第102話 四輪の華に愛集う


「凄かったな…朝食」


「ですね。これは、あれです……馴れたら普段の生活が麻痺して駄目になるやつです。気を付けないとグダグダの贅沢馴れをしてしまいます…」


「んっ…美味しかった…っ!……パンも、スクランブルエッグも、ベーコンも、スープも……っ!……食べたこと無い感じした……っ!」


「これが毎日の朝食になるの、ちと危機感を覚えそうだな…。厨房でも貸してもらうか?」


「無理でしょうね。貴族邸の厨房なんて気軽に貸りれる訳もありません。素直におもてなしをされる方が良さそうです」


「……そうなの…? 」


「えぇ。貴族の食事は毒などが入らない為に厳重なチェックが入りますから、警備が厳しい筈です。それに貴族側からすれば「招待した者に料理をされる」というのは恥になる可能性もありますね…こういうのは「持て成せているか」というのも大事になりますから」


「まぁ、たまの贅沢と思って素直にもてなされるとするか。ラウラさんには別の機会に色々と礼をしよう。……それはそうと、カナタのヤツ…昨日はしっかり決めて来たのだろうな…?」


「んっ……あんなに前押しされてたのに決めてなかったら……メっ……!…でも部屋には戻ってきてない……匂いしなかったし…」


「と言うことは上手くいったのではありませんか?ラウラさんは前衛の私達と違ってスタミナとかフィジカル的にそう長くはできないと思いますし、様子でも見に行きませんか?」


「うぅむ……無茶をさせていないと良いのだが…。我らのようにてしまうと…その、あれだ……あられもない事にならんか?」


「……これはフォローが必要っ……火がついたカナタ……すごいっ…多分ガタガタのぷるぷる……!」


「…だな」


「…ですね」



穏やかな朝


朝日はギラギラと光を落とし、早い時間ながらに外は少し蒸し暑く感じる晴天の下…クリューセル邸の朝はとても静かで緩やかな時間が流れていた


室内は冷気の魔石によって寒くない程度の温度に下げられ、食堂ではバイキング形式の様な大きさの大皿に柔らかく焼き上げられたグラノル麦のパン、魔獣ランナーピッグのベーコン、果物、金滋鶏の卵で作るスクランブルエッグ、カラナック原産の野菜のスープ、飲み物には果実水や茶等いくつかの中から選べる仕様


使われている食材も一級品ばかりであり、明らかに庶民の物とはグレードが違う


これを普段の勢いで食べていいものか、と悩んだ3人ではあったがそこは大聖女ラウラの館…強大な魔法使いが健啖であるのは当然との事であり山盛りで机の上に並べられ「どうぞ」と言われればその言葉に甘えるのみであった


そんな事もあって、朝食を堪能してきた3人


今気になっていたのは昨晩送り出したカナタと、彼と会っていた筈のラウラの事だ


あれだけしっかりと「風呂へ会いに行く」と宣言されていたのだから、ちゃんと男として色々な期待やらに応えられたのだろうか?、と


とは言え、そこに関して3人は心配していなかった


いくらカナタがこれまでラウラと距離を置いてきたと言えども、だ。自分達に関してはしっかりと男気を見せて全部纏めていただくつもりで抱いてくれているのだ


なのでいざという時は彼もちゃんとやるだろう事は分かっている…


のだが…


問題は場合である


そう…カナタの愛し方は尋常の激しさではない


そりゃ色々な部位の大きさやら出てくる物の量やらも普通ではないが、スタミナ、回数やらに至っては3人でも太刀打ちできない常識外れのパワーを誇るのだ


三人がかりでも勝てた試しがない…もし、上手く2人が結ばれたのならばラウラは無事なのか?というのが目下の問題なのである


カナタからの教えを受け続け、バリバリ前衛としてパワーを振るえるシオンに、その肉体能力で神速を体現するマウラ、体術に関して類を見ない精度を持つペトラ…3人の肉体能力やスタミナは普通のものではない


同年代で匹敵するものはほぼ存在しないイカれたステータスであり、ライリーが現れるまで敵無しだったのだ


その3人が…ベッドの上で3人揃ってあられも無く意識が跳ぶ程の意味不明な強さのカナタに、果たして体を特に動かしたりむしろお淑やかお嬢様のラウラが耐えられるのか…?


否!


耐えられる訳が無い!


きっとベッドの上で自分達よりも凄い乱れ方で撃沈しているに違いないのだ!


これは3人の経験則である



という訳で、3人は現在ラウラの自室の前まで来ていた


止めるか、加勢か…手段は色々だが流石に加勢となると4ピ……ちょっとふしだらな大運動会になってしまう


ここは慎重に行く必要があるのだ



ラウラの自室に備えられる分厚い扉は防音もしっかりした作りになっており、不審者の侵入にも対応するために頑丈で生半可な力では破れないもの


過度な装飾、と言うより質実剛健な少し大人し目の雰囲気…その扉に金属製のプレートで「ラウラ」と彫られたものが打ち込まれている



臨界オーバーロード……どうですか、ペトラ?見えますか?」


「うむ……結界で遮音しておるな。どれ…風穴を開けてやろう…」



もはや手慣れた犯行と化した防音結界セイレーン破り


シオンがペトラの感知能力を強化し、感知した結界をペトラが魔法で孔を開けるように一点だけ消滅させる


カナタが作り出した魔道具による結界は内部の音を一切外に出す事はなく、その結界すら意識しても気が付く事すら困難な程に秘匿性が高い


魔法に馴れ、魔力感知能力に長けた者ですら気が付くことも出来ないと来ればその結界に対処する事すらも不可能…魔族であるペトラの高精度な魔力感知能力を何十倍にも引き上げる事で初めて可能となる防音結界セイレーン殺し


ペトラの持つ特異魔法、刻真空撃エストレア・ディバイダーはあらゆる物を消滅させる。それは物であれ、エネルギーであれ、結界であれ…文字通りあらゆる対象を消し去ってしまう


これにより、ちょん、と結界に穴を開けてしまえばそこから内部の音が聞ける、という寸法だ


シオンの特異魔法、極限臨界エクスター・オーバーロードによって強化されたペトラには部屋の形にぴったり覆うようにして張り巡らされた透明な膜がボヤケて見えていた


そこに指先を当てて魔法を行使すれば中の音はしっかり筒抜けだ


さて、中の様子はどうなのか…




















『あっ、そこっ…ふふっ、いいですわねっ……っ!まだまだですわ…っ、さぁっ…次は後ろからっ…』


『こんなろっ……っ!すごいな…っ!というか休まなくていいのかっ?かなりトばしてると思うんだけどっ』


『あらっ?もう疲れましたのっ…っ?んっん…!あらっ、そんな事はなさそうですわねっ』


『まだまだっ…!どうなっても知らねぇよ…っ?』


『やっんっ…!激し…っ……私、もっと欲しいですわっ…。そうっ、私が立てず、受け止めきれなくっ…なるまでっ!』


『なら覚悟しとけっ…!俺、こういう時は徹底的にやるからな…っ!』







「「「あれっ?なんか想像してたのと違うっ!?」」」



ハモった


それはもう綺麗に声を揃えて


今までの自分達の事を思い返してみよう……一晩、体を重ねただけで火がついたカナタから足腰に震えが来るまでヤられてしまった…例外のマウラでさえも次の日の昼頃にはもうダメだったらしい


そんな3人よりも肉体能力に劣るラウラがどうなるか…それは当然、立てず起きれず、今頃カナタが謝りながら体ぷるぷるのガタガタになったラウラを開放しているタイミングでは?と思っていたのに…


蓋を開けてみればむしろ、ラウラはもっと欲しがっている感じがする。カナタもそれに焚き付けられている感じだ…一体何がどうなっているのか?


聞こえてくるのはラウラの挑発的なイタズラっぽい言葉と艶めかしい吐息にそれに応えるカナタの声と…リズミカルな手を叩くような音やらちょっと粘液チックな水音がテンポよく聞こえてきたりと非常に煽情的で爽やかな朝にはちょっと不似合い



「あ、朝から始めた…とかでは無い、な…?明らかに昨夜から続けておる感じがするのだが…」


「で、でもあの感じはそのっ…かなり激しそうですがっ?なんだか私達の誰よりもまともにカナタとヤりあえてませんっ?」


「……は、激しいっ……わ、凄い音っ…。っ…これ……多分20回以上は出されてる……っ。…しかもペース早っ……!?」


「「そんな事まで聞こえるのっ!?」」



ぴこぴこと可愛らしく動く猫耳!


マウラの鋭敏な聴力は通常の人族でも聞こえない小さな音すら逃さないスーパーなキャットイヤーは中で何が起きているのかを鮮明に捉える!


分厚い扉故に、そこまでは聞こえてなかったシオンとペトラに衝撃をもたらした…!


一体20回以上も出ているのか…!


後ろから《《なにを》するつもりなのか…!


完全な計算外だった…!


マウラの耳にはそれはもう表現するのも憚られる濃密で濃厚な音やら声やらが届いており、こんな音が出るのは経験上…何十回も時だけなのだ!


マウラが顔を赤くして「んっ……!?……ふぉっ………!?……ふぇ……っ!?」とピクピク反応する度にシオンとペトラが「なに!?何が起こっておる!?」「どんな事してるんでしょう…っ!?」と気が気ではなくなる…


だが、マウラだって翌朝までは激しく頑張ってたのだ。きっと彼女もそのうちバテてしまうのは明白、その時はしっかりフォローしなければ…憧れのお姉さんがあられもない状態となれば捨て置けない



「と、取り敢えず様子見とするか…。一度戻るとするかのぅ」


「予想外でしたけれど…まぁ楽しめているなら幸せなことです。また後で見に来るとしましょうか」


「っ……あ、あんなに力強くっ……!?……この音は、キスしながらっ……!…あっ、出したっ……!」


「こらいつまで聞いているっ!我らはひとまず戻るぞ!こんな所で聞き耳ばかりたてていては我らの方が変態っぽいわ!」


「そうですっ。3人揃って扉に耳当てて中の情事を聞き続けるのは流石に絵的に悪すぎますから…ほら、行きますよマウラっ」


「っ…これはっ……抜かずにっ…!?……あ、溢れる音はすごっ……!」


「ええい!早く立たんかマウラ!あと実況をするな!聞いてたらこっちまで腹が熱くなってくる…!」


「へ、変な気分になるからやめてくださいっ…!ほら早くっ……ペトラ、引き摺って行きますよっ」


「あっ…も、もう少し聞きたいっ………あとちょっとていいからっ……!」



瑠璃色の猫耳をぴこぴこと動かしながら名残惜しそうに手を扉に伸ばしつつ、シオンとペトラに両腕を掴まれてずるずる引き摺らていくマウラ


連れて行かれるマウラも、そして連行していくシオンとペトラも同じく、その顔はどこか赤く染まっているのであった





ーー





「んーっ……はぁ…。凄いです、このお風呂…癖になっちゃいます…」


「これは効く…出たくなくなってしまう…ラウラさんが風呂好きを名乗るのも納得だな…我、ここに住む…」


「ダメになってますよ、ペトラ…。あ、マウラっ、泳いだらダメです。ここは人の家なんですよ?」


「むぅ………大きいと泳ぎたくなる……いいお湯だし……」



ちゃぱ、ちゃぷ、ぱしゃんっ


広い湯船に広い浴室、水音が弾け湯煙漂う空間


カナタの家にある自家製風呂の10倍程の大きさを誇るクリューセル邸お風呂の中で3人揃って浸かっていた


時は移り、まさかの4日後の夜へと時間は進む


夜ご飯まで済ませてしまった一回で3人はお気に入りとなってしまったクリューセル邸の素敵な浴室を堪能している真っ最中だった


周囲には自分達だけ…体を隠す必要もなく、その見ただけで男の理性を粉砕する肢体を惜しげもなく湯に浸してリラックスをしている


あれからお昼には少し外に出かけて、午後は冒険者ギルドにも顔を出してみたりと外回りで時間を使い、夜ご飯はクリューセル邸でとることにしていたがその席にラウラとカナタは一度も居なかった


この時、3人の脳裏に「まさかまだ続けて…」という戦慄が走り、それを裏付けるように側仕えのメイド長が「御二方のお食事は私が届けておりますので、ご安心を」と平然と言っていたことから2人の燃え上がる情事は未だ収まっていないらしい


既にまる5日以上経過しているのだが…本格的にラウラの杖か車椅子が必要になるのでは?と検討するほどである


だが、水を差すような真似はしたくない…と言うわけで薄情無情と後に言われようとも取り敢えず放置することにした3人は開き直ってカラナックを楽しんできたのであった


特に、この浴室は最高である…と、揃ってふんにゃりしながら楽しんでいる最中なのだ


小柄ながらスポーティでしなやかな体付きに、反して幼さ感じさせない柔らかな体のライン…瑠璃色の猫耳をふにゃり、とくたれさせ水面からしゅるしゅると揺らめく尻尾がどこか力無さそうなが広い湯船を泳ぎかけ


そんな彼女をちょこん、と行儀よく座ってたしなめるシオンは高めの身長にくっきりと出るところの出た胸、お尻は同年代どころか世の女性が羨ましがるだろうものを持つ。そのくせに腰元はしっかりくびれていて普段のパワーを感じさせない体付きはあまりにも反則的…


湯船の淵に肘をかけてちょっとワイルドに力を抜くペトラは少し開放的な格好をしているものの、その肢体は凄まじい物がある。体の起伏はシオンの方が大きいものの、それでも世間一般の女性を逸脱したボディラインに高身長、切れ長の目元、妖しい真紅の眼…女性ですら惚れ落ちる程の美しさと凛々しさ。それをあまり気を張る様子もなくリラックスさせていた



「しかしまぁ、ここまで燃え上がるならばカナタの中にラウラさんへの情愛があるのは確かであったなぁ。うむ、良い事だ」


「ですね…本当にそこは安心しました。なぁなぁで受け入れて欲しくはありませんでしたし、カナタからもラウラさんを欲してくれたならなによりでした。これで胸のつっかかりがようやく取れたというか…」


「ん…すっきり……。……でもカナタは時間かけ過ぎ……早く抱くべきだった…っ」


「そ、それはちょっと跳ばしすぎのような気もしますが…言いたいことは分かりますとも、えぇ。こんな熱々になれたならもっと早くなるべきかな、とは思いましたね」


「カナタは要らん所で怖がりだからのぅ。我の時もまぁ苦労したわ…どれだけ言葉と心を叩き付けたことか…。勇者がどうの、と色々言われたが我からすれば些細な話よ」


「あ、私もそうでした。でも聞いた感じペトラの時よりはマシな気がしますね…自分の事を自虐気味にですが話そうとしてましたし。まぁちょっと私も怒りはしましたけれど…」


「……あれ…?…私の時とだいぶ違う……カナタ、結構すっきりしてた…。…勇者だって、普通に認めてた気がする……」


「くくっ、ならばカナタの奴は変わった、と言うことだな。当たり続けた甲斐はあったか、頑固者め…。見てられなかったのだぞ?あの時のカナタは…我の愛を諦めさせようとしてきた、だから戦うしかないと思ったのだ。ちと乱暴かと思ったが…間違えていなかった」



気持ちよくペトラが笑う…彼女が一番最初にカナタへと辿り着き、その狂気とも呼べる彼の本質の1部に触れた


あの時は大変だった…ペトラは今でもそう思う


彼の心を解き溶かすのには並の想いをぶつけても駄目なのはすぐに理解できたのだ。だからこそ…実力行使に出た


これまで未熟故にカナタに使用を封じられながらも密かに修練を積み、彼の魔道具による無比のサポート能力をフル活用する事で可能となった特異魔法の無制限使用


ペトラはあの瞬間、本気の本気で戦った


勇者としての姿を見せたカナタには手も足も出なかったが…それでも今までカナタにあやされるようにして指導されてた時とは違うぶつかり合い


それは彼と生活し始めてから初めてのことだった



「私は少し分からず屋なところとか、自分を非常に殺人鬼のように貶めてる姿が気に入らなかったので…戦いました。多分、ペトラの時より穏やかでしたけど…それでも、許せる物言いではなかった。だから…「くだらない」と言って捨てたんです。…そんなに昔の事じゃないのに、なんだか懐かしいですね…思い出します、カナタをガードの上から殴り飛ばしたのを…」


「えっ………蛮族……?」


「今なんと言いましたマウラ?」


「…な、なんでもない…」


「いや…腕がへし折れるパワーで殴るのはちとパワープレイが過ぎたのではないか…?なんだかんだと言いつつ、一番の脳筋はシオンだのぅ…」



しみじみと思い出を語るシオンに思わずマウラの言葉が差し込まれた


何だかいい思い出に似つかわしく無い感じのワードが入っていたような…いや、これに触れるのはタブーなのだろう。シオンのきらりと光る瞳がマウラを捉え、身の危険を感じた彼女は視線をすぃ~、と逸らしていった!


決して想い人との思い出の中に「殴り飛ばす」なんて物騒な言葉は聞こえていなかった…!



とは言え、シオンがその真摯でひたむきな想いを込めて彼に挑んだのは事実


カナタ自身ですらも、真に信用して本当の意味で寄りかかってくれていない事が理解できたからこそ彼女は実力行使に出た


操ることに課題を抱えた暴れ馬のような己の特異魔法を開放し、魔道具に支えられて完全な制御を果たしたその魔法は彼の中の「勇者」を引き摺り出し…そして彼女が伝えた愛は彼の「勇者」を破壊したのだ



「……私の時は……すっぱり勇者だって認めてた……。…多分、2人に名乗った時とは意味が違う……きっと本当の意味で、自分の事…「勇者」だって言ってた……。………だから挑んだっ、カナタを理解して私を理解してもらう為にっ…!……その前に酷いミスもやっちゃったんだけど…」


「確か三魔将の一角、『絶禍のレイシアス』に狙われたんだったか…。あれ?我らもしかして全員合わせれば三魔将全部会ってたりするのか?」


「…そう言えば『絶壊のガランドーサ』も知らない内に見てましたね。というかガランドーサと戦ったのもマウラでした、もしかして三魔将と縁があったりします…?」


「んっ………無いっ!」



出逢えば最後の死神、絶対的絶望の象徴、最強の魔神族3人を指し示す三魔将


会えば死、会わずともその圧倒的な力は伝説となって世界に残る絶望の化身…1人相手でも最期の筈なのに3人とも関わりが出来ているのは運が良いのか悪いのか


その1人に、マウラは狙われた


突然、本気で命を狙われた事による予想外の事態は彼女の脳をフリーズさせてしまった


結果として追い詰めていたカナタがレイシアスを取り逃す事となり己の未熟を思い知る事となる


足手纏いになりたくない、あれがカナタの敵ならば必ず役に立って見せる。あとカナタ大好き!…この感情と決意は口数の少ないマウラからすれば体で表現したほうがずっと伝わりやすかった


故に、己を勇者と真に称したカナタと戦ったのだ


三者三様の思いの結果が、今のカナタとの関係に現れているのだ


きっとラウラもそうなれるーー





「あら、いい話してますわね」




「ぅおっ?ら、ラウラさんっ?」


「か、カナタとまだシてると思ってましたけれど…あの、歩いて大丈夫なんですか?」



…そんな事を思っていたら、まさかの声が後ろから聞こえてきた


その声の主は昨日の夜からずぅぅ…っとあっつあつな夜を過ごしている筈のラウラである。体を僅かにタオルで隠しながら浴室に入ってきた彼女はこちらの話を聞いていたのか楽しそうに笑みを零していた


その体付きはあまりにも暴力的な程に女性的だった。世にそう並ぶことの無い立派なものをお持ちのシオンですら及ばないボディライン、ふっくらと柔らかそうに肉付いた長い脚、丸みを帯びた尻からきゅっ、と細まるウエストのラインはもはや女性同士ですらも唖然としてしまう、輝くような黄金色のボリュームある髪を珍しく一房に紐で纏めで背中に流すその姿はまるで女神像かの如き美貌


マウラが「おおっ…」とちょっと目を輝かせる程に凄まじく均整と悩殺的な魅力の詰まった美貌であり、思わず見ていてぴしっ、と姿勢を正してしまうものがある


シャワーの椅子に腰を掛けて魔石を動かし、お湯を体の前から浴び始めたラウラに驚くのも無理はない。経験上、カナタがこの程度の期間で止まることはないだろう。そしてそれを一身に受ければどうなるか…身を持って知っているのだから



「勿論、大丈夫ですわよ?ふふっ、素敵ですわね、本当に…。情熱的で激しくて、熱烈に私を求めてくれる…ここまで身も心も満たされた事はありませんわ、わたくしっ。…確かに、カナタさんは普通の殿方ではあり得ない物を色々とお持ちでしたが…」


「で、ですよね。でもなんでそんな普通に歩いたり出来てるんですか…?い、言うのは恥ずかしいですけど、私達は一晩だけで立つのも難しいくらいだだたので…」


「んっ……もしかして、加減してくれてた……?…ようやくカナタにもブレーキが……っ」


「あら?どちらかと言えばお互いかなり夢中で耽っていましたけれど…。凄い勢いでしたもの、まさに「貪られる」という感じで…ふふっ、私、堪能されてしまいましたわ…っ」


「お、おぉ……と言うことは、まさか……ま、真正面からカナタと丸5日近く愛し合ってその脚で普通にここへ来た、と…?」


「そうなりますわね…確かに時間の感覚が少し狂っていたのは否めませんわ。少し反省しないと…」



3人にさらなる戦慄が走った


彼の愛し方はとても耐えられないくらいに激しいものである。スタミナとか、連続でとか、何がとは言わないけど出る量とか、どれのとは言わないけどサイズとか、何のとは言えないがテクニックとかどれも常人からかけ離れたすんごいものがあるのだ


それはもう、一人で相手をしていたら数時間で完全に足腰抜けて明け方には意識がとんで行ってるのは当たり前である


これが体力に乏しい普通の子女ならば当然だが、シオンもマウラもペトラも平然と戦闘やら運動やら魔法やらを駆使する生粋の体育会系育ちである


その彼女達が、少し気合い入れて愛されると数時間でダウンするというのは並どころか常識的な世の営みから遥かに逸脱したハードさを誇るのは明白


それなのに、こんなスタスタ普通に歩いて風呂場に来て自分でシャワー浴びながら「素敵でしたわねぇ」と満足そうに艶っぽい吐息を漏らしているのはどう言うことなのか



「そのぉ…もしや…聞きづらいのだが、ラウラさんの聖属性魔法は…あれか…?疲労した体力とかも戻せたりとかは……」


「ふふふっ…知ってましたの?できますわよっ」


「「っ!?」」



衝撃の事実が今判明する…!


そう、聖属性魔法は肉体を癒やし回復させる魔力によって人を治癒する魔法…言わば「魔力を肉体や生命の力に変える魔法」と言って差し支えない性質を持つものだ


その気で応用を重ねていけば、自分の減った体力やらを聖属性魔法によって補填する事も不可能では無いのだ


そのような聖属性魔法は存在しない…未だかつて「男女の営み」で消耗した体力を回復するなんて魔法を作った聖属性魔法使いは居ないのだ


だって…かの聖女教会に所属する「聖女」と呼ばれる聖属性魔法使いがまさか魔法を開発するなんて思わないじゃん…


…という事情とは別にして


実は作られなかった理由がある


その力の大半は治癒…即ち「肉体の修復」を意識して開発されているからである


ゲームのキャラのようにHPゲージが増えて回復するような簡単な話ではなく、肉体の治癒能力に互換される魔法によって傷付いた部位を修復するのが基本的な治癒の魔法だ


その次となれば肉体から異物を消し去る「解毒」、汚染を消し去る「浄化」、精神防御の「心壁」などの異常系への対抗魔法が一つ上の難易度に存在


高度な魔法ともなれば呪いを解除する「解呪アンロック」、不死系魔物を祓う特攻魔法「退魔系」、魂魄を防御する「魄鎧ソウルガード」などがある


そう、魔法によって「内面的エネルギーを補填する」という行為は正式に実装された魔法の中にはほぼ存在していない。肉体の修復の際にある程度の生命力は聖属性の魔力によって補填されるのだがそれだけを回復する魔法非常に希少だ


これは単に肉体を修復するよりも難易度が高く、人それぞれの体力やスタミナの波長に合わせた聖属性の魔力を対象の「体力やスタミナの源」に合わせ入れる事で可能となる


問題点はその2つ…1つは人それぞれの波長に合わせるのが困難であること。掛ける相手によっていちいち命のエネルギーは波長が違い、少しでも違うと「異物」となってしまい体から拒絶される。上手く高い集中力と技術が必要となる


もう1つは「体力やスタミナの源」という物が何なのかを感覚的に掴んでいるかどうか。これは感覚的な問題だ、要はセンスである。イメージが出来ていなければそれを認識することすら困難…習得は難しいのだ


総じて難易度が高い


その割に役に立つ場面が多くない


基本的に肉体を修復し、それと同時に与えられる一定の聖属性の生命力があれば回復には十分だからだ。それにスタミナを回復するとは言え、例えば走りながら自分にそんな高テクニックを要する魔法を掛けるなど非生産的にも程がある。それくらいなら走って鍛えた方が効率がいい


…のだが



「実は以前に試してみたら意外と出来てしまいましたの。普段は役に立ちませんけれど、こういう時は良いですわよねぇ」


「っ……ずるいっ!」


「ずるくありませんわよ?ふふっ、これは私の力ですから、存分に使わせていただきますわ。とは言え、今は自分にしか掛けられませんけれどね」



そう、ラウラ・クリューセルは天才であった…!


センスが必要?彼女より聖属性魔法のセンスがある者など聖女教会には存在しない!


高い集中力と技術が必要?彼女より緻密で高度な聖属性魔法を練れる者などこの世界には存在しなかった!


そう、使えない要素は無かったのである。ただ、今まで使う必要が無かっただけで…



「それでカナタとまともに張り合えたんですね。それなら納得です…自分を回復させながらだったら確かに何日も通して続けるのも可能かもしれません」


「い、いやいやそれでも連続は流石に凄まじいと思うのだが…あ、いや、シオンはそうであったな…。苛められるのが好きというか、普通にドえ…」


「うるさいです、ペトラ。私を被虐願望のある変態だとラウラさんに誤解されたらどうするんですか」


「誤解も何もなかろうに…。この前自分に使わせる為の柔らかソフト感触の綿ロープをカナタに使わせて盛り上がっていたのは知っておるからな?」


「まぁっ!」


「っ!?な、なぜそれを……っ…!?い、いえ!そんなこと言ったらペトラだってっ、この前カナタが「ペトラが嬉しそうに」って喜んでたのは聞きましたからね!」


「あらっ!」


「うわぁっ!?な、なんで知って…っ、というか話したなカナタぁっ!?我、あれするのちょっと恥ずかしかったのだぞっ!?」


「んっ……!…2人ともえっち過ぎっ…!…少しは自重した方が良いっ…」


「「いつもにゃんにゃん言わされてるマウラに言われたくないっ!」」


「んんっ!?」


「あらまぁっ」



互いに自爆しあう3人に喜色の声を上げるラウラは想像はしていた彼女達の進んだ関係に心の中では温かく、満たされた到達感が広がっていた



ーーついにこの場所まで辿り着けた



産まれて初めて追い求めた男性と、ついにこの身を重ね、結ばれた


既に先に結ばれた彼女達と同じ場所にも、手が届いた


そう…奇しくもこうして楽しく話す彼女達と最初に出会ったのも、一糸纏わぬ姿で、浴室の中でのことだった


こんなにも心から満たされるものなのか…あれ程王都で感じていた不安、虚空、虚無感は全てが…熱くて激しくて情熱的な営みとぶつけ合う体と心に払拭されたのだ



(ようやく……えぇ、ようやくですわ。わたくしの人生は間違いなくこの瞬間に…大聖女になった時でもなく、あの旅から生還した時でもない。カナタさんとこうして結ばれてようやく始まった…そう思える程に、満ち足りている…。幸せとは、この事をいうのですわね)



きゃいきゃいと相手のチャレンジングな営みの行為を取り上げては顔を真っ赤にするペトラ、シオン、マウラの姿を微笑みながら見つめ、湯船縁に椅子を置いてその側で座る



「それにしても…カナタさんはいつもなのかしら…?恐らく、世の殿方が数回はお亡くなりになる程度にはしてると思いますけれど…」


「え、えぇ…カナタはいつもです。私達三人で挑んでも一晩すら保たないことだって多いですから、だからラウラさんが無事なのが驚愕といいますか…」


「何度我らが脚も腰も抜け立てず、ベッドの上で介抱される休日を過ごしたか…絶対にあやつ、まだ本気ではないぞ…?」


「ん……まだまだ力を残してる……あれ…?…そう言えばカナタは……?」



ふ、とラウラがここに来ているのにカナタが居ないことに疑問を浮かべた


ラウラとそれだけ激しく愛し合っていたならば、カナタはここに来ていないのは不思議な話


その疑問にラウラが「あ、そうでしたわ…」と続けた



「お誘いはしましたけれど、部屋で待たれるそうですわ。「流石にあの風呂場を汚すのは…」と言っていましたわね…。もうっ、カナタさんってばお風呂でもシたいだなんてっ」



ラウラが身をくねり、とさせながら赤い顔でもじもじしている…どうやら止まらなくなる自信があったカナタが風呂場では自重しようとタイミングをズラしたらしい


…と言うかラウラのこの反応的にウェルカムだったのは間違い無い


更に言うなら偶然シオン、マウラ、ペトラも居たのだからそれはもうなっていた可能性もある


その事にペトラはちょっとだけ安心したのであった










「ところでラウラさん……お風呂、入られないんですか?何故湯船の外に座っているので?」


「えぇ、お湯を汚すわけにはいきませんから。体の表面は洗い流せてもまでは洗えませんし……すごいですわね、どれだけ中に入っているのでしょうか…。際限なくどろり、と溢れてきますの。これも愛の証ですわねぇ」


「あっ、なんだか凄くて身に覚えのある現象だ…。というかラウラさん、部屋ではどうやって体を洗っておったのだ?」


「私の部屋には備え付けのシャワーやお手洗いも完備されていますのよ。お食事さえ運んでくだされば生活はできますの。ふふっ、お陰でとっても捗りましたわっ」


「…にしても、ちょっとし過ぎ……羨ましいっ……。…そろそろ私達もしたい……っ」


「まぁっ、そうでしたわね。独り占めは駄目でしたわね、ふふっ。でもあと少しだけ、カナタさんに甘えさせてくださいな。そう…あと二日くらい」


「ま、まだいけるんですかっ?え、体壊れてしまいませんかっ?」


「勿論、大丈夫ですわよ。昨日辺りから少し危ういですけれど…むしろ立てなくなるまでしていただきたいくらいですし。そう…使に」


「……はいっ?ら、ラウラさん今まで聖属性の魔法で体を回復させながらシていたのでは…」


「え?使ってませんわよ?ふふっ、お陰で少し足腰がジーンと痺れてきていますのっ。これも女の悦びですわねぇ、ここまで愛した殿方に求め、求められるのは冥利につきますわ。本当に……このまま孕んでしまっても良いと、そう思えるくらいに」


「っ………もしかして……私達より全然強かったり……っ!?」


「お、恐ろしい事を聞いたのかもしれん…」


「…カナタが夜に強くて安心しました。これは……ちょっと予想外です…」









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【後書き】


ーーはい、後日談です。むしろこっちの方に色々と振りました…主に際どめの表現とかを


「まぁ、前の話に直接的な行為の描写なんかいれたら即BAN、即消去だからなぁ。ヤる回にヤる描写入れたらそれはもうただのエロ小説なのよ」


ーー分かってるじゃないか、カナタ君。というか、めちゃくちゃハッスルしてるね。ブレーキ壊れてるんじゃないかい?


「だ、だってな?あれはラウラがその…おねだりというか、誘うのがやけに上手いんだよ!すんごい男心擽られるというかさぁ!挙句の果てにめっちゃとばしてもタフというか頑丈というか…」


ーーあぁ、彼女は聖属性魔法で自分のスタミナとかを回復させられるからね。まさにゾンビプレイさ、彼女を倒す(意味深)には魔力も体力も根こそぎ奪うような、激しくてハードな事を沢山してあげないといけないんだ


「おぉぅ…い、いや俺的には嬉しいよ?けどそれはなんだか体に悪そうだし…うん、聖属性魔法での回復は止めさせたほうがいいんじゃ…」


ーーあ、まだ魔法使ってないから大丈夫だよ。今のところ彼女の素のだね


「……え?」


ーーあの3人が纏めて何回も沈むくらいヤッてるけど、それはラウラちゃんが普通にだよ。ほら、戦闘とかでは体は打たれ弱いどベッドの上ではメインタンクって感じで


「そんなことある!?い、いや…一番の例外が自分なのは置いといて、だ…!流石に頑丈にも程がない!?俺、めちゃくちゃがっついたなぁ、って結構思ってたのに…」


ーーうん、あと二日くらい同じペースかもっと激しくしてれば多分くったりして押し負けちゃうね。いやぁ、まさかラウラちゃんがこっち方面の強さを持ってるとは誰も想像するまい…くくっ


「あ、それに関しては予想してた人いたぞ?何人かラウラのこと「性女」呼ばわりしてラウラから命を狙われてたな…コメントした人、生きてるか…?」


ーーほら、彼女なら致命傷でも治せるから大丈夫だよ


「それはむしろ拷問なんじゃ…」


ーーま、何はともあれこれでようやくラウラ回の締めくくりになるね。あ、もう少し色々とヒロインズとから大人回はあると思うけどご容赦を…


くくっ、100話も待たされたんだ。たった2、3話だけでエチ回が終わるとでも思ったのかい?


甘いねぇ、甘い甘い


何せまだ……水着回を残しているんだからねぇ


「すげぇ…そう言えばあったな水着回の予防線。てっきりやらないもんかと…」


ーーえ、やるよちゃんと。くくっ…衆人環視のオアシスでヒロインズよ水着回…何も起こらない筈もなく…!


「嫌な事言うなよ…また俺のストレスが……」


ーー安心しなさい、程々で済ませるから…ま、ナンパ程度はあるんじゃない?ここまでのは武争祭だからっていう荒っぽさがあったけどオアシスは普通に観光地だし、そんな横暴なのは沸かない…かもしれない…


「そこは断言して欲しかった!」


ーーと言うわけで、次回からはヒロインズ4人となります。また良ければ読んでもらえると嬉しいです


レビューコメントも一件、ギフトもいただきました。その場でお礼を言わせていただきます、とても嬉しいです。コメント、応援くださる方々もありがとうございます。励みになります、こういう読者さんからの反応って書き手にとって凄くモチベーションになるので


今後ともどうぞよろしくお願いします

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