだか…いや、だが教え子を押さえられたら負けだと分かっている筈だ。ならば何故…)



駆けるギデオンにとってそれは想定外の出来事でもあった。自分は囮のつもりだったのだ


カナタの敗北条件は間違いなくあの少女達が魔神族の手に落ちる事だ。ならばグラニアスを放ってでも、こちらを追いかけてくるものとばかり思っていた


後方に視線を向けながらその事を考える…だがやる事は変わらない



ーーいくら魔物の軍勢とグラニアスが支配下にあっても、敵は勇者ジンドー…このまま奴の兵器共々相手にしていてはそう長くは保たない。その前にあの娘達を押さえる



ギデオンが今一度それを思い返し、前を向き直り……




「……ッ……何……ッ?」




空から地面に突き刺さるようにして落下してきたに行く手を阻まれた


ブレーキをかけ速度を落とすギデオン…その周囲を、同じように空から降ってくるが……金色に輝く分厚い結界が周囲360度を次々と囲い込み、天井すらも覆い尽くしていく


ーー見覚えがあった。黄金に輝く結晶のような結界を操る魔法…僅か数年前に相対した者が操る特異魔法だ。そう……確か名前は……





「そんなに急いで…どこへお行きになりますの?」




「ラウラ・クリューセル…聖女の小娘か」




勇者ジンドーが率いるパーティ…その聖女として幾多の癒しを操る女。ラウラ・クリューセルがいつの間にかギデオンの進行方向に居た


黒銀の錫杖は金色の魔力に漲り、溢れる魔力が彼女の纏うローブをはためかせ黄金の髪を遊ぶように揺らす…類を見ない膨大な魔力は見間違えるわけもない



「足止めに来たか…成る程、ジンドーが追ってこないのは貴様が居たからか」


「えぇ、その通りですわ。…いえ、正確には、でしょうか?…遅刻ですわよ、レオルド樣」







「ダッハッハッハッ!わりぃわりぃ!目の前でバカでかい竜巻が出てきたもんで吹っ飛ばされてなァ!ありゃビックリだぜ!」




ダ ン ッ!


地面が罅割れる勢いでラウラの目の前に着地した大男…獅子の鬣にも似た髪と風貌の偉丈夫、盛り上がる筋骨隆々のその男は己の愛器である戦斧を肩に担いで豪快に笑った


ギデオンは密かに眉を寄せる…カナタの言葉から予想はしていたが、やはり…転移阻害の魔道具を破壊するべく送り込んだ十剣隊が返り討ちにあったのはこの2人のせいなのだろう。


ーー…三部隊中二部隊が同時に半壊、一部隊は拮抗…つまり、この場に来ているパーティメンバーは2人か。そして、ここに来たということは残りの一隊も…



「…だとしても。貴様は二人で俺を止められるか?確かに貴様らも人族の中では強いだろう。だがそれでも、あの砦での戦いで分かっている筈だ」


「おいおい言われてんぞラウラ!しかも言い返せねェ!ダッハッハッハッ!こりゃ困った!」


「笑ってる場合ですの…?まったく……ギデオン、わたくし達も少しは強くなりましたのよ?一人では及ばずとも…なのでこの力で、試させていただきますわ」


「おうよ!あれから3年だぜ、ギデオン?俺達だって多少は変わるさ、もしかしたら少し痛い目見るかもしれねェぞ?あんだけボコされて、弱ぇまんまじゃいられねェからな!」



ギデオンはこの二人のことをしっかりと覚えている


戦斧の偉丈夫は見た目通りのパワーファイターで味方の援護や強化があれば自分とすら押し合う事も可能な怪力の戦士


錫杖を持つ美女は聖女だ。傷を癒すヒーラーにして頑強な結界を操る特殊な魔法を操る異質の聖女、大戦後期には自らも戦闘に加わり始めていた



ーー確かに…内包する潜在魔力が大幅に増えているのを感じ取れる、ハッタリで言ってる訳では無い


どちらにしろ、周囲を結界で囲い込まれて正面に立ち塞がられてはあの二人を撃破せずに進む選択肢は無い。少なくとも、あの聖女の方は始末しなければならないのだ


力技でこの結界を破壊できない事も無いが…出会った時から相当に硬い記憶がある上に、それをあの男は見送るような戦士でも無い。必ず妨害に来る…


しかし、あの男が自分と少しでも押し合えたのはあの魔女達からの付与があってこその話



(ならば…考えることもない。すぐに始末する……!!)



ギデオンが動いた…言葉もなく、ただ目の前の障害を排除するべく手にした白銀の剣を構えて前へ詰める。分かっていたかのように金色に黒の2本線が入った戦斧を構えたレオルドが両腕でそれを担ぐようにして前に飛び出した


その体が濃密な魔力で満たされ、彼の代名詞でもある特殊な強化魔法『バスタード・マキシマ』が発動しているのはすぐに分かる


だが、関係なく…戦斧ごと叩き切って終い…




そう思っていたギデオンの手に、白銀の剣と戦斧がぶつかり合う強い衝撃がビリビリと伝わる。自分の剣が…止まったのだ




「!……ほう、力を上げたと言うのは嘘ではないか!」


「ダッハッハッハ!おい片手で受けんのかよ、自信無くすぜ…!!やっぱ単騎じゃ無理か!」


「分かっているならそこを退けッ!」


「退けてみろってんだギデオンッ!今の俺らは昔と少し違うぜッ!」


「死に急ぐか…!ならば望みを叶えてやろうッ!断骸ダンガイ、黒天ッ!」



刃同士を競り合いながら、ギデオンは自身の魔法を放つ。剣に魔力が帯び、そこから円状に魔力の衝撃波が放たれ付近の物体を粉々に破壊する


それを、神憑り的なタイミングで真後ろに引いたレオルド。彼が引いて開いた魔力の波動との僅かな隙間に…両側からシャッターが閉じるように金色の結界が2枚割り込んでこれを弾き返す


目の前を防ぐ結界を叩き斬るべく剣を横一閃に斬り払うが…「ギャリンッ」と重々しい金属音を立てて半ばまで削り取るだけに終わったのを見ればギデオンも目を僅かに見開いた



(硬い……!前までなら今ので両断出来ていた物を…この男もそうだ。腕一本で斧ごと肩をもぎ取れていた筈だ…!随分と強くなっている…厄介な…!)



内心でその事実に驚きつつ、目の前の結界が左右に開きレオルドが両手で戦斧を真横正面に構えたまま砲弾のように突進してくるのが突如として視界に写る


まるで巨獣の突進…戦斧で斬り伏せるのではなくその勢いと重力で轢き潰す強引な力技



「オォォォォォォォォォォォォォォッッ!!」



雄叫びと共に襲来するレオルドに対し、白銀の剣を袈裟に切り下ろして真上から真っ二つにせんとするが、これを構えた戦斧の柄で受ける。怖ろしい力同士の衝突に大地はひび割れ魔力同士が衝突するスパーク現象が周囲を駆け抜け…



「降りなさい、世に仇なす者へ裁きの剣…ミフォルシアの懐剣ッ!」



ギデオンと激突するレオルドの頭上に巨大な黄金の剣が現れ、その切っ先をギデオンに向けた


ラウラが錫杖の先端を、ビッ、と下に下げた瞬間に黄金の巨剣は大砲のように放たれギデオンにその先端を刺し貫こうと豪速で迫る


大きさにして10mは下らない巨人の振るう金色の剣


単純な質量武装と考えても、その大きさでこの速度…大抵の物体は両断どころか擦り潰される



「フンッ!!」



これを、ギデオンは魔力を込めた空いてる片腕一本で横から殴り飛ばして軌道を強引に逸らす。レオルドを片手で持つ剣で押し留めながらの荒業、頑強なラウラの結界を素手で破壊するのはギデオンでも困難


だが、当たらない程度に軌道をずらす程度は可能だ。…とはいえ、彼女の操る結界を力技で動かすなど普通のことではない。それがギデオンの怪力と底しれない魔力をまざまざと見せ付ける


だが、その一瞬の隙に反応したレオルドが首を真後ろに反らし…



「頭の硬さならどうだッ!!?」


「ぬ…ッ……!!」



思い切り頭突きした


額と額がぶつかっただけなのに、まるで巨岩が衝突するような重低音が響きさしものギデオンもこれには僅かにひるんだ


一瞬だけ揺らぐ視界、揺れる脳…だが瞬時にそれを押し留めたギデオンの目に映ったのは先程まで組み合っていたレオルドではなく、超速度で回転する2枚の星型の結界


金色の光を放つ五芒星のような形のそれが超回転をしながら迫る、さながら丸型のチェーンソーのようなものだ。彼女の結界の頑強さでそんな事をしたのなら…形を保てる物などアルスガルドに存在するか怪しいだろう



「煌め落ちる、女神の涙…!アステーリアの綺羅星ッ!」



ラウラの簡略化された詠唱と共にデスゲームのトラップの如く撃ち込まれるそれを、ギデオンは目にも留まらぬ速度で振るう白銀の剣で打つ



断骸ダンガイ、魔絶ッ!」



バギンッ、と鉄がひしゃげるような音を立て、2つの回転する結界は同時に真ん中でへし折れ、軌道をずれて飛んでいく


それを見たギデオンは小さく舌打ちをした



(斬れなかったか…!剣で斬り伏せても両断ではなく…さっきと同じだ、刃が断ち切れていない証拠…!成長なんてレベルではない、前までとは別物か!)



昔であれば綺麗に両断出来ていたのだ。しかし今はどうだ…結界の破壊こそ出来ているが刃がたっていない。力技で破壊しているような状態だ、間違いなく強度や力が引き上げられている


ただの障害物ではなく、三魔将『絶剣』のギデオンに対して障壁として機能しているのだ


しかし、破壊される…守り切るには至らない。この世界で最も頑丈な部類に入るラウラの慈母抱擁アマティエルですら、彼の攻撃を弾き返す事は出来ない



「っ…そう簡単に壊さないでいただきたいのですけれど…自信を無くしてしまいますわね」


「ダッハッハ!俺とお揃いだなァ!俺達もまだまだって事だ!ってか、随分殺意の高い使い方覚えたな?俺には使うなよ?」


「使いませんわよ……。それよりもどうしますの?このままでは抑え込めるかも怪しいですけれど」


「あ?そりゃァお前……頑張るに決まってんだろ。あのジンドーが自分の策に俺達を入れてんだぜ?…死ぬ気で応えにゃパーティは名乗れねェだろ」


「その通りですわね。あの勇者ジンドーがわたくし達に少しでも背中を預けた…それがどれ程の意味を持つのか…示さずに屈する事はありませんわ」



それでも尚、2人の戦意は高い


何故なら、彼が頼ってくれたのだから


あの前しか見ず、1人血に塗れて進み続けた勇者が自分達に「頼んだ」と言ってくれたのだ


ここでまざまざとギデオンを少女達の元に通すような真似は……出来る訳がない



「確かに強い…だが、分かった筈だ。この俺を止めきるのは無理だ、と。…大人しく道を開けろ、用があるのは奴の教え子のみだ。すぐに通すのならば見逃してやろう」



ギデオンは自信を持って断言できる。即ち……この二人では自分の事を止められない、と


だが、2人を始末するには時間がかかる。まともに相手をしていてはグラニアスの確保が手遅れになる可能性すらある…その程度には、この2人が強くなっていた


だからこその、慈悲



ーー殺さないでやるから邪魔をするな



これは2人を舐めている訳でも自信過剰でもなく…事実なのだ


しかしこれに対し、ラウラとレオルドの態度が揺らぐことは無い



「言われてるぜ?」


「ですわねぇ…。ここは出し惜しみは無しで行きますわよ?」


「だな!これを出さずにぶっ殺される訳にはいかねェしな!ちょいと試す時間が少なかったが…悪くない仕上がりだ」


「腕の見せ所ですわね。さぁ……お見せしましょう。今の私達が辿り着けない、その先の力…少しズルをして使わせていただきますわ」



ギデオンが顔を険しくし鋭く視線をぶつける。殺意と噴き出す魔力は常人ならば失神する程の凶悪な圧力がある中で…ラウラとレオルドは不敵に笑みを浮かべた


何かありそうなその顔はハッタリなどではないと、ギデオンも確信している。力の差は明白…ならばどうすると言うのか?


周囲を見渡しても予め敷かれた罠の類は無い。この結界内にジンドーの無人兵器も存在しない。ここは正真正銘、ギデオンとこの2人だけが戦うだけの場所となっている


そも、ギデオンにとっていくらジンドーの魔導兵器が強力と言えども撃破出来ないことは無い


それが分かっていて、無駄になると知っているからこそ魔将に対してカナタは自身の兵器群をぶつけていないのだから


その疑問に……2人は声を揃えて示してみせた






「「換装エクスチェンジッ!!」」






ーーー





「空の大型兵器を狙いなさいッ!グラニアスの退路を開くのよ!」



レイシアスの号令に従い、有翼の魔物達は翼を翻して空の彼方へと飛び上がり雷撃の砲火を嵐の如く降らせる12機の大型兵器『ストーム・ライダー』に目標を定めた


当然、魔物達もこんな雷撃の嵐の中を飛び回っては無事で済まない。力及ばない白金級の魔物達は次々と撃ち落とされて地面にボトボトと落ちていくが、圧倒的な数に任せて空へと上昇していく


現在、『ストーム・ライダー』の砲火が激し過ぎてグラニアスが高度を上げられない状況にあった


元々、グラニアスは雷属性を弱点としている…完全にそれを意識した真上から撃ち下ろし続けるストーム・ライダーの砲撃は封印に力の大部分を奪われたグラニアスにとって非常に厄介極まりない存在となっていた


上がろうにもグラニアスの巨体でこの密度の弾幕は避けられない。翼の表面が焦げ付くような威力の砲撃はグラニアスの飛行を乱すには十分な威力を持っていた


まずはストーム・ライダーを黙らせなければ撤退も出来ない…高度を上げなければ地上からの対空魔導兵器の弾幕をもろに受けてしまう。退路は空の上にしか無い状況なのだ



グラニアスが空を向き翼を空に向かって思い切り打ち羽ばたかせれば、その純白の羽根が散弾のように拡散して放たれストーム・ライダーを下部から串刺しにせんと飛翔した


たかだか羽根1枚だが、グラニアスの巨躯を覆う羽根はそのサイズも巨大だ。1枚は2mを有に超える羽根はその羽軸も標識の鉄柱のように太く、そして先端は錐のように鋭い


故にグラニアスの羽軸は怖ろしい貫通力を誇る。かつて飛翔の勇者、八木美奈子はこの羽軸の散弾を胸部のど真ん中に喰らい即死した…勇者の頑強な肉体ですら構わず貫通する恐るべき威力を持つのだ


ストーム・ライダーが機体を直ぐ様縦に向けて回避運動に入る。大型の機体にも関わらず、ブーメラン型の機体の各所から姿勢制御用のブースターを噴いて迅速に姿勢を変えるが…その全てを避けきるのは不可能



ーーバチバチバチッ……バンッッ!!……ガガガッ、ガガンッ、ガガッ 



何かが破れる音が響き、金属がぶつかり壊れる音が鳴る


弾けるような音はストーム・ライダーの全体を覆い尽くす強力な《エーテリオン・フィールド》が数本の羽根を弾き返した音。しかしそれも保たない…羽根の散弾に直ぐ様エネルギー防壁は過剰な破壊力によって飽和、貫通してストーム・ライダーに襲い掛かる


翼の一部や機体の下部に数本の羽根が突き刺さるものの、その分厚い装甲は貫通までは許さなかった


だが、無傷とはいかない…一部は損傷箇所から煙を巻き上げ始める


次撃で墜落は免れない機体もあるだろう、それを見上げるグラニアスの巨体を真下から…ジュッカロ魔棲帯外縁部付近から大玉の光弾が1点を狙うように放たれ始めた。直撃により強く爆発を起こす光弾はグラニアスの胴体を揺らす威力によって次の攻撃を中断させる


魔神族の空中突入時に弾幕を張っていた砲台は未だその多くが健在だった


破壊に向かった十剣隊は護衛の兵器群と待ち伏せていたラウラとレオルドによって半壊、撃退されていたからこその弾幕がグラニアスを襲う


上下の猛烈な弾幕…これがジュッカロ魔棲帯をグラニアスを外に出さない為の鳥籠として機能させていた


レイシアスも表情を歪める。あまりにも手数が違い過ぎる…グラニアスが万全ならば逃亡のみに集中させれば力尽くで離脱も可能だったかもしれない。しかし、今のグラニアスには無理だった


カナタの封印は内部の四魔龍の生命力となる魔力を引き摺り出し大地の奥に流れる魔力の奔流、龍脈に投棄してその力を奪い去る仕組みとなっている。魔物に対してこの行為は命を直接搾り取る行為に等しい


つまり今のグラニアスは…瀕死と似たような状態なのだ


そんな中で準備を整えたカナタの相手はあまりにも…無理があった


嘴を開き、風のメスのような爆風のレーザーを地上に向けて放つものの数が多すぎて多少破壊しても意味が無い。上空からは依然として雷撃の弾幕が降り続け白色の巨体を焦げつかせ始めている


無数に突入してきた小型の飛行兵器ブルーバード、グリーンスパローの2機種が群体となって魔物達へと襲い掛かる…魔物達も応戦し、これを片っ端から破壊していくものの数が多すぎるのだ


ここに来て…数の有利も逆転してしまった



(今から転移魔法を…っ無理、間に合わない…!最低でも5分以上かかる…!ギデオンは足留めされた…このままだと…!)



状況がレイシアスを焦らせる


完全に押さえ付けられた


挙句の果てに……





『いつまで飛んでんだ……降りてこい害鳥ッ!!破壊拳ッッ!!』




彗星の如き速度で飛翔したカナタがその右拳に魔力を集中させ、弾幕を避けるのに注力していたグラニアスの頭部を真上から


遠目から見ても分かる巨大な衝撃が爆散してグラニアスが頭を殴り付けられた勢いのままにバランスを崩し地面へとさらに近付く


怖ろしい威力…いくら弱っているとは言え四魔龍を拳で揺るがすなどあっていいはずがない



「ジンドー…っ!あなたの相手は私よ!この前のようには行かないわ!」


『あぁ良いだろう!相手をしてやるレイシアス!だが、奴の相手は別で用意してある……さぁ仕事だアルビオン!』



カナタの声に応えたのは…地中に埋まる存在だった


大地を下から吹き飛ばして現れたその巨体…ガコンッ、ガコンッと音を立てて形を変えながら姿を現していくそれは、高さだけでも80mを超える巨大兵器


その巨体を支えるだけの半ピラミッド状に見える戦車のようなキャタピラを持つ車輪郡が4基備えられた下部、底の上に乗るように人型の巨大な上半身が乗った形をしており両肩から折り畳んでいた巨砲を担ぐような形に展開していく


戦車部分に無数の砲台や兵器群を備え、分厚い装甲と特徴的な真横一線状のバイザーが空飛ぶ有翼の魔王を捉えた



一式陸戦型要塞級魔導戦車機兵ガルガンチュア型決戦兵器4番機『アルビオン』



半車半人の巨大兵器が起動したのだ



その両肩にマウントされた巨砲には既に莫大な魔力が光となって収束しており、ただ一箇所を狙い付けている…


カナタが前にシオン達に「だいたい何でもぶっ壊せる大砲」と説明していた両肩の巨砲『インドラ』が今、火を噴いた



「避けなさいグラニアスっ!!」



レイシアスの叫びも間に合うことはない。カナタの一撃で姿勢を崩したグラニアスは突然下方に現れた巨人の砲撃を回避するのは不可能だった


火山の噴火と見間違う轟音と振動を響かせ放たれた極太のビーム砲はグラニアスの胸部に直撃を果たし、周囲を爆発の閃光で埋め尽くす破壊力をもって空を舞う巨龍を見事に大地へと墜落させた


グラニアスが一撃で、悲鳴のような咆哮を鳴き叫びながら大地に叩き付けられる…そんな姿を晒したことなど過去に存在しただろうか?


余程の威力だったのか、再び立ち上がって空を舞おうとするのも数秒躊躇う姿を見せるグラニアスを、可哀想と思うカナタではない


巨兵アルビオンは地響きのような音を立ててキャタピラにより移動し、地に落ちたグラニアスの首を巨腕で掴み締め上げ、持ち上げる


慌てたグラニアスが鋭利な爪でなんとか掴み離そうともがくものの…もはや分厚すぎる装甲と強靭かつ巨大なリアクターによって動く魔障領域エーテリオン・フィールドによって傷一つ付けられることは無い


両肩の巨砲インドラに再び魔力が収束し始める


4本の脚と爪で何とか暴れるグラニアスに、アルビオンの戦車部に搭載されていた火砲が火を噴き至近距離で浴びせられた


威力が桁違いに違う、先程まで食らっていた物とは明らかに出力が大きい特別製の兵器は至近距離で浴びせられるグラニアスの体を滅多打ちに、挙句の果てに首を掴んだまま空いた片腕が引かれ、巨大な拳が顔面に叩き込まれる


嘴にヒビが入り、脳をぐしゃりと揺らされたグラニアスの抵抗が弱まった



アルビオンは元々グラニアスを殲滅する為にカナタが3年の月日をかけて培った技術で建造された巨大兵器。封印を破りたての弱ったグラニアスでは……あまりにも力が足りない



そこに、グラニアスへ死刑宣告となる声がカナタの脳裏に届けられた




『マスター、遠距離狙撃用グランドストライク対怪物用極天波動砲ハイペリオン・スペリオルブラスター『一一式・武御雷』のエネルギー充填が完了、上限値120%で発射準備が完了しました。ーーーいつでも発射可能です』








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【Database】



『霊堂雫』(故人)



〘種族〙人間



〘年齢〙18(享年)



〘魔法名〙破天壊皇ブレイク・ダウン



〘魔力量〙100209800(数値化による誤差あり)



〘職業〙勇者



〘身体〙157cm B82 W59 H84



〘来歴〙

地球の日本、神奈川県出身の少女。濃い茶髪を肩まで伸ばした溌剌とした少女。

15歳の時にアルスガルドへと召喚された100人目の勇者であり、後述する特異魔法を保有する事から「破壊の勇者」の異名を冠する。

アルスガルドへと召喚されてからは世界を周り、様々な市都市や国家を股にかけて冒険をした活発な少女で自身の悲運も気にせずに異世界情緒や地球には無いものをポジティブに楽しみながら人々を救っていた。

魔物に対して無双の強さを誇り、身体強化魔法は凄まじく独自の術式で編み出した特殊な強化魔法と自身の魔法を組み合わせた戦闘法は、四魔龍を含めて死ぬまで彼女に土を付けることは無かった。


肉が大好きで様々な魔物を倒しては片っ端から食べてみる偏食家でもあり、たまによく分からない毒性のある魔物を食べて腹を下す事もしばしば。

随行していた聖女メリアに怒られながらお腹を擦られながら回復してもらう姿がよく見られていたらしい。

オススメのお肉は螺旋牛という白金級の魔物。螺旋状の2本角が特徴の5mを超える巨大牛であり、城壁にすら突進で罅を入れる凶暴な魔物だが雫に気に入られてしまい乱獲、彼女のご飯にされていた。

「あれはね!霜降りみたいな濃ぉい脂身がすっごいんだよ!やっぱりステーキがいいね!地球ではあり得ない大きさを利用したオボンみたいな大きさのやつを齧るのが最高なんだよ!…まぁメリアには「品がないですっ!」って沢山怒られたんだけど…」というのは、死後に彼女が語る言葉である。


その貢献は凄まじく、人類領域を彼女だけで200年前と同じ範囲まで押し広げたとされており、後に120代目の勇者が降臨するまで人類が持ち堪えたのは間違いなく雫のお陰であった。彼女の死後は盛大な国葬が挙げられ、その真っすぐで明るい心の持ち方は敵であった魔将すらも言葉を交わせた



〘戦闘能力〙

その強化魔法だけでも尋常の強さではなく、あまりの強さに通常の強化魔法では満足な強さを出せずにオリジナルの強化魔法を開発、使用していた。

彼女曰く「これはあれだね!スーパーサ◯ヤ人2ってやつだね!」とのことだが、正式には『バスター・モード』と呼称されていた。

小剣を愛用していたが、その強化魔法から繰り出す斬撃は山の頂を一刀両断する威力であり並の魔物は武器すら使わず格闘術で捻じ伏せていた。


保有する特異魔法は『破天壊皇ブレイク・ダウン

その能力は「対象を破壊する」というシンプルなものだが、これは物理的に「触れただけでそれを粉砕する」事が可能であり、威力云々ではなく「触れだけで破壊できる」という異常な魔法。

これを拳撃の衝撃波や斬撃に乗せて放つことで怖ろしい威力の中距離範囲火力を誇り、文字通り目の前に存在する物は全てが破壊される。

魔法すらも破壊可能であり、何よりも他の技や攻撃との親和性が非常に高いのが特徴。

格闘や剣技を当てる瞬間に発動しての凄まじい威力の強化や衝撃波にこの魔法を含ませる事による破壊力向上、果ては飛来する魔法を構築する魔力ごと破壊することで無力化等の圧倒的汎用性が強み。


得意技はパンチの衝撃に破壊の魔法を混ぜ込んで正面一体を爆砕する豪快な一撃「破壊拳」。

後に、これを参考にして同様の現象を他の様々な魔法で類似した再現の元に操る者が現れる…ーー


その気になれば大地を殴り付けるだけで周辺一帯の地面を粉々に破壊し地中深くから大地をひっくり返すことも可能であり、実際2回使ったこともある。


何より明記するべきは四魔龍の一角、魔鳥龍グラニアスの撃退

当時、巣となっていた場所の巨大ハリケーンの一部をパンチ2発で破壊し強引に侵入。紆余曲折の戦闘はあったが最終的にはグラニアスの翼を手にした小剣に破壊の魔法を一線状に凝縮して斬り付ける奥義『破壊一閃バスターブレイド』によりその翼を半ばまで切り落とすことに成功した。

止めを刺す前に飛んで逃げられたのが惜しむべきことだが、これにより人類領域を大幅に持ち直す結果となった。


しかし、警戒を引き上げた魔神族はその大将の一人である三魔将『絶剣』のギデオンが直々に雫の討伐に乗り出す。

旅の最中、三度の戦いの末に己の敗北を悟った雫はパーティとなる味方を自身の魔法によって地面ごと遥か彼方に吹き飛ばし、ギデオンとの一騎打ちに挑む。



太陽が登り、そして沈み切るまでの間続けられた壮絶な戦いの末にギデオンの白銀の剣に雫の心臓は貫かれ、その生涯を終えることとなったーー。



魔鳥龍グラニアスを撃退し、三魔将ギデオンと渡り合った彼女の事を「史上最強の勇者」と呼び不満を持つ者など、アルスガルドには誰一人として存在しなかった。



普段の明るく冗談も好きな快活な姿、だが戦いの時にその表情を見せることはなく


仲間を思い、人の安寧を気に掛け、未来を憂うその鋭い眼差しを浮かべる雫の姿を知る者は


彼女とともに旅をした者と…そして彼女を殺め、看取った男くらいしか知らないのであった。



〘一言コメント〙

「…え?もしかしてここってエッチな話しないと駄目な場所?い、いやぁ照れるなぁ!私ってあんまりそういう色恋とか通らないで死んじゃったし…あ、でもメリアは良く「私が男であればどれだけ…っ!!」って悔しそうにボヤいてたなぁ。あれ、なんだったのかな…?あ、そういえばパーティの斥候だったニーナも「アタイ、女に産まれて初めて後悔してる…!」って震えてた事もあった気が…。あれ?良く考えると騎士のマルトロも「女同士…ふむ、考え方によってはむしろ…か…!」って言ってた事もあったかな…?そうだ、確かその時に同い年の王女様まで「生きて帰ってきたら私と……い、いえ!なんでもありません!」って言われたんだけど…うーん、何のことだろうね!この話すると他の勇者にも「あちゃぁ〜」みたいな顔されるんだけど…私、なんかやっちゃった?。まっ、でもさっ!私はやるだけやったから後悔はしてないよ!後の事は黒鉄に任せたからさっ!」



※ちなみに、彼女が誰かと結ばれることは無かったとか。それが良かったのか安心するべきだったのかは考える者次第である


一つ言えるのは、彼女が天然無自覚の女誑しだった、という事だ


今は亡き彼女の為に明言しておくと、霊堂雫はである

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