第107話 『バードストライク』Ⅰ
『ポイントΑ、ポイントB、ポイントDに空間転移の魔力波長を検出。大規模転移魔法と思われます。・・・転移完了を確認。魔物の軍勢を補足しました。現在の数、凡そ12万。魔神族の転移を確認。照合中・・・魔将は確認できません。警告、ポイント近辺を周回していた警戒機三機が撃墜されました。魔物の軍勢が展開中、予測進路はジュッカロ魔棲帯』
「おいでなさった……!『バードストライク』フェーズ
『緊急報告です。SPRINGの施設損壊率が6%に到達。グラニアスからの破壊活動を確認、完全な覚醒状態へ到達したと考えられます』
「一一式
『了解しました、マスター。フェーズ
カラナックを取り囲む塀の上にて幾つもの空間ディスプレイが出現しては短く言葉を飛ばす
特に赤く表示され、アラーム音が強調してくる情報に目を向けては優先的に命令を出してはディスプレイを指で撥ね、一番大きなディスプレイに写る一体の地図には無数の赤い点が蠢いており…それが敵性である魔物や魔神族を示しているのは明らかだった
時は夜明けの朝日が射し込む早朝…まだ、夜の闇が深く残り、地平線の向こうから覗く太陽が光を届け始めた頃
何かに背中をなぞられたようなぞっとした感覚に起こされて、5人揃って眠っていた大きなベッドから静かに、そっ、と、抜け出し…眩しいくらいの裸体で眠る4人の女性達へゆっくりとタオルケットをかけ直す
簡単に裸体から服だけを着たカナタは己の体に走るこの不穏感の正体をすぐに突き止めた
「そろそろだ、とは思ってたけどな…しかし朝来てくれたのは重畳、見えやすくて何より。アマテラス!最終防衛圏内の対空防御を厚くしろ、連中が来るとすればそこからの筈だ。魔導通信をジャックして匿名通報でカラナック行政府と冒険者ギルドに連絡、内容は『遠方に魔物の大群と魔神族多数の軍勢を目視。住人の避難を推奨』…」
『匿名通信を発信します。しかし、パニックは避けられませんが』
「パニックで済むなら御の字だな。皆殺しよりマシってもんだろ。第四防衛線を越え次第、攻撃開始だ。滑空熱流弾と魔法素粒子砲の一斉砲撃で敵
それは招かれざる来訪者達の到来を示すもの
カラナックより遠方に出現した魔神族数十人がかりで発動する大規模儀式転移魔法による魔物数万を引き連れた転移は即座に大戦力をその場に展開させていた
ついに現れた…魔神族のグラニアス奪還部隊
それはどこに仕込んでいたのか、類を見ない規模の魔物を引き連れて襲来する
12万とは大戦時でもなかなか見ない戦力数であり、容易く街程度は消し去ることが可能な悪意を持つ災害そのもの
だが、カナタにとってここは問題ではない
『封印中枢SPRING』…四魔龍が一体、星の海すら届く翼の魔王、天空の支配者である魔鳥龍グラニアスを封印する巨大封印施設
何十年という歳月を掛けて封印し殺し切る為のSPRINGは現在、内部からの攻撃を受けて損壊を始めていた。目覚めるはずのない封印中のグラニアスが、完全に覚醒して己を封じ込める檻を破壊し始めたのだ
もはやSPRINGは1時間と保たない…カナタですら自ら破壊するのはあまりにも効率が悪く、封印施設の上から抹殺するのを諦めたほどの堅牢な施設はグラニアスの攻撃により少しずつ崩壊を始めている
『一一式、
「15分か……」
僅かに目を細める
短く聞こえるが、あの四魔龍相手となればなかなかの時間だ
やはり思い通りにはいかない…ここまで準備を重ねてもなお、上手くいくかは五分五分。グラニアスを含め四魔龍はそれぞれが国家滅亡レベルの怪物の癖に、隠れるのが異様に得意なのだ。ここで逃がすわけにはいかない
「このまま俺達も迎撃準備に入る。…『バードストライク』をフェーズ
『ご武運を、マスター』
後に……『天還事変』と呼ばれる大戦争が、今ここに幕を開けた
ーーー
【side ・・・ 】
「まずは前線の魔物で突撃!奴の兵器群をとにかく削り取れ!グラニアスは我々本隊が封印本拠地へ突入し、確保する!第二陣を一点に集中させて進軍、楔を入れて破孔を造れ!」
魔神族が地面に刻まれた淡く光る巨大魔法陣の上で陣を敷く中で声を張り上げる壮年を思わせる男は次々と転移で現れる魔神族と魔物を現れた端から送り込む
1本の角に青い肌…現代の軍服にも似た服装に赤茶色の頭髪を真後ろに流したオールバック…彼の響かせる号令と指示に周囲の魔神族は姿勢を正して応えていく
「俺達も突入隊に加えていただいてありがとうございます、ギデオン様。必ずお役に立ちます!」
「堅いねゼウル。始まる前からそんなんじゃ疲れるよ?ほら、先生が買ってきた良く分かんない果物食べる?結構美味いよ、人間の果物」
「来るまでに馬鹿のように食べてきただろバウロ!いつまで食ってるんだ!もうそろそろ始まるというのに……!」
「でも確かに美味しい……食べ特よ、ゼウル君。グラニアスが出たら私も買ってこようかな…。私のオススメはこの黄色に斑の緑模様のやつ」
「キュリアまで…」
ビシッ、と音がしそうな勢いで姿勢を正す若い魔神族の青年…前髪は横に流したような黄髪に鋭い目付きをしたゼウルが、横に並ぶ青年…グリーンの髪を短く後で纏めた少し着崩した服装のバウロに呆れの声を漏らす
そこに白髪のツインテールにした童顔の少女、キュリアがまさかの便乗をして彼はがっくしと肩を落とした
「良い。緊張で震え上がるより遥かにマシだ。…もう一度聞いておくが、覚悟は良いな?これから俺はお前達を…死線に連れて行く事となる」
「はい!俺は覚悟の上です!ようやく表に出て活動が出来るようになった…絶対に損はさせません!」
「あれから随分と気合い入れて修練してたもんねー、ゼウル。にしても、連れて行って貰えるとは思ってなかったっすよギデオン様。てっきりまた留守番かと」
「少し前まではそう思っていた…。だが、レイシアスとキュリアの前列は無視できん。我ら三魔将が抑え込まれた時…次に目的を果たせるのはお前達だ。それだけでも生還の可能性は上がると判断した」
「し、正直私は行くの怖いですけどね…」
やる気漲るゼウルと、なんだかんだとこの場に来れたことに前向きなバウロ。それに反して少ししゅん、と肩を落としたキュリアに二人の視線が向く
「キュリア…そんなに強敵だったか、勇者ジンドーは?俺は未だに信じられんが…」
「ま、強敵じゃなかったらレイシアス様が命からがら撤退なんてしないよねー。噂しか知らないけどさ、めちゃくちゃ強いって」
「めちゃくちゃどころの話じゃないの!二人とも油断したら駄目よ!あれは……あいつは正真正銘の化け物、怪物なの…っ……私達なんて一瞬で殺されるわよっ!」
キュリアは以前、勇者ジンドーと戦闘に発展した
このカラナック近郊にて、師であるレイシアスと共に遭遇した勇者は魔神族で最も偉大な術者、『絶禍のレイシアス』と呼ばれる彼女ですら1人では敵わない。自分が組み上げた転移魔法による遁走、それの時間稼ぎすら、闖入者がいなければ実現しなかったほどの力を誇る異界の怪物
その力を目の当たりにしたキュリアは、唯一三魔将の弟子である三人の中でこの作戦への参加に難色を示していた
ーー役に立てるとは思えない、と
だが、彼女が居なければレイシアスは殺されていた可能性が高かった事…直接的な戦闘以外ならば十分に活躍が見込めるのを考えられて3人はこの作戦への参入を果たしていた
「恐れ過ぎては駄目よ、キュリアちゃん」
そこに、声が入り込む
まるでドレスのような衣装に木の枝が3本絡み合い三つ編みのようにされ、天辺に宝玉が嵌められた杖を持ち、柔らかな目元に泣きぼくろが特徴的な美女
彼女がキュリアの頭を柔らかく撫でる
「レイシアス様っ!」
「今回は私も、ギデオンも…他に十剣の三部隊も突入に参加するのよ。前とは違うの…でも、油断は禁物ね」
嬉しそうなキュリアに柔らかく微笑みかけた三魔将レイシアスはその緊張と恐怖を解すように彼女の頭を撫でた
それを見て軽く頭を下げるゼウルとバウロ
「レイシアス様、今回の作戦に参加させていただいても感謝しています。確かレイシアス様が俺達の随行を最初に許可してくれたと…」
「そうね、ゼウル君。前にジンドーと会敵した時はキュリアちゃんが居なければ、私は死んでいたもの。きっと、私とギデオンだけでは不可能な事が…あなた達には出来るわ」
「責任重大っすね。そういや、ウチの先生は今回参加しないんすか?確か少し前にカラナック居たはずっすけど」
「ガランドーサは今回別の任務を担当している。今回のグラニアス奪還戦には参加しない。…本来ならば、我ら3人揃って事にあたるべきだがな。それも加味した上での、ゼウル、バウロ、キュリア…お前達の参加だ」
「た・だ・し……無理しちゃ駄目よ?3人の実力で行くなら本当はジンドーの前に立つのは自殺行為…。だから3人に厳命しておくわね。……有事を除き、決してジンドーと戦闘は行わない事。いい?」
「「「はいっ!」」」
レイシアスの忠告…もとい命令に力強く返事を返すゼウル、バウロ、キュリアの3人
そこに慌ただしくやって来た魔神族の男が声を荒げてやって来る
「報告です!最前線が開かれました!進めていた魔物が勇者兵器と戦闘を開始!こ、こちらを!」
手にした水晶玉に魔力を込めて、その映像を大きく真上の空間にプロジェクターのように投映されればそこに映っていたのは…
地を埋め尽くす魔物の軍勢が異形の機械兵器からの凄まじい砲火によって次々と粉砕されていく光景だった
「これは……ッ!?」
「おいおいなんだよこれ…!ジンドーってこんなに兵器造れてんすか!?こっちだって魔物12万は相当な数の筈なのによ…!」
「うそ……っ……に、人間の国なら適当なところを消せるだけの魔物なのに…っ」
3人が戦慄するのも無理はない
魔物は生物の枠から外れた速さで育つ…勇者ジンドーによってその数は激減していたが密かに数を増やさせていた、その一部をごっそり持ち出した戦力なのだ
人間の街など、戦力となる数は大きくても2、3万。国ならばその倍はあるだろうが、それでも12万という圧倒的数の有利を覆すには至らない
文字通り、国すら潰せても不思議ではない大軍勢
それが今、空から降る曲射の魔法弾と地面を薙ぎ払うように放たれるレーザー砲のような攻撃により怖ろしい勢いで殲滅されていっていた
蠍のような外見の大型兵器は尾の先端から眩い熱線を放ち、蜘蛛型の大型兵器は背中に搭載されたキャノン砲のような場所から点に向けて炸裂する魔法弾を連発している
近づこうとする魔物は蟷螂型の大型兵器が、その両腕のブレードで凄まじい勢いでバラバラに解体されていくのだ
「怯むな、数で押せ!奴の兵器群を少しでも削り、我ら突入隊が役目を果たすまで持ち堪えさせるのだ!」
「ギデオン、私達もそろそろ…」
「…そうだな、時間だ。ニ剣、三剣、四剣は集結!魔法使い、術式の準備を!これより封印施設へ突入する!…3人とも、覚悟は良いな?」
「「「はっ!」」」
指示は短く、しかし適切に…レイシアスの囁きに頷くギデオンの一声によって周辺の魔神族は慌ただしく動き出す
大量の魔物がその砲火を掻い潜り、辿り着いた先で鋼の異形と遂に激突した
大軍と大軍が正面から衝突して混ざり合い、空では翼や羽を持つ魔物と飛行する戦闘機にも似た魔導兵器が高速で入り交じる
魔物の放つ魔法やブレスで魔導兵器を破壊できたかと思えば大型のシールドを持つ魔導兵器が前線に現れてそれを弾き返し、返しの魔砲によって魔物の一団を粉砕
開戦からすぐさまに、類を見ない大戦闘へと突入したのだ
これから彼らは初めて……蹂躙するための戦いではなく、「挑む戦い」を仕掛けに行く
ー
【Side ビスティレオ・ゼウル】
「二剣、全員集結しました!いつでも出撃可能です!」
「三剣、同じく出撃態勢完了です」
「四剣、準備完了!出撃を待ちます!」
「術式の用意が出来ました!いつでも起動可能です!」
ギデオンとレイシアスの元に魔神族が集結する
それぞれが三魔将に次いだ戦力となる精鋭部隊、十剣のうち3部隊の長。その部隊員総勢60名ずつからなる180人が揃い踏み、そこに加えた三魔将ギデオン、レイシアス。彼らの教え子であるゼウル、バウロ、キュリアの3人を含めた計185人
それが大型の魔法陣の上に整列して待機していた
全員が完全武装、鎧や甲冑、武装や杖、ローブ…様々な装備を施し、事前に付与魔法によるバフを全員が施された状態は乗り込んだ先での即時戦闘を想定してのこと
魔法陣は全員を乗せるギリギリの大きさにあった
それが、光始める
「良いか皆!封印の一体は転移阻害により転移が不可能、周辺は勇者の兵器群により完全に防御されている。故に我々はこれより封印上空に転移し直上から降下強襲をはかる!」
「きっと、地上からの攻撃が沢山来るわね。防御担当の魔法使い達は先頭を降下、続く部隊への攻撃を防ぐこと。誰一人欠ける事無く地上に降りるの、いいわね?」
『了解ッ!』
(いよいよだ…!前はたかだか小娘2人に負傷の失態を演じたが…あれから傷を癒やし、さらなる修練に励んだ。ここで次なる魔将に値することを…いや欲張るな!その可能性だけでも見せる…!)
ーーそればかりをずっと考えていた
あの火山の地にて、エルフと魔族の小娘2人からの合成魔法によって傷を負ったのはただ、自分の油断、実力不足が祟ったもの…
本来ならばこの任務に同行させてもらうに足らないことは理解していた
それでも……
「いよいよだなぁゼウル。ま、取り敢えずは生きて帰ろうぜ」
「そうよゼウル君。勇者ジンドーは明らかに普通じゃなかった、レイシアス様でも刃が立たなかったのよ!無茶したら駄目なんだから!」
「分かってる、分かってるとも。だが、勇者ジンドーは俺達がもし魔将の後継として進むならば必ず立ち塞がる相手だ。『勝てないから戦わない』だけでは通れないだろう」
「それは………そうだけど……」
「先生達が前張ってくれてる間は甘えようぜ?死んだらそれまでだしよー?」
肩を落とすキュリアは本当に勇者ジンドーを恐れている…恐らく誇張ではない。彼女は話を膨らませて話すタイプではないのは良く分かっている。バウロもそれは分かっているのだ
足元で光を放つ魔法陣は転移魔法…それは人類のものではなかなか見られない程に巨大であり、人間の魔法使いが力を寄せ合って造ったものですら国に安置された物ですらここまで素早く、大きな物は造れない
それは異界より渡ってきたとされる魔神族が得意とする転移魔法の応用
だがそれも、この時間で現地にて作れる魔法陣には限界がある…そう、200人を運べる規模の大きさが限界
その魔法陣が輝きを放ち、上に立つ彼らを飲み込んだ
魔法陣を取り込む魔神族達が数十人がかりで起動した魔法陣は起動した瞬間にその力を存分に発揮した。その結果、魔法陣の上から彼ら全員の姿を………消し去った
いや、移動した
その先こそ………
大空のど真ん中
(ここが、グラニアスを封印している場所の上空………!!雲と同じ高さ……!ここからならバレずに……)
「全員、部隊ごとに防御を展開しろ!絶対に散らばるな、来るぞッ!」
ギデオンの緊迫した声が、意識を引き戻した
ここは雲と同じ高さの上空、遥か空の上
天からは直射する太陽の光が差し、落下による暴風が髪をばさばさと流すような高度は明らかに人の手が伸びる場所ではないが…ギデオンと俺達3人の先頭を降下するレイシアスが直ぐ様地上方向に向けて結界を展開した
その直後
閃光の暴風雨と言える魔法弾の嵐が、空に向けて…こちらに向けて地上が無数に飛来してきたのを、結界が魔法弾を弾き飛ばした事でようやく認識した
「これは……まさかジンドーが!?」
「奴の防衛兵器だ。奴の防衛戦の組み方からそうとは思っていたが…やはり、警戒されていたか…上空からの突入をッ!」
「速度重視でいきましょ!速く地上に降りないと、私達の方が不利が付きかねないものっ!」
「ひぃっ!?は、蜂の巣になっちゃいます!?あ、当たったらどうなるんですかレイシアス様!?」
「普通の魔物なら穴が開くか爆散するかのどっちかよ!だから私の結界の横に出たら駄目よ!」
「洒落になんねーっすね!?」
レイシアスの緊迫した声もギデオンの舌打ちが聞こえてくる。恐ろしい程の光の弾幕がレイシアスの展開する半円形の結界に弾かれて明後日の方向へと弾き飛ばしていく
見れば他のニ剣、三剣、四剣の部隊も先頭を降りる魔法使い数名が展開する防御結界を展開して後ろを降下する他の魔神族を守りながら降りていた
ギデオンはこの事を想定していた様子だが、それでも表情を見るに当たってほしくない想定だったようだが…まさに光のシャワーが地上からこちらに向けて降り注ぐような光景は未だ嘗て見たことのない異常な景色は幻想的にも写るものの…
この一発一発が防がなければならない一撃であるのはあまりにも脅威だった
思わず目を見張る……強い弱いの次元ではない、戦いの規模の次元が違う
自分達が戦いを挑んでいるのはアルスガルドでも人類でもない
勇者ジンドーただ一人であることを、認識した
地上を見ればジュッカロ魔棲帯だったと思わしき荒れ果てた荒野に何十もの大型魔導兵器が砲口をこちらに向けて光の砲弾を乱れ打ちしているのが見える
「作戦通りに行くのよ。十剣隊は封印範囲内の砲撃兵器を抑えなさい。ギデオン、それに3人とも…私達は封印へ!」
「「「はいっ!」」」
「行くぞッ!」
二剣、三剣、四剣がこの弾幕をばら撒く兵器群へと降下場所を変えていき、続く部隊員が上空からの魔法攻撃を地上に仕掛けていく……そんな中、後を追うギデオンとレイシアスは純黒色の正方形に見える巨大建造物の側へと降下する
降下速度が、がくんっ、と下がり地表すれすれで空気のクッションを踏んだようにして停止した
そのまま地面に足を下ろす
ここまで撃墜された者は……十剣隊を含めて居ない。相当の激しい弾幕による迎撃を受けたが、それを最初から考えたギデオンとレイシアスの陣形と防御降下は高い効果を表していた
まずは突入の成功を意味している
そんな中で、降りた先のその景色を見渡した
「ここは………古代のピラミッドにも見えるんすけど。まぁ違うっすよねー…明らかにデカい砲台とか色々載ってるし」
「そうだ。これこそが、ジンドーが四魔龍を封じ込めるために建造した巨大封印。内部には防衛機能が張り巡らされ、外部には迎撃機構が立ち並ぶ要塞…ガヘニクスを開放できたのは運が良かったのもある。迎撃より隠密を重視していたからこそ強行突破が出来た」
「今はもう、内部からグラニアスが破壊しにかかっているからあの迎撃装置が機能することは無いわ。だから、気にするべきは……」
「ジンドーただ1人……そういう事ですね、レイシアス様」
バウロがいった通り、少し先に見上げる大きさの巨大なピラミッドにも似た建造物がそびえ立つ
ーー古代の文明にこのような遺跡があるのは知っていたが…明らかに異質だ。全身金属製、色は漆黒、ピラミッドのように三角ではなく半ばから切り取ったような台形型…一目見て分かる、この世界のものではない異物感
さらにこの場所も不可解だった。封印はジュッカロ魔棲帯の中心地…巨大な森林の中に隠れている筈なのに、その森林は今や円形に外枠のようにして存在するだけで…封印を中心としてひっくり返った大地と焼け焦げた跡がぐしゃぐしゃに掻き混ぜられたような景色へと変貌を遂げている
明らかにここで何かの大規模魔法でも使用されて森林が力尽くで破砕された…そんな感じだ
「れ、レイシアス様?ここって森だったと思うんですけど…。こ、この前一緒に見た時だって…」
「……戦う準備を整えたのね。森が邪魔だったのよ、だから消した…彼にはそれが出来るの。方法はまだ分からないけど…でも明らかに本人の力を超えた破壊を実行出来てるわ。それだけがずっと気掛かり……」
「警戒しなければな…。三年前までは持っていなかった力だ、恐らくは…この三年間で作り出した新たなる兵器だろう。我々の動向を掴んでいる方法も気になる」
「嫌な話です、ギデオン様…。そう言えば、グラニアスが出てくるのはそろそろなのではありませんか?」
「そ、そうでした。レイシアス様の読みでも確かもうすぐ封印を壊して現れる筈って」
「そうね……今も地下で相当暴れまわってるみたい。出てくるのはそう時間はかからなさそうだけど、今気になるのは…」
ギデオンが向こうに聳える漆黒の台形ピラミッドと見ながら険しい顔をするが、レイシアスの言い淀む言葉に「あぁ」と頷く顔は更に考え込む顔をしていた
レイシアスは事前に地面への振動や魔力の波動の大きさからどこまでグラニアスが封印の中で動けているかを測定、出てくるタイミングでの回収からグラニアスによる移動を考えていた
この場所は転移を阻害されている…十剣隊には、あの空に攻撃を仕掛けてきたような周囲の魔道兵器にこちらを攻撃させないようにする役目と、森を囲むように転移阻害を完成させている魔導装置を破壊し転移可能にする任務を負う
故に人数と連携で多数の魔導兵器をくぐり抜ける苛烈な任務となるのだ
しかし…レイシアスが言葉を濁して周囲を見渡したことでようやく彼女が感じている違和感に、思い当たる
(……そうだ、なぜここにはジンドーの魔導兵器が来ていない?ここが一番防衛しなければならない要所の筈だ、それなのに明らかに………一機も居ないのは変じゃないのか?)
「左に散れ!来るぞ!」
「「「っっ!?」」」
『ようこそ、封印中枢SPRINGへーー
漆黒の天体が地面を消滅させながら飛来するのが見えた頃になってようやく…肌が泡立つような悍しい膨大な魔力の波動を感知できた
ーー今までどこに居た?なんの魔法だ?まさか魔導兵器が居ないのは?
様々な疑問を振り切って声を張ったギデオンの指示に従って無我夢中でバウロとキュリアと共に弾かれたようにその場から即座に左方向に飛び出した
黒と紫のスパークを放つ漆黒の巨球が大地を削ぎ落としながらボールでも転がすように豪速で迫り、それを間一髪で避けた先に体が到達した直後……その漆黒の巨球が先程まで立っていた場所の周辺丸ごと飲み込み、何もかもを破壊し飲み込んだ
少し通り過ぎた先で、それは…爆発するように巨球の範囲が「バグンッ」と膨らみ拡大し、周囲に存在した物質のすべてを漆黒の球形領域に引きずり込んでしまった…
あの破壊範囲の内部で何が起きるのかなど……分かりたくもない
それが放たれた方向に視線を向けて、ぞっ、と戦慄する
あの日見た……あの漆黒の鎧がまるで光の翼にも見える魔力のブースターを噴射しながらゆっくりと降りてくるのが見えたから
『避けた、か。思ったよりも速いな…随分と育ててるじゃないか、ギデオン、レイシアス。俺はてっきり…今の一撃で3人ほど吹き飛ぶと思ってたんだが』
ぞっとする変声音が、人の言葉となって語りかけてくる
一瞬にして、冷や汗が浮かび視界が暗黒に染まった気がした
空からそれが降りてきて地面に鋼鉄の音を響かせながら着地する音がゆっくりと聞こえた…その緩慢な動きですらも
何も…言葉も出せない、身動きもできない
バウロも見れば目を見張ってわずかに震えていた…動きたくても動けない…いや、キュリアだけが溢れるような小さな声で「大丈夫っ……だ、大丈夫…っ」と自分に言い聞かせているようだ
この状況で声が出せるだけでも…今の自分からすれば信じがたい
今動けば…言葉を漏らせばその瞬間に木端微塵にされるような恐ろしい危機感がビリビリと全身と神経をヤスリのように刺激してくるのだ
そう思える程の…狂った圧力と量の魔力が波動となって空間を震わせていた
まるで世界の魔力の根源である龍脈の中に放り込まれたかのような…それほどの錯覚すら起こすほど異次元の魔力が大気を震わせ地鳴りのような音すら聞こえてくる
あの火山で出会った時は殆ど魔力なんて感じなかったのに…
脳裏に浮かぶその言葉は、この相手を表すに足る物で、そしてキュリアの言葉……頭の中に蘇る
怪 物
見ただけで分かる、勝ち目はない
今までの勇者が見せた武勇や伝承は全て聞いた、いつか自分が魔将へと至りその全てを退けるべく、如何なる力も聞き逃さず覚えた
その全てに「俺ならばこうして倒す」というイメージすらも起こして、そしてギデオンの指導のもとに力を付けた
なのに……相対しただけで頭の中が完全に埋め尽くされた
勝てるビジョンなど何も思い浮かばない
今までは勇者ジンドーが魔神を打ち倒し、師である三魔将を退けたのも戦況やその場の運、仲間達に恵まれただけという風に考えていた部分があったのに
今なら分かる
この常識の埒外に存在する化け物は………自分の力で全てを壊してしまったのだ、と
先程の一撃でも分かる、挨拶代わりに放たれた破壊の黒星…その威力だけでも自分が放てるあらゆる魔法を上回る
これが勇者………
その中でも…最強を謳われた歴史上の特異点
それが今、目の前に居る
「そう脅かすものじゃないぞ、ジンドー。なんだ、随分と殺気立っているな…どうだ?少しくらい話でもしないか?」
「そうね。この前はあまりお話出来なかったもの。是・非………親交でも深めましょ?」
その声にようやく意識が体に引き戻された
気が付けば、自分達の前にギデオンとレイシアスの2人が杖と、剣を、地面に突き立てて彼との間を遮るように立っている
師である2人の声が、放つ魔力が初めて自分達を現実へと連れ帰った…それまで恐怖に囚われすべての感覚を失っていた事に、戦慄する
(戦う前から……負けを確信した…?俺が…そ、それだけの相手かこいつは…!戦う土俵に立つ前に……諦めるなんて……!)
「カナタ!大丈夫ですかっ!?」
「1人で突っ走るな!……とは言えんが責めて突っ込む時は言ってくれ!心臓が縮む!」
「んっ……!……空飛んでくのずるいっ……!」
「…それはマウラに言われたくないのではないか?そなた、空気を踏んでビュンビュン飛んで追いかけてたではないか」
「いえ、ペトラも風の流れに乗って空を飛んでましたが………もしかして飛べないのは私だけですか?今頑張って自分の足使って追いかけて来たの私だけなんですが」
そこに…あの日、火山で俺に負傷を刻んだあの小娘たちの姿が見えた瞬間に、自分の中の火が着いたのを自覚した
なぜここに奴らがいる?
どうして勇者ジンドーと共に行動している?
いや、そもそもあの時とは比べ物にならないこいつらの魔力はなんだ?
『奇遇だな。実は……俺も教え子を連れてきてるんだ』
己の後ろにぴたりと集結した3人の少女達に視線を配らせた勇者ジンドーのその言葉に、慄く
自分が初めて師以外で重症を負わされた小娘達が、三魔将の弟子である自分を初めて本当に敗退させた相手がまさか……
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【Database】
『シオン・エーデライト』
〘種族〙エンシェントエルフ
〘年齢〙15
〘魔法名〙
〘魔力量〙767500(通常時)(数値化による誤差あり)
〘職業〙魔法使い
〘身体〙167cm B92 W59 H89
〘来歴〙
ケネルーの森に存在したユーラシュア巨大亜人集落にて産まれ、生活してきた少女。その中でも古よりユーラシュアを支え導いてきた最古の四家であり、豊かな自然の恵みに感謝を捧げ宗教的な一面を担う神官の一族であるエーデライト家唯一の生き残り。今や世界でも類を見ない希少な存在、遥か昔より血統を紡ぐエルフの最上位種族であるエンシェントエルフのその身は魔法の才を余すこと無くその身に宿した紛う事なき天才。
読書家であり、様々な知識を有し親友達をその博識でフォローしてきた彼女は特に菓子作りを得意とする。掛けている度が入っていない眼鏡は彼方と共に過ごし始めてから身に付けるようになった物で、実は読書家の彼女に彼が贈った魔道具。目視した字の拡大機能や暗い所でも識字ができる軽い暗示能力が備わった物でそれ程超高性能魔道具という訳では無いが、彼からの初めての贈り物であるこの眼鏡を大切に毎日掛けるようになった。なので視力が悪い訳では無かったりする。
神藤彼方と出会い、彼に助けられ拾われてから共に暮らすようになる。
助けられた事もそうだが、彼から当然のように寝床も食事ももたらされて、故郷を魔物に滅ぼされたそのトラウマさえも彼方がそれを知って戦う術を教授した。無愛想で不器用なのに根は優しく、そんな彼方を見て共に過ごしていつしか敬愛と親愛を抱くようになる。
〘戦闘力〙
まだ己の力を知る前にユーラシュアが滅亡する憂き目に会ったが、後に最愛のパートナーとなる神藤彼方に拾われてからその才能を開花させた。
保有する特異魔法である
戦闘スタイルは近接戦を得意とする超パワーファイター。
特に彼方の戦闘法による影響を強く受けているのがシオンであり、そのスタイルは力による一点突破を主軸とする。並外れた強化魔法の適性は他2人を軽く凌駕する出力を誇り、そこに加えた上述の特異魔法を組み合わせ、見た目の可憐な容姿からは想像も付かない怪力により敵を粉砕する。その強化の力は肉体の頑強さにも顕著に現れており、並大抵の攻撃は彼女の肉体に傷を付けることすら無く低級魔法を乱発しようとも彼女の進撃は止められない程の頑丈さを見せるが、この戦車のようなスタイルも彼方の戦いを見て育ったせいもあり稀に彼女に窮地を運ぶことも。
愛武器は長槍。片刃ではなく両刃で刃部分がある程度の大きさを持つ物を好み、それを片手で軽々と振り回す。槍ではあるが刺突攻撃はあまり多様せず、その剛力により振り回し敵を粉々に破壊する豪快な使い方がメイン。得意技はその場で槍を高速回転させ、体の回転と合わせて勢いよく敵に槍を叩き付ける「
その実力は今や白金級冒険者に相当する戦闘力を発揮し、武争祭決勝戦では白金級冒険者であるライリー・ラペンテスを魔道具によるバフ効果を使わずに辛くもながら打ち破る程。白金級冒険者自体が全冒険者の3.3%しか存在しないのを考えればこの世界においても相応の実力を誇るに至った。
炎熱系魔法も得意とし、世に存在しないオリジナルの魔法を複数開発、使用する。
親友達を含めた3人の中でも断トツの破壊力を誇る炎熱系魔法は世の平均的な魔法使いが放つ同系統魔法を遥かに置き去りにするものであり、地形を変えることなどザラ。そのせいで軽々しく本気を出せないのが最近の悩みらしい。
お気に入りの魔法は炎熱系熱線魔法『
炎ではなく熱のエネルギーを圧縮して放つ、貫通と破砕力が極めて高い熱レーザー砲はその辺の鉄程度は容易く溶断し爆砕してしまうとても物騒な魔法である。発動から
〘・・・〙
「何が」とは言わないが、彼方する時は立っても座っても後からされるのが好き。抜かずの最高連続記録は3回。ちょっとその方面ではМっ気が強く、第一話でマウラの手により登場した「縛られても痛くない縄」をこっそり持ち出して自分に使ってもらってるらしい。欲しい子供の人数は2人。激しければ激しい程燃えるらしく、時折彼を妖しく挑発的に誘ってはめっためたにやられちゃうんだとか
〘一言コメント〙
「溢れてくる感覚、いいですよね。好きな人に中から汚されてる感じが堪りません。あと後からだと好きな人に好き勝手に自分の体を楽しまれてる感がとっても……んっん……いいですね…っ」
……らしい
ーーー
先日、R18版をノクターンへ投稿致しました
興味のある大人な読者の方は是非、見てみるだけでもどうぞ
URLとちょっとした御意見欲しい部分もあり、近況ノートに書いてありますので良ければご一読して欲しいです
大人の皆様は是非、いろいろぶっちゃけたコメントとかあると楽しいです。ノクターンではハメを外しましょう(下衆)
次は大性…聖女の版ですね
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