第99話 絆の来訪者


とても大人しくて、かなり弱気で、人見知り


彼女と初めて出会ったのは3歳の時だった。殆ど物心付くのと同時くらいには、既にその子は自分の側に居た


日本人形のような黒髪にそろえた前髪は目元をすっぽり覆っており彼女の目は揺れる前髪から僅かに見える程度…いつも母の足の裏にひっついて動いているような印象さえ受けるような少女


他の幼稚園児、果ては小学生に登っても同級生とはなかなか話の口を入れないくらいに勇気の出せない子で、だけど自分とだけは慣れたように話してくれていた


家が真横だった、というのもあるだろう


両親同士も仲が良くて、お互いの家には頻繁に上がって夜ご飯をいただき、夜の9時まで一緒に遊ぶ…それくらいには深い仲だったと言えるだろう


小学校も同じ学校に通い、何度も一緒に登校していたのだ


まさに典型的な幼馴染と言えるだろう


そんな内向的な彼女だが、家族以外で唯一心を開いてくれていたのは…自惚れでなければ自分だった



『かー君…そ、それっ、何読んでるの…?』


『これ?すんごい面白くてさっ!主人公がロボットみたいな鎧着て戦うんだ!ほら、ビームとか出るんだよ!』


『わぁっ……ろ、ロボットじゃないんだ…中に人がいるの…?』


『うん!あとね!こういう武器とかあって…っ』



舌足らずな幼い日から「かぁたくん」なんて読んでたのが、そのまま「かー君」になっていたのは今思い返せばちょっとした笑い話だろう


自分の好きなものを楽しく横で見ていて、そしていつの間にか彼女もそれに足を突っ込んでいく…良く考えれば彼女も結構なオタクに育ててしまったのではないだろうか


それくらいに仲が良かった、あの内向的で学校でも自分の背中に隠れてしまうような…ーー



「私達はあなたに会うのが目的だったの。最後の勇者であるあなたなら…きっと日本に帰れるヒントを持ってるんじゃないか思って」



身長は長身のラウラに迫る高さ、すらりとしたイメージながら柔らかく女性的な体付きに、高校生では済まないようなボディラインはモデルどころの話ではない。顔付きも前髪で隠れていた目元はさっぱりと出されており、黒くしっとりと濡れたような黒髪を一房に纏めた怜悧な大和撫子と言える容姿を全面に押し出している


挙げ句、すっぱりと言うことは言うような口調。物怖じせず前に出てくるその姿勢はかつての姿は何処へやら



(あれぇっ!?こ、こんな感じたったっけ、さっちゃん!?なんか俺と居た時とキャラ違うないっすか!?というか色々育ちすぎだと思うんだけどっ!ぜっぜん見分けつかなかった…前会った時に微塵も気付けなかった…!)



そう、カナタは完全にやらかしていた!


あまりにも成長し過ぎててかつて最も長い時間を隣で過ごしていた幼馴染に気付く事無くスルーしてしまっていたのだ…!


今、鑑定でプロフィールを見て名前を確認するまで微塵もそんな事思っていなかったカナタは思いっきり面食らっていたのだ!


というかそもそもあのさっちゃんが何故こんな偶然なんてレベルじゃない確率でこの世界に呼び出されているのか…その不運を、カナタは呪いながら…



「…ゆ……………ん、…勇者さん?」


『っ…あ、あぁ悪い。帰る手段、だったか…。残念だがこの世界、アルスガルドにおいて次元を超えてこちらから地球に行くのは理論上不可能だ。それこそ、地球に魔法が突然現れて何十億人も住むこのアルスガルドからピンポイントで俺達を喚び出すような召喚魔法が造られでもしない限りはな』


「……そう、なのね。いえ、そうよね…帰れるならあなたはとっくに地球へ帰ってる筈だもの」



朝霧の表情が曇るのを見れば彼女達が地球へ帰ることを切に願っている事は容易に分かる


それは自分も同じなのだから



ーーアルスガルドの転移魔法は次元の壁を超えられない


ただ1つの例外が『勇者召喚魔法陣』だったのだ


だが、それは特別中の特別…世界そのものが構築し、世界が原動力となって初めて成功する特例…むしろ、それを模倣して曲がりなりにも異世界から人を呼び出したレルジェ教国は異常と言えるだろう


だが……アルスガルドから次元を超える術はない


それはこの世界ですらも成し得ない超常の神業


星に落ちるのは簡単だが、自分の力だけで重力を振り切って宇宙へ行くのが困難であるように…世界に入るのは可能でも世界を出るのとは別の話なのだ



『…まぁそれは置いておこう。1つ、3人に聞きたいことがある。…何故、教国を出た?不自由な暮らしでは無かっただろう、魔物と戦う必要も無かった。それを捨てて、何故旅に出たのかを教えてくれ』



カナタはこれを聞かなければならなかった


この世界は優しくない


遊びやゲームのつもりで旅を続けているならば、そこはお灸をすえなければこの先必ず痛い目を見る


だからこそ…教国から追われ、魔物と命を削り合い、屋外で寝食を繰り返さなければならない旅に出たのか、その理由を問い掛けた


…それは、心配だからこそであった



「ボクは…あの国に居たら終わってたんだ。助かる為に、ヨウとサギリに便乗して連れ出してもらった…い、今は違うよっ!2人と一緒に居たいんだっ!ボクは初めてっ…友達とか、仲間って呼べる人が出来たんだ、だからっ」



その問いに最初に答えたのはルルエラだった。それも…堰を切ったように、言いたい言葉が口をついて出たようにも見える程に勢いを付けて


これに驚いたのは朝霧と耀の方でもあった。彼女は普段から爛漫としたムードメーカーな部分があったから…そこまで強く思い入れて着いてきてくれていた事を改めて口にされれば…その思いの強さに驚いたのだ


それを諌めるように…声を重ねた



『……そうか。ルルエラ、俺はお前を疑問視してた…何故異世界人を見下す教国の人間が異世界の勇者と共に居るのか。その言葉を、取り敢えず信じよう』



三人の予想に反して…黒鉄の勇者からの反応は柔らかかった


そしてその目が…金色の双眼を表すバイザーが朝霧の方へと向けられる


朝霧にも言葉はなくとも、それが答えを求める視線だというのは良く分かっていた



「…元から信用してなかったのよ。レルジェ教国は真っ黒…耀も一緒の理由ね。私が場内を調べて、耀は資料を漁って…その結果は見ての通り。教国は私達への隠し事と都合の良い情報で使い潰そうとしてると判断したわ。だから……さっきも言った通り、あなたに会うために教国を出たのよ。例え帰れなくとも、この世界の事をあなたから知る事が出来たなら…それが理由ね」


「僕からも…他にも2人居たんです、だけどあの2人は…この状況を楽しんでしまってて…。勇者のロールプレイにのめり込んでて僕達の言ってる忠告も届かない…あの日、あなたが教国に乗り込んできた時もそうだった。だから僕は…二人を教国に置いていく判断をしました。四人纏めて破滅するなら…僕と朝霧さんが強く、詳しくなって回収すればいいって。…もしかしたら、これは慢心なのかもしれないけど、それでも最善じゃなくても…マシだと思いました」



まるで自分の悪い点を語るように、二人の口からその判断と理由が簡潔に語られる


それを聞き…カナタの脳裏にあの時居た他の二人の姿が浮かび上がってきた。そう、自分に果敢に、そして無謀にも斬り掛かってきた同い年らしき1人の少年と、眼鏡にお下げをした目立たなそうな少女だ


確かに…あの時の行動と言動は首を傾げるものがある。呼び出されて数週の少年が「勇者」を堂々と名乗り襲いかかってきた…善悪の判断の前に、「勇者」という称号を振りかざすようなイメージの言い回し


少女の方もカナタからなら見えたが…その少年の言動に小動物のように必死に頷いて背中にくっついていたようだった


成る程…とカナタは思う


元よりカナタは「助かる気が無い奴を助ける気は無い」とアマテラスにも告げている


カナタは自分を聖人や救世主、ヒーローとは思っていない。善意だけで助けるのは己の腕の中に抱えるほんの僅かな相手のみ…だが、同郷のよしみで共に連れて行ってあげよう、と…そう元から決めていた


かつての勇者達とは違う…呼び出された現状に調子に乗り、堪能してしまうようならば少しは痛い目を見ると良い。その判断の元に、最低限の安全を自らの兵器による監視で保証させながら彼らの行動に委ねたのだ


いざとなれば介入する…しかし、どうなるかは彼ら次第


その中で、この2人は…



『悪くない……あぁ、その判断は間違えていないだろうな。その判断を、俺は「友を捨てた」とは思わない。むしろ…地球から来たばかりでよくその決断を下したとすら思う。だからこそ忠告をしておこう、芽原朝霧、南耀。…………今、俺に語った自分の判断を裏切るな』



方や現実を語り、方や後悔を語る


行動に起こさなければ友人を含め自らも終わりへ向かう事を懸念し、結果的な全員の安全を取るべく行動を起こしたと言った朝霧


それを保管するように…その判断によって教国に友人2人を置いて行く決断を、それでも強行することを心に決めた旨を零した耀


その2人の決断を…黒鉄の勇者は肯定する


この世界に来た時、自分には無かった「見捨てられない存在」が彼らには最初からあった…その点を鑑みて、カナタから見たこの答えはほぼ満点に近い


ある程度の裏方を知るカナタからすれば、レルジェ教国が大手を振って勇者を使い潰す事は恐らくほぼ無いだろう。その為にあそこまでド派手に侵入して主導した枢機卿の抹殺に動いたのだ


だが、カナタもその気配は感じていた。相対した彼から感じる「自分は勇者である」という自慢気な様子に、破壊を伴って現れたカナタ得体のしれない敵に対して無謀にも突っ込んでくる恐怖心、警戒心の欠除…まるで自分は死ぬことは無い、ゲームや物語にでも居るような立ち振舞い


結果、カナタが枢機卿を殺さずにおいたのはその一面を垣間見たからだ


自分はヒーローではない…誰でも救う救世主ではないし誰も彼も救いたい英雄願望も無い。勘違い甚だしい相手ならば同郷の者であろうともそこに該当する。即ち……「少しは痛い目を見ておいで」と思ったのである


あそこまで釘を刺せばレルジェ教国はカナタの報復を恐れて滅多な事は勇者に出来ない。やろうとしても常時場内の様々な場所を監視する魔道具を、先の侵入時のどさくさに紛れて大量にセントラルへと放っておいた


不穏な動きはすぐに察知出来る


ならば…彼らが少なくとも、警戒心やこの世界でのあれこれを学べる場所は取っておくべきだ、そう思ったのだ


カナタはスパルタなのだ。シオン、マウラ、ペトラの修行も必ず返り討ちにしていたのは敗北や攻撃を受ける事への痛みやリスクを実際に体験させる為にしていた事。殴られてすぐに回避と防御、反撃に転じれる者は殴られた事のある者だけなのだ


そして…この2人はそれを持ち、行動に移した


だからこそ、忠告をしたのだ。「その考えを放棄してはならない」と



その言葉に、深く頷く朝霧、耀、ルルエラを少し満足気に見ながらも…そろそろ、カナタは直面している問題に考えを巡らせなければならない時が来ていた


もはや無視できる問題ではない…これは早急に対処しなければならない物だ


そう………





「その……勇者、さん…でいいのかな…。えっと、顔とかって、合わせて話せますか?し、信じてない訳では無いんですがその…出来れば同じ日本から来たなら色々と知りたいというか…」


「そうよね……私も、念の為見ておきたいわね…。鎧が脱げない理由とかあるなら無理にとは言えないけれど、どうかしら…?」



ーーすぅぅ〜〜〜〜……ふぅぅぅ……



漆黒の鎧が肩を上下させて大きく深呼吸をした


そりゃそうだ、こんな真っ黒全身鎧の言うこと信じれる訳ないじゃん…カナタは改めてそう思った!


眉間を摘むようにして『うぅむ……そうか…いや、それはそうだ……』と1人で納得しているカナタに首を傾げる3人に彼の悩みは分かるまい…!



(どぉすんだこれ…他の二人は、まぁこの際置いといてだ。さっちゃんになんて言えばいいんだ…?「実は異世界で勇者してました〜」とかカミングアウトするの?向こうで5年経ってるならほぼ行方不明か死亡判定ついてるよな…その俺がいきなり「あ、久しぶり」とか言うのヤバすぎないか…?)



そう!問題は長い時間を一緒に過ごした幼馴染の朝霧になんと言えばいいのか、である!


普通にここでカミングアウトしてしまえば自分の行動を共にする、と言う可能性は非常に高い…というか、カナタの知る朝霧であればどんなに無理と言っても絶っっ対に意地でも付いてくると言いかねない。正直、今の状況で行動を合わせるのは彼女にとって危険しか無いのだ


はっきり言おう…彼らの強さは合わせてもシオン、マウラ、ペトラのうち1人にすら及ばない。あまりにも弱すぎるのだ。心配だからというのも勿論だが、朝霧達に関しては現実的に連れていけばほぼ死亡が決まるレベルで強さが足りていない


特に、まだ召喚から日も浅く戦闘経験もはっきり言って非常に少なく心もとないのに…これから魔物の頂点みたいな怪物と戦うのだ、一緒にいるのはあまりにリスクが高すぎる


せめてもっと強くなってからでなければカラナックに来てもらう事すら絶大な危険が伴うのだ



(強く……いやでも俺だって伝えるのには関係ないか…?とは言えこれで正体教えて「ついて行く」って言い出したら突き放し切れるか俺…?なんでこんな偶然が………ん?強くなれば…?)



カナタは頭を悩ませる…魔神族との全面戦争が見えているのに守る対象を増やせば他の全員を危険にさらすのだ


カナタが鍛えようにも魔鳥龍グラニアスと魔神族との衝突までにまともな訓練など積めようもないのだ、いかに勇者の成長速度が爆速と言えどもあまりに無理がある…カラナックが無事である保証も無いのだ。それを考えれば…正体を明かすのには高いリスクが付き纏う


だが、それでも自分の事を明かさないままにするのは…それは違うと思っていた


せめて単独でも高位の魔物数体をあしらえたり魔神族を何人か相手取れる力があれば……そんなカナタの頭に過るのは…ついさっき自分を死の淵に追い込んだ彼女の、ライリーの姿だった


才能あるライリーがレオルドに教わって、生身の自分を不意打ちでも殺しかける大戦果を挙げた先の一件がふ、と頭に思い浮かんだのだ


自分では鍛えるのは時間的にも状況的にもキツい…なら、他のに任せてしまえば良いのではないか?


勇者として召喚された以上は才能は世界最高レベルだ、まともに鍛え上げれば勇者の成長速度によって意味不明なほどすぐに強くなれる


ならば、教え手が問題だが…



『よし、少し待ってくれ』



カナタは魔法袋から取り出した羊皮紙にサラサラと魔力で文字を書き始める


首を傾げる彼らを前に少しの間その文章を指先を滑らせるようにして羊皮紙へと刻み込み何某かの内容が多く記されているのは3人からでも理解できた


数行はあろうその文章を書き終えたそれを文様が刻まれた鉄筒に丸めて入れるとそれを耀に手渡した



『今からお前達をラヴァン王国に転移で送る。そのメッセージはラヴァン王国東地区マットラン通り三番の魔法屋「メールウィ魔法本店」の店長に渡せ。俺に言われた、と言えばすぐに通る筈だ』


「あ、ありがとうございます。でも…勇者に渡された、と言えばいいんですか?信じてくれるかな…」


『見れば分かるように細工はしてある。それと、俺の事だが…芽原朝霧がよく知っている』


「へっ…わ、私っ?いやいや、知らないわよっ?」


『いや、知ってるさ。……さぁ3人とも、この羅針盤に触れるんだ。羅針盤の魔法が起動した後、君達はラヴァン王国中央広場に移動する。俺の事は…そこで分かる』



謎の多い言葉と共に漆黒の鎧が差し出した掌には、2色2本の針が回る異色の羅針盤があった


今は何が起きるのか全くの不明…だが、その言葉に今は従う他はないだろう、耀はそう考えた


言葉通りなら目的地のラヴァン王国へひとっ飛びに行けるのだ。彼を信じるならばこれを受けない理由はない


三人は顔を見合わせて、そっと羅針盤に手を重ね合わせた



『…今抱えてる問題が済んだら、俺の方から会いに行こう。それまでメールウィ魔法本店の店長と…に面倒を見てもらうと良い』


「「「…あいつ?」」」



声が被った


金色のバイザーがあらぬ方向を見ながらそう言ったのだ



『おい、居るんだろおっさん。出て来ねぇと一緒に送ってやんねぇぞ』







「あ〜……やっぱバレてたかい?」





「「「っ!?び、ビックリしたぁ…っ」」」



巨大樹の木の幹のほんの一部が…透明に歪み1人の男が気まずそうに後頭を撫でながら現れた事に耀達は目を丸くして驚いた


その男に、3人は見覚えがあったのだ


あの時、国境の街で出会った…そう、耀に短剣の扱い方を短い期間ながら仕込んだ中年の男だ。その男が、まるで透明マントでも被っていたかのように周囲の風景に溶け込む外套を取り払って突然姿を表したのである



「「「通りすがりのおじさんっ!?」」」



「いやぁどうもどうも、通りすがりのおじさんですよっ、と。覚えててくれて嬉しいねぇ」



ひょいひょいと近寄ってくる男はまさに…自らを「通りすがりのおじさん」と称していたあの男であった。三人がまったく気が付かなかったこの男に、漆黒の鎧は溜息を漏らす



『…相変わらず手も足も速いな。3人の御守りか?』


「そんなところかねぇ。ほら、おじさん達でも結構レルジェの件は重く見ててね、ひとっ走り調べてみたらビックリだ。まさか…異世界からの召喚者に教国最高位の聖女が肩を並べて国境から出ようとしてたんだから。心配にもなるでしょ?」


『…まぁ無理もないな。ってことはおっさん、国境からここまでずっと付いて来てたのか…ストーカーめ』


「酷いこと言うね。これはおじさんなりのボディーガードさ、ラウラちゃんと姐さんに言われて少し気張って来たって訳」



その言葉に、朝霧も耀もルルエラもびくりと肩を震わせた


あの街から、ずっと?付いてきていた?


そんなの全く気が付かなかったのだ、気配の「け」の字も察知できなかったのにさも当然のように言われたのだ


今の自分達ならば余程の相手でなければ気配を見逃すことは無い…そう最近では自負も出てきたというのに、である



「あっ!!まさか……ザッカー・リオット!?」



勇者と当然のように言葉を交わすその姿とここまで見せた脅威の隠密術にルルエラが思い付いたようにして声を上げた


その声に通りすがりのおじさんが「おっ、正解」と楽しそうにしているのに朝霧と耀はルルエラに視線を向けて説明を促す



「黒鉄の勇者と一緒に旅をして大戦を終わらせた勇者パーティの斥候役じゃないかっ!な、なんでそんな人が………っ」


「おっ。おじさんも有名人だねぇ。照れる照れる…それで?姐さんに任せるってことでいいのかい?」


『あぁ。特異魔法持ちの異世界勇者なんざ技を仕込めんのはあの魔女くらいだろ。そこの看破系勇者は……おっさん、アンタが見たらどうだ?もうみたいじゃないか』


「あ、バレた?いやぁついね、危なっかしくてちょちょいと教えちゃって。じゃ、彼はおじさんが引き続き見てみようかな」



ちなみにカナタは、樹木型防衛装置ウッディ君で3人をひとまず捕らえようとしていた時から監視はしていたのだが、その時に短剣を即座に構えようとした姿がザッカーの構え方にそっくりだったのだ


ザッカーのスタイルに流派は無い、所謂完全な我流だ。ここまで分かり易い物もカナタからすれば無いだろう、ザッカーの入れ知恵が耀にあったのは明らかだった


なんの気無しに「照れるね」とか言ってる目の前の中年男性の正体に顎がかくん、と外れたような朝霧と耀にルルエラは耳元で小声で続ける



「ざ、ザッカー・リオットは過去歴不明の斥候なんだ…魔物や魔神族に気付かれずに横をすり抜け、山向こうの情報を瞬時に見通し、戦えば急所を一撃で落とすって…冒険者には所属してないけど多分、普通に金剛級とかに分類されるような人だよ…っ」


「な、なんでそんな人があの僕達に声掛けてきたのかな…でも確かに、ここまでの間ずっと付いて来てたみたいなのに一切違和感も感じなかった」


「よく考えなさい。教国を襲った勇者の仲間なのよ?…教国の偵察とかに来てたんじゃないかしら、そんな中で「教国の勇者と聖女」なんて曰く付き見かけたら…ま、追い掛けるわよね普通」


「…ボク達、曰く付きなんだね。ちょっとショックだなぁ」


「それは…仕方ないよ。むしろ曰くしか無いというか…むしろここまでよく無事で来れたと思うよ、うん」



少し落ち込んだように耀とルルエラが肩を落とし、それを嘆息気味に首をふる朝霧はこの世界における自分達のイレギュラー具合を少し舐めていた事をちょっとだけ思い知った


まさか世界救済のマジモン勇者パーティに目を付けられていた、なんて…



『さぁ、善は急げだ。おっさん、早く羅針盤に触れろ。ラヴァン王国中央広場に送り届ける…こいつらの事、頼んだぞ』


「…訳ありかい?ラウラちゃんやあの3人以外の個人を気にかけるなんて珍しいね…。まぁその辺はおじさん達に任せなさいな」



耳打ちされたカナタの言葉に少し目を細めるザッカーは多くは聞かずにそう言うと、カナタの掌に乗せられた羅針盤に触れる


それ以上の念押しはせず、カナタはその魔道具…遡行の羅針盤トーレーサー・コンパスを起動する。風にも似た魔力の波動が周辺の草木を揺るがし始め、耀達もその異変に周囲を見渡しながら…



「ま、待ちなさいっ!まだ聞いてないことがあるわよ!何故私ならあなたを知っているのっ?あなたは何者なのっ!?」



転移が始まるのが目も見える段階に来て朝霧は慌てたように黒鉄の勇者へと尋ねた


ルルエラから前知識は習っている…現在、黒鉄の勇者の正体を知る者はこの世界に存在しないとされている、と。ならば何故…自分なら知っているのか?


その謎めいた言葉の意味は何も語られないまま別れようとしている…それを聞かずにいられる程朝霧は能天気ではない


それに対して黒鉄の勇者は……カナタは視線を合わせて



『…また会いに行く、全てを話しに…。着いたら後ろを向け、そこに…俺が誰かが記されている』






それだけを伝え、転移の魔法を起動した






突然の閃光、眩い光に視界が塗り潰された朝霧がぎゅっ、と目を閉じ…次の瞬間、耳には雑踏のざわめきが次々と入り込んでくる状況に慌てて目を開く


そこには今まで通った街が小さく思える程に大きくエネルギッシュな街並みが視界いっぱいに広がっていた


行き交う人々の数は見たこともない程で都会を歩いていてもなかなか無いような人混みに、まるで巨大神社の参道のように一本通った大通りのど真ん中…そこに4人は立っていたのだから思わず放心もするだろう


レルジェ教国の下街ですらその活気に感動していた3人にとってこの光景はまさに度肝を抜かれる物があった



「さぁようこそ勇者の国、ラヴァン王国へってね。凄いでしょ?レルジェと比べればラヴァンは人に力があって良いよねぇ、ここで過ごしたら間違っても向こうには戻れないよ?」



側にいた中年、ザッカー・リオットが陽気にそう言った


確かに…あの静かで教義に縛られたレルジェ教国とは対局とも言えるエネルギーがこの街からは感じられる。特にルルエラの目の輝き方が凄い、もうキラッキラだ。目の中にお星様が飛び交っているように見えるくらいワクワクしている



「…よ、予定とは違ったけど来れて良かったよほんと。これは…少し期待しちゃうかな、僕」


「そ、そうね。あまりにも空気が違いすぎよね…」


「サギリ、ヨウ!あの料理屋さんどうかな!?」



思わず放心していた所から帰って来るも、その衝撃は良い意味での衝撃的


ここで過ごす事に期待してしまうような、異世界情緒溢れる街姿と活気は朝霧と耀が思っていたテンプレな異世界の姿そのものなのだ。遅らせながらもその光景にテンションが少しずつ上がってくるのも無理はない


ルルエラは既にどの店を巡るのか品定めまでしている…神経が太く頑丈なのは相変わらずらしい


その光景を見渡していき…真後ろへと視線を巡らせた時、「おおっ…」と耀が僅かながら感嘆の声を漏らした


そこに巨大な鋼鉄の像が聳え立っていたからだ


大きい…見上げるほど巨大で、その構造的に宇宙世紀のロボットのようにも見えてしまうその姿形は…ついさっきまで目の前にいた存在とほぼ全く同じ形の物なのだから度肝を抜かれるものだ


鋼鉄の像は近未来的パワードスーツと厳つい鎧の間の子のようなデザイン、色は鉄色だが朝霧と耀から見ればどう見てもロボットとパワードスーツを足して割ったような見た目の物だ、変わった形の巨剣を地に突き刺して空を僅かに見上げるその姿


間違いなく、今まで会話していた黒鉄の勇者そのものであった


それを近くで見ようと歩み寄る


間近で見れば精密に造られた鋼鉄の像は日本の技術でもここまで正確に細部まで造り込まれた巨像は存在しないだろうとすら思える



「すごっ…本当に超有名人なんだ、あの人…」


「うん。情報封鎖してる教国が変なだけで、多分世界で知らない人なんて居ないよ。つまりボク達は相当世間知らずってことだ!」


「敢えて言わないでルルエラ…悲しくなるわ…。ま、世界を救った…なんて抽象的すぎてイメージ沸かないけど」



さっきまで話していた相手が世界的有名人どころではない事を、ようやく思い知る3人はそもそも彼がどんな活躍をしてどのような道筋を歩んで「英雄」と讃えられたのか知らない事に肩を落とした


完全にこの世界の世間に置いていかれてる…その実感に落ち込むのであったが、それを聞いて楽しそうに笑うザッカーが聳え立つ勇者像を見上げながら自慢話のように語る



「レルジェはそういう事を教えないだろうからねぇ。簡単に言うと……各国、各大都市滅亡クラスの数十万単位による魔物の侵攻を2年間で26回防衛成功。アルスガルド、ひいてはこの地方に集中していた魔物の約七割を殲滅。かつての勇者達も敵わなかった最強最大の魔物…四魔龍を全体封印。魔神族最強の3人である三魔将を単騎にて幾度と撃退。大都市や国の中枢に入り込んだ魔神族を特定して抹殺。有毒性魔物に汚染された地域一帯を消し飛ばして浄化。魔物に捕らわれた人々の救出、30074名。盗賊等の犯罪者撲滅件数は500件超え。そしてアルスガルド侵攻の首魁…魔神を討伐。ざっとこんな所かな?」



朝霧も耀も、ここに来て「勇者」というのが如何に桁外れの力を奮ったのかを認識した。明らかに今の自分達では不可能な偉業、字にして並べられただけで「あ、それは無理だ」と頭が理解する行為の数々…この世界に呼ばれた時から「勇者」と呼ばれていたのが恥ずかしくなるのすら感じる



「あ、因みにだけど…これは言っていいかな。彼は召喚された時はまだ子供でね、最初は全然戦えなかったんだよねぇ。最初っからあんな非常識に強かった訳じゃないんだ。だから、君達も鍛えれば強くなれると思うよ。確か来た時は12歳だったかな…?」


「12歳って…それ小学生だよね」


「そうね…私達ですら高校生よ?…生きてられないわ普通」


「まぁ普通はそうだね。…あ、所でサギリちゃんだっけ?もしかしてだけど彼と面識あったりするのかい?」


「えっ?い、いえそれが分からなくて…。「振り返れば分かる」なんて言われたけど、この像だけじゃ……」



あっ、と思い出したかのように彼の言葉を思い返す朝霧が、振り返った先にあった勇者像を見上げて困ったように言葉を濁らせる


あぁは言われたものの朝霧に心当たりはまったくと言っていいほど無い


どこかにヒントでも書いてあるのか…そう思った朝霧の目に引っ掛かる物があった


勇者像の土台、あまりにも精巧な像に目が向いて下の方にある台座には目が行かなかったがそこにはしっかりと金属のプレートに彫り込まれる形で文字が刻まれているのが見えた


僅かに数文字……その短いたった一言の文字に朝霧は…魂を引き抜かれたかのように目を見開いて体を強張らせる


ただ一言






『黒鉄の勇者・ジンドー』





その一文を見て




「…朝霧さん?どうしたの?」



耀の言葉に少しの間反応する事もなく、早まる鼓動に吐息が僅かに弾む程…脳がそれを理解するのに、飲み込むのに時間がかかるほど混乱する


あまりにも、その名前には聞き覚えがあった


17年の生涯の中で、半分以上の時を直ぐ側で共に過ごした幼き日からの親友の名字に瓜二つどころか…もじっただけとすら言えるその名前


芽原朝霧ならよく知っている…そう言われた本当の意味が、ぞわりとした慄きと共に頭へと思い浮かんでくる



ーー5年前に召喚された少年…


5年前に、彼は行方不明となった


ーー僅か12歳で現れた


彼は同い年で当時…12歳だった


ーーそして、黒鉄の勇者・ジンドー


自分が「かー君」と呼び慕っていた彼の名前は……





ーー神藤彼方じんどうかなた





「じんど……じんどうっ……!?……う、そ……嘘よ…っ…まさかっ……」


「ん?どうしたんだいサギリちゃん…何か分かったかい?」


「ザッカー、さん…その、彼の名前って知っていますかっ?ここに刻まれてる名前だけではなく…フルネームは…」


「あぁ、知ってるとも。おじさんも最近ようやく教えてもらえたんだけどねぇ…いや、教えてもらえたと言うか、ありゃ事故かな…?ま、この世界で彼の名前と顔を知ってるのは片手で数える程度しか居な……」


「神藤彼方……そうですねザッカーさん…?」


「………驚いた。サギリちゃん何故それを知って……いや、まさかそりゃ……あーそうかいカナタ君。「任せた」ってのはそういう意味か…」



わなわなと震えて話す朝霧にザッカーは様子のおかしいカナタの態度と対応にようやく合点がいった


身内以外は知ったことか、というスタンスのある彼が何故、自分達にこの3人を任せたのか…レルジェ教国を襲撃したカナタは一度、異世界から来た4人を引き抜くこと無く放っておいたのに、彼はここに来て直々に「頼んだ」その内2人と+ルルエラを託してきた…妙だと思ったのだ


その理由に、ザッカーはこれだけの会話で辿り着く



(まさかとは思ったけど間違いない…彼女は元の世界でカナタ君と交友があったのか。この様子だと…向こうの世界でカナタ君は死んだか行方知れずになっているね…成る程、気にかける訳だ。と言うか、あの場でカミングアウトでも変わらなかったんじゃないかいカナタ君。少し、意地悪が過ぎるんじゃ…)



そう思ったザッカーの頭に、彼の言葉が過る。確か彼はこう言った…『今抱えてる問題が済んだら、俺の方から会いに行こう』と


………だ



(それでおじさん達に彼らの修行をつけろって話かカナタ君!あぁ成る程成る程、そういう事か!まぁ確かに堅実な手ではあるね、という事はそっちで大きい戦いが起こるのはほぼ確定か…)



ーー要するに、だ


付いて来られたら不味かった訳だ


彼らが今居るのはカラナック、四魔龍封印の最近地だ。そこで待っている…いや、彼は待ち構えているのだろう。四魔龍を目当てとする者達を…そうなれば間違いなく大規模な戦闘が引き起こされる


確かに…ここまで付いて来て分かったがサギリちゃんもヨウ君もルルエラちゃんも、戦闘経験はまだまだ甘い。囲まれれば確実に誰かは死ぬ程度の強さと経験値だ。おまけに自分の力の使い方を殆ど引き出せていないと来ている。戦地に行くのは自殺行為だ


多分、カナタ君はそれを恐れた


だから、おじさん達に彼女達を鍛え上げろ、と…


取り敢えずゆっくり今までの事について話すのはカラナックでの一件が終わった後にするべき、と言う訳だ


でも流石に再会を自覚しておきながら全部だんまりは気不味いし、なによりあの場でカミングアウトして「ならば一緒に行動を…」となって欲しくなかった。でも自分がこの世界で勇者をしてた事は伝えるべき…そう思ってこの像の目の前に転移させた


彼女なら…サギリちゃんなら名前を見れば分かるから




彼の考えにそのまんま行き当たるザッカーの視界の中で、ぷるぷると俯きながら震える朝霧の姿があった


居なくなったと思っていた友人が生きていたと知ったからなのか、それとも……







「…っ……かー君のバカぁぁぁぁぁっ!無事ならそう言ってくれれば良かったのにぃぃっ!私がどれだけ心配してもう一度会いたいと思ってるのよぉっ!というかあの途中からの微妙な態度は私だってこと気が付いてたわね、かー君っ!?また一緒に居られるじゃないの何で私達だけ送ったのよっ!?あぁもうっ!!追うわよザッカーさん!ほら2人も!意地でもかー君に合流して今までの事洗い浚い話してもらうんだからぁっ!!」


「サギリっ!?」「朝霧さんっ!?」



うがーっ!と顔を上げてやるかたないとばかりに声を上げた朝霧がこれまでの冷静でちょっとクールな感じをどこかに放り投げていた


ルルエラと耀の首根っこを掴んでずるずると何処かへ向おうとしているのに2人が困惑の声を上げて「ちょっちょっと待って朝霧さんっ!?何がどうしたのっ!?」「ぐえぇっサギリ浮いてるっ!ボク浮いてるっ!」と騒がしくしている。背の低いルルエラはぷらんと地面から脚が離れそうだ


そう…言わばそのまんまカナタの予想通りの展開となっていた


ーーなんというか……カナタ君が恐れていた通りの内容をつらつらと言っているあたり、彼の行動は恐らく正解だったんだねぇ…。流石は昔の友人というか……






(しっかしこりゃまた……なんというか………)






ーー……説明が大変そうだ……貸し1つだよ、カナタ君…








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【後書き】



「うぅむ…感慨深い。これで99話目とは…随分と遠くまで来た気がするのぅ」


「ですね。なんというか……なんだかんだ言って寿命長いですよね、このお話」


「ん……次のお話から3桁目……まるで長寿小説……」


「まぁ世の中には1000話を超えてる超長寿小説もあるから、まだまだ若いと言うべきかもしれんな。しかし、そうか……もう53話も経つのか……我のの回から」


「経ちましたね…私はから44話です。感慨深いです……あの頃はどうやって手を付けてもらおうかと躍起になっていましたね…」


「……今ではもう……ずっこんばっこん…っ。……シオンは難易度高めのドMプレイから……ペトラは上級者奉仕プレイまで常態化してる…っ!」


「カナタに攻められる度に「にゃあにゃあ」喘いで子猫ちゃんになるそなたに言われとうないわ!」


「そうです!毎回本能丸出しの交プレイしてるマウラに言われる筋合いはありませんっ!」


「んっ…!?…て、手痛いカウンター…っ!…というか「◯」が仕事してない……っ!?」


「……というか、そこまで色々やっておるのに3人がかり含めても全敗なの、ヤバくないか?我ら、もしかしてめちゃくちゃ雑魚なのでは…?」


「ざ、雑魚とか言わないでください…。そもそもあれはカナタが非常識に強いだけです!私達が弱い訳ではない筈です!」


「……でも、本気出されると3時間も保たない……」


「「うっ……それは……」」


「ん…認めるべき……私達はよわよわ……っ……すぐに腰を抜かしてされるがままになってベッドに沈みながらカナタを求める卑しい雌……っ」


「言い方他に無かったのかぁっ!?」


「くっ………確かにっ!!」


「シオン!?そなたにそっち側行かれると、我1人になってしまうのだがっ!?」


「そもそもカナタがおかしいのはスタミナと回数と量と形とサイズとテクニックです!そこを何とかしてみれば……!」


「いや…それ、えっちにおけるほぼ全ての強みではないか?弱点、あるか?」


「……手とか口で何度もすれば……ワンチャン……?」


「一番経験のある我がそれを試してないと思ったか?何度目かの後にカナタの方が我慢できなくなって押し倒されるのだ…あやつは繋がるのが愛し合ってる感じがして好きらしい。あ、ちなみに何回かしても特に効果はなかったぞ」


「えっ……な、なら性感を弱くする薬とか使ってみるとか?それなら刺激に弱くなって少しは疲れやすく…」


「一番頭を使ってる我がそれを試してないと思ったか?出やすくなりはしたが結局全然バテんのだ。むしろ快感が強くなった分、我に回数と量が増えただけだった…あの時は大変な目に遭った…カナタも普段より気持ち良い分ブレーキが効かなくてな…」


「「うわぁ、ヤることヤりまくってる……いいなぁ…」」


「今の聞いてその感想なのはそたならも人の事言えんからなぁ!?」


「あっ、そうです!確かカナタの世界には男性が擬似的に性体験を局部に与えながら快感を得る為の「お◯ほーる」という物があった筈です、それを私達がカナタに使えば…」




「え、やだよ?なんで3人がその気で目の前に居るのにそっちに出さなきゃいけないんだ……」




「「「……あっ」」」



「そんなつまらない物より……惚れた相手が壊れるくらい愛してやるのが、男の甲斐性だと思わないか?」



「えっとぉ…」「それはぁ…」「……んっ……」



「ちなみに、俺が出すのはオ◯ホの中なんかじゃなくて……全部まるごとたぁっぷり、3人のだけだから。さて、久し振りに………お覚悟、宜しいか?」


「い、いつまでも負けてばかりだ思うなよカナタぁ!」


「ひ、人は強くなる生き物です!やられてるだけではありませんっ!」

 

「っ……ね、根こそぎ搾り取ってやる、ぜっ……!」












「ーーなんて言って部屋に籠もってから10日経ちますけれど…3人とも、無事でしょうか?わたくしの下に何度も通信魔法が来ますけれど…」


「ダッハッハッハッハ!英雄は色を好むモンだ!あの可愛い子ちゃん達も満更でもないどころか大歓迎みたいじゃねぇか!ほっとけよラウラ!」


「大歓迎なのは間違いなさそうですけれど……この通信魔法は間違いなく「SOS」ですわねぇ。一体、あの部屋の中、どうなっているのでしょうか…」


「開けねぇ方がいいだろ。ほら、向こうの世界でこういうのは「パンドラの箱」って言うらしいじゃねぇか」


「開けると溢れてくるのでしょうね…」


「そりゃおめぇ……喘ぎ声じゃねえか?」


「…勝手に開くのを待ちましょうか」


「だな。俺も「邪魔された」とか言われたくねぇし」

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