第101話 舞い乱れ咲く金の華

【side ラウラ・クリューセル】




「勇者随行パーティの依頼?っ勇者パーティの聖女ですのっ!?…えぇっ!勿論、お受け致しますわ!」



勇者随行の聖女


聖女教会において最も栄誉があり、そして過酷な使命…それこそが勇者の旅に随伴する聖女であった


何故過酷なのか?当たり前だ…そこは苛烈を極める魔神大戦の防衛戦の最前線、を更に通り越した敵陣ど真ん中を突っ切り敵の大将を討ち取る為の強行軍


言わば特大級のとすら言えた


何を隠そうこの旅の成功確率は驚異の0%


同行した聖女も、無事で帰ってきた者はごく少数であり旅の中核である勇者の死亡率は…100%


無事だった者は存在せず、絶対に、必ず、何があっても命を落として来た


他のパーティメンバーも無事に戻ってくれる者は殆ど居ない。勇者が殺されるような状況で生きて帰れる者などそうそう居るはずも無かった


ただ乱戦の中で殺された聖女も居た…勇者と共に戦って散った聖女も居た…魔神族に殺された聖女も居た…魔物の慰み物にされた聖女も居た…そしてなんとか無事に帰っても、失意の中で心を閉ざした聖女も居た


ありとあらゆる最悪な可能性を孕んだどす黒い結末への道程


あまりにも、過酷という言葉ですら足りない修羅の旅路


だが…その「世界を救う」という高尚で耳障りの良くて、使命感満載の素敵な任務は…



ーー若かりし日…いえ、幼き日といいましょうか


その夢と希望に満ち溢れた目標は自らの小さな使命感を満たすのになんとも心地よい響きを放っていたのです


世界を救えるなんて…なんという光栄で力の奮い甲斐がある使命なのでしょう、そんな使命をこの私が全うせずしていったい誰が挑めるのか


なーんて、思っていましたの



今まで全てを才能と少しの頑張りだけで、必死の努力なんてこの時までした事は無かった賢しらで高飛車な小娘…これまでは何とか出来ていた事による万能感に唆された世間知らずのお嬢さん


そんなわたくしが彼に出会ったのは…きっと運命だった





(黒い……鎧…?同じパーティの前衛かしら……見たこと無い造りの鎧ですわね。あちらは…あ、見たこと有りますわね。確か北方騎士団の団長、若き天才騎士にして『北天騎士』とまで云われたナスターシャ騎士団長…。その隣は、もしかして…魔法の極地へ辿り着いたと言われた『魔導仙』、サンサラ・メールウィ…っ?魔神大戦の半分以上を生きる大魔女ではありませんの…っ)



ラヴァン王国の王宮、謁見の間


そこに集められた面々は錚々たるものだった


確かに、今この世界に残されていた才能を一点に掻き集めたと言って差し支えない凄まじい顔ぶれ…王国随一の天才騎士に世界にその名を轟かせる金剛級冒険者、依頼は受けない筈の魔法の真理に手を掛ける魔女に裏世界ではその存在を知らぬ者は居ない大怪盗


そして稀代の天才大聖女…


成る程、勇者パーティがその時代の決戦戦力とされるのも頷ける話だ


魔物と魔神族の軍勢を掻き分けて陣中突破をするには大人数をぞろぞろ連れて行くとなると機動力がガタ落ちとなり、結果包囲殲滅は明白…さらには数を揃えても魔物に攻められれば犠牲や負傷は付き物だ。これにより行軍速度はさらに落ち、人でも割かれ彼らを守る為に戦力も割かれる…足手まといは旅の成功確率を大幅に下げる要因となる


事実、最初の方の勇者パーティはパーティと言うより軍勢に近かったと言うが時代と共に形は最適化されていく


勇者パーティはこの逆を突き、少数精鋭による機動力を活かした中央突破が最適解とされ、勇者が喚び出される度にその時代を代表するメンバーを選定、招集して人類のドリームチームを結成するのが定石となった


そして、今代で120代目を数える勇者のその姿こそ…



「皆、聞いてくれ。この者こそ、今代の勇者であるジンドー殿じゃ。見ての通り…特異魔法により自らの鎧を造って身に纏っておる。今この場で…この姿に倣い『黒鉄の勇者』と呼び伝える事としよう」



(…あれが、勇者…)



最初に目についた、漆黒の鎧…それこそが勇者だった


鎧があっても尚、自分の背丈と殆ど変わらない。恐らく実際の姿は自分よりも小さいのだろう。それはかつての勇者達の伝説を聞いていた私からすればあまりにも意外


これまでの勇者達は顔姿まで全てが伝わり残されている。あのように、全身を鎧で固め容姿が一切判別不能というのは初めてのことことだった


勇者からの挨拶も無く、身振り手振りすらも無し。ただ、その兜がゆっくりとこちらを向き僅かに光る目と思わしき場所がこちらに向けられただけ


この場での結成を宣言されはしたが、この日…勇者の声を聞くことは叶わなかった


しかし、此の後…宰相ゲッヘナ・ガベルより衝撃と失望の情報が勇者パーティへと齎される事となった


曰く…


勇者ジンドーの特異魔法の能力は金属を生み出して成型する魔法であり



特殊性は皆無、汎用性は著しく乏しい為…








歴代全勇者と比較しても話にならないレベルで……史上最弱の勇者である可能性が高い、とのことだった








「それが今では…ふふっ、史上最の勇者ですものね。本当に……成長性は群を抜いて特別製でしたのよね、カナタさん。誰もカナタさんがここまで強くなるなんて想像していなかった……いえ、もしかしたら最初からカナタさんは自分の情報を隠蔽していたのかしら…?」



つい、笑いが溢れてしまう


あれから屋敷を案内し、夕食を一卓囲んで皆で摂った


勿論、その辺の客人や貴族の来客とならば普段の長〜い食卓で上座に座り迎え入れる所なのだが、彼らはもはや1つの家族と言える間柄に近い



ーー離れて食べるなんて、寂しいじゃありませんか。わいわい皆で食べたいですわ



という意見に反対する者はこの屋敷には居なかった


今はその後のゆっくりと過ごす夜の時間…穏やかで、今日起きた波乱の出来事など夢か幻でも見たのかと思ってしまう程にゆったりと皆が過ごす


こうして自室て過ごしながら、在りし日の自分の姿を思い浮かべて苦笑いしてしまうのだ


本当に…世間と努力を知らなかった小生意気な娘


今思えば、大して突き詰め使いこなしてもいないこの力に自惚れ、溺れていたのだろう。守れぬものなど、癒せぬものなど存在しないと胸を張っていた不肖の少女時代は思い返すと少しだけ恥ずかしい


あの旅を経て、守ることと癒やす事しかしなかった自分はなんという怠慢を犯していたのか…戦うことを放棄し、さらなる技術と力の獲得を求めなかったのだ。大聖女が聞いて呆れる



「失礼致します、お嬢様。……、お時間でございます」


「…分かりましたわ。ありがとう、ミトレス」


「とんでもございません。……良い殿方です、ご武運を」



扉のノックの後に部屋へと入ってきた、私が産まれた時から世話を焼いてくれているメイド長のミトレスが、大きな声ではなく、なのにしっかりと届く声で伝えてくる


彼女は既に色々と勘付いているだろう…だが、それを私に問うことはない


それでも、全てを察してこちらの要望を1人裏方で動き通してくれていた



(…いずれ、堂々とご紹介できますから。それまでは……)



心の中で、申し訳無さに頭が下がる


立ち上がり、その場所へと移動するべく歩き出した


目指すのは……決戦の場だ





ーーー




「でっ…………かっ。なんだこりゃ……風呂が好きにも程があるだろ。うわ、何あれマーライオンの亜種みたいなのが口からお湯吐き出してるっ」



もうもうと立ち昇る湯気、滑り難いざらついた大判のタイルが床に敷き詰められ、火と水の魔石を組み合わせてお湯が出るように作られたシャワー、ガラス製のボトルに入れられた琥珀色のソープ類、タイルは美しい大理石質


大きな浴室の中央には綺麗な円形の湯船が構えられ、大きさはかなりの大きさ…優に10人は入れてしまうような大きさの湯船には乳白色のお湯がなみなみと溜められ床に溢れており、その側からライオンなのかキマイラなのか分からない謎の像が口からお湯をだばだばと湯船に吐き出し続けていた


完全に個人風呂とは思えない大きさなのに明らかに個人用の意匠と造りをされた風呂…それがクリューセル家の浴室だったのだ


そこに恐る恐る入るカナタは見たこともないそんな浴室に驚愕を漏らしていたのだった


シャワー風の魔道具で体を流し、ガラス製のボトルから無性にいい匂いがするボディソープやらシャンプーやらで体を擦ると面白いように泡がぶくぶくとたつ…なんだか使ったことの無い感触だ



ーー…というか、この匂いはあれだ。そのぉ……うん…ラウラの匂いというか…



当たり前の事であった


ラウラの家のラウラが入る浴室にあるソープを使ってるのだから当然のことながら、ラウラから香ってくる鼻を擽るような良い匂いがするのだ


それだけでちょっとドキドキしてしまうカナタ


頭の先までさっぱり洗い流してから湯船に入ってみれば、熱々ではなく程よい温かさで少し長風呂してしまえるような温度だ


肩まで入って湯船の淵に頭とぽんと置くとつい寝てしまいそうになる


ちょい熱めが好きなカナタでも、この浴室の雰囲気の中ではこの程度の温かさが心地よい



「すっげぇ…あの3人がテンション上がってた訳だ」



そう、自分より先に3人で入浴してきたシオン、マウラ、ペトラはそれはもう大盛り上がりで帰ってきては「あれはすごい」「癖になります」「…泳ぎたかった」と三者三様大絶賛を口にしていたのだ


風呂好きのカナタも気になるのは当然のこと


その理由もよく分かる


まるでお金持ちになった気分である


…まぁついでにそんな3人から「覚悟を決めて行け」「気合の入れどころです」「…やりすぎちゃ……メッ…」と背中を押されて来たのだが…



『マスター。本日が予定の日ですが、宜しいですか?最終承認をお願いします』


「ん?…あー、そうだったな…。すっかり気が抜けてた…用意は出来てるな?」


『はい。全警戒機、哨戒機は退避完了。アルビオンは近郊にて待機中、「魔障領域エーテリオン・フィールド」を100%出力で展開準備完了。同じく「SPRING」、展開準備完了。バハムート、警戒飛行高度へ上昇…範囲外へ離脱しました。観測機『グリーンアイズ』、作戦エリアを監視中。人は居ません、いつでもどうぞ』


「準備万端…っと。連中は?」


『周辺エリアを監視中、反応はありません』


「邪魔者も無し。やるならこれ以上無いタイミングだな」


『では、マスター。宜しいですか?』



ふぅ…と溜め息をつきながら少しだけ目を閉じるカナタ


一拍おき、目を開いて…眼の前に一気に現れた複数の空間ディスプレイを見ながらなんの特別な事でもないように




「あぁ。…『バード・ストライク』始動。フェーズワン開始……アマテラス、『ミーティア・フォール』スタンバイ。ウエポンコア、戦闘出力。魔力充填開始、目標充填率100%」



『承認、完了。オペレーション「バード・ストライク」を始動します。スタンバイからフェーズワンへ移行。戦闘形態への変形トランスフォームを開始、第一無時限機巧炉心クロノス・ギア・リアクターの出力を戦闘出力へ上昇。魔法素粒子直変換爆縮魔導砲エーテリック・インプロージョン・ストライク・マギアブラスター「ミーティア・フォール」への魔力充填を開始します。砲身、魔導バレル展開、魔力を魔法蓄圧器マギアス・コンデンサに流入。魔法素粒子変換器エーテリック・コンバータへの回路を開きます。スーパーチャージャー起動、回転開始。・・・全行程完了。『ミーティア・フォール』薬室内へエネルギー充填開始、3%………………4%……………5%……………ーー』



アマテラスの人口音声が一桁刻みで数字を告げる


それを聞きながら「うーん…」と少し悩ましげに首を傾げるカナタぼやくように声を漏らした



「流石に100%は時間かかるな……威力はバッチリなんだけどちょい使い勝手がなぁ、ミーティア・フォール…。今の俺の技術じゃ取り敢えずこれが限界だし…開発と研究の時間があと1年掛けられれば5倍速に出来んだけど……」


『私を作成してから既に1年と146日が経過しています。マスター、そろそろ私のボディのアップデートをして下さい。現在のマスターが持つ技術ならば57%のスペックアップが見込めます。あとは新兵器が欲しいです』


「なんつー物騒な願いを…まぁ確かにでかい兵器をメインで積んだら取り回し悪くなったけどさ。お前の所からじゃ軽装兵器は意味ないし。てか、そもそもアマテラス建造の主目的は俺の代わりの兵器群の代理統率と、警戒監視観測、あとあまりにも場所とかの関係で効率悪くて運用出来なかった大型兵器による支援砲撃だ。これ以上威力のある兵器積めるかっての…」


『そう言わずに。最近では近接戦闘用の大型魔導バルカン砲などが欲しいと思っています。マスターの作成魔道具カタログを閲覧していると私も色々と物入りなのではないか、と』


「俺の魔道具データを『カタログ』とか言うなよ…ネットショッピングじゃねぇんだから。あと近接戦闘用には二連装火炎速射砲と三連装雷撃旋回砲がハリネズミみたいに付いてるだろ、お前」


『足りません。主に口径が』


「トリガーハッピーの大艦巨砲主義とか笑えねぇ…アルスガルドが更地になるわ。てかお前のいる場所で大型の魔導バルカン砲なんか必要になる事ないだろ?そもそも主砲に三連装70cm魔法素粒子砲エーテリック・カノン8基24門、副砲で三連装43cm魔法素粒子砲エーテリック・カノン15基45門も装備してんのに今更大型バルカン砲って…」


『是非欲しいです。副砲と速射砲の中間を埋める大型バルカン砲は今の私に必要不可欠、この際他の武装追加は我慢するので』


「なんで我慢するのが特別みたいな感じになってんだ…。お前の主砲副砲の口径は3姉弟の中でも特別デカいんだから必要不可欠でも無くない?」


『でもスサノオとツクヨミには搭載されています、大型魔導バルカン砲「ミラージュ」が。ずるいです。では146日遅れですが誕生日プレゼントとして装備して下さい』


「世界一物騒な誕プレだぁ……ま、考えておくから。今は取り敢えずミーティア・フォールだ、狙う場所は設定した通り…SPRINGスプリングに当てるなよ?」


『私の射撃精度は完璧です。そう造ったのはマスターですよ?。綺麗に周辺をくり貫きますとも、1cmたりとも誤差なく』


「よし…」



自信を見せるアマテラス、それもそのはずで、創造主の技術、魔法精度にかかればコイン1枚だって撃ち抜ける


だからこそ、アマテラスはその提案をすかさず挟み込んだ



『マスター、やはりグラニアスのトドメは「一一ヒトヒト式・武御雷タケミカヅチ」ではなく、私が刺しましょうか?「ミーティア・フォール」の直撃を受ければ無事で済むとは考えられません。兵器群による足留めがあれば命中させられます』


「言ったろ?それは無しだ。万が一はある、絶対にな…だからんだ。耐久はそこそこだけど回避にステータス振ったバケモンだ、簡単には当てられない…相性が悪いんだ。伝承が正しいなら、居場所がバレればグラニアスはお前を。最悪の場合は防壁魔障領域を貫通した上で破壊される可能性があるんだ。今回ばかりは慎重を重ねる…任せるのはシメだ」


『了解しました。全てオペレーション通りに』



その提案をカナタはノータイムで取り下げる


現在、一番破壊されたくない作品の筆頭がアマテラスである状況で考えていたリスクはかけられない


目の前に浮かぶいくつもの空間ディスプレイには様々なメーターが動き待っており、取り分け1つの円形メーターがどんどんパーセンテージを上げて円を一周させようとしていた


何分か、そうして話していた内に気が付けばそのメーターはぐるりと一周回り切ろうとしていた


時間にして7分ほど



『マスター、エネルギー充填100%完了。「ミーティア・フォール」薬室内の魔力波動、高次元帯に突入。魔導バレルの重力魔法レンズ展開、魔法素粒子の収束を開始、砲身ユニットの定置展開完了。砲口、開きます』


「目標地点、AからLまでをロックオン。座標指定……破壊範囲演算……オーケーだな」


『射撃命令を願います、マスター』



にや、と皆にはそう見せない獰猛な笑みで口角を上げたカナタか目の前に現れた『Ready?』の文字だけが記載された空間ディスプレイが、アマテラスの音声と共に彼の意思を…主の命令を待つ


そこに手を当て、躊躇う事無く忠実なるしもべに命令を下した



「さぁ、戦う前にまずはだ。アマテラス、『ミーティア・フォール』発射、生態系ごと焼き払え」


『命令、確認。「ミーティア・フォール」・・・発射』















「失礼致しますわ、カナタさん…。約束通りに」




「うおぁっやっべぇ………!?!?」



その声に、びっくぅんっ!と跳ね上がる勢いで体が凍り付いたカナタはそれまでの雰囲気と何枚もの空間ディスプレイを神速で収納


慌て過ぎて湯船の中で尻からずり落ち鼻先まで湯舟に沈みかけたカナタが「ぶはっ、げほっ!」と若干むせ返りながら、ちらり、と浴室の入口に目線を向けた


それはもうお湯飛沫がどっぱーん!と弾けるほどに慌てた後に見たその姿に「ふぐっ」と喉をつまらせる


声の主はラウラだった


予告までしていたから当然ではあるのだが、改めてその姿の破壊力に言葉がすぐには出てこない


ボリュームのある美しい黄金の髪は上手く折るように纏め重ねて小さなタオルで纏めるように畳んでおり、大きめのバスタオルを胸の前に充てただけの姿の…布一枚、ひらりと充てただけの向こうには間違いなく彼女の裸体がある


カナタの肩を越える身重、滑らかで白い、それでいて健康的な柔肌、普段は下ろしてある髪がアップにされたことで覗く首筋、少し赤らんだ頬、そして大きく張り出した胸の頂点から太腿の付け根の下辺りだけを隠すようにあてられたタオルが彼女の体の線をより一層に強調していた


というか殆ど最低限しか肢体を隠していない…シオンですら年齢不相応の体付きにいつも行為の時は喉を鳴らしてしまうのにどうみてもラウラの体はさらに背やボディラインもボリュームアップして暴力的なスタイル…なのに何故こんなに柔らかくウエストやらはきゅっ、と細まっているのだろうか


地球のアイドルどころかグラビア系の女性ですら置き去りにする圧倒的な肉体美に、物憂げで軟らかそうな眼差しはどこか覚悟を決めたように強い意志の光を宿している


その破壊力たるや、カナタの思考が一瞬どこかに吹き飛んで宇宙の真理に気付いた猫のような意味不明な思考に陥る程だ



「カナタさん?」


「はいっ!?あっ、えっと…ほ、本当に来たんだ…」


「あら、わたくしが嘘をついたと思いましたの?ふふっ、安心なさってくださいな。ここに来る事も、の事も全て…嘘はついていませんわ」



シャワーを出して体を流し始めるラウラ、その手が己の体を擦る姿すら艶かしく見えてしまいなんとなく背中を向けて見ないようにしてしまいながら彼女の言葉を反芻する


そう、この先…『この先』である



(いや覚悟はしてたけど…わ、分かってた筈なのにこんな緊張するなんて…。ラウラはなんというか…き、緊張の種類が違うというか…あの3人とは別の感じがするというか…)



目を閉じて冷静に考えるが…ペトラ、シオン、マウラ達と結ばれた時だって当然緊張やらなにやらはしていたのにラウラの時は別の感覚がする


僅か1、2歳しか違わないラウラだが、その実カナタの中で最も距離の近い歳上のお姉さんだ。旅の時から彼女には包容力のような物があった…心配をしてくれて、心に生まれたその虚空を埋めるように抱き締めてくれた


気不味い…のではなく、「本当にいいのか?」という思いのほうが強かった



ーー本当に自分でいいのか?彼女には酷いことをしてきた自覚はある…彼女の放つ青い光を見たあの日、その事に頭を下げた。それでも…こうしてその距離が縮まるとそんな事を考えてしまう


そうだ…そう言えば彼女の心の内を聞き、その勘違いが解けた場所も確かこんな感じの大きくて1人では持て余すような……風呂の中でのことだった



「…隣、失礼いたしますわね、カナタさん」


「っ……」



ちゃぷん、と彼女の脚が湯船に入りその体がゆっくりと湯の中に沈んでいくのが横目で見える


脚長いし、体の横からは柔らかく美しい裸体丸見えだし、なんとも落ち着きが取り戻せない


その体が湯に沈んでいく姿すらもがまるで芸術品のようにすら見えてしまうのだ…乳白色の湯が彼女の肢体を水面の下へと隠してもなお…カナタはぷるぷると震えていた。このプレッシャーは初めてだった…!



「ら、ラウラ…は、その……平気なのか?男と風呂に入るとか…」


「その男がカナタさんを指しているのであれば、勿論平気でしてよ?…とは言え、流石に恥ずかしいのは変わりありませんけれど…。カナタさんの方こそ、もっとこういう事には慣れていると思っていましたわ、私」


「慣れないよ…今も心臓吹っ飛びそうだし」


「あら、お揃いですわね。でもカナタさん…こういう経験はしっかりとお有りでしょう?」


「無い…とは言わないけどさ。流石にここで「女の裸は慣れてる」なんて言えるほど肝は太くない、というか…」



肩が触れそうな距離に腰を下ろし、「ふぅ」と気持ちよさそうな声を漏らすラウラに思わず問い掛けるが、彼女の歯に絹着せないストレートな好意の感情には逆にカナタが語尾を萎ませる


あの3人…ペトラ、シオン、マウラにも負けず、むしろさらなる強い覚悟があるようにさえ見えるラウラ


確かにカナタにはこの手の経験は当然ある。一緒にお風呂に入ったりとかそれ以上の行為とならば共に寝所を共にして熱く激しく愛し合うことなどザラだ


それでも慣れた訳では無い。毎回ドキドキして、心が弾み、羞恥心を越えて好意を弾けさせる…


カナタとしては…ラウラはとても素敵な女性だ。当たり前だ…ここまで心を寄せてくれていて、自分の為に心配をして、嫌いや無関心になどなれる訳がないのだ



「…ラウラ、教えてもらっていいか?その……旅の最中の俺って、感じ悪かったろ。なんで…そこまで良く想ってくれてるのかなって、思うんだ。あの夜会の夜に初めてラウラの気持ちを聞いて…正直分からなかった。今も不安なんだ…多分」


「そう……言ってませんでしたわね。先に改めて言わせていただくと…私はカナタ・ジンドーを愛していますわ。確かに、いつの間にか…という言葉が合いますけれど…」



そんなカナタの疑問に、ラウラは言葉を紡ぎ始めた


それはかつて旅の中でも、その後も…誰にも語られたことのない心の中身


初めて自分が抱いた「愛」の理由


しかしラウラですらも…それはいつからなのか分かっていなかった



「最初は酷いものでしたわよ?まるで馬鹿で考え無しのように突っ込んで怪我をして死にかけて……勇者などと名乗らせるのも烏滸がましい、なんて思っていましたわね。最初は……えぇ、そうでしたわね。あれはヴァーレルナ防衛戦の直後の事…カナタさんの小さな声が初めて聞こえましたの。幼かったカナタさんが、故郷と親を血塗れで求めるその姿が…今も脳裏から離れませんわ。あの時から…私はカナタさんを支えたいと思うようになった…1人にしてはダメ、身も心も、この体温が伝わるくらいに側に居ないといけないと思いましたの」


「……俺、その後も十分酷い感じだったろ。皆信じてなかった、1人で突っ走った、近寄ろうとしてくれたラウラを置いて前に進み続けた。なぁ……俺はきっと、「いい人間」じゃない。昔も、今だって俺は俺の目的の為に動いてる。ラウラの求める勇者って言うものはきっと………っ?」



ラウラのが語る昔の思い出…決して良い物では無く、それはただのきっかけだったとしても明るい馴れ初めではない


それをカナタは自覚していた


今だからこそ分かる


旅に出た最初の方でラウラは言っていた。「勇者たるもの… 」と口癖のように言い続けていた…人々を救う英雄で善人を勇者に求めていたのはよく分かる


それを伝える最中、カナタの唇をラウラの指がぴたっ、と触るようにして口から出る筈の言葉を封じ込める



「分かっていますわ。でも……私の言葉を聞いて、あの夜会に乗り込んでくれたのはカナタさんでしょう?魔物を蹴散らして前に進むあの意志の強さ、荒んだ心となっても非道と外道に走らない精神、暴走と非情に見えて他を巻き込まずに気を配る人情…自分が追い詰められていても他者にそれを振り向かないその姿。私は顔も声も知らなかったけれど……そんなジンドーに心の底から惚れましたの」



彼女の感じる深い深愛に少し目を見開くカナタ。ラウラは旅の中でカナタに想いを寄せた節があると思っていたが、カナタ的にはどう考えても勇者パーティの皆に良いイメージは持たれていないと思っていた


当然だ、会話すらまともにしたことは無いのだ


だが、彼女はそんな事はお構い無しとも言える程にカナタの評価を叩きつける


顔も見たことがない、声も聞いたことがない…そんな相手のどこに惚れたのか


それを彼女は堂々と、迷うこと無く言ってのける



「そう…か…。…もしかしたら、生身の俺と一緒にいると幻滅するかもよ?」


「あり得ませんわね。既に同じ学校の教師として付き合いがありますのよ?どのような方なのか…ある程度は分かっていますから。むしろ…私としては素敵な男性だと思いますわね。女性3人が仲良く愛を向け、3人を満足に愛する男性ですからその点も評価が高いと思いますし」


「あ、そう言えばアルスガルドこっちってそういう男にも魅力感じる文化なんだっけ…」



カナタはここで文化の違いを思い出した…!


アルスガルドは一夫多妻が当たり前


何故なら何百年もの間に戦いで男が少ないのだから、必然的に種の保存としても複数の女性が同じ男性を愛するのは当然の事……らしい


よって、流石に上限や限界はあるが「2、3人くらいの女性を満足させて愛せる男」というのはむしろステータスの1つ。「自分も愛してもらえる」という可能性が高く、さらに数人の女性から愛される男はそれだけ魅力がある証拠でもある


だからといって単身の男が不人気な訳ではないのだが、女性から求められた「実績」に見えるらしいのだ


そして同じ男を求めた女性同士は感性も似ていたり近いことが多く、喧嘩やトラブルになり難いのもポイントの1つ。女性同士も含めて「家族」や「友人」のような関係になる事はとても多い


とは言え、ハーレムとなる男は数十人に1人と確率低めではあるのだが…



「なので、カナタさん……私、そんなカナタさんのにしていただく覚悟できましたのよ?…もし、受け入れてくださるのなら……この身を、平らげていただけます…?」



ラウラがカナタの方を向く


体を正面から向けて…今はタオルで体を隠していないその身を、胸に手を当てて視線をカナタの眼に正面から向ける


だが、流石にここで視線を逸らすほどカナタは男を捨てていなかった


ここまで言われて手を引くなんて、あり得ない


なによりも、カナタ自身が…彼女を欲しいと、本能も理性も訴えてくるのだ



「っ……いいんだな?俺、結構その…独占欲というか、一度抱え込むと逃がしてやれない性格みたいで…」


「あら、嬉しい事が聞けましたわね…何があっても、離さないでいただける…そういう事ですわよね?ふふっ……最高ですわっ」


「なら…っ」



躊躇ったり引け腰は無い、ラウラにもカナタにも


カナタがラウラの腰に手を当てればラウラはその誘いに乗るようにしてカナタと向かい合う姿勢になるように体を動かし…彼の両足の太腿に跨る形で体を乗せた


彼女の脚や腹、何より大きく張り出した、たわわに実った豊満な胸がカナタとの体の間に挟まって形を変える


ラウラの両腕がカナタの首後ろに回され、体がしっかりと密着し…カナタもその肢体を引き寄せるように力を入れれば互いの顔は鼻先が掠める程に近くへと迫った


そのまま一瞬だけ、互いの視線を交錯させるとラウラが少し上から被さるように…カナタはそれを迎えるように唇を重ね合わせる


触れ合わせて唇の感触を確かめ合うようなキス…だが、少し離れて再び目を合わせると何かの合図でもしたかのように……2人は相手の唇へ吸い付くように深く、深く唇を交差させるように重ねた


今まで我慢された想いを爆発させるように、カナタの首後ろに腕を絡ませて…今度はあの日の夜のようにフレンチな触れ合うだけのキスではなく相手を味わい受け入れる為の濃密で激しいキス


カナタも片手はラウラの腰を後ろから抱き寄せて上から降るような彼女の熱い口付けを押し返さん勢いのキスで応える


唇の結合部から「ぬ、ちゅ」という生々しい音がくぐもって聞こえ、二人の舌が相手を求めるのに相応しい程に濃厚に、溶け合うように絡み合っているのは見えずとも分かるほど


お互いの鼻息が「ふっ、う」「んっ…ふぅっ…ん」と艶かしく響き、その間から粘液を絡め混ぜ合う音を漏らしながら…



「は、っぁ……大丈夫そうか…?」


「んっ、は…っ……!……思ったよりも素敵ですわね…ドキドキして、ふわふわして……もっと、カナタさんの事…欲しくなってしまいますわ…?それに……ふふっ……お湯より熱くて、大きくて硬いものがずっとお腹に当たってますわよ…?」


「っ…これで反応しない奴は男じゃないっての…!というか分かってて押し付けてるよな…っ?煽られると…手加減出来ない質でね…!」


「ふふっ……思ったよりもずっと立派で正直…ゾクッとしてますわ。それに煽った責任は取りますとも。…ねぇ、カナタさん。もっと……もっと欲しいですわ、私…。カナタさんは……?」


「当然…っ。まだまだ足りない…っ」



唇を離して囁やき合うように言葉を交わすカナタとラウラ


あれだけ濃厚なキスを交わしても、まだ互いに満たされることはまるで無い。もっと、相手の古都が欲しい…そこは互いに一致していた


カナタの手が、もう遠慮を捨ててラウラの腰から張りのある大きさの尻に手を移し…掴むようにしてさらに強く体を寄せる。ラウラもそれに合わせて体を揺するように…彼の体に己の肢体を押し付け擦り付けるように密着度を高めて…更に本能的に、互いの唇を貪るようにして重ね合わせて相手の味を堪能する


舌を絡めるだけですら足りない…互いの唾液を交換し、送り込み、舐めあげ…荒い鼻息と共に熱い体温を感じながら


二人の唇の端からどちらのものとも分からぬ透明な唾液が少し溢れてはそれを互いに舐め取って互いの舌に絡め取り、そして相手の舌と交合させる…その繰り返しが二人のボルテージを高めていく



「ねぇ、カナタさんっ……このままっ……ん、むっ……最後まで…っ!」


「っ、いいんだな…っ?俺、かなり夜は強いらしいから止まらないぞ…っ?」


「嬉しい事を聞けましたわ…っ!私の事を抱き潰すつもりで構いませんから…っ……貴方の気が済むまで、いくらでもっ」


「なら、遠慮なくいかせてもらう…っ!」



もはや二人が止まることは無い


二人の間に…それまであった距離と心の壁も無い


あるのはただ…相手への燃え上がるような情愛だけ


今、その本能とも言うべき感情に突き動かされた2人の姿が、体が……1つになった



そこから、2人が互いの愛をぶつけ合う激しい行為は時間を変え、場所を変え、日付を跨いでも止まることはなく…

















「はぁっ、はぁっ…っ!ま、だっですわ…っ!足りません…っ、もっと…っカナタさんっ…!」


「俺もまだまだ…っ…どれだけラウラが欲しいか、体にも教えてやるな…っ!」


「あっん…っ!また、こんなに沢山っ……っっ…!!ふふっ…もっと、ですわっ…!私の子宮はらが膨れ隙間なく満たされるくらいっ」


「欲張りめっ…!望み通り、腹重くて動けなくなっても知らないからな…!嫌って程飲ませてやる…っ!」


「んっ、その意気っ…ですわっ…!あっ、そこ…っ、弱……っ!!」


「へぇ…!いいこと聞いた…っ!」


「むっ……負けませんわよ…っ!」






………それはもう、熱く激しく、深く、濃く、互いを求め合うのであった











〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



【後書き】



ーー拙者、エチ描写大好き侍。義によってエチ書き致す…


「絶対に「義」は無さそうですけど…まぁなによりも、ようやくラウラさんのゴールインですね」


「うむ。いやはや時間がかかったのぅ。101話目で漸く、か…。ちと焦らしが過ぎたのではないか?」


ーーほら、そこは大切にしたかったというか…初期3人のヒロインと違ってラウラは別路線での絡みとか感情の温めがあったからね。そこをしっかりと埋めていってからじゃないと結ばせたくなかったのよ


「ん………色んな人にも言われてた……「ラウラ回めっちゃ焦らすじゃん」って……私もそう思ったっ…」


「実際、我ら含めてダントツて時間かかっておったからな。まぁその分、なんだか誰よりも初体験が燃え上がっている気がするのだが…」


「気の所為では無いと思いますよ?ほら、見て下さいあの体勢とキスシーン。これ、絵にしたら完全に「入ってるよね?」って言われる奴です。というかあの書き方だと実際あのあとそのまま繋がってますよね?」


「……キスも…すごい情熱的…っ。…私も攻めたつもりなのに……負けた気がするっ…!」


「ラウラさんの方からもあそこまで食い付くようにキスしとるしな。まぁ焦らされたのは読者さんだけではなく、ラウラさんも同じか…」


ーーへ、へへっ…久し振りにエチ描写できたぞぉ…武争祭終盤から全然書けてなかったし…あぁ、満たされる…私の欲が、創作欲が…!


「お、終わっとる…作家として終わっとるぞこやつ…!?」


「まさに欲望の獣です…!なんで年齢指定無しの小説を書いているのか分かりません!」


「んっ……その調子で私のエチ回も追加して……!バトル続きでカナタ不足……っ!」


ーーま、取り敢えずはラウラ回になるけどね。言っておくけど次回とか…このままエチ回が終わると思わない事だね。私がこの程度で満足すると思ったら大間違いさ…


「な、なんという無駄な強キャラ感…!というか今回かなり怪しい描写あったが消されんだろうな?」


ーーほら、ダイレクトな描写とか単語は使ってないから。ま、大人の皆様ならいとも容易く想像できるように書いたけど


「本当に、そこだけは気をつけて下さいよ?流石に消されたくはありませんし」


ーー確かに結構チャレンジングな描写だけどね。でもこういう小説書きたかったし、しょうがないね


と言うわけで、ラウラゴール回、お待たせ致しました


しっかり長めに描写とったつもりです…その分、投稿遅くなったけど…


次回とかもまだまだ2人の・・・ピーーーは終わらせませんとも。げへ……妖しい描写で書きまくってやるぜ…ここは大人の物語さ…


何はともあれ、これからもどうぞよろしくお願いします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る